iware8940さんのブログ -2ページ目

カールおじさんの秋桜畑

若返ったおいちゃんはハッとして自分の顔とか、躯のあちこちに触れ。

「ボっボン…ワテぇどうなった…」

「うんと若くなった」

「そかっそか…」

おいちゃんは僕らと初めて会った時よりも若い頬っぺたを赤らめてた。

「ボン」

「ほんまに…ありがと」

「…どしたの?急に」

「三百年越しの礼儀や」

「…………。」

「ボン、ここへ」

おいちゃんはコスモスに埋もれるように建った家へ、僕を招き入れた。

「ここへ座りぃ」

おいちゃんは物凄く優しい目をしてた。
丸太に程よく窪みをいれた椅子に背もたれとクッションが心地良かった。
「どや?座り心地いいか?」

「はい」

「それとな…お前の母ちゃん。気になるやろ」

あっそうだ。すっかりおいちゃんの雰囲気に飲み込まれていた。

「うっうん…」

「そのダイヤルを8940にチューニングしてみぃ」

「コレっ?」

「せや…回してみぃ」

おいちゃんに言われた通りダイヤルに手を触れると、簡単そうな機械の塊が途端にONになった。
「お、おぉ」

「それで呼んでみるとええ」

「エ?」

「母ちゃん呼ぶんや」

おいちゃんはマイクのような扱いで机の上の棒を僕に突き付けた。

「ほらっ」

「コレ?」

「ちゃちな物やけど、下界のどれよりも高性能やで」

「ホントに?」

「うたぐり深いのぉ」

マイクを自分に持ってきたおいちゃんは。

「BGM流したってぇ、そやな…小鳥のさえずりとかええな。ホイっポン!」

冗談みたいな掛け声の後、辺り一面小鳥たちのさえずりに埋もれちゃったんだ。

「どや、信じたか」

「うん、凄い」

「ほな、ボンの番や」

「うん、わかった」

僕はおいちゃんから受け取ったマイクを口元に近づけた。

「舞子さん…」

「声ちっちゃ、もっと腹から声出せぇ」

「舞子さんっ!!」

言っておきながら、おいちゃんは後ずさりしながら耳をふさいだ。

「舞子さぁん!どこ行ったのぉぉ!」

☆その時舞子は…。

「はっ」

「舞子ぉ…やっと目が覚めた」

「成道…はん」

「やっと…やっと…」

「……紀信は?」

「まだ…眠ったままだよ…」




続く

カールおじさんの秋桜畑

三百年…て。
いったい、おいちゃんは何言ってるの…。

「ココでのワテは…こないな小綺麗な格好させて貰うとるが、これがほんまの姿や」

おいちゃんは一瞬で白い煙に包まれると再び現れた。だけど煙が晴れて目の前に居たのは全然知らない白髪の老人だった。

「………おいちゃん?」

「もうこうなったら無理して呼ばんでええ」

「…どして」

「ボン」

「…うん」

「ワテは生きてるうち…ろくに人助けもせんと、悪さばかりしてたんや」

「………」

「ところがな、たった一度だけ死のうとしていた親子を踏み止まらせたことがあってな」

「……」

「ほんまなら地獄に堕ちるとこ、閻魔様の計らいでココにおることになったんや」

「悪いこと?……何をしたの?」

「それ言うたらワテに近づけんようになるぞ」

その言葉を口にしたおいちゃんの顔に深い影がかかった気がした。

「冗談や…もう、そんな悪さに興味はない」

「三百年も独りって…淋しかったんでしょ?」

「泣かせるやないか…」

おいちゃんはほんの少しだけ言葉に詰まった。

「ボン…」

「う…はい」

「ワテがこれまで守ってきた秋桜はな、ただの花やないんやで」

「…何が違うの」

「平たく言うたら夢の中やさかい、枯れることは無い想うやろ」

僕は返事をせずただ白髪になったおいちゃんの目だけ見つめた。

「もし…この一輪一輪が下界に居てるヒトの夢の種やったとしたら、どないや、」

僕はただまっすぐ強く見つめた。

「これ一輪が枯れるか消える時、ひとりのヒトの夢の種が消えて無くなるワケや」

「そしたらどうなるの」

「その為にワテがおる」
「……」

「折れそうになったら支え。枯れそうになったら聖水をやり。そして残念にも枯れてもうたら…又育て直しや」

「夢って…寝てる時にみる夢?」

白髪のおいちゃんは穏やかに笑って、頷いた。 今までとはまるで別人だった。

「正直言うてワテはずっと、ココにおっても構わへん想うとった…。やけど、ボンらと出会うてしもてから…もいっぺん下界に下りてみたくなってしもてなぁ」

「あっ…」

白髪だったおいちゃんがみるみる若返って、顔の皺も…薄汚れた着物も洗い立てのように光った。



続く

カールおじさんの秋桜畑

秋桜畑に、強風が吹いた。それはいつか吹いたようなコスモスが折れ曲がりそうな強い風だった。
「カールはん」

「……なんや」

「ウチらは何の疑問も持たなんだ…」

「ヒトはこんな時に疑問が持てるほど器用やないで」

こんな時?って、どんな時…。

「回りくどいんどす!はっきり言うとくれやす!カールはん!」

「その前に、ワテの真実教えたろ」

おいちゃんには心なしか、俯き加減で呟いた。
その様子がいつもと違ってて、益々舞子さんは不安げな顔になった。

「…真実って何どす?」

「まず、ここは現世ちゃう」

「どっどういうことどすか?!」

「げんせ?」

「と、言うても…あの世ともちゃう」

「エ?…あの世?げんせ?…おいちゃん?」

おいちゃんは僕の動揺なんて全くの無視だ。

「まっ今すぐ納得せぇ言うても無理やろな…せやから」

「だから!だから初めて来た時僕らに」

「せや」

おいちゃんは、僕らに言った。お前らが来るとこじゃないと。

「ほんなら、ココはどこ何どすか!」

「ていの良いようにブログ世界言うとったけど……ほんまは幽冥界いうて、あの世とこの世の境目や、又は夢の世界。」

舞子さんは、腰から砕けるように床に崩れた。

「おいちゃん!僕たち…死んでるの?」

知るのがとても恐いはずの言葉が、僕の口から飛びだしてしまった。

「嫌どす!そんな!そんなデタラメ信じたらあきません!」

その一瞬だった。目の前から舞子さんの姿が消えてしまったんだ。

「あっ」

「…連れてかれてもうたわ」

「おいちゃん!ねぇ!舞子さん!どこ行っちゃったの?!」

「さぁて…ワテにも判らんな。」

「ねぇ!舞子さんどうにかしてよ!」

「さっきも言うたやろ…ここは幽冥界いうて、あの世とこの世の境目。どっちに消えたか、神様のみぞ知る……や」

気のせいか、おいちゃんは申し訳なさそうに遠くを眺めている。

「それからなボン」

「…うん」

「ワテがココに居るようになって…もう三百年になるんやで」

うっ嘘……ぼっ僕…信じないから…。




続く