1月16日(水)晴れ 86「C17国や郷土を愛する態度」⑥国とはどういう存在なのか

 「C17」は「伝統や文化の尊重」と「国や郷土を愛する態度」とが併記される項目となっている。それはイコールではないと思う。また、どうように「伝統や文化を尊重」することが、「国や郷土を愛する」ことになるかも、議論されなければならない。「国」や「郷土」も直ちにつながるものではない。

 私は、伝統や文化は日々刻々と変化しつづけ、日々刻々と形作られてもいるものだと思う。国や郷土もそうだと思う。私たちが、いまこうしていることがそれに参加している行為だと思う。だから、非常に個別的で、カラフルで、多様性に富むもの、豊かなものだと思う。そして同時に普遍的なものだと思う。個別性に関わらず、「伝統や文化」「国や郷土」は形作られ、存在している。

 そこに、真実性、生活臭、共感できる内実が必要だと思う。「上から」説かれるものではないという意味だ。最近の話題作、畑野智美『神さまを待っている』(文藝春秋2018,10)は、大卒の女性が終活からこぼれ、3年の派遣を打ち切られ、失業保険も切れ、「アリ地獄」の貧窮へ追い詰められていく姿を克明に描いている。そしてはてしなく救いがない。「神さまを待っている」が、神さまは恵まれた人が好きだから、彼女の所にはやってこないのだ。「自己責任」というわけである。

 「国」といった場合、いろいろな意味合いがある。ここはそれを論ずる場ではないので、2つの視点だけを提起しておきたい。

 一つは、日本国はどういうふうにできているかという切り口である。私は、それを考える土台が日本国憲法だと思う。ここでは、池田香代子さんの『やさしいことばで日本国憲法』(マガジンハウス2002年、952円)をあげておきたい。英語が併記されているので、そこから考えるアプローチもある。6年生を担任した時には、自分でも「やさしいことば」版を作ったことがある。

 もう一つは、国は一人ひとりで作り上げられているという「下から」のアプローチだ。若い時からの座右の書が、真壁仁編『詩の中にめざめる日本』(岩波新書1966年初版)だ。石垣りん、茨木のり子などの詩人の作品もあるが、ほとんどは「ふつうの人」のものだ。戦前までは、日本は多くの国民は、「名もなき大衆」だった。戦後の民主主義の中で、「大衆がじぶんのことば、じぶんの表現をもち、それに署名しはじめた」のである。その作品の中に、「時代の感情、歴史の現実」が反映されている。いや、反映ではなく、生み出され、つくりあげられてきたのである。

「ここには詩というかたちで、日本の民衆が自己を発見し社会を見出した記録がある。書き手は、療養者、海上労働者、銀行員、農民、教師、学生、主婦とひろく、主題は、広島からベトナム戦争まで多様で、民衆が体験した戦後史である。それは、言葉の技術によってではなく、心の葛藤の深さによって読む人を感動させる。」

と、カバーの折り返しに書かれている。

一つひとつの作品に丁寧な解説(というよりエッセー)が添えられている。その姿勢に学びたい。子どもの作品も同列で並んでいる。

「子どもにとって詩とは、真実をほりさげずにはいられない自己運動であり、行為を思考の世界でとらえなおすといういとなみであり、そしてついに自分自身を変えてしまうはたらきである。」

今回、取り出して、「民衆は詩人である――序にかえて――」を読み返した。1966年、戦後の出発から20年、日本という国の内実(のある面だけれども、大事な)はどのようにしてできてきたのかを学ぶことができる。ご自身がまさに農民詩人。すごい迫力の文章だ。

真壁さんは山形の人で、私がずいぶん若い時にある研究会で、宮沢賢治の「原体剣舞連」を吟ずるのを見たことがある。腹に響く声だった。

子どもたちと詩集を作ってきた。同窓会の時に持ってきてくれる子もいる。それは、みんなでつくった歴史の記録だった。いま、文集や詩集がひどく少なくなってしまった。日本作文の会が毎年全国子ども作文・詩集を出すが、地域的、指導者教師による偏りがあり、とても残念に思う。それは、この国の歴史を積み重ねている“個人”が薄くなっていることだと思う。

 1月15日(火)晴れ 85「C17伝統」⑤漢字という伝統文化

 「伝統や文化の尊重」と掲げたときに、何か違う角度からの切り口はないだろうかと思案した。そこで、はっとしたのが、漢字だ。いま、機械的なドリルが繰り返されて、漢字きらいが増えている。小学校「教育漢字」1,006文字は多すぎる。国語の授業だけでは消化できない。そこで、宿題となる。成り立ちや部首、意味付け、使い方(文脈の中に落とす)などは丁寧にやっているわけにはいかないことになる。子どもにとっては、まるで記号の暗記作業にすぎなくなる。これでは、漢字がかわいそう!月に1回、1時間の国語をあてるだけでもいい。

そこで、おすすめの辞書が(いつも同じものですが)ある。

第一は、白川静『常用字解(第二版)』(平凡社、3,000円)。高いと思うかどうかは、どれだけ利用するかにかかっている。漢字の成り立ちや意味付けは、専門家の見解はかなり異なっている。典型的な例が「口」だ。2~3冊比べてみてください。

第二は円満字二郎『漢字ときあかし辞典』(研究社2,300円)。例えば、「高」を引いてみよう。その意味だけでも、そうなんだと感心してしまう。

―“空間的に上の方にある”ことを表すのが本来の意味。

 転じて、ランク・年齢・価格・数値・人格などなど、広く“上下”の感覚でとらえられるものについて“上の方にある”ことを指して用いられる。

 「標高」「座高」などは、“上下方向の長さ”を表す例。そこから転じて、「取れ高」「売上高」「高が知れている」など“分量・程度”を指すことがある。

 別の漢字の前に付けて、相手の行為に対して敬意を表すはたらきもある。“人びとと打ち解けた付き合いをしない”こと。さらには“えらそうな”という意味になる。―

 さて、途中からの熟語の例が浮かびますか。刺激的で、すごくおもしろい。漢字指導というと、成り立ちに傾きがちですが、多様な切り口を提起しないと子どもも飽きてしまいます。

 いや、そんな辞書なんか引いている余裕もないという人のために、教室に掲げておくだけで刺激になるのが、『白川静 漢字暦2019』(平凡社1,300円)。毎月、テーマによって主たる漢字が甲骨文字などで示され、その意味を共有する漢字が並べられている。次の月はどんな漢字かなとのぞきたくさせる。ネットで手に入る。漢字だって記号ではなく、文化なのです! 

   *

 もう一つ、考えたのは、俳句です。こんなに「俳句人口」は多いのですが、教科書では茶道、弓道は取り上げられても、短歌、俳句はありません。どうしてだろう。国語教科書で取り上げられているからだろうか。それとは異なる切り口があると思うのだけれど…。

   *

 そうそう、今朝の子どもたちの登校風景を見て、その大荷物にあらためてため息が出ました。高学年の児童は、ランドセルの他に2つの大きな袋を持っています。1年生児童もランドセル+大きな袋です。いま、話題になってはいますが、ヨーロッパでこんなことをしたら「児童虐待」で告訴されちゃうでしょうねえ・・・。

 1月14日(月・成人の日)晴れ 84「C17伝統」④1年「にちようびのさんぽみち」

 もう一つ、話題となったのが、B社1年の「にちようびのさんぽみち」です。

単元名〈わたしたちのまち、わたしたちのくに〉

 日曜日、けんたはおじいさんと散歩にでかける。いつも同じ道を公園に行くが、今日は途中で工事中。新しい道を行く。すると、甘いにおいのするお菓子屋さんがある。

――「うわあ、いろんな いろや かたちの おかしがあるね。きれいだな。」

「これは、にほんのおかしで、わがしというんだよ。あきになると、かきやくりのわがしをつくっているよ。」

 おみせのおにいさんがおしえてくれました。

 …(中略)…

 あたらしいはっけん。けんたは、まちのことや、はじめてみたきれいなわがしのことを、もっとしりたいとおもいました。――

 単元の問いは、「あなたのすむまちやくにのすきなところは、どんなところですか。」

 対応の徳目は、「C17伝統や文化の尊重、国や郷土を愛する態度」だから、「あなたのすむまちやくに…」という問いにならざるを得ないのだろうが、この併記には無理がると思う。

 さて、この教材の何が話題になったのだろう。だいぶ長い引用となるが、再び寺脇研氏のコラムを紹介したい。

――教科書は一般書籍などと異なり、返品リスクが一切ない。一般書籍は書店で売れ残った在庫は版元に返品され、それが多ければ赤字になる。教科書の場合は事前注文で販売数が確定してから印刷する。全ての小中学校の子どもたちに国が無償供与する教科書が、新年度が始まる4月までに行き渡らないと大騒ぎになるからだ。

 したがって、出版社は事前に資金調達する必要がない。在庫を抱えることもない。倉庫代もいらない。こうした利点はバカにならない。教科書に付随する教師用指導書が生む利益も大きい。その結果、今回検定合格した小学校の道徳教科書は8社66冊で、国語(5社56冊)や算数(6社56冊)を上回り、全教科のうちで最大の種類・点数となった。

 検定にひっかかり、万が一にも不合格になれば、出版社は大損害をこうむる。よって、ひたすら無難な線を狙うことになる。東京書籍の小1教科書に掲載された「にちようびのさんぽみち」が検定で書き直しを命じられた件は、その典型だ。けんた君がおじいさんと散歩に出かけ、いろいろな出会いや発見をする筋書きで、学習指導要領の「我が国の郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つこと」という項目に対応している。ところが、対応不十分との検定意見をつけられ、「パン屋」の場面を「和菓子屋」に差し替えて合格した顛末は、マスコミに大きく報じられた。

 実際のところは、「パン屋」が問題だったのではなく、ストーリー展開がつまらなかったかららしいが、日本の伝統文化の和菓子を出せばいい、と勘違いしたようだ。それで、テレビが飛びつき、格好のネタになってしまった。時間に追われて慌てて作った末の一幕喜劇が、道徳教科書の質の低さを露呈している。」(2018年11月30日〈日刊ゲンダイ〉連載)

 寺脇研氏は文部省内部にいた人だから、このように切り捨てることができるのだと思うが、私は教科書の編集委員として参加した経験があるので、少し違和感もある(「上から目線」を感じる)。文部省の教科書検定では「書き直し」について具体的な指摘をしない。だから、「思い違い」(忖度!)が生じたのである。本来、細かな検定は「検閲」に当たる行為であって、日本国憲法における「表現の自由」に抵触するものとして批判されてきた。「検閲はこれをしてはならない」(第21条)と明確に書かれている。表記や統計・数字の間違い等は指摘されることはあっても、「ストーリー展開がつまらない」などということは、現場から批判を受けるだろう。そうして、よりよいものに改善されて行けばいいと思う。

1月13日(日)曇りのち晴れ 83「C17伝統」

  ③「誤報になった〈下町ボブスレー〉の活躍」

 「縦に読む」をやめて、この徳目の教材で話題となった2つの例を取り上げておきたい。

 C社5年の単元〈国や郷土を愛する〉の教材「下町ボブスレー――町工場のちょう戦――」がその一つだった。大田区の町工場の人たちが協働して「下町ボブスレー製作プロジェクト」を立ち上げ、優秀な記録を出すボブスレーを開発した。2018年平昌冬季オリンピックでジャマイカチームがこのボブスレーの採用を決めた。日本の技術の高さを示す快挙だ…、ということで、そのボブスレーに乗って手を振る安倍首相と取り巻きの写真が掲載された。「権力への媚」として批判を浴びたのだ。

 寺脇研氏がこれを『日刊ゲンダイ』の連載コラムで批判していた(「安倍政権が推し進めるアブない徳教育」2018.11.29)

「平昌五輪前のW杯に輸送事情の関係で下町ボブスレーが届かず、ジャマイカチームは急きょラトビア製のそりに乗った。すると、驚異的に成績が伸びたという。要は、より高性能なそりに偶然出合ってしまったことで、下町ボブスレーは捨てられてしまったのである。これでは「日本スゴイ!」にならない。

 もちろん、こうした不測の事態はいつでもおこり得る。それゆえ、道徳に限らず、教科書に掲載する内容は、歴史的評価が定まらない事柄や、動きのあるニュースなどを取り上げないのが通例だ。にもかかわらず、16年5月に設定されていた検定申請受け付けのわずか4か月前の出来事を教科書に盛り込んだのである。明らかに無理なやり方としか言えない。その結果、18年4月から使用する教科書に記載された下町ボブスレーの活躍は、その直前の2月に夢と消えた。なんとも皮肉な結末だった」

 ここは寺脇研氏が指摘する通りである。

 

1月12日(土) 道徳と読書82「C17伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」

②  道徳教科書を横に読む

 

 それでは、各領域1回だけやってきた「横読み」縦読み」をやってみます。

 焦点の一つと言える「C17伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の6年生教材を概観してみましょう。A~Hは出版社のイニシャルではありません。〈  〉は単元名、―     ―は単元の問い、「  」は教材タイトルです。作者名(または引用文献)が記されている場合は記入しました。

A社〈郷土を大切に〉―みんなが住んでいる地域のじまんは、何かな?―

「ようこそ、菅島へ!」(編集委員会作)

・三重県鳥羽市の鳥羽湾の菅島では児童が島の魅力を伝える観光ガイドツアーを行っている。その6年生の活動例を伝える。

B社〈伝統や文化を受けついで〉「白神山地」

―白神の人たちは、どんな考えで林道計画に反対したのでしょうか。

―自分たちの地域には、どんなよさがありますか。そのよさを守るためにどんなことができますか。

・秋田県、青森県にまたがる白神山地に林道計画が出されたとき、地元の人々は自然環境を守るために反対運動を進め、ブナの森を守った。世界遺産となって観光客が増えたが、環境を守る努力を続けている。

「新しい日本に~龍馬の心」

―龍馬はどんな考えから、薩長同盟を結ばせようとしたのでしょう。

―これからも大切にしたい日本のよさとして、どんなものがあるでしょう。

・龍馬は長州藩の桂小五郎と、薩摩藩の西郷隆盛を説得して薩長同盟を結ばせ、幕府を倒し新しい国づくりを進めた。また、土佐藩を動かして政権を天皇に返すよう働きかけた。しかし、幕府の役人によって暗殺された。

(*史実として、龍馬の評価及び暗殺などは疑問が提起されている)

C社〈文化をつなぐ〉「小石丸がつなぐ千年の糸」(編集委員会作)

・正倉院宝物の絹織物の断片を今後、さらに1200年伝えるために、復元模造を託され、皇室の伝統としてわずかに残されている蚕「小石丸」を受けつぎ、制作する過程を伝える。

〈郷土のために〉「米百俵」(山本有三作「米百俵」より)

・明治維新で幕府側でたたかった長岡藩は非常に苦しい状態に追い込まれた。そこに友藩から百俵の米が送られてきた。藩の大参事:小林虎三郎はその金で学校を建て、将来にここを支える人物を育てようと図った。

D社〈国や郷土を愛する〉

「祖国にオリンピックを」・1964年の東京オリンピック開催のために努力した日系二世和田勇を伝える。

「米百俵」(C社に同じ)

―あなたが虎三郎だったとしたら、藩士たちにどのように説明しますか。演じてみましょう。

「西陣織を受けつぐ―苦境を乗りこえて―」

・西陣の長い伝統を今日まで継承した人びとの奮闘、工夫を伝える。

アイヌのほこり」

・釧路市出身の宇佐照代さんは母・西村ハツエさんの苦しい差別の時代からの伝統文化を伝える活動を続けている。

E社〈社会と私〉「古きよき心」

―明治時代、外国人の目に日本人の礼儀や立ち居ふるまいがどのように映っていたでしょう。

―私たちが受けつぐ「日本人の心」には、どのようなものがあるか考えてみましょう。

・小泉八雲、モース、ケーベルが残した日本人の印象の文章に、啓発された6年生孝夫。

「大みそかの朝に」(文・編集員会、絵・松本麻希)

―和食のよいところはどんなところだと思いますか。

―あなたの身の周りで、古くから日本で大切にされているものには、どんなものがあるでしょうか。

・漫画で表される正月「おせち」。

F社〈伝統の心づかい〉「ぼくのお茶体験」(作・編集委員会)

―作法を重んずる茶道のよさは何だろう。

・「お茶体験で、めんどくさいなと思っていたぼくは、先生から、日本の作法について説明してもらいます。」

〈ほこりある郷土〉「天下の名城をよみがえらせる―姫路城―」(作・編集委員会)

―ふるさとのほこりといえるものに、どんなものがありますか。

G社〈もてなす心〉「お茶の心」(編集委員会作)

―日本に古くから伝わる茶道。そこにこめられた「お茶の心」とは、どんな心でしょうか。

〈自然と調和したくらし〉「いちばん近い自然「里山」」(編集委員会作)

―「自然と調和したくらし」とは、どのようなくらしのことをいうのでしょうか。里山の例から考えてみましょう。

H社〈復活した古式の道具〉「ヤリガンナ―西岡常一―」

―国や郷土に受けつがれる伝統や文化で、あなたが大切にしていきたいものはありますか。それはどうしてでしょう。

〈私たちの「復興宣言」〉「高らかにひびけ」(中学生・生徒作文)

―震災の年にも祭りを開いた人々と「私」の思いを通して、郷土を大切に思う心について考える。

・東北大震災の直後、岩手県気仙町の「けんか七夕」復活に努力した人びとの思い。

   *

 8社の6年生教材を見わたしての第一印象は、意外と「国を愛する態度」が少なく、「郷土を愛する態度」ですませていることでした。初めての「教科化による教科書」であり、文科省としても論争的な教材、議論を避けたと思いました。

1月11日(金)晴れ 81「C17伝統や文化の尊重、郷土や国を愛する態度」    

            ①『ぼくはマサイ』

 著者:ジョゼフ・レマソライ・レクトンさんは、ケニア北部のマサイ族。遊牧民の子どもとして生まれ、育った。政府の「家族の一人は学校に行かなければいけない」という決定に基づき、彼が6才の時から通うようになる。非常な努力を重ねて、10代の終わりに奨学金を得てアメリカに渡り、大学を出る。そして、私立高校で歴史を教えながら、休暇にはケニアに戻って、遊牧民としての暮らしに入って、民族の文化、伝統を引き継ぐ努力をしている。また、アメリカ人観光客のガイドをするなどして、故郷の地域社会発展プロジェクトに関わって、水道を敷設したり、教育施設を作り、奨学金を設けて遊牧民の子どもたちに教育機会を提供したりするなどの活動を続けている。

 この本は、アメリカに渡るまでの生い立ち、歩みを興味深く語り綴っている。遊牧民にとってもっとも大切なことは、牛などの家畜を守り、育てることだ。そして、伝統的な儀式を守り、協同生活を基本としている。家畜を襲うライオンは、人生の困難、壁をも意味するという。「ライオンを恐れるな」とは、「困難にひるむな」ということだ。彼の生き方が、後輩たちを励ましている。

 彼の友人となったアフリカ研究者のハーマン・ヴァイオラ氏は巻末の解説で、「ジョゼフがアフリカのサバンナからどれだけ遠くまで来たか」と書いている。

「実際の距離ではなく、個人が成しとげたという点ではるかに遠いという意味です。黒人の、しかもアリアール族が、アメリカの白人グループを引率しているのを見ると、ほかのアフリカ人はびっくりしました。彼の仲間は、ケニア社会の中では最下層に位置していると思われているからです。マサイマラの四つ星ホテルでも、遊牧民が暮らす地域のほかの観光ホテルでも、給仕、接客係、マネージャーなどのより高い位置にある仕事は、ケニアを支配する有力な氏族たちが占めていました。マサイ族がやとってもらえるとすると、そうじとか、パチンコでサルを追いだすといった、もっと下の仕事だったのです。」

 高学年なら十分に理解できるし、刺激を受ける本である。

 『ぼくはマサイ―ライオンの大地で育つ―』さくまゆみこ訳(さ・え・ら書房2006年)

1月9日(水)晴れ 閑話休題⑧『かんがえる子ども』

 安野光雅さんが、昨年『かんがえる子ども』(福音館(2018年6月1000円)を出された。130ページ弱の、語りの本なので、すっと読めます。何人かで回し読みして、読書会をやるといいと思います。そして、これをきっかっけにして、毎月1回程度の読書会をやっていきましょう。アニマシオンクラブでは、シニアのメンバー15人ほどで続けていますが、なんと来月の赤川次郎『東京零年』(集英社文庫)で75冊目になります。つまり、8年間続けてきたことになります。

 安野さんは、「子どもにとっては、〈いま〉が大事」なのだ。つまり、「将来のために」がまんすること、努力することより、いまをじゅうぶんに楽しむこと、遊び、話し、聴き、読み、考える…ことを大事にしようと話しています。

――「勉強」は、学校で教わるものか?

――「数学」は、早く問題を解くことが大切か?

と、問いかけています。

 そして、第3章「自分で考える」ためのヒントの節はこのようなタイトルになっています。

・自分で考えなくなっていること

・何もかも疑う

・「自分の考え」を持つ

・自分の大きさを知る

・その場に行き、その場で感じる

・「ほんもの」か見る

・ひとりのすすめ

・本を読む

です。私が勧めたいのは、この構成に沿って、まず文章を書いてみることです。各節、400字×2枚程度でいいでしょう。安野さんの文章を推理するのではなく、「わたし」の考えを確かめるためです。中学年以上の子どもたちと行う「思考と文章(表現)」のレッスンとしてお勧めできますが、私が最近、とても気になっているのは、アニマシオンに参加する人でも、「子どもにやらせる」ヒントを得ようとしていることです。まず、「わたし」が楽しみ、「わたし」が考え、「わたし」が動くことが、よりよい工夫を生み出すのではないでしょうか。

 さて、安野さんが、最後に引いている文章を、ここに紹介します。現皇太子の家庭教師であったヴァイニング夫人の言葉です。(『皇太子の窓』文春学藝ライブラリー)

「私はあなた方に、いつも自分自身でものを考えるように努めてほしいと思うのです。誰が言ったにしろ、聞いたことを全部信じこまないように。新聞で読んだことをみな信じないように。調べないで人の意見に賛成しないように。自分自身で真実を見出すように努めて下さい。ある問題の半面を伝える非常に強い意見を聞いたら、もう一方の意見を聞いて、どう思うか決めるようにして下さい。いまの時代にはあらゆる種類の宣伝がたくさん行われています。そのあるものは真実です。あるものは真実ではありません。自分自身で真実を見出すことは、世界中の若い人たちが学ばなくてはならない、非常に大切なことです。」

1月8日(火)晴れ 80「C-16 よりよい学校生活」―④いじめ、不登校、自殺の統計

 

 昨年10月26日(金)の各紙が、文科省発表による昨年度の「不登校・いじめ・自殺」の統計を載せている。『朝日新聞』に拠って簡単に傾向を紹介しておきたい。

「不登校」は「年間30日以上欠席し、「不登校」と判断された者」の統計である。

「小中学生の不登校はこの5年間、増加を続け、今回の文科省の調査で、過去最多の14万4千人(2017年度)。中学生より小学生の増加幅が大きく、小学生の不登校は1千人あたり5.4人で10年前に比べて1.59倍になった。」

「小学生が3万5032人(1千人あたり5.4人)、中学生が10万8999人(同32.5人)だった。」

・「いじめは13年から「いじめられた子どもの立場で判断する」などと定義を変えたこともあり、急増が続いている17年度は学校別に小学校が31万7121件(前年度比7万9865件増)、中学校が8万424件(同9115件増)、高校が1万4789件(同1915件増)、特別支援学校2044件(同340件増)だった。小1~小3は17万9061件(同4万5473件増)で、特に増えていた。

 いじめで最も多かったのは「冷やかしやからかい、悪口を言われる」の25万7996件で、「軽くぶつかられたり、遊ぶふりをしてたたかれたりする」が8万7170件と続いた。「重大事態」と判断されたいじめは計474件で、前年度から78件増えた。また、いじめとも関連する暴力行為は6万3325件で、前年度から3381件増えた。」

・「17年度に自殺した児童生徒は250人で前年度より5人多く、過去30年間で最多だった。ただ、警視庁の統計によると同じ期間に341人の子どもが自殺しており、学校と警察の把握件数に大きな差があった。」

 *ちなみに、警視庁統計資料で見ると、2017年度の自殺で、大学生が356人、専修学校生等が104人となっている。19歳までの自殺数はこの10年ほぼ変わらず、昨年度は若干増えている(全体としては減少傾向)。なお、最も構成比で最も自殺の多いのは40~49歳のいわゆる働き盛りである。いずれも男性が多い。

 教員の自殺は103人(男78人、女25人)。この数字も10年余りほとんど変化がない。3~4日に1人の教師がどこかで自ら命を絶っているというのは、異常なことではないだろうか。数字が異常だというだけではなく、それが一つひとつ追及されることもなく、数字にとどまって放置されていることが異常なのだ。病気休職している教員は5000~6000人。

 子どもにとって生きにくい学校は、教師にとっても苦しいものであることを、この統計事実が語っているといえる。

 こういう統計が出た時こそ、教室に、職員室に持ち込んで話し合いたいものだ。自分たちの問題なのだ。

 *この原稿は、昨年書いておいたものです。

 1月7日(月)晴れ 79「C16よりよい学校生活」

  ③教室の中につくる“非日常”2冊

    

『ふつうに学校にいく ふつうの日』コリン・マクノートン・文、きたむらさとし・絵、柴田元幸・訳(小峰書店1300円)

 灰色を基調とした画面から始まる。ぼくは毎日、あきあきするような「ふつうの生活」をくりかえしている。

「ふつうに学校にいくふつうの日、ふつうの男の子はふつうのゆめからさめて、

 ふつうのベッドからでて、ふつうのおしっこをして、

 …

 ふつうのママに「いってきます」のキスをして、

 ふつうの学校にでかけました。」

 そこでは、ふつうの友だちとのふつうの授業が始まり‥‥、と思っていたら、「ぜんぜんふつうじゃないことがおきたのです」

 ミスター・ギーと名乗る男性が新しい担任としてやってきたのです。ギー先生はプレイヤーを抱えてきていて、不思議な音楽を聞かせてくれた。それは何とも言えないファンタジーの世界へいざなってくれた。みんなはそれぞれの感想を述べあい、夢を広げ、感想を書いた。

明日が楽しみだ。

 きたむらさとしさんの絵が豊かな空想の世界へ誘う。はじめの見返しは灰色のシーン。裏の見返しは青空を白いハトと共にぼくが飛んでいる。この二つの絵の間に何が起こったのだろうというアニマシオンを、韓国と日本の教師交流でやった。二つの国の教師の連想はとても大きな違いがあって、興味深いことだった。

   *

 『スミス先生とふしぎな本』マイケル・ガーランド作、斉藤規・訳(新日本出版社、シリーズ)

 2年生の男の子ザックの教室に新しい担任の女性スミス先生がやってくる。スミス先生は分厚な本を抱えてくる。そして、毎日、本を読んでくれる。すると、本の中から物語に登場する怪物や英雄、首のない騎士などが現れる。そして、次々と愉快な冒険が始まる。

    *

「ふつうにすごす、ふつうの教室」だが、そこにちょっとした“非日常”を生み出すことができる。それが、例えば読み聞かせだ。10分程度の時間で、教室の仲間が共有する物語世界。

 かつては、個性ある学級文化が大事にされてきた。私の場合は、毎月の「お楽しみ会」(お誕生会)であり、毎日の読み聞かせだった。今年の年賀状に今は20代半ばになる教え子が「園でエルマーを読み聞かせしていると、先生に読んでもらったなあと思い出します」と書いている男子がいた。学芸会でもオリジナル脚本で「エルマーの冒険」をやった時の、猫を演じた女子からも年賀状がきた。3年生の娘と、「先生の本を読んでいます」と書いている教え子ママもいる。教室、学校という空間をもっと広く、ゆとりある場にしたいものだ。アニマシオンはそれを生み出す活動だと言える。

 1月のアニマシオン研究会は12日(土)です。ショートアニマシオンは「ストップクエスチョンで参加型読み聞かせ」(岩辺)です。ワークショップは「アニマシオンで道徳の授業づくり」シリーズ第3回:「サッカーと人権」(笹島)です。明治学院大学白金キャンパス2号館2202教室。13:30~16:30。どうぞ!!

 

 読書のアニマシオン1月例会ご案内

 

内容:

1        ショートアニマシオン=ストップクエスチョンで参加型読み聞かせ(岩辺)

2        ワークショップ=サッカーと人種差別(笹島)

*「アニマシオンで道徳」のじゅぎょうづくり第3回

日時:1月12日(土)13:30~16:30

会場:明治学院大学白金キャンパス2号館2202教室

   *教室番号は必ず控えておいてください。

参加費:500円

   *

2月は9日、3月は2日になります。会場が変わりますのでご注意ください。