ラヴィリティアの大地第14話「王家の依頼」前編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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ここは冒険者居住区、ラベンダーベッド。森の都グリダニアのお膝下であり冒険者が束の間の休息を過ごす憩いの場所だ。公道に面する庭で真っ白なシーツをはたき太陽に微笑む少女がいた

「いい天気…!」

紆余曲折を経て定住先を手に入れたヒロインのクゥクゥはお気に入りの庭で腕を伸ばした。するとそこへ、

「お嬢さん、こんにちわ」
「あ、ウォルステッドさん!」

この家に出入りする髭を蓄えた行商人、通称ウォルステッドが庭の垣根から羽を伸ばすクゥクゥに話かけた

「どうやらこの家、気に入ってもらえたようですね」
「はい!日当たりもいいし、すごく静かだし。こんなに良いところ、破格の値段で譲ってもらってよかったんでしょうか」
「この家の位置は居住区入口から少し遠いですし、居住区内マーケットもさほど近くありません。なかなか買い手がつかなくて困っていたところだったんです、俺は助かりました」

ウォルステッドはそう言って人好きするような笑顔でクゥに頷いたのだった

「今日もオクベルちゃんにご用ですか?彼女、明け方に帰ってきてまだ部屋で寝てると思うんですけど…」
「いえいえ、今日はお嬢さんにお願いがあって伺ったんです」
「え、私に?」
「はい」

ウォルステッドの目にはある真剣な思惑があるようだった。



その日の夜ラベンダーの家で、まだ名前のない冒険者クランのクゥクゥ達メンバーは冒険者依頼の話し合いをしていた

「ウォルステッドさん伝で、ウルダハ王室の依頼を受けただって?」

クランのメンバーでこの物語のヒーローである青年オークは目を丸くした。その言葉に事の次第を伝えたクゥは話を続けた

「正確には『暁』っていう団体からの支援要請だって聞いたんだけど…1度話だけでも聞いてくれないかって。」
「そうか。ウォルステッドさんにはこの家を融通してもらったし、力になれることがあるならその暁に出向いてみようか」
「断ってしまっても構わなかったのに。」

オークとクゥのやり取りに、嘆息気味にそう付け加えたのは気怠げに話を聞いていた女冒険者オクベルだった

「ウォルステッドも暁の連中も少し強引なところがあるからな、その話とやらを端から聞いていたらキリがないぞ」
「『暁』を知っているのかい、オクベル」
「何度か討伐依頼を受けたことがある。今の暁の当主はなかなかのやり手だな、メンバーにも相当の手練がいる」
「その暁から俺たちに依頼か…余程の事情があるんだろうか」
「ウォルステッドさん、ちょっと困ってたみたいだったわ」

3人は三者三様に首を捻った。そこまで黙って話を聞いていた天使のケイと獣人オウは口を開いた

「僕は話を受けても良いと思うなー、最近退屈だったし。お仕事したい!」
「この家の支払いもあるしな、依頼は積極的に受けたほうがいいだろう」
「そうだな。わかった、明日俺とクゥで暁に話を聞きに行こう」
「うん」

オークとクゥは頷き合うのだった


翌日『暁』という団体の本部がある砂の都ウルダハの海の、玄関口である港町ベスパーベイにクゥクゥはひとり訪れていた。早朝、別件で遅れる運びとなったオークは後から合流する予定になった。暁本部へ入り受付嬢に中へ案内されるとそこには暁の錚々(そうそう)たるメンバーが揃っていた。暁の当主と思われる女性がクゥに優しげに語りかけた

「ようこそ暁へ、そして初めまして。私は暁の現当主、ミンフィリアです」

クゥも合わせてミンフィリアへ挨拶を済ませた。当主ミンフィリアは続けてクゥに今回の依頼内容を説明し始めた

「今回お呼び立てしたのは正式なウルダハ政府の依頼により、暁の数少ない主要メンバー以上に人手を必要とする要請を受けたからに他なりません。先日クイックサンド前での誠実な冒険者としての立ち振る舞いを目撃した、ここにいる暁のメンバーからも貴方がたクランの面々の話を聞き及んでいます。是非、貴方達の力を貸してほしい」

先日のクイックサンド前の件とはあらぬ疑いをかけられた女性を救った時の話だった。クゥは当然の振る舞いをしただけだとミンフィリアに伝えた

「今回の依頼ではウルダハ政府の大切な荷が無法者に襲撃を受ける可能性がある、ということでした。その荷の護衛をウルダハの護衛達、暁のメンバーと共に目的地まで守り抜き無事任務を遂行してもらいたいのです。もし襲撃を受けた場合、出来たらで構いませんが賊の一部を捕縛し頭も捕えてしまいたいの」
「お話はわかりました、1度仲間と相談していいですか」
「もちろんよ、良い返事を期待しているわ」

ひと通りの話が済んだ頃合いで暁のメンバーの1人にクゥは話しかけられた

「君が街で噂の冒険者だったとは…どんな大柄の男前かと思えばまさかこんな素敵なお嬢さんだなんて。俺の名はサンクレッド。是非これを機会にお近づきに…」

クゥのクランメンバーであるオークとは系統の違う、イケメンと類されるであろう男性がクゥの手を取ろうとした時、慌てた様子のオークが暁の部屋へ飛び込んできた

「遅くなってすまない!話はもう終わってしまっただろうか」
「…」

サンクレッドはオークを見た瞬間に固まった。そこには自分よりも背の高い、優男ではあるものの見目麗しいまるで王子様のような風体の青年が現れたからだった。彼女の恋人だろうか、そう直感してクゥに触れかけた手を即座に引いたのだった。その様子の見てクゥとオークは顔を見合わせ首を捻り、暁の面々はまたサンクレッドの悪いクセが出たかと呆れ混じりのため息をついたのだった


依頼内容を確かめたオークとクゥはベスパーベイからの帰り道、遅れてきたオークに事の内容を先にかいつまんで話した

「暁のメンバーがクイックサンドの件を見かけていたのか。俺たちが介入しなかったら彼らが動いていたのかもしれないな」
「きっとそうね」
「暁の当主は…俺が貴族の養子だと言うことに何か言及していなかったかい」
「そんな素振りはなかったけど…」
「そうか…」

そう聞いたオークをクゥは不思議そうに見上げた。口に手を当て何か考え込むオーク。

(クイックサンドの件もあるだろうが恐らく、何らかの理由で明言を避けたんだろう。これは政府の案件…、貴族出身の俺がクランに居るから国の内情に上手く配慮してくれると思ったのかもしれない)

どこに身を置いてもラヴィリティアの王家貴族の肩書きが付いて回る。内心、オークは言いようのない重い気持ちが胸の内に広がるのを感じていたのだったー。


(次回に続く)

 

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