ラヴィリティアの大地第46話「冒険者たちの結婚式」 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

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鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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森の都グリダニアの深緑の大地にそびえ立つ十二神大聖堂がエオルゼアの冒険者であり海の都リムサ・ロミンサの英雄たちの結婚式を祝福するために始まりの鐘とオルガンの入場曲を鳴らすー。新郎はこの物語の主人公の青年、エオルゼアの小国のひとつラヴィリティア王家を支える三大貴族『リサルベルテ家』の出自であり海の都リムサ・ロミンサの盟主メルウィブ提督お墨付きのクランBecome someone(ビカム・サムワン)リーダー務めるオーク・リサルベルテ。そして新婦はこの物語のヒロイン、かつてラヴィリティア国王近衛執務長であり国王の即位と同時に襲名するはずだった、事実上ラヴィリティア最上権威を表す“ラヴィリティア卿”を特例として叙勲された謎多き勇者の忘れ形見クゥクゥ・マリアージュ。今まさにこのふたりの英雄が夫婦の契りを交わそうとしていた。大聖堂の祭壇に向かうための最後の扉の前でオークとクゥクゥはその道が開かれるのを粛々と待っていた。新郎新婦入場の一刻の間にオークがクゥに言葉をかけた

「緊張はしている?クゥ」
「ううん、オーク。緊張なんてしない、だって貴方が隣に居るもの」

クゥの言葉は強がりでもなんでもなく正真正銘このエオルゼアの大地で一等大好きな人と一緒になれる事を、心の底からの嬉しさが滲む満面の笑みでオークを安心させようと言葉を紡いだ。するとまた彼がクゥに口を開いた

「弱ったな、俺が緊張してるよ。クゥ、少しだけ手を握って。そして心の中で俺の手を絶対に離さないでくれよ」
「はい、任せてくださいオーク。」

オークの手を一度軽く、けれども離さないとクゥは指先に力を入れて彼の手を握り込んだ。緊張で頬が痙ってしまったオークは前だけを見据えながら間もなく開かれる扉を見つめていた。その横顔に彼女は大丈夫と微笑み、彼に深く頷いたのだった。彼女が頷いたのを合図に重そうな扉ががこんと音を立て、大聖堂に乱反射する眩い陽の光を放ちながらゆっくりと開いて彼らを中へ導いた。



冒険者は貧乏だ、本来ならクゥは大聖堂から付与されるエターナルドレスを身に纏う事になるはずだったが結婚が急なことでドレスの都合が付かなかった。オークのマネージャーのような存在であるリテイナー兼仕立て屋も営むタチュランタはそれを知り、ドレスの都合を付けてくれた。勿論オークのタキシードも格安で自分たちで仕立て直し染め直したものだった。それでも、ふたりが幸せならそれでいいときちんとふたりで決めた。冒険者は貧乏だ、クゥの花嫁のベールさえ無い。クゥの念入りに手入れした髪を飾り立てるのはオークがクゥに贈ったリリーの銀の髪飾りだ。彫金師ギルドに自分たちで持ち込んで丁寧に磨いてもらっただけだがそのぶんエオルゼアの夫婦がごく一般的に身に付ける金の指輪に想いもお金も都合が付くだけ全て注ぎ込んだ。そしてそれ以外のふたりの今ある二人分の財産をこれから出会えるかもしれないふたりの天使の為に使うと誓った。エターナルドレスではない普通のドレスと安物のタキシードが貧乏冒険者の誇りであり真の幸せの証だったのだ。オークの事情も鑑みて来賓は誰も呼べない、一人でも教会の中に入れたらオークの国の人間も呼ばなければいけなくなる。オークは仮にも小国ラヴィリティア第一王女の元婚約者であり、爵位も望めない貴族養子の四男だ。数いる婚約者の中の一人とはいえ丁重に辞退したとしてもラヴィリティアの人間からけして良い顔はされない。こちらもあちらもこの結婚に関して大事にしないことでしか本当なら許されないことだ。それでもふたりが幸せなら構わないと、一緒に冒険をする仲間でさえも聖堂に招き入れられないがそれも仲間たちは全て許してくれた。これ以上の幸せはないー、オークとクゥはお互いそう思い返しながら長いバージンロードを一歩一歩あゆみ愛を誓い合う祭壇の前へ歩を進めたのだった。

 





グリダニアの森林に大聖堂の鐘が遠くまで鳴り響き、オークとクゥが指輪の交換をして短い神父の言葉に従い誓いのキスを交わすだけのささやかな式を終える。一生に一度の晴れの日の装いを、その身に纏った彼らを外で待っていたのはクランBecome someoneの他のメンバーだった。天使の谷から降りてきた天使の末裔と呼ばれる種族、ラステル・アンジュの天使ケイがクゥたちをめがけてふたりの名を叫びながら勢いよく駆け寄ってくる。皆に祝ってもらえる嬉しさに溜まりかねたクゥもケイに合わせてドレスを持ち上げ彼の元へ駆け出した。ケイがクゥに一番最初に声を上げる

「クゥー!オーク!おめでとうー!!」
「ケイちゃん…!ありがとう!」

ケイは仲間である魔道士オクーベル・エドにクゥのドレスを踏まないようにと、何度となくさせられた約束をしっかり守っていた。いつもならクゥを強く抱きしめている、それを我慢するいじらしい天使の彼にクゥは胸をときめかせながらしゃがみ込み、目線を合わせて微笑みかけるのだった。友情の証である親愛のキスをクゥから頬に送られたケイをクゥの後方から微笑ましく眺めるオークだったが、ふと皆と仲良く話し込むケイと視線が絡みあった。するとケイは何かを覚悟するような表情で無言でオークの元へ小走りでやってきて、いつだかグリダニアでクゥを助けてと手を引っ張ったように腕をぐいぐい引いて教会の外れへとオークを連れ出した。仲間のオクーベル達と夢中で話してるクゥの姿がケイとオークからは小さく向こうに見える。ケイはオークに自分のほうへ屈むようにせがんでオークは不思議がりながらもケイへと体を屈める。オークの広い背にケイが隠れ、ケイの顔にオークの体の影がかかると同時にケイは少し背伸びをしてオークの唇へと軽いキスを送った。オークは突然のことで軽く目を見張ったがそのままケイの顔を見直した。いつもケイの行動には意味があった、オークはそう思い返しケイの次の行動を待つ。ケイはオークの顔をじっと見つめて軽く目を細めて口を開いた。ケイの静かな声がオークの耳に届く

「本当はね、男の子にはあまりしないんだけど…ラステル・アンジュの僕のキスは“祝福のキス”って言って唇にキスをした人の生涯の、あらゆる災厄からその身を必ず守ってくれると言われてるんだ。寿命がくるまで絶対死なない、だからオークはもう大丈夫だよ」
「ケイ…」
「オークお願い。このエオルゼアの地に降り立って初めて心を動かされた僕のかけがえのない、一番大切な女の子のクゥを一生守ってあげて。絶対絶対、約束だよ」
「わかった、必ず守る。だから俺の、俺たちの最期のその時まで君にどうか見守っていてほしい。約束だ」
「ありがとう」

ケイはほっと息をついてこの世で一番愛おしいものを眺めるように、まるで花婿に自分の娘の背を押す父親のような微笑みでオークに最後にお礼を言いまたクゥのところへ走って戻って行った。オークはもう随分前からケイの、クゥに対する並々ならぬ感情を悟っていた。きっと彼もクゥに恋をしたのだろう、しかもそれは広大な母なる大地と同じように思慮深く底しれぬ天使の“愛”だったのだろう。オーク自身はクゥを独り占めしたい気持ちがあったがケイは違う、クゥ彼女の幸せだけをただひたすらに願っている。その尊い気持ちには生涯勝てないだろう、オークはそう思いながら静かに目を閉じて片方の拳を握り胸に当て自分の心臓を守るように最後にひとりこう呟いた

「ありがとう、ケイ」

オークはケイの自分とクゥへの愛情を噛みしめながらその謝辞の言葉を小さな声で吐き出す。そしてその後すっと息を吸い込みケイが無我夢中で走っていった前を向き直してグリダニアの慈愛あふれる陽の下で光に溶ける最愛の人、クゥの元へしっかりと戻って行くのだったー。



(次回に続く)

 

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