日々、彼を想う。

日々、彼を想う。

星野源が大好きです。

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仁はこういう奴だった。


そういえば、自分の方が慶よりかっこいいって言ったこともあったっけ。だがしかし、納得するほどのイケメンぶりだ。何をしたって絵になる。

例えば、亜伊子を着飾るときに言った歯の浮くような言葉たち。義光に対する想い。時折り、俺に向けてくれた想い。そんなものにさえ、繊細な言葉で表現していた。


写真に口づけしている様を惚けるように見つめていると、印象的な緑の瞳はこちらを見た。


(ーーー好きだ)


吸い込まれそう。そんな瞳に、心からそう思った。


ゆっくりと立ち上がると、義光のスウェットを着た仁は俺の前に立つ。

どちらとなく抱き合った。


会いたかった

会いたかった

会いたかった


仁の肩に鼻をこすりつけながら、こみ上げる想いがただ鼓動を早くする。


「会いたかった」


そう声に出したのは、仁だった。


「強く願いすぎたのかもしれない。

私は爆撃の中、敵陣から拠点へ帰るため奔走していた。帰らなければ、あとは囲まれて死ぬ他ないからな。

だがあの時、小型ミサイルが目の前で爆発してな。確実に粉々になると思った。


願えるのならばと、一度でいいからと、


………光也に会いたいと、願ってしまったんだ」


俺を抱きしめながら仁は淡々と語っていた。まるで懺悔をするかのように、言葉を紡ぐ。

そんなことしなくていい。だって俺は


「俺だって、会いたかったんだよ。なんでそんな謝るように言ってんだ」


そうだ、何度願ったことか。みんなをこの平穏な世界へ連れて帰りたいと。くやしくてくやしくて、泣き叫びたくてたまらなかったあの時。


そういうと、抱きしめていた腕を緩めて、仁は俺を見つめる。緑の瞳は、案じていた。

たぶん俺の行く末に、自分が加入することを。


「だから、ごめん、とか言うなよ?」


先に言ってやった。絶対、謝らせない。そう思ったから。


ばか


泣きそうな顔を隠すように、また俺を抱きしめて、仁は「離してやれないぞ」と言った。

その言葉だけでゆでダコのように赤くなった俺は俺で、それを隠すように仁を抱きしめる。


時計の針は、夕刻をとうにすぎていた。

んっ!おい、ちょっと


「なんだ?誘ったのは、お前の方だろうに」


「ちっがーーーーーーう!!!」


じたばたしてみるが、ビクともしない仁の腕の中で、俺ははたっと気がついた。


(あれ?もしかして俺らって両思いというやつでは)


「えーーーーーー?!!!」


「?!

なんだ一体。急に叫ぶのは、いつものことながらやめてくれないか。びっくりするだろう」


(いやいやいやいや、そりゃないだろ。だってだってさ)


もう会えないと思っていた。ずっと。一生このまま。

だから託した。俺の想いものせて。


黒の

ナイト。


(そうだ!)


もがいていた腕の中で、しかめっ面の仁を見つめて俺は確かめてほしいと言った。



黒のナイトを、持っているかどうかを。





とりあえずこのままでは風邪をひきかねないと説得をして風呂から上がり、服を押し付けバスルームから一足先に出ると、仁が着替えている間に俺は、いつも持ち歩いている小さな袋を上着のポケットから取り出していた。


これはジノが亜伊子から託された、仁の形見だ。

「自分の手でこれを届けに行けないことが本当に残念だと、最期まで言ってました」

そうジノは言って、俺の手のひらにそっと置いた。

時を越え、こんな風に帰ってくるとは思ってなかった黒のナイト。時折り触れては仁に想いをはせた。


「おい、あがったぞなにをみている?」


背後から声をかけられ振り向くと、多少は小綺麗になった仁がタオルを頭にかけたまま立っていた。


(こうやってみると、やっぱ俺の中の仁とは違う人みたいだ)



俺たちが出会ったのは、まだ学生で未成年で未熟だった。でも仁たちの時代は大人として扱われることも多く、一際、俺の幼さが目立っていたように思える。そんな面影も見受けられないほど、仁は大人の男性だった。



ただ


その緑色の瞳だけは


あの頃と同じように、俺を見つめていた。


「これお前の形見だってさ」


……

これは光也が俺にくれたなんでお前が持っているんだ」


経緯を説明すると、先程脱いだ軍服の中を漁り始める。


「たしかにない落とした来たのか。それを軍の誰かが拾ってくれたと」


「そんで、亜伊子のところまで来たってわけだ」


「そして今、光也が持っているふふ」


仁は嬉しそうに微笑んだ。その顔は、俺の知ってる仁だった。


「時の流れというのは、時に残酷だがこうやって受け継がれていくというものなのだな」


そして仁は、3年前に亡くなったという亜伊子を思ったのだろう。軍服から古ぼけた一枚の写真を見ながら、そっと口づけした。

人をそのまま自宅へ連れて行くわけにもいかず、俺は無人になってしまったけれど、両親が管理してる義光の家へ向かった。

ジノにも説明するのも億劫で、とりあえず今日のところは何も言わずに来てしまったが。まぁ帰ってくるだろたぶん。


「えーっと、これとこれとあとこれか。着替えはこれでよし。あとなんかあったら呼んでくれ」


そう言って何か言いたそうにしてる仁を、無理やりバスルームに押し込んだ。

リビングにひとり、ソファの上でゴロンと横になる。

そっと目を閉じた。思考するためだ。


(仁がきたどこからだ?軍服戦時中か。そうだ、仁は戦時中に)


でも、亡くなったと聞いた。聞いたが


(まさか、帰らなかったから死んだことになっただけで、実際はこの時代に来てしまったため、帰るに帰れなかっただけなのか)


遺体が見つかったかどうかなんて聞いてない。てか、普通は聞かない。何か事件性とかない限り、そんな話にはならないだろう。

しかも場所が場所だけに、遺体なんて見つかるものなんだろうか。


「なぁ光也」


思考にふけっていると、やけに近くで仁の俺を呼ぶ声がした。急に現実に引き戻される。


「なんだよ?うわ!素っ裸ででてくんな!!」


上がったのかと思えばそうではなく、まだ砂まみれだ。困惑した状態で見つめていると、少し赤くなりながら困った顔をした。


………あれはどう使えばいいんだ、皆目見当がつかない」


「は?」




ちょっと考えれば分かるはずだったのに、なぜ気がつかなかったのか。それもそうだ。何十年も前からきた奴が現代のバスグッズを使えるはずがなかった。しかも数年前に水回りをリフォームしたため、真新しいものが付いている。壁についた機械がしゃべったりする。

仁はおっかなびっくりでそれを見つめては、「これはなんだ、あれはなんだ」と聞いてきた。


そんなこんなで、今俺はまことに不思議なことに、仁の頭をシャンプーで洗ってる。


「お客様、かゆいところはありませんか~」


「あえて言うなら、全身かゆい」


「アホ言ってんな!」


「事実だ」


そんなやりとりをしながらお湯をかけてやる。シャワーはびっくりするかもしれないから、洗面器でかけてやった。洗い終わると仁は頭を勢いよく振ったので、お湯が俺の顔にもかかる。


「わっぷっちょ、なにしてんだぬれるじゃねーかよ」


「あぁ、すまない。きちんとした風呂なんて久しぶりで


その流れで背中を流してやることにした。

無数の傷跡、新しい生々しい傷。ガッチリとした背中。この背中は仁の辿ってきた人生そのもののようだった。


お湯をかけたあと、そっと触れる。傷跡をなぞるように動かして、その辿ってきた道を自分も歩いてみたいと思った。

なんだか心がふるふると震えて止まらない。


「どうした?」


「いや、なんでもねーよ」


ふいに、触れていた手が掴みとれた。そしてそっと抱きすくめられる。


至近距離に


緑の瞳。


いつのまにか、こちらを向いていた仁との距離はものすごく近いものになっていた。


…………さそってるのか?」


「え」


そう言って仁は


俺にそっと口づけした。