「……光也」
「----ジノ?なんだ、お前こんなところに…」
茂みを両手で開いて唖然とする。
気がついたら、軍服に身を包んだ色素の薄い髪と緑色の目をした男性が、自分を掻き抱いていた。
「まったく、あいつはほんとフラフラして…どこにいんだよ!」
俺は-亜伊子のひ孫-ジノを探して、河川敷まで来ていた。
語学留学と称して日本を訪れているらしいジノは、いつもは俺と行動を共にしてくれているのだが、時々ふいにどこかに消える。
消えると言うとは比喩表現だが、目的を定めずにフラフラするのが好きな様だった。
普段であれば夕飯時には帰宅するのだが、帰ってこないと母親が騒ぎ出したため、こうして探す羽目になっていた。
(それにしてもすんなりとうちに溶け込んだよなぁ)
他人に敏感な母親が、こうも簡単にジノを受け入れるとは思わなかった。ホテルを取って何日か滞在すると言ったジノは、今うちで寝泊まりしている。
(あいつ、懐に入り込むの得意だから…でもまさかあの人がこうもほだされるとは)
ジノは、鬱屈したものが取り払われた仁みたいだ。気が利いててお世辞も言うし、学力も相当らしい。あ、でも笑った顔は亜伊子に似てる。
そんなことを考えながら河川敷を歩いていると、ガサっと茂みが揺れた。
「……光也」
あ、ジノだ。反射的にそう思った。ジノは見た目はさほどだが、仁に声がとても似ている。
でも何故その時に、気がつかなかったのか。そもそも、ジノは俺を「光也さん」と呼ぶのに。
「あ、ジノ?なんだ、お前こんなところに…」
ガサガサと音を立てながら茂みに手をかけると、そこから出て来た何かに、急に抱きしめられた。
「?!!…っな!なに!なんだよジノ……?!」
(…………!!じゃない!!?)
混乱気味の俺をよそに、抱きしめた人物は何かを確かめるようにその手で服を弄る。
「ちょっ!あんたなにしてんだおい!やめ…」
「光也っ!」
ハッとする。
声が…似ていた。
「………じ…仁…?」
その声で手の動きがピタッと止まった。掻き抱いていた腕が緩められ、ゆっくりと俺との間に空間ができる。
恐る恐る、その人物を見上げた。
色素の薄い髪。幾分か記憶の中の仁より目線が高い。砂まみれ。熱に浮かされたように熱い身体。見たことのない軍服。肌は日焼けしてボロボロ。
短く切り揃えられた髪。丸メガネ。
こちらをみる、緑色の
瞳。
「なぁ、その目…」
「え…」
「世界が、緑色に見えたりする?」
探るように見つめていた顔が、クシャッと歪んだ。そしてまた抱きしめられる。
「…っ変わらないな…お前は…。なんだこの細い身体は、食事はちゃんと取ってるのか」
「う…うるさいな。食ってるよ。しょーがないだろ、身につかないんだから…なんかガッチリしてるなそっちの身体…」
抱きしめられているため、自由になる手のひらで、背中をペシペシと触る。俺の知る仁は、同じぐらいの体格だった。ちょっとムッとする。
「それはそうだろう。軍にいるんだぞ、それなりに体力をつけないとやっていられない」
「まぁ…それもそうか」
(って…ちょっとまて)
気がついた俺は、力任せに仁を引き剥がす。
「お前…………!!なんでこんなところに…………の前に」
きょとんとした仁に俺は言い放った。
「お前、臭い」
つづくよ