コウノトリの野生復帰の地として最近つとに有名な豊岡市は、兵庫県の北部に在る。私の居住地である大津市(の逢坂関より西)からの近道は、まず山科に出て其処からJRに乗ることだ。そして更に、京都駅で山陰線に乗る替える。だが特急以外は、直行便は無い。金欠の私は、その利用は極力避ける。それでこの日(2024、7・15)に私は、薗部と福知山にて2度乗り換える各駅停車便を利用した。そして豊岡駅に着いたのは、11時21分だ。京都発は7時01分だから、所要は4時間と20分だ。京都でこれより早い便の6時37分に乗れば乗り換えは薗部のみで、10時10時分で、1時間程早い。だが私は、その始発便に乗り損なったのだ。

 

 あらかじめ断っておかねばならないのだが、私の此度の豊岡詣での目的はコウノトリではない。私は哺乳類生態学者なのだ。ただ私は、鳥にも関心はある。バンGallnura  choropusとケリVanells  cinereusと、コカイツブリTachybaptus  ruficollis(英名Little  Grebe)の育児行動を観察したことがありだ。バンのことは、論文も(「京都女子大学自然科学論叢」に)出している。ただコウノトリの生態は、地元の兵庫県立大学豊岡分校を筆頭に研究が盛んな筈だ。鳥は所詮シロートの、私が出る幕でもないだろう。

 

 なのに此の日に敢えてこの地に赴いたのは、当地のニホンイタチMustela  itatsi とその餌資源量への関心からだ。ニホンイタチは最近、里山環境にて個体数が激減している。調査は十分ではないが、私はそのように確信している。そしてその因の大なるは、ネオニコチノイド系農薬の散布であると思っている。

 

 この毒薬はニホンイタチ自身にも害がある筈だ。だがそれ以前に、その主要餌である昆虫やカエル類を減らしているのが問題である(と思う)。

 

 ニホンイタチの雌は(雄と違って)ミミズ類を多く食べる。そしてアメリカザリガニProcambarus  clarkii 、育児期の親(雌のみ)が子に与える餌として格好だ。そのいずれもが、減少しているのだ。

 

 そして野鼠類。小林秀司氏(岡山理科大学教授)よりの情報では、県下の代表的野鼠であるアカネズミApodemus  speciosusが最近激減しているという。このアニマルの主要餌は昆虫だから、それは宜なるかなである。おそらくそれ故でか、最近のニホンイタチの糞にはネズミはあまり含まれていない。

 

 それで私は、ニホンイタチの視点から豊岡に期待した。コウノトリはニホンイタチと同様に動物食で、その主要餌は昆虫やカエルや魚やアメリカザリガニetc.である(筈である)。その餌資源量を確保するために、無農薬農業が行われているという噂だ。それが本当なら…豊岡の(川沿いの)道にはニホンイタチの糞がポロポロ落ちていて、水田ではカエル類の大合宿が聞けるのではないか?。同じく水田の内ではアメリカザリガニが蠢き、草むらでは直翅目の昆虫がピョンピョン跳ねているのではあるまいか?。

 

 私が少年の頃の関東平野の利根川下流域はそうだった。でも現在は様変わりしている。古を知らない滋賀湖西の鴨川下流域も、斯様な生物多様性が減少している。そして私がニホンイタチの育児行動を観察した大阪府箕面市勝尾寺川流域では、1990年代初め以降にアメリカザリガニが絶滅した。それとシンクロするかのようにニホンイタチの雌も消え、その状況は今も回復していないのだ。

 

 而して1990年初という時代は、この国がネオニコチノイド系農薬を本格的に使い始めた時期と一致する。此のことは、この毒薬の環境害の権威である山室真澄氏(東京大学新領域創成科学研究科教授)よりの情報だ。

 

 ま、それはさておき…私の斯様な豊岡への"期待"は、見事にコケました。ニホンイタチの糞らしきものは少しく怪しいものが2個のみで、足跡は全く見つからなかった。草むらに跳ねている直翅目昆虫は見ずで、アメリカザリガニは死体も含めて全く確認出来なかった。元より、「世の中は、それほど甘くないだろう」とは思っていました(笑)。もし豊岡が私の"妄想"通りの楽園であったならば、「ネオニコチノイド系農薬の使用は、ニホンイタチにとってかくもダメージになるという論文を書けると思ったのだが…(とりあえず其れは断念)。

 

 ともあれ、この日の知見を地図(写真1)に拠り記す。赤太線はJR豊岡駅からコウノトリの郷公園に至るルートで、往復約8kmだ。ただ夕方から雨がきつくなって来たので、復路はバスを利用した。当初の予定ではコウノトリの郷公園の山あいのコースを南行し、更に右(西)折して山を越え、河谷を通って立野橋に戻るつもりだったのだけど。

 

調査経路地図

 

 円山川に架かる立野橋の上では、獣糞を2個確認した。①と②が其の地点である。ひとつはニホンテンMartes  melampus のものと思われるが、もうひとつは微妙だ。ニホンイタチの糞のように見えるが、其れと断定は出来ない。典型的形状とは、少し違うのである。

 

 ③と④にも獣糞ありだがこれはとりあえずニホンイタチのものではないだろう。ニホンテンの可能性はありだが、断定は出来ない。佐々木浩氏(筑紫女学園大学教授)DNA分析を併用しての調査結果では、ニホンイタチの糞の形状は割合ユニフォームだ。対してニホンテンでは、かなり多様だという。 

 

 円山川の支流の鎌谷川沿いの⑤では、ニホントカゲPlestiodon  japonicus の幼体を目撃した。この日に目撃した生きたアニマルは、鳥とヒトを除けばこれのみだ。カエル類は(トノサマガエルとアマガエルがか細く鳴いていたが、姿も目撃は出来なかった。あまり真剣に探さなかったことはあるけれども。

 

 ⑥には、鳥の卵殻が2個落ちていた。長径が30mm程の純白の卵で、横腹に穴が開いている。"何の卵か?"よりも、"何の食痕か?"に関心大だ。渡良瀬遊水地に、これと良く似たものが思い出される。彼処は、少し前(2020年初)まではニホンイタチの楽園だった。そしてニホンイタチの雌のものと思われる極細の糞が、その卵殻の近くに落ちていたことを記憶する。むろん、「ニホンイタチの雌はこのような卵の食べ方をする」と断定する根拠は無い。

 

 鎌谷川沿いに東に500m程歩いていて、左(北)折した。そしてこの川に架かる橋を渡って、更に500m程北に歩く。そして現れたバス停の少し先を右(東)折し、今度は1km程歩く。そして到達したのが、コウノトリの郷公園だ。

 

 この公園でのことを記す前に、円山川という河川について述べる。源流は兵庫県生野市の円山標高640mで、其処から北に流れる。やがて大屋川、八木川、稲葉川等の支流を合わせて豊岡盆地に至り、更に其処で出石川、奈佐川等を合わせて日本海に注ぐという。つもり円山川水系であり、近畿中部における淀川水系のようなものだな。あるいは関東における利根川水系に似てなくもない。ただそれらより規模は小さい。幹川総延長は6kmで流域面積は約1300km2である。対して淀川水系の流域面積は8240km2で円山水系の6倍強だ。利根川水系は16840km2で13倍弱である。この値が日本最大で、No.2の石狩水系は1433km2…つまり円山水系の11倍強に相当する。そして東京の多摩川水系は1240km2で、円山川水系とほぼ同じだ。

 

 ネットと馬鹿と鋏は使いようですね(笑)。この手の知識はたちどころに分かります。所謂ネット住民の言論には、全く興味が無いですけど。

 

 立野大橋から見える円山川の河川敷は緑豊かだ(写真2)。ただ乾燥化が進んでいて、水たまりが無い。灌木林(species不明)があり、草地の植生はヨシやオギのような挺水植物に非ずだ。この環境では、アメリカザリガニの棲息は難しいだろう。

 

円山川の河川敷

 

 波止めブロックのようなものも見当たらず、その水溜まりに小魚が集まることも期待出来ない。因みにこの(ニホンイタチ雌の育児に好適な)餌環境はNHKが多摩川で発見し、番組「ダーウィンが来た」で紹介したものだ。具体は本ブログの第129話「NHKが撮ったニホンイタチ」で紹介した。

 

 因みにNHKは今年になって、ヨシ原にも小魚が集まることを(同番組で)紹介した。そしてそれがやはり、ニホンイタチの育児雌の採食場になっている。そのような環境は淀川水系や利根川水系では見つけられていない。多摩川水系は何故か、魚が豊富のようである。


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 話が脱線した。本稿は豊岡紀行記なのであった。それで円山川の河川敷を歩いてもみた。だがその道沿いに、ニホンイタチの糞も足跡も無かった。アメリカザリガニ見つけられず、草地に直翅目昆虫が跳ねてもいない。蝉の羽化には少し早いかもだが、その鳴声も聞けない。古にレイチェル・カーソン(1907ー64)は「サイレント・スプリング」(1962)なる名著を出しているが、この地はまさしくサイレントサマーだ。無農薬の豊岡にして!…と、思わざるを得なかった。

 

 カーソンの享年は57歳で、日本人物理学者寺田寅彦(1878ー1932)と同じである。数学者エヴァリスト・ガロア(1811ー32)程ではないけれど、相当な早世だ。ガロアを惜しむ句「神々の愛でし人は夭折す」は、この2人にも当てはまるかもしれない。

 

 而して以降は、コウノトリの郷公園でのこと。住所は〒668ー0814兵庫県豊岡市祥雲寺128で、観光客を多く吸い寄せるのは豊岡市立コウノトリ文化館だ。そして其れに接して兵庫県立大学の分校(大学院地域資源マネジメント研究科)もある。更に兵庫県立コウノトリ公園なる建物も、県立大学分校に接して存在した。これも研究機関であるらしい。

 

 県立大学分校で挨拶をしようかと思ったが、この日は祝日ゆえ遠慮した。代わりに県立郷公園で仁義を切り、論文「9年間のモニタリングデータに基づく野外コウノトリCiconia  boyciana の食性」(野生復帰、2016)のコピーを頂戴した。この論文の内容は別稿にて詳しく紹介するつもりだが、以下に要点を記す。

 

 主食は淡水魚(ドジョウ科&ナマズ&ハゼ亜目&ドンコ等の底生魚がメイン)と昆虫(直翅目がメイン)と、両生類(ニホンアマガエル&トノサマガエル&ウシガエルならびにspecies不明のオタマジャクシ)だな。それよりややランクが下がって爬虫類(ニホンマムシ&アオダイショウ)と、その他のアニマル(アメリカザリガニ&ミミズ&モグラ等)だ。アメザリは年間を通して捕食されている。

 

 意外だったのは、植物質の採食が案外多いこと。メインはコケだという。いやしかし其れは蘚や苔ではなくて、ネンジュモ(俗称イシクラゲ)ではないか?。遠目に其れと見間違えたのではないか?。

 

 ネンジュモは実は藻(つまり植物)ではなくて、原核生物だ。その一種であるスイゼンジノリ(紅藻の海苔ではない)は、食用になる。ネンジュモも、その気になれば食べられるのではないか?。対して蘚苔が食用になるとは、聞いたことがない。因みにトナカイの主食トナカイゴケは、茸と地衣の共生体である。

 

 以上のデータは、2005年から2015年迄の採食目撃回数の延べである。貴重なデータである故、もっと権威のあるジャーナルに掲載して然るべきと思う。

 

 県立大学分校の前の⑦では、妙なものを見た(写真3)。形状はニホンイタチの糞に見える。でも内容物がネンジュモなのだ。これと似たものは、湖西鴨川下流域で一度だけ見た。

 

ネンジュモ

 

 ニホンイタチがネンジュモを食べるという報告は、今のところ無い。ただ私的には、「雌は食べるのではないか?」と思う。金子弥生氏(東京農工大学準教授)が報告しているように、ニホンイタチの雌はジェネラリストなのだ。雄は(相対的に)スペシャリストである。この相違は、ニホンイタチとシベリアイタチの関係にも当てはまる。シベリアイタチは相対的にスペシャリストだ。

 

 最後に、郷公園で見たコウノトリのこと。市立文化館のガラス越しに、飼育中の2つがいが見えた(写真4)。このカップル同士は仲が悪く、同居させると喧嘩するそうである。カップル自体も喧嘩はしないが、ヒトのようにいちゃいちゃはしていない。日常的にあまり親密でない方が関係は持続するのかなと、ふと思った。ヒトの夫妻もそうなのではあるまいか?。

 

 

コウノトリのカップル

 

 

 コウノトリのカップルは一度出来ると長年持続する…と、これ迄は言われて来た。でも野外での最近の研究で、"不倫"をしばしば行うことが判明したという。つまり其のことでは、ヒトとあまり変わらない。

 

 そしてやはりヒトと同様に、"子殺し"もしばしば行う。その標的となるのは、成長が遅い末子だという。利己的遺伝子の理論からして、頷けることだ。ヒトでもそうかも…という剣呑なことは、此処では言わない。

 

 夏目漱石(1867ー1916)のことが想起される。彼は大家族の末子で、父親に疎んじられた。それでも殺されはしなかったが、里子に出された。やがて鬼才が判明し、実家に戻される。その時に発生したトラブルのことは、晩年の名作「道草」(1915)に描かれている。私は漱石の最高傑作は「三四郎」(1907)と思うのだが、この作品がNo.2だろう。

 

 私の場合も、漱石と似ている。私は3男で末子で、姉がひとりいる。そして所謂年子で、生まれた時に父親は冷淡だった…と、亡母が漏らしていた。私は(父親にとっては)「要らない子」だったのだ。私にも(きょうだいの中では随一の)鬼才があったので、やがて父親の態度は少し変わるのだが。

 

 母親には愛された。でもその母は、私が中2の時に癌で死んだ(享年44)。私が生涯非婚を貫いたのは、明らかに此の事がトラウマになってだ。

 

 私事はさておき… オープンランドの巣塔のこと(写真5)。間引きの結果かどうかは聞き忘れたが、幼鳥が2羽いた。幼鳥といっても、サイズは成鳥とさほど変わらない。でも未だ飛べない。巣塔の頂きで何度も舞い上がりの練習をして、その目処が着いたら初めて地上に舞い降りるのだという。そしてしばらくは親から餌の採り方を学習し、やがて自立するのだ。

 

オープンランドの巣塔

 

 今の時期は両親は子に付き添ってはいない。巣外の何処かにいて、時たま子に給餌する。カラスやトビに襲われはしないかと案ずるが、今のサイズに成長したら大丈夫なのだろう。カラスやトビにしては、「他に餌が無い訳ではない」こともあって。

 

 ケリの幼鳥に猫が接近した時にも、同じことを思った。自然界は、決して弱肉強食ではない。人間のみの社会の方が、遥かにそれに近いのだ。

 

 

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