人をそのまま自宅へ連れて行くわけにもいかず、俺は無人になってしまったけれど、両親が管理してる義光の家へ向かった。
ジノにも説明するのも億劫で、とりあえず今日のところは何も言わずに来てしまったが…。まぁ帰ってくるだろ…たぶん。
「えーっと、これとこれと…あとこれか。着替えはこれでよし。あとなんかあったら呼んでくれ」
そう言って何か言いたそうにしてる仁を、無理やりバスルームに押し込んだ。
リビングにひとり、ソファの上でゴロンと横になる。
そっと目を閉じた。思考するためだ。
(仁がきた…どこからだ?軍服…戦時中か。そうだ、仁は戦時中に…)
でも、亡くなったと聞いた。聞いたが…。
(まさか、帰らなかったから死んだことになっただけで、実際はこの時代に来てしまったため、帰るに帰れなかっただけなのか…)
遺体が見つかったかどうかなんて聞いてない。てか、普通は聞かない。何か事件性とかない限り、そんな話にはならないだろう。
しかも場所が場所だけに、遺体なんて見つかるものなんだろうか。
「なぁ…光也」
思考にふけっていると、やけに近くで仁の俺を呼ぶ声がした。急に現実に引き戻される。
「なんだよ?うわ!素っ裸ででてくんな!!」
上がったのかと思えばそうではなく、まだ砂まみれだ。困惑した状態で見つめていると、少し赤くなりながら困った顔をした。
「………あれはどう使えばいいんだ、皆目見当がつかない」
「は?」
ちょっと考えれば分かるはずだったのに、なぜ気がつかなかったのか。それもそうだ。何十年も前からきた奴が現代のバスグッズを使えるはずがなかった。しかも数年前に水回りをリフォームしたため、真新しいものが付いている。壁についた機械がしゃべったりする。
仁はおっかなびっくりでそれを見つめては、「これはなんだ、あれはなんだ」と聞いてきた。
そんなこんなで、今俺はまことに不思議なことに、仁の頭をシャンプーで洗ってる。
「お客様、かゆいところはありませんか~」
「あえて言うなら、全身かゆい」
「アホ言ってんな!」
「事実だ」
そんなやりとりをしながらお湯をかけてやる。シャワーはびっくりするかもしれないから、洗面器でかけてやった。洗い終わると仁は頭を勢いよく振ったので、お湯が俺の顔にもかかる。
「わっぷ…っちょ、なにしてんだぬれるじゃねーかよ」
「あぁ、すまない。きちんとした風呂なんて久しぶりで…」
その流れで背中を流してやることにした。
無数の傷跡、新しい生々しい傷。ガッチリとした背中。この背中は仁の辿ってきた人生そのもののようだった。
お湯をかけたあと、そっと触れる。傷跡をなぞるように動かして、その辿ってきた道を自分も歩いてみたいと思った。
なんだか心がふるふると震えて止まらない。
「どうした?」
「いや…、なんでもねーよ」
ふいに、触れていた手が掴みとれた。そしてそっと抱きすくめられる。
至近距離に
緑の瞳。
いつのまにか、こちらを向いていた仁との距離はものすごく近いものになっていた。
「…………さそってるのか?」
「え」
そう言って仁は
俺にそっと口づけした。