ラヴィリティアの大地第1話「素直の天才」前編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

日が落ちた大森林に複数の足音が響く。背中に魔具の杖を背負い、帽子やマントを被った男女が黙々と歩いていた

「あーあ、かったるいなぁ許可講習なんて」
「ホントだよなぁ、こんなのただの確認作業じゃん。森の奥まで来てすることかよ」
「な、『戦いにおいて回復役が基本であり戦闘の要である』なんて子供でも知ってるじゃん」
「大人だし仲間もいるから戦えるっての。あーあ、やっぱり違う役から始めればよかったな」
「あの!先にやっといたらあとでやらなくてすみますよ!!」
「え」
「あ、すみません、でもそれがつらいことならやっぱりあとでやるほうがもっとつらくないですか?その時のレベルによって許可試験のハードルもあがるって聞くし」
「まぁ…確かに…」
「だからさっさと片付けちゃいましょう、ね!」

後ろから声をかけた彼女はそう励ましてぼやいていた彼らの後方にまたさがった。
そう、これは講習試験。この地を冒険するものにとって戦闘は欠かせず、いつか1人で戦わなければならない時もくる
その時のために講習試験、模擬戦闘があるのだ
冒険者になるにはどの地域でも門戸は広いがそれ故に事故が多く死傷者も少なくない
この講習制度は大森林をもつグリダニアという土地の、冒険者への最大の感謝と温情だ
遠くない昔の大戦のために利益をかえりみず参戦してくれた冒険者達への…。


(制度を設立して10年弱、新しく入ってきた冒険者には実感がない、か…。この引率お守り役は少し面倒になるかな)

森を進む冒険者達の1番前を歩いていた、顔に髭をたくわえる男が1人心の中でごちた。それでもここを経験させないわけにはいかない。髭の男はルーキー冒険者たちをふり返った。

「さて、この辺でいいでしょう。これからこの刻限に現れる親玉を『皆さん全員』で倒してください。達成条件は誰ひとり欠けずに倒すこと。いいですね」
「はーい」

やる気のない覇気と声。髭の男はだんだんと厄介事も多く渋々引き受けたこの指南役に面倒くささを感じ始めていた


森の先でそんなやり取りが進んでいることをしらず先程の彼女はある小さな声に呼び止められていた

「そこの冒険者さま…おねがいです、たすけてくださいふっち…」
「あなたは…」
「わたぴはシルフ…この世の超絶かわいい生き物の頂点でふっち。先に行った冒険者の団体はなんだか素通りされたでふっちが、このかわいさは地上で権威を誇らなければならないでふっち…そのために森で『絡んだツタからかわいいお腹のお肉がぷくっとね☆そこに吸い付きたくなっちゃう』かわいい官能ポーズを練習していたら本当に絡まってがち取れなくなってしまったのでふっち」
「えっと…なんだかそう大変ね」



なんかおかしいな…と感じつつツタに絡まるシルフにそうこたえた。するとおもむろにシルフは話を続けた

「ああ!このままではグリダニアのかわいい需要が損なわれてしまうでふっち…!そして品質イマイチなかわいさが横行しかわいいのインフレがハイパーインフレをおこして大変なことに!!ていうかわたぴはこのツタが取れなくて人知れずここで息絶えるのかもしれないでふっち…、きっとツタがくいこんでそのうち変異をおこして棘ができてそれが刺さって血が出てそこから破傷風になって呼吸困難で暴れしぬでふっちそうにちがいないでふっち…っっ!!!たすけておねがいたすけてたすけてたすけてふっち〜〜っっ」

「わわ、わかったから!落ち着いて!ね?今はずしてあげるから…」

彼女はシルフを傷つけぬよう丁寧にツタを解いていく

「麗しい心のやさしいおねえさま、わたぴの心に刻みつけたいお名前をこのままおききしてもいいですかふっち…」
「私?私の名前はクゥクゥ。クゥクゥ・マリアージュよ」

自己紹介が終わったところで調度ツタが外れた。が、その瞬間─、

「ところで、クゥクゥのパンツは何色?でふっち」

とクゥのミニスカートをシルフがぺろっとめくった

「き、きゃあぁぁぁぁぁっっ!!!」

クゥの声が森にこだまする。
そう、彼はこの世界のシルフ。この地を脅かす蛮族と呼ばれる蛮行の種であり、悪戯が度を越える、人間なら犯罪の域に簡単に踏み込む生き物なのであった。


「近寄らないで!もうあっちいって!!」

クゥは自分の体を守りながら後ろを追いかけるシルフを引き離すように先を急いだ

「もうなにもしないでふっちーおねえさんで…と遊びたいだけでふっち♪」
「今『で』っていった!やだやだついてこないで!!」
「え〜色のこと気にしてるでふっち?白くてかわいかったでふっちよ??」
「やめてってば!最低!だいっきらい!!」

揉めに揉めて森を勢いよく突き進んだ先で突然視界が広がった刹那─、


グワアアアアアアアアアッッッ!!!


ものすごい魔物の雄叫びがあがったのだった

 

(後編つづく)