「…んっ…仁…!おい、ちょっと…」
「なんだ?誘ったのは、お前の方だろうに」
「ちっがーーーーーーう!!!」
じたばたしてみるが、ビクともしない仁の腕の中で、俺ははたっと気がついた。
(あれ?もしかして俺らって…両思いというやつでは…)
「えーーーーーー?!!!」
「?!
なんだ一体。急に叫ぶのは、いつものことながらやめてくれないか。びっくりするだろう」
(いやいやいやいや、そりゃないだろ。だって…だってさ…)
もう会えないと思っていた。ずっと。一生このまま。
だから託した。俺の想いものせて。
黒の
ナイト。
(そうだ!)
もがいていた腕の中で、しかめっ面の仁を見つめて俺は確かめてほしいと言った。
黒のナイトを、持っているかどうかを。
とりあえずこのままでは風邪をひきかねないと説得をして風呂から上がり、服を押し付けバスルームから一足先に出ると、仁が着替えている間に俺は、いつも持ち歩いている小さな袋を上着のポケットから取り出していた。
これはジノが亜伊子から託された、仁の形見だ。
「自分の手でこれを届けに行けないことが本当に残念だと、最期まで言ってました」
そうジノは言って、俺の手のひらにそっと置いた。
時を越え、こんな風に帰ってくるとは思ってなかった黒のナイト。時折り触れては仁に想いをはせた。
「おい、あがったぞ…なにをみている?」
背後から声をかけられ振り向くと、多少は小綺麗になった仁がタオルを頭にかけたまま立っていた。
(こうやってみると、やっぱ俺の中の仁とは違う人みたいだ)
俺たちが出会ったのは、まだ学生で未成年で未熟だった。でも仁たちの時代は大人として扱われることも多く、一際、俺の幼さが目立っていたように思える。そんな面影も見受けられないほど、仁は大人の男性だった。
ただ
その緑色の瞳だけは
あの頃と同じように、俺を見つめていた。
「これ…お前の形見だってさ」
「……?
これは…光也が俺にくれた…なんでお前が持っているんだ」
経緯を説明すると、先程脱いだ軍服の中を漁り始める。
「たしかにない…落とした来たのか。それを軍の誰かが拾ってくれた…と」
「そんで、亜伊子のところまで来たってわけだ」
「そして今、光也が持っている…ふふ」
仁は嬉しそうに微笑んだ。その顔は、俺の知ってる仁だった。
「時の流れというのは、時に残酷だが…こうやって受け継がれていくというものなのだな」
そして仁は、3年前に亡くなったという亜伊子を思ったのだろう。軍服から古ぼけた一枚の写真を見ながら、そっと口づけした。