先日エンドピンを曲げてみて約1月程経過しました。
お陰で、姿勢が良くなった事から首の痛みは解消しました。
演奏上のデメリットは見つからないと書きましたが、唯一、エンドピンの撓みが気になります。
エンドピンストッパーが前に動いている様だと記事の中で書きましたが、どうやら左手で弦を押さえた時に下向きの力が大きいとエンドピンが撓んで楽器が斜め下方向へ僅かに動く様です。
これはエンドピンの太さが8mmと細い事が原因の様で、もっと太い10mmなら撓まないだろうと思って、アルフェのもう1サイズ太いエンドピン(9.8mm)を曲げてみようと試みたのですが、これは人力では曲がりませんでした笑
機械工場か何処かでベンダーかプレスで曲げて貰えば良いのかもしれませんが、そう言う知り合いも無いので、一先ず諦めて8mmで慣れる事にしました。
ガブリエル・リプキンと言うチェリストは湾曲したエンドピンを使っていますが、これはかなり柔軟性がありそうです。
某チェリストがブログの中でリプキンについて
『前略・・湾曲したエンドピンを使っているのは、知る限り、彼だけだと思う。トルトゥリエやロストロポーヴィチは短いエンドピンでチェロを寝かすために、一カ所で曲がったものを使っていた。僕はエンドピンがしっかりした支えになるよう、太い10ミリ径のものを使っている。彼はきっとエンドピンの弾力を生かしているんだろうと思った。柔軟な体勢の楽器を弾く、思いもしなかったことだけれど、なるほどその発想は良いかもしれない。・・後略』と書かれている様に、撓みも上手く使えばヴィブラートのサポートになるのは記事に書いた通りです。
今回、楽器のセッティングを変更した為、駒をフレンチからベルギーへ入れ替えてみました。
これは随分以前にやったタイベルトで表板へ圧力を掛けて魂柱が倒れない様にする方法で自分で交換しました。
以下は参考まで
元々、チェロを始めた時からベルギー駒が好きだったのですが、自分の楽器は古い楽器の為、ネックがやや下がり気味で、足の長いベルギー駒だとあまり弦高が下げられないそうで、比較的弦高が高めになります。
その為、2年くらい前に弦高を下げたフレンチへ変更してそのままでしたが、当時から、テールピースをワイヤーテールピースへ変更したりして、楽器のセッティングや弾き方も変えている為、駒もベルギーへ戻してみるかと思って戻してみました。
変えてみた所、もう長年フレンチ駒の音に慣れている耳では、交換してすぐは楽器の直接音を聴くと「へ?」と言う様な頼りない音に聴こえて「失敗したかな」と思いました。
只、以前の自分の投稿を幾つか読んで「あ〜なる程」と思い、すぐに低遅延Bluetoothのモニターを引っ張りだして、離れた場所から楽器の音を聴くとそれまでのフレンチとは打って変わった豊かな音色。
これ大音量では無く豊かな音色です。
フレンチの場合は音量はあるのですが、音に雑味も多く、煩い・荒いと言う印象に対して、勿論、音量もあるのですが、音が硬くない音で、楽器本体が良く響いてる音です。
既に過去の記憶だったので、ブログの中のフレンチ駒へ交換した記事を読んでみるとどうやらフレンチ駒と言うのは倍音が多いんですね。
それは以前測定したデータでも明確に高い成分が良く出ていて、その為、直接音を聴くと圧倒的にフレンチ駒の方が良く響いている印象で魅力的なんです。
私の推測ですが、フレンチ駒はベルギーよりも厚みがあってどっしりとした形状の為、駒の体積も当然大きくなります。
この為、フレンチ駒を弦で振動させた場合、ベルギー駒よりも駒の振動にエネルギーを消費している筈です。
体積が大きいと言う事は駒の材質のムラ(木目)等にも影響される為、振動時に多くの周波数成分を含んでいる可能性があり、大きなエネルギーと共に駒そのものの振動帯域が広くなり、それが楽器に伝わっていると思われます。
その為、フレンチ駒は全般の帯域が広い為、倍音なども良く聴こえて鳴っていると感じますが、反面、ノイズになりそうな高い周波数成分も多く、実際、良く言えば「明るい」「華やか」悪く言えば「ギラギラ」と言う様な印象の音も発生します。
一方、ベルギー駒の方は駒が薄く、華奢な構造の為、体積も少ないので、駒自身が消費する振動エネルギーも当然少なく、弦の振動は長い足を通じて直接表板へ伝わりやすくなっています。
特に、厚みが薄い為、高い弦の振動は良く伝えます。
何故、高い弦の振動を良く伝えるか?と言う事を簡単に説明すると、駒の下には魂柱が立っていますが、この位置は上(ヘッド側)から見た場合に駒の左側、横から見た時はやや駒から下側に立っています。
この為、魂柱に近い弦、A線等は振動しても駒の左端にあり、真下には魂柱が立っている為、横方向の振動には繋がりませんが、一方、駒の僅かに下側に立っている事から、振動で弦が伸び縮みする影響で駒の前後(指板←→テールピース)の方向の振動を発生させやすくなります。
仮に厚みが薄い場合はより前後に振動しやすくなると言う訳です。
一方、魂柱から離れた位置の弦は駒の回転(上から見て左右)方向の振動を発生しやすくなる為、逆に魂柱からの距離が離れれば駒の中心から見た回転モーメントが増えますので、フレンチ駒の様に肩が張った駒は低い弦の振動を伝えやすく、コントラバスの場合は、先ずフレンチ駒しかありません。
今回、あらたな確認をしたのは「ベルギー駒は押さえつけて弾かない方が良く鳴る」と言う事です。
つまり、フレンチ駒の場合は駒そのものの振動にエネルギーが必要である為、比較的弓を強く張って押さえつけて毛を撓ませて毛の摩擦力以上の回転モーメントを弦に発生させて鳴らしていますが、これだと弦→駒を通じて表板まで押さえつけてしまい、弓の棹のテンションも上がる為、全般的に音が硬くなりやすくなります。
※この場合の回転モーメントは弦の中心軸から見て捻ろうとする力ですが、毛が撓んでいれば撓んでいる程、この力が大きくなり、弦そのものは固定されて中心軸から回転する事は無いので、この力が弦を横に弾く力となり、これは毛の摩擦力とは異なる力です。
上の絵は、弓を強く張って毛の摩擦力に頼った場合、下の絵は緩い場合で、撓んだ分だけ、回転モーメントが発生する力となっている様子です。
まあ、一流のプロが使っている様な素晴らしい楽器と弓であれば別ですが、大抵はそう言う傾向になるでしょう。
良く、イタリア製の楽器は板が厚いと言われますが、上から力を掛けても表板が影響を受け難くくする為からもしれません。
腰の強い弓をその様なパワフルに力を掛ける事が出来る大柄な外人の男性が使って板の厚いイタリア製の楽器を弾くと爆音になりそうです笑
一方、弓と弦のコンタクトが悪いと、元々、フレンチ駒は表板の振動に必要な振動以外も発生する為、ノイズも出やすく、弓を強く張っている場合、圧力が少なくなると毛の撓みが減り、毛の摩擦力のみに頼る事になる為、弓が弦の上を滑りやすくなります。
幾らソリストの様に強く弓を張っても、その状態の弓を使いこなす右手の技術と力が無ければ、弦の上を弓が滑るだけで音にならないと言う事です。
アマチュアの場合、弓を強く張っていると駒近くでは弦のテンションに跳ね返されてしまうので、自然と弾きやすい指板近くを弾く事になり、弦は振動しているけど音量はそれ程出てない状態となります。
これを防ぐ為に、弓をあまり強く張らない様にして毛の撓みを増やして回転モーメントを増やそうすると、フレンチ駒の場合は体積が大きい分反応が鈍くなり、立ち上がりの悪いボヤケた音になりやすくなります。
逆にベルギー駒でフレンチ駒の様な弾き方をすると、足が長く華奢な構造の為、駒そのものが簡単に押さえつけられて表板への振動が伝わり難くなります。
その為、音の硬さだけが伝わり(フレンチより)「音が小さい」「音が冴えない」と言う様な印象となります。
ベルギー駒を装着している場合は、駒の特徴を活かして、弓を張り過ぎない様にして上から押さえつけない弾き方を心掛けると良く振動してくれます。
良い事尽くめそうですが、既に説明している様にフレンチ駒の方が低い弦に関して言えば、魂柱からの距離が遠くなる為、低音が出やすくなります。
又、楽器によっては倍音を含むフレンチ駒の音の方が合う。好み。と言う場合もあります。
自分の楽器でベルギー駒を使う場合の難点は、ネックとの関係で弦高があまり下げられず、フレンチよりもやや弦高が上がると言う事ですが、これに関してはトゥルトリエ型の曲がったエンドピンに変更してハイポジションの位置が身体に近くなり、上から押さえる様になった為、これで解決するかもしれないと思ってます。
何れにせよ、何かのセッティング等を変更した場合、他の点も見直してみると良いですし、最近の出来る限り弓を張らず=摩擦力では無く回転モーメントを利用して弾くと言う奏法の傾向とベルギー駒は合っている様です。
変えた時は「へ?」と言う印象でしたが、その後、ベルギー駒の直接音に耳が慣れました。
やはりフレンチに比べて倍音が少ないので響きがシンプルですが余計な音が鳴ってないのでヴィブラートの深さも把握しやすく、音程も取りやすいかもしれません。
交換した後、自分が書いている仮説の基本が合っているかどうかネットを探してみました。
「フランス駒とベルギー駒の違いはこのデザインの違いです。または「体積の違い」と考えてもよいでしょう。これが影響してそれらの音色にも特徴が出るのです」
(ドイツ・ヴァイオリン製作マイスター 某氏)
「・・そんなフレンチ駒とベルギー駒、肝心な音にどのような影響を与えるかというと、よく言われるのが、ベルギー駒はカーンと鳴ると例えられます。
これは、その駒の体積が音に影響を与えているようです。
厚さが同じとした場合、ベルギー駒は体積がフレンチ駒より少なくなります。
それ故、弦の振動がフレンチ駒よりダイレクトに表板へ伝わります。
その分、カーンと言う音というか、直接的と言うか、そういった音になるようです。
極端な例えになりますが、例えば駒の厚さ10センチ、高さが50センチあったとしたら、弦の振動は駒に吸われて表板に伝わらず、楽器は響かなくなるでしょう。
だからといって、体積が少なければ少ない方が良いと言う訳ではないのが面白いというか、神秘的な所なのです。」
(チェロ奏者 某氏)
と言う事で、楽器職人と奏者の両方から同じ様な話が出ているので、どうやら自分の仮説や見立ては間違ってなかった様です。
現在、弓をあまり張らずに弾くことに取り組んでいるのはある著名なチェロ奏者の話が切欠です。
そのチェロ奏者が若い頃に先輩チェリストがフルニエのレッスンを受ける為、見学しに行った時に、フルニエがレッスン中に(わざと)弓を殆ど張らずに弾いてたそうです。
そのチェリストの文章を引用すると
『要するに、弓をパンパンに張ってギュウギュウ押し付けて弾いても良い音楽は出来ないよ と教えてくれたのだ
レッスンのあとのお話で私はダイレクトなものより例えばサラダにニンニクが入っているよりサラダボウルにニンニクを擦り付けて
臭いだけ感じる方が好きなのですと言っていたのを覚えている』
自分はそれを読んでなる程と思い、実際にやってみると確かに音が出ます。
いや寧ろ、そちらの方がクオリティの高い音がしますし、その理由を考えて上記へ思い当り、駒もベルギーに交換してみた訳です。
その後、ベルギー駒のA線の弦高が高く、イルカノーネのA線ではややテンションが強い為、Warchal Amberのメタル弦へ交換してみました。
ワーチャルのAmberは以前張っていて3ヶ月くらい張って保管していた在庫があった為、それを張ってみました。
Amberのメタルは駒から30センチくらいの部分がコイル状となっている特徴があります。
Warchal Amberメタルはイルカノーネよりも2kg程テンションが低く、その分弾きやすくなりました。
音色は特有の明るい音色で、ソロ等には向いていると思いますし、コイル状の仕上がりで弓が掛かりやすいのも良いですね。
直接音を聴くとLarsenのD線からやや明るくなり過ぎる印象ですが、離れた場所で聴こえる音を聴いてみると差はそれ程気になりませんでした。
首の痛みに端を発しエンドピンを曲げるところからスタートした今回の楽器のセッティング変更はその後、駒と弦を変更して終了しました。