『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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ここは森の都グリダニアは冒険者居住区ラベンダーベッド、クランBecome someone(ビカム・サムワン)の詰め所の一室。クランのリーダー、オーク・リサルベルテの私室だ。その部屋の主であるオークは、古めかしい一冊の本を手に取りその場に立ち尽くしてその本をずっと見つめていた。彼はひとり心の中で思う、

(クゥ達が上演しようとしてるのは、エオルゼア三大悲劇を生み出したと言われて名高いララフェル族のリポポ・リポ・フェルーヴェル作『愛の海嶺(かいれい)』。各国の政令都市国立劇場で多くの人に好まれて上演される定番中の定番だ)

手に持ちっぱなしだった本をぱらぱらと捲りはじめて“ある部分”にさしかかった折に彼は目を細めた

(物語の最後はヒロインの女性が、自分を取り合う恋人とライバルの諍いを目撃する所でクライマックス。恋人がライバルの剣に倒れたところで彼女が彼の後を追い自死する。でもそれは誤解で倒れた方はライバルだった。恋人達はマントを被っていたから、どちらが倒れたかはヒロインには解らなかったんだ)

小さい頃から貴族学校で何度も練習をさせられて覚えたその物語を、オークは自らが止めたページから更に1枚ページを捲って尚も思う

(事情を知らずに世を儚んだヒロインの死体を目にした恋人の彼は、自分を想って先に逝ってしまった彼女の海のように優しい想いこそに深く絶望する。恋人だった彼女の遺体を抱いて“最期のまぐわい”をするー)

ある種、衝撃的なその一小節を読み終えたところでオークは小さく息をついて本のページを閉じた。オークは最後にこう思った

(原書が読めたから誰よりも先に知っていたけど子供の頃は死姦なんて、なんて事をするんだろうと思った。だけど…)

今だってこの物語の真の本質なんて解らない。心底愛し合った恋人も居ない。居ないけれども、とオークは邂逅した。脳裏にぼんやり浮かぶのは笑顔の眩しい彼女だけ、オークがリーダーを務めるクランの回復士(ヒーラー)クゥクゥ・マリアージュの顔だった。彼女に出会い恋を、知ってしまった。それも自分には到底叶えることの出来ない片恋だ。自室で自分の顔に右手を当てて、オークはずっと心に溜まっていたものを吐き出すように深いため息と共に独り言を呟いた

「あー…最低だな、俺は。」

風の噂で“愛の海嶺”を上演するヒロインのクゥクゥの相手役が『暁』という団体のサンクレッドだと聞いたオークは、告白する勇気も無いのにずっとクゥの事を気にしていた。自身のもやもやとする感情と戦いながら雪の国イシュガルドの厄介事の為に、今日も今日とてまた皇都に赴かなければならなかったのであった。


オークは雪の国イシュガルドに赴く前、空の飛行便『飛空艇』で砂の都ウルダハの『クイックサンド』という酒場に来ていた。そこの酒場の店主から、溜まった冒険者依頼を受け取ってまたイシュガルド行きの『飛空艇』に搭乗する為ウルダハ・ランディングへ足を向け宿屋の門を再び潜った。すると見知った顔が目に留まる。当の噂の本人、『暁』のきってのプレイ・ボーイのサンクレッドだった。サンクレッドがオークの存在に気が付き声をかけた

 



「よぉ!オーク。こんなところで行き合うなんてな。これから仕事か?」
「はい、サンクレッドさん。サンクレッドさんも『暁』のお仕事ですか?」
「いや、これからまたクゥクゥちゃん達とオクベルの所属するゴブレットビュートのフリーカンパニーで寸劇の練習なんだ。何か言伝があったら承るよ」
「いえ、特には…」
「そうかい?そういえば今回の慰問会の寸劇、俺のライバル役はてっきりお前さんだとばかり思っていたんだが」
「すみません、冒険者の仕事が立て込んでまして」
「俺はオークと1度バトルしてみたかったんだけどな、本気で」
「いえ、俺なんてサンクレッドさんの足元にも及びません」
「ふーん…そうかい」
「?」

いつも態度がやや軽いサンクレッドはオークのその自分を若干卑下するような言葉に、つまらなそうに相槌を打った。するとそこへ街の年若い娘達が美形のサンクレッドとオークを見つけて駆け寄ってきた。娘の一人がサンクレッドに話しかける

「きゃー!サンクレッドさん!今回の慰問会の寸劇、超楽しみにしてますね!!」
「サンクレッドさんは今回ヒーロー役なんですよね!?」
「と言うことはライバル役はオークさん!?あ、オークさんがヒーロー役なんですか!?」
「い、いや…」

オークとサンクレッドは今回の寸劇のついて、街娘たちに物凄い勢いで矢継ぎ早に質問をされる。その様子にたじろぐオーク。ここで言われているライバル役はオークなのか、と言う話は上演される“愛の海嶺(かいれい)”の作中内容だった。この作品は主人公の男とライバル役の男がお互い似たようなマントを被って、役者が本物さながらの剣技を行うことで有名だった。また当日まで主人公とライバルが、どの俳優が演じているか解らないことが一種のウリであった。上演中、主人公を当てることに夢中になる熱狂的なファンが生まれる粋な演出でもあったのだ。そのことについて察しのついたサンクレッドは街娘たちにこう答える

「まあまあ、そう焦るなってお嬢さん方。俺のライバル役は当日までのお楽しみだ、どっちが主役かも含めてな」
「きゃ〜!!!」

サンクレッドはそう言って街娘たちにお得意のウインクを贈って、オークをランディングまで送るからと街娘たちとその場で別れた。その手慣れた様子のサンクレッドにオークは恐る恐る尋ねた

「あんな事を言ってしまって良かったんですか、サンクレッドさん。俺は寸劇には出ないのに」
「ああ言っておいたほうが無難だろ?それにオーク、お前さんが出演するかもって噂が流れれば人も集まるし、大盛況になってクゥクゥちゃん達は大助かりだ」
「そうだと良いんですけど…」
「なぁ、オーク。俺は今回寸劇が終わったらヒロインを頑張るクゥクゥちゃんに“ご褒美”をあげるデートの約束を取り付けているんだ」
「え…それは、クゥも喜びますね…」
「ほう、じゃあビカム・サムワンのリーダー殿のお許しも出たみたいだし大丈夫かな。慰問会の当日はオークも来られるんだろ?会場で会えるのを楽しみにしてるよ」

サンクレッドはオークを飛空艇ランディングまで見送ってからそう言い残して、来た道を引き返して行った。オークは心の中がまたもやもやする。サンクレッドは自分よりずっと大人だ、クゥに無理強いをすることもないだろう。それでも心の中は穏やかでは居られない。オークは自分の人間の小ささに辟易としながら飛空艇に乗り込むのだった。


そしてあっという間に慰問会の当日がやってくる。砂の都ウルダハが俄に活気付く秋のお祭りが始まった。サンクレッドが“オークが寸劇に出演するかも”と言うホラを吹いたせいで噂が噂を呼び、それが街中へ広がりをみせた。多くの不滅隊隊員と暇な冒険者、街の娘達が寸劇会場に大量に押し寄せた。立ち見も出るほどの盛況ぶりで会場内は人で溢れかえり浮足立っていた。こればかりは仕方がない、みんな娯楽に飢えているのだ。舞台の袖から予想をしない人手を見てヒロインを務めるクゥクゥ・マリアージュは緞帳(どんちょう)の中で震え上がっていた

「ど、どうしよう…とんでもない人数が集まってるよオクベルちゃんっ!」
「大丈夫だ、どうせ人のキスシーンが見たいだけで集まった暇人共だ。気にするな」
「それが1番困るよ〜キスもただのフリなのに、なんでなの〜?」
「クゥ、いいか?落ち着け、練習を思い出すんだ」
「無理ぃ〜!」

無理も何も無い。クゥは幕が上がるギリギリまでこの思いもよらぬ事態に頭を悩ませるのだった。


クゥクゥの思いも虚しく舞台の幕が上がる。最初はヒロインのクゥとその恋人である男の仲睦まじい穏やかなシーンが始まり、会場内は落ち着きを取り戻し始める。サンクレッドの声はオークの声と似ている。物語のヒーローは物語の終盤までマントのフードを被っているので皆サンクレッドをオークだと思い込んでるようだった。物語はいよいよクライマックスへ差し掛かろうとしていた。二人の男がヒロインを奪い合う。ヒロインのクゥは恋敵の男に、恋人との決闘の邪魔にならないようにと眠り薬を一服盛られるシーンだ。舞台の一部が降下するシステムなので舞台下でベッドに寝かされたクゥは会場内の熱気でやや眠くなりながら出番を待っていた。クゥは出番前に思う、

(あ、眠い…寝ちゃだめ…寝ちゃ、だめ…)

と思いつつもクゥはベッドの上で気を失う。連日の練習のせいでクゥの体力は限界に達していたのだ。3日は寝ていない。冒険者の体力とは恐ろしい。そうとは知らずに白熱した舞台の上では着々と寸劇のストーリーが進んでいたのだった。


「なんだとっ、主役が到着していない?馬鹿な!」
「よくわかりません、オクベルさん。主役男優の彼と全然連絡が付かないんです、遅れるとは聞いていたんですが…」
「おい、頼むぞ、このままではサンクレッドとクゥが困ってしまう!」

クゥが舞台下で本気寝をしてしまった裏では、舞台袖で緊急事態が起きていた。舞台監督の黒魔道士オクーベル女史は今回の慰問会の手伝いを任された冒険者達と主役の男優が不在な事で右往左往をしていた。今回の寸劇のヒーローは流石に素人を使う訳にはいかず、国立劇場でも主役を張る劇団の看板男優に出演依頼していた。分刻みの人気男優の、僅かな合間を縫って出演依頼した事が災いしてしまったのだ。そう、サンクレッドはヒロインの元彼であり主役男優のライバル役だった。オクーベルは口早に協力してもらっている冒険者に告げる

「しばらくはサンクレッドひとりのシーンが続くが、それも少しも持たない。誰か主役のセリフを覚えてる者はいないか!?」
「駄目です、あんな長くて難しいセリフ到底誰も言えません」
「現場監督の私はここを離れる訳にはいかないし…」
「一体どうしたんだい、オクベル。舞台袖の入り口が騒がしかった、顔パスで通れてしまったし」
「オークか!助かった!!」
「え、何…?」

主役男優が居ないことで途方に暮れていたオクーベルに声をかけたのは慰問会当日まで全く様子を見に来れなかったオークだった。オクーベルは咄嗟に手に持っていた主役男優のマントをオークに被せてクライマックス用の、本物さながらの剣を手に持たせた。オークの背を全体重で押しながらオクーベルが彼に小声で叫ぶ

「オーク、お前が舞台に出るんだ!」
「ええ!?何言ってるんだオクベルっ」
「お前なら頭良いからセリフ全部覚えてるだろっ?夜な夜なクゥの練習に付き合ってたじゃないかっ!」
「それは…っ、いや、突然は無理…」
「いいから出ろ!!」
「わっ…!」

オクベルにドンッと背を押されたオークはやや体勢を崩しながら舞台の中央へ躍り出る。舞台の上ではすでにサンクレッドの一人のシーンは終わっていた。静まり返っていた舞台前は観客同士が顔を見合わせる事態に陥っていた。剣を握りしめマントのフードを被ったオークが舞台へ飛び出してきた形だ。舞台にいたサンクレッドは演出と違う事態に違和感を覚えつつも、オークが出てきた舞台袖を見やる。そこには相手がオークだと口パクで叫ぶオクーベル女史の姿があった。何かトラブルがあったのだろうと察して、マントを被ったオークへ向き直る。サンクレッドは口の端を上げて相手役のオークへセリフを紡いだ

「やっと現れたか」
「…っ」
「なんだ、ダンマリか。なら剣で語り合うしかなさそうだな」

オークは急な展開でサンクレッドに口パクで無理だと伝えるも、サンクレッドは剣を鞘から抜き取りオークにそれを向ける。そして次の瞬間オークに飛びかかり彼に剣を振り下ろした。オークは咄嗟に反応し、自分の持っている剣の鞘でその太刀筋を受け止めた。観客がオオッと叫び声を漏らす。オークとサンクレッドの距離が近くなった事で、彼らはやっと会話することが出来た。オークはサンクレッドと鞘迫り合いのようなものをしながら彼に小声で話しかける

「待ってください、サンクレッドさん!」
「大丈夫だオーク、ここから剣技だけでやり合ってどちらかが倒れればいい。有名な作品だからお前さんだってこの後の展開わかるだろ?」
「そうなんですけど!どっちが主役をやるんです、俺が倒れますから素早く斬り伏せてくださいっ」

鞘迫り合いは一瞬で、サンクレッドとオークはお互いの剣を弾いてその場を飛び退いた。だがサンクレッドはまた直ぐにオークに切りかかって二人は力と力の競り合いになる。剣技は続く、今度はサンクレッドがオークに囁く

「そうだなぁ、この剣技で俺に勝ったら主役を譲ってもいいぞオーク」
「何言ってるんですサンクレッドさんっ、次のシーンで俺が倒れますから…!」
「この前言っただろ、頑張ったクゥに“ご褒美”をあげるって。お前さんが俺に勝ったらクゥへのご褒美デート、代わってもいい。俺がデートに行くならそのまま彼女に告白しようかな、俺と付き合ってくれって」
「!」
「オーク、お前さん確かラヴィリティア剣技の大きな慈善試合で一度優勝してるよな。それを聞いてから本気で戦ってみたかったんだよ、なっ!」


サンクレッドはオークの剣を弾いてまた後ろへ飛び退いた。サンクレッドとオークのある意味迫真の演技に、観客はため息を漏らしながら前のめりになり舞台に熱中する。サンクレッドとオークはじりじりと距離を取るが、オークの顔付きが途端に変わる。オークは思った

(これはサンクレッドさんの挑発だ、前にも戦ってみたいと言われていたし。だけど…)

この茶番はきっと自分への何某かの発破なのだろうと頭の隅では解っているのだ。だが、クゥの事を持ち出されてしまった。他人には軽薄だと言われるサンクレッドが、本当は思慮深く人柄も良いことはオークも知ったところだ。もしクゥがそんな年上で魅力的な男性の甘い言葉に揺れ動いてしまったら…。そんな考えが、オークに一瞬過ってしまったのだった。オークは剣の柄に手をかけて、ゆっくりと剣を引き抜いた。その様子にサンクレッドは高揚感を覚え台本には無い言葉をオークに叫んだ

「そうこなくっちゃな…!」
「勝負…!!」

オークはサンクレッドの言葉に夢中になって勝負を挑む。そんな熱い男の戦いが始まって舞台の上が凄まじい音を立てている。舞台下のベッドで深い眠りについてしまったオークの片想い相手である、当の本人クゥクゥ・マリアージュは安らかな寝息を立てて一向に起きる気配が無かったのであった。物語は後編へ続く…!

(※作家の都合により現在物語が長引いておりますご了承下さい)
 

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