「ですわ。でね、私をスカウトしよ思て現れた。地雷のセールスを頼むちゅてね。」
あ、もちろん断りましたよ、と激しく手を振り、山崎は話を続けた。
そこからの話は、里美と太陽から束の間、言葉を奪った。

彰宏が心臓を患い、その手術費用を得んが為、山崎が武器商人になりかけたこと。
けれど、それまでに築き上げてきた人の繋がりが彼を助けたこと。
渡米した先で知り合った少年が、アランの息子だったこと。
そして、その少年の心臓が、今は彰宏の命を刻んでいること。

強そうに見えて、里美は涙もろい。人一倍感激家である。
だからこそ大好きな男性を追いかけて、単身アフリカに渡るなどという荒業が使えたのだとも言える。
涙と鼻水が邪魔して一言も離せない里美にハンカチを渡しながら、太陽が訊いた。
「それで、どうして今、会いに行こうと?」

山崎は、先程から頬を緩めっぱなしである。
頑張っている子どもを見るのが大好きなのだ。
愛しそうに太陽を見つめながら、山崎はポケットから写真を取り出した。
何処かの庭だ。
車椅子に乗った金髪の少年が、咲き誇る花に負けない笑顔を見せている。
横に立つのは、彰宏である。


「ショーン。彰宏を救ってくれた勇気ある少年です。

三日後の金曜日、この子の誕生日なんですわ。

そやからね、アランと一緒に祝ってあげようと思って。

奥さんから手紙も預かってきましたんでね」


「アラン・スミシー。国籍はアメリカです。

地雷撤去のNPOに所属して、世界中を飛び回っている男です。

次の赴任先がシェラレオネと聞きましてな」

地雷撤去のプロ。
里美は写真を手にとった。
それほど逞しくもない男だが、何故だか堂々としている。
まるでー

「まるで、ライオンみたい」

「はっはぁ、さすがやな。その通り、その男は訪れる村の人たちに『金色のライオン』と呼ばれとります。

そりゃもう、すごい男ですよ」
まるで自分の身内を自慢するような口ぶりである。

「あの…、この方と山崎さんはどういった関係なんですか?」
得意気に胸を張る山崎に里美は微笑みかけた。

「最初、出会った時は敵でした。アランは、兵器産業で働いてましてね、
特に売上げが良かったのが地雷」

意外な言葉に里美は一瞬、絶句した。
「地雷?…武器商人だったんですか」

「今回はね、ちと野暮用がありましてな。それで文字通り飛んで来たってなことで。

それにしてもかかったなぁ…一生着かへんかと思った」
「お父さん」
「何しろ四カ国経由で掛かった時間が…」
「お父さんてば」
「あぁ?」
「池田さん、びっくりしてるよ」
「ええ?」
この間、僅かに二十秒。
慌てて居住まいを正す山崎を見て、最初に噴出したのは里美であった。
わはははは、と高らかに笑う。
釣られて太陽が、そして山崎親子が笑う。
四人の笑い声が真っ青な空に抜けていった。


運転しながら里美は驚いて訊き返した。
「シェラレオネ?今ちょうど俊輔が行ってるところよ」
「聞きました聞きました。いや、日本大使館で池田はんの御家族を知らないっちゅな人は居てないですよ。俊輔はん、えらいこと頑張ってるとか」
「で、山崎さんはシェラレオネに何の用で」

そうそう、それでんがなと山崎は懐から一枚の写真を取り出した。


「この人を探してるんです」
大切にパウチされた写真には、外人の男性が写っていた。
日に焼けた笑顔に、色褪せた金髪が似合っている。

その後を微笑みながら里美が追いかけていく。
タラップを降りてくるのは、現地の者が殆どである。

だが今回の便には、明らかに人種が違う親子連れが混ざっていた。
「あれま、日本人だ。珍しいね、太陽」
「ほんとだ。こんにちはー!日本の人ですか?!」

太陽が発した日本語に驚きの色を見せた親子連れは、二人を見るや否や、

タラップの上で小躍りしながら歓声をあげた。
「お父さん、きっと間違いないよ」
「いやぁ、これは大吉大吉」

後ろに詰まった客に注意されるまで、その親子連れは呑気に喜んでいた。
「なんだか面白い親子だね、お母さん」
「そうねぇ。あ。こっちに来た」

男はタラップを転げ落ちるように降りてくると、里美の前でピタリと止まった。

「毎度ー、山崎でございましてぇ」

周りが振り返るほどの大きく朗らかな声だ。
隣で中学生と思しき少年も微笑んでいる。

「山崎…、あ。あの山崎さんっ?!」

「あぁ、池田はんですな。いやいや、お写真の通り、べっぴんさんやないですか。
いや、ついでに池田はんの御実家に寄ってね、お母様から色々と預かってきました。
梅干やら味噌やら、まあ重いの重くないの重いっちゅうねん。
あらためまして、こんにちは。山崎でございまして。
蚊帳を持ってきました。
こっちは息子の彰宏。いやぁ、暑いですなぁこっちは。沖縄よりも暑いですな」
立て続けにまくし立てられ、さすがの里美が黙り込んだ。

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