ラヴィリティアの大地第17話「女王の晩餐会」前編 | 『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

『拝啓、夫が捕まりました。』でんどうし奮闘記

鬱で元被害者の妻とつかまった夫の奮闘記。

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「よし、やはりこの色だな」
「あらぁ、似合ってるわよ〜センス良いわぁー」
「素敵…!」

ここは砂の都ウルダハ。ウルダハ王宮を取り囲むように城下町が広がり、おおよその品々は手に取ることができると名高い貿易都市である。その都のある仕立て屋で二人の女性と店員らしき人物が店内を黄色い声で染め上げていた

「ウルダハでお洒落するならやっぱりサベネアン風よね~、流石だわぁ、オクベル!」
「もっと褒めろ、タチュランタ」
「ふふっ」

タチュランタと呼ばれた背の高いアウラ族の、中性的な男性は言葉を続けた

「オクベルはやっぱり赤か紫よねぇ〜やっぱりいい女ってその2色が映えちゃうのよね!アタシもだけど♡」
「タチュランタさんの髪色も綺麗な紫色ですもんね!」
「あらぁ♡クゥクゥちゃんワカるぅ〜!?なんて良い子なのかしら!」

冒険者の懐番「リテイナー」と言われる仕事をする傍ら、この仕立屋で副業しているタチュランタはクゥクゥの言葉に体をしならせて喜んだ。クゥとオクベルは今夜、ウルダハ王家十七代国王ナナモ・ウル・ナモ陛下から招かれている晩餐会で着用するドレスを選ぶ為に店を訪れていた。試着を終えてタチュランタに会計を任せたオクベルはクゥに声をかけた

「クゥ、おまえは何を着ていくつもりなんだ?」
「あ、私はこの間シーズナルで揃えたヴァレンティオンのワンピースにしようかなって」
「ああ、あれか」
「晩餐会だから好きな装いで問題ないって手紙に書いてあったから」
「うーん…」
「? どうかした?オクベルちゃん」

顎に手を当てるオクベルに、クゥクゥは首をかしげた。お釣りとドレスを手に戻ってきた店員タチュランタにオクベルは駆け寄り、声を潜め耳打ちをした

「タチュランタ、おまえオークが今夜なにを着ていくかわかるか?」
「オークちゃんのこと?今朝がたリテイナー窓口でヴァレンティオンスーツを引き渡したわよ」
「なるほど」

タチュランタはオークのリテイナーだった。リテイナーは冒険者のマネージャーのようなものなので、クランメンバーであるオクベル達にオークの情報はわりと筒抜けであった。不思議がるクゥを横目にオクベルとタチュランタは会話をそのまま続け、ああでもない、こうでもないと言葉を交わした後クゥに振り向いた

「クゥクゥちゃ〜ん♡実は今レンタルドレスのセールをやっててぇ〜、良かったら試してみなぁい?」
「え!そんなの似合いませんよ」
「まあまあ試着だけでも♡さあこれ着てちょうだい!」
「試着室に行くぞ、クゥ。」
「え、あの、待って…!」

タチュランタとオクベルに半ば無理やり試着室へ押し込まれたクゥは成すすべもなくレンタルドレスを試着させられたのだった。


ザナラーンに夜の帳が降りる頃、王政庁中央からウルダハ王宮へ延びる大階段付近は女王の晩餐会に招かれた客で溢れかえっていた

「オクベル達、どうしたのかな」
「遅いね、迷っちゃったのかな」
「探すか?」
「いや、行き違いになるといけないから俺がここで待つよ。二人は先に門の前で待っててくれ」
「わかった」

オクベル達の心配していたオークに、礼服を纏ったケイとオウは頷いて階段を登っていった。女性の支度には時間がかかることをオークは解っていた。集まっていた来客がまばらになってきた時、オクベルがひとり遠くからやって来るのが見えた。その姿をとらえてオークはオクベルに声をかけた

「オクベル、一人かい?クゥと一緒だったんじゃないのか」
「ああ、一緒だったが何やらもたもたしてるから置いてきた」
「え、どうして…」
「どうせすぐ来る」
「? まあ、それじゃあ先に行こうか。手を」

オークは当たり前のようにオクベルをエスコートするため手を差し出した

「…」
「オクベル?」

オクベルはオークの手を眺めてから無言で横を通り過ぎた

「え」
「私はいい。こういう宴は多少慣れてる、オウにエスコートの仕方を教えてやらなければ。お前にも、もっと教えてやらなければならないやつがいるだろう。そいつを任せる」

お前が横にいると私が目立たない、そうオクベルは言い残してその場を去っていった。オークは所在無さ気な自分の手を見つめ、くすりと笑ったのだった。



ほとんどの来客が門を潜った頃、一人の女性が姿を現した。階段でクゥを待っていたオークは息を飲んだ。その人がクゥだったのである

「待たせてしまってごめんなさい、その…こういうの着慣れなくて」

クゥが纏ってきたのは丈が長く、黄金色のステッチで上品に細工を施された真っ白なナイトドレスだった。それが普段幼く見えるクゥを淑女に仕立て上げていた。その姿を目にとらえたオークは思いのままクゥに声をかけた

「驚いた、どこの令嬢かと思ったよ」
「お世辞は言わなくていいよ…」
「本心だよ」

クゥは所在無さげに泳がせていた視線を上げオークを見つめた。二人の間に流れる空気は普段とどこか違っていた。互いにしばらく見つめ合ったあとオークはクゥに手を差し出した

「それじゃあ行こうか、エスコートする」
「そんな、いいよ。私よりオクベルちゃんをエスコートしてあげて」
「それがオクベルにはさっき振られてね、赤いドレスなのに俺が真紅のスーツだから目立たなくなるとかなんとか。」
「え」
「だから俺としてはこれ以上、情けない男にしないでくれると有り難いんだけど」

いたずらっ子のように軽く肩を上下させたオークにクゥは一瞬思案した後、

「そういうことなら…」
「ありがとう」

 



 

おずおずと差し出されたクゥの手をオークは優しく持ち上げて、二人は王宮の門を潜ったのだった


金の採掘資源が豊富なウルダハ王宮の宮廷内はそれはとても煌びやかなものだった。眩いばかりの異国風なシャンデリアと色とりどりのドレスやスーツを纏った紳士淑女がひしめき合っていた。軽快な音楽とそれに合わせて身を揺らす人々、王妃の晩餐会はすでに始まっていた。その様子に息を飲み、クゥはほうとため息を漏らした

「素敵…こんなの初めて」

瞳が輝くクゥにオークは優しく問いかけた

「楽しい気分?」
「うん、ワクワクする!」

緊張した横顔が破顔するとオークは良かったと、優しい気持ちになりクゥに微笑んだ。その時、先に到着していたケイに二人は後ろから呼ばれた

「クゥー!こっちだよ〜いっしょにご馳走食べよー!」
「うん!」

それからオーク達は思い思いに宴を楽しんだ。慣れ親しんだ音楽にクゥはオークに誘われダンスをし、ケイやオウは普段はお目にかかれない食事に魅了された。皆で談笑を始めた頃、会場にいた『暁』の当主ミンフィリアがオーク達に声をかけてきた

「やっぱり貴方達も招待されていたのね。オーク、ちょっといいかしら。貴方に紹介したい人がいるの。貴方の今後にきっと役立つから」
「わかりました。皆楽しんでいて」
「いってらっしゃーい」

ケイ達はにこりと笑ってオークを送り出した。ミンフィリアはオークを連れて礼式用の軍服を着こなした背の高いエレゼン族の女性に声をかけた

「メルウィブ提督、お待たせしました」
「ミンフィリア殿、彼が例の御仁かな」
「初めまして、オーク・リサルベルテと申します」
「宜しく」

メルウィブ提督と呼ばれた女性はオークに握手を求めた。オークは彼女を知っていた

(リムサ・ロミンサのメルウィブ提督か、海の都リムサ・ロミンサの実質的な自治部隊『黒渦団』のトップ。噂に違わない勇ましい女性だ)

海の都の、元海賊の男達を積極的に取り立ててはその才を見出し『黒渦団』を強い部隊に育てた上げた女性提督だった。今のリムサ・ロミンサの安定は彼女の功績あってのものだった。それをオークはリサルベルテ家を出る前に知っていたのだ

「せっかくの宴なのだが貴君に相談がある。先のウルダハ王家の件はミンフィリア殿から聞いている。腕の立つ冒険者の力を借りたいのだ」
「私でお役に立てるかどうか。詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか」

オークは依頼内容を確かめるのだった


「痛たた…」

賑やかな宴の喧噪を遠くに聞きながらクゥは履き慣れない靴に足を痛めていた

「ケイちゃん、どこいっちゃったんだろう…」

王宮の広間でオクベル達と宴を楽しんでいたクゥは気が付いたら側から居なくなりなかなか戻ってこないケイを心配し探しに来てみたが、自分の足がだんだん赤くなっていることに途中で気が付いた。ケイが宮殿に来ていた貴族達の小さな子供たちに誘われて、かくれんぼに勤しんでいたことを知らずにー。


クゥがケイを探していた頃、オークはメルウィブ提督からひと通りの依頼内容を聞き取り、皆の所に戻る為にその姿を探していた。しかし大広間の雑踏で見慣れた男性の横顔を見つけてしまった。その人物がオークに気付きゆっくりとオークに振り向いた

「なんだ、お前か」
「お義父様…」

それは本当の父親を早くに亡くしたオークを養子として引き取った、リサルベルテ家現当主である義理の父親だったー。


(次回に続く)

 

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