ラヴィリティアの大地第27話「秋桜」 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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これはエオルゼアでの、一つ手前の恋物語だ。

海の都リムサロミンサには秋に一度だけ咲く桜がある。今から遠くない過去に蛮神リヴァイアサンが起こすと言われる大津波『大海嘯(だいかいしょう)』からリムサロミンサを復興へ導いた、リムサロミンサ黒渦団提督メルウィブ・ブルーフィスウィンに名誉の証として東の国から贈られた『秋桜』。今年もまたリムサロミンサに秋の訪れを告げるー。

「もう、メルウィブさん相変わらず話が長いんだから…」

白いタイルで舗装された道を足早に駆け抜けながらそうひとりごちたのは膝丈より上の白いワンピースを身に纏ったこの物語のヒロイン、クゥクゥ・マリアージュだった。冒険者依頼を終えた後メルウィブ提督に捕まってしまったクゥは女性提督らしい悩みを聞かされてしまったのだ

(皆きっとビスマルクのレストランに着いてるよね…急がないと)

クゥクゥは以前メルウィブ提督に贈られたリリーの髪飾りを受け取った場所、海の高級レストラン『ビスマルク』の門を潜る。すでに到着しリムサ・ロミンサの海に舞う桜を眺めていた、クゥが所属するクラン『ビカム・サムワン』の若きリーダーでありクゥの密かな想い人であるオーク・リサルベルテがクゥの姿に気が付きゆっくりと振り向いた

「オークお待たせ!」
「クゥ、来たな」

オークはクゥが簡単なお遣いでメルウィブ提督を訪ねることを聞いていて、あまり小さくはない厄介な愚痴を聞かされたのだろうと目ざとく笑った

「本当に遅くなってごめんなさい」
「いいよ、オウはもう来られないって話だったから」
「え?私もさっきオクベルちゃんからリンクパールで急な仕事で行けないって言われたんだけど」
「本当に?ケイはたしか…」
「朝、家を出る時に行けたら行くって…」

ということは二人きり、ということに二人は同時に気が付いた

「みんないい加減なんだから」
「自由気ままな冒険者だから仕方ないね、座ろうかクゥ」
「うん」

クゥとオークはやれやれと眉尻を下げてレストランの席に着いた

「オークが個人的にお礼がしたいって言ってくれたから今夜にしたのに」

クゥは少し納得がいかなかったのだが、恐らく皆自分のことを思ってのことだろうとその言葉だけに留めた。オークがクゥにたずねる、

「しかしそれはそうとリヴァイアサン討伐のお礼、本当にこのビスマルクのティーセットで良かったの?セイレーン討伐同様今回もほとんど俺の手柄になってしまった、もっと身につけるものとかさ」
「何言ってるの、仲間を助けるのは当然じゃない!それにこの秋限定のビスマルクティーセット、私狙ってたの!!」

クゥは屈託なくそう言ってオークに笑った

(それに、思い出が欲しかったから…)

クゥは心の中で思った。ラヴィリティア王国貴族として偉業を成したらいずれクランを辞めて郷に帰るであろうオークのことは、クゥは頭でちゃんと理解していた。先ごろはクランに舞い込む依頼も順調に増え着実にオークの功績と名声は上がっている。別れは思っているよりも早いだろう。そう、この恋はきっと実らない。だったらせめてほんの一時だけでいいから幸せな思い出が欲しい、クゥはずっとそうのように思っていたのだ

「そうか…なら良いんだけど」
「…?」

オークの歯切れが悪い気がする。クゥは気になったが丁度オークが頼み直したハーブティーがサーブされる。オークは何かを思い直したように言葉ごとそれを飲み込んだ。男性なのに悩ましさが増したその艶っぽい仕草にクゥは見惚れ、聞きたかったことを忘れてしまった。伏し目がちにハーブティーを口に含んでいたオークが視線を上げ話題を変えた

「コスタ・デル・ソルの浜辺以来かな、クゥとこんなふうに話をするのは」
「うん、そうだね」
「クランで屋根を一つにしていても二人でこうやって面と向かって話すのは意外と機会が少ないものだな」
「本当にね」

 


他愛もない話を二人で延々と続けた。身の上話なんて普段はしない、お互い忙しい冒険者だ。だけど今だけは許される、二人共そんな気がした。お互いの郷のこと、出会ってから今までのこと、そして両親のこと。クゥは勇者だった亡き父のことになるといつも饒舌だった

「それでね、お父さんったら騎士として色んな村に巡回に行くたびお母さんに会いに村に通ったの。何度断られてもお母さんに求婚し続けたんだ。でもお父さんがある日ぱったり来なくなって、お母さんは心配してたんだけどまた突然現れて『騎士は辞めてきた、だから俺と結婚してくれ』って言ったんだって!」
「お父さんやるなぁ」
「ね!プロポーズ承諾してないのに、先に騎士を辞めてきた事お母さん相当怒ったんだよ?村の人が言ってた。お母さんね、それまでグリダニアとラヴィリティアの端っこの村だったから巡回の騎士が村の女の子を娶っては出ていくけどしばらくしたら泣かされて帰ってくる子たちをずっと不憫に思ってて。どうしても騎士の人が許せなかったんだって。でもその気持ちを知ったお父さんは勇者だって崇められていたのにその地位を捨ててお母さんのところへ来た。どうしても、自分の気持ちを信じてもらいたかったんだって」
「行動、で示したんだね」
「そうなの!お父さんが勇者を辞めるとき本当に大変だったと思う。皆がお父さんを必要としてた、だけどお父さんはお母さんと一緒に村の大地と共に生きていくことを選んだの」
「素敵なラブストーリーだ」
「うん!ね、オークも話して?オークのお父さんとお母さんの良い思い出をさ」

クゥの言葉にオークは曖昧に笑った。お互いの事情は一緒に暮らしていれば自然と耳に入ってくる、クゥはオークの事情をなんとなく解っていた。だから敢えて『良い思い出』と口にした。悲しい思い出だけを話させない為に。オークもその気持ちを汲み取ってか前置きすることなく話し始めた

「俺の本当の父の記憶は…殆ど覚えてないんだ。両親が離縁したのは俺が物心つく前でね。母も語りがたらなくて、聞くに聞けなかった」
「もう。私は良い思い出って言ったよ」
「いいよ、俺が聞いてほしいんだ。母は相当辛い思いをしたのかなと感じてね、今の父も何も言わなかったし。でも母のことは本当に大好きだった」
「うん…そっか」

クゥは今温かい気持ちを胸に宿しているであろうオークを慮るように相槌を打った。オークの母親は何年も前に亡くなっている。そして冒険者は両親が揃っていないことのほうが多い。親を亡くし、食うに困り冒険者になることが珍しくなかった。クゥもオークも親が居ないことにはすでに慣れきっていてこれは冒険者のごくごく当たり前の会話だった。オークはクゥを見て言う、

「俺の話はこれだけ。もっとクゥの、ご両親の話を聞かせてよ。全部聞きたい」
「任せて!じゃあね…」

クゥはオークの心が "感じなくていい悲しみ" に飲み込まれてしまわぬように楽しい思い出を沢山語ろうと思った。自分にできることはオークを楽しませることだけ。何もかも気付かないふりをして、敬愛する父をただ自慢するどうしようもない女の子を演じようとクゥは続けた

「オークがナナモ女王陛下の晩餐会のとき、私の足を手当てする為に迷わず床に膝を付いてくれたでしょ?」
「そんなこともあったね」
「アレ、懐かしくって。お父さん、お母さんに毎回毎回プロポーズするとき必ずお母さんにひざまずいてたんだって。毎回だよ?で、いつもの決めゼリフはー」

クゥはわざとらしくあさってに目を向けながら前のめりになり、それに合わせてオークもはにかみながら前に屈んだ。オークをちらりと見てクゥは得意げに言った

「『この土地の人間に成れたら私の伴侶になってもらえますか?』て…!」

オークはひゅっと口を鳴らし、格好いいと言ってクゥを褒めそやした。クゥはオークの為に言葉を重ねた

「お父さんがね、言ってたんだ『どんな身分の人にも等しく膝を折れるのが本当の英雄だ』って。勇者だったけどお父さんは絶対他者に威張らなかったんだって、お母さんずっと私に教えてくれてた」

オークはクゥがお父さんの話を夢中でしているのだと思っていた。だから気づかなかった、クゥの次の言葉の先を。クゥはオークをまっすぐ見て笑いこう言った、

「だからオークは私の勇者だね!」

オークは目を見開いた。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかった。自分より幾重も華奢な女の子が自分を憂いて言葉を重ねていてくれていた。その事実に、その気持ちに圧倒されて何も頭にも思い浮かばない。肩に舞い降りる秋桜のように自然と溢れ出た言葉がテーブルに滑り落ちる

「君の優しくて強いお父さんと同じならこの上のない幸せだよ」

オークは涙を堪えてこう言うのが精一杯だった。もうこの気持ちは抑えられない、オークはクゥのことが好きだった。クゥが自分のことを想ってくれていることもよく解っている。恋い慕うまま自由に恋をさせてしまっていたことも。でも、この恋はきっと実らない。勇者の血を持ち同じ道を歩もうとする彼女の未来を、自分と自分の祖国の事情で阻んではならない。これは自分とは縁のほど遠い優しくて愛しい彼女の、一つ手前の恋物語だー。

(次回に続く)


【前回まではこちら】

 

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