本年(2017)の2月24日付の読売新聞夕刊に、 ちょっと面白い記事が載った。昨年の11月10日より、自転車のチャイルドシート用ベルトが切り裂かれる事件が多発したという。場所は京都府の宇治市。半径約300m圏内で、約1カ月間に10件である。
そのことだけなら、さほど面白くはない。面白いのは、犯人が人間じゃなかったからだ。隠しカメラに映っていたのは体長40cm程のイタチだったという。そのサイズからして、シベリアイタチの雄だろう。イタチがそのような行動をするというのは、初耳である。
それにしても、イタチは「何のために」そのようなことをしたのか?。読売新聞は専門家に取材し、「防寒用の巣材にするつもりだったのでは?」という仮説を載せていた。いやー、しかし、それは違うっしょ。ベルトの素材自体は断熱効果があるかもしれないが、それは十分に破砕されたらばだ。ペラペラで堅い筈のベルトをそうするのは容易じゃない。砕かなくて使えるもの(例えばコンビニ袋)を選ぶのが、妥当だろう。そもそもベルトは切り裂かれただけで、持ち去られてはいないのだ。で、私としては、「ストレスの発散」の説を提唱する。
むろん、私の説も仮説でしかない。そもそもストレスというのは曖昧な概念であり、それを証明するのは難しい。ただこの場を借りて声を大にして言いたいのは、「動物の行動は、すべてが"明確な目的"があって行われる(そのように解釈出来る)訳じゃない」ということだ。そして、一連のものとして行われる行動が、実は別々のピースに分離していることもある。例えばネコの狩り行動と、狩ったものを食べる行動は別だ。だから獲物を「食べるとは限らない」のである。イタチが鶏舎に侵入して鶏を大量に殺し、でも食べずに去ることがある。そのときイタチは空腹ではなかったのだろう。ただ捕食獣は動くものに対して反応し、狩り行動がリリースされる。野外では動くものの密度はさほどに高くなく、また狩りに失敗することも多い。けれども鶏舎では動く標的が高密度で、しかも囚われの状態で存在する。それが大量虐殺を生むのだろう。あるいはイタチの側に、恐怖心のようなものが生まれるかもしれない。
ただチャイルドシートベルトのことはこれと同一条件ではない。ベルトは動かないからである。だから初めにそれを噛んだ理由は不明だが、偶然かもしれない。ものごと、何でも必然的理由があるとは限らないのである。そして、たまたまその噛み心地が凄く良かった。そしてストレス解消になった。人間は(私は違うが)ガムを噛むことでストレスを発散する。イタチも同様で、噛み心地の良さを求めて次々にベルトを噛んだのじゃないかと思う。
寺田寅彦は1934年に著したエッセイ「猫の穴掘り」で、その奇妙な行動に着目している。彼の飼猫は庭先で脱糞しょうとして穴を掘り、その目的を果たすことなく新たにまた穴を掘る。やはり脱糞せずにまた別の穴を掘る。そして、目的を果たすまでその行動を繰り返すのだ。彼はそのことを、「工合の悪いのが自分の体のせいではなくて地面の不適当なせいだと思うらしい」と解釈している。
そうなのかもしれないが、私は「脱糞行動と穴掘り行動を、分けて考えるべき」と思う。その猫の穴掘りは、それ自体が目的なのだ。穴掘りによってストレスを発散したいのだ。ストーカーにとってのつきまといは「その行為自体が快感」であり、対象の異性の心を得ることを目的としていない(むしろ逆効果である)ようにである。
あるいは猫にとっての穴掘りは、遠い昔の「行動の化石」なのではないか?。イエネコの祖先は北アフリカ原産のリビアネコだ。その地では、おそらく穴を掘って地中で繁殖巣を営んでいただろう。現在はそのようなことはしないが、その時代の記憶が行動の化石として残り、当時はしなかったと思われる「糞を埋める」という行動に転化したのではないか?。行動の化石というアイディアは、川那部浩哉がアユの縄張り行動の解釈として提起したものだ。当時は多少話題になったが、現在は殆ど顧みられることが無い。
ところで寅彦ははっきりとは記していないが、「科学とは、猫のこの穴掘り行動のようなもの」と言いたかったのではないか?。科学者にとってのその行いは、「人類のため」である訳はない。名誉を得るためや、金儲けのためのことはあるにせよ、それは邪道である。科学は好奇心を満たすため…つまりストレス解消のために行う。それが本来の姿なのだ。この作品を出した翌年の大晦日に、彼は57歳で死ぬ。死因は師の漱石と同じく胃の病で、そして師よりも8年長く生きた。
日本におけるエソロジー(動物行動学)の開祖とも言いうる寅彦は、1933年に「鉛をかじる蟲」というエッセイも著している。文字通りに鉛を食べ、鉛の糞を出す謎の甲虫のことである。そして寅彦は、「蟲が道楽をするというのも受け取りにくい仮説である。何かしらこの蟲の生存に必需な生理的要求のために本能的にかじると考える外にないように思われる」と考えた。
なるほど。だがこの場合は、別の仮説も考えうる。鉛を、何か別の「食べられるもの」と間違えたのではないか?。
日高敏隆先生が京大に赴任したばかりの頃、「動物の行動を解発するreleaser」を解説するために出した比喩を思い出す。それは爬虫類学者千石正一(故人)が夜道で「痴漢に襲われた」話だ。彼の顔面形態は、ノンケの男の性欲をそそるようなものじゃない。だが、当時彼は髪が長かった。髪の長さのみがreleaserとして機能し、その痴漢は彼に後から抱きついたのだ。千石が振り向いて「この野郎!」と怒鳴ったら、痴漢はギャアと叫んで逃げ去ったとのことである。
人間でもかように「単純」なのだから、甲虫は簡単に騙されるのではないか。なお,releaserの概念を考案したのはノーベル生理・医学賞受賞者のコンラート・ローレンツで、寅彦はそれが出るより前に死んでいる。
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