ラヴィリティアの大地第6話「祖国のために」 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

 

海の都リムサ・ロミンサの玄関口でもある飛空艇発着所。その建物の下には多くの冒険者が仕事や情報を求め通い詰める海豚亭(いるかてい)という酒場があった。広いカウンターの向こう側に立つ酒場の男店主、バデロンはいつものようにやってくる少し風変わりな青年に気がつき声をかけた

「よう、相変わらず朝も仕事も早いな!活躍はもう俺の耳に届いてるぜ。冒険者があちこちで噂をしてるよオーク、おまえさんのことをな。なぁリムサ・ロミンサに現れた謎のイケメン貴公子」
「やめてくださいバデロンさん、俺はしがないただの冒険者です」
「でもこう、他の男にはない気品をビシビシ感じるし明らかに良いとこのお坊っちゃんて香りがプンプンするぜ?」
「養子にとってもらったリサルベルテ家が礼儀作法に少し厳しかっただけです。俺の功績じゃありません」
「その謙虚さが行く先々で好感が持たれる所以(ゆえん)だろうな、まあそこに座れよ。時間あるだろ?ちょっと話そう」

うんうんと頷きながら店主のバデロンはオークとよんだ好青年を、自分から1番近いカウンターのスツールに座らせた。バデロンは話を続ける

「リサルベルテ家もお前さんの祖国ラヴィリティア王家を代表する立派な貴族の1つじゃないか、もっと胸をはれ」
「以前もお話しましたけど俺は養子の、しかも四男です。血筋じゃない」

尚も謙遜し続ける青年オークにバデロンはやれやれと嘆息し言葉を付け加えた

「とはいえその褐色の肌は紛れもなくラヴィリティア王家の血の証じゃないか、確実に血をひいてるのは間違いない」
「そんなことを言ってくれるのは懐の深いバデロンさんだけです」



そうー、バデロンが褒め称える褐色の肌をもつ彼の風体は高いスツールからはみ出てしまう足の長さ、リムサ・ロミンサの暑い気候に合わせた半袖からのぞく冒険者にふさわしい太い上腕二頭筋。その屈強な彼に臆することなく女たちが声をかけるのは形よい長い鼻と頬に影を作る長い睫毛、男性なのにセクシーで厚みのある唇というエキゾチックな魅力のためだ。彼の女性を思わせる房々(ふさふさ)の睫毛の、下から覗く棗椰子(なつめやし)色の瞳は強い志を宿しているー。冒険者ギルドの顔役であるバデロンは、そこに冒険者としてのオークの資質を感じ取っていた。2人は会話を続ける

「その後、おまえさんの祖国の話はどうだい?進展はあったかい」
「大きくは…でも1つでも多く依頼をこなして実績を積み重ね、より大きな信用を得られるように頑張ります」

バデロンは思った、

(オークの祖国ラヴィリティアは今最大の国難にあるー、初めてこの海豚亭にきた時の言葉、)

『先の大戦で、散っていった戦士達の墓すら賄えないほどの痛手を負いました…でも、いや、だからこそ、あの荒れ果てたラヴィリティアの大地に豊かさを取り戻してやりたいんです』

そう言ったオークの事情は「先の大戦」と呼ばれるカルテノーの戦いに事を発する。森の都グリダニア、砂の都ウルダハ、海の都リムサ・ロミンサなどのエオルゼア都市国家同盟と、エオルゼア侵略を目論む帝国との戦において帝国側は漁夫の利を得ようと蛮神という化け物を召喚し戦を混乱に陥れた。帝国の蛮行を止めようと多くの冒険者や小国も力を貸した。その中にラヴィリティア王家も参戦したのだ。しかしこの戦は痛み分け。ラヴィリティアの地は前線から1番近く、蛮神の炎を受け国土の約半分が焼け落ちた。そこから約10年ー、国を豊かにするよりも大地の復興に追われたのだった。バデロンは思いを馳せて重くなった口を開いた

「冒険者として名が上がればラヴィリティア王家もお前さんを放っておかない、きっとそれなりの役職を与えて国の中心に入れる。そうなりゃお前さんのやりたいことがもっとやれるようになるさ」
「…ありがとうございます」

バデロンの気遣いにオークははにかんでお礼を口にした。そしてバデロンは言う、

「さて、そんなお前さんに新しい依頼だ」

バテロンはある1通の手紙をオークに差し出した

「ウルダハで難儀な案件があるようでな、これが紹介状だからこれを持ってウルダハ王政庁お膝元にあるクイックサンドって宿屋の店主モモディさんを訪ねてほしい。そこで詳しい依頼内容を確認してくれ」
「わかりました」
「頼んだぞ、オーク」
「はい…!」

オークはしっかりと頷き返すのだった


海豚亭を背にして歩き出したオークの後ろ姿にバデロンは願いを込めるように語りかけた

「オーク、お前さんにクリスタルの導きがあらんことをを願っているよ」

オークの旅はまだ始まったばかりだ。


(第7話に続く)