【前回まではこちら】
「帝国から支援物資の要請だと?」
「よくもぬけぬけと…何を考えてるんだあの国は…!」
怒号が飛び交う宮廷内。議会場はすでに混乱を極めていた。ここは森の都グリダニアの隣国、ラヴィリティア王国。グリダニア同様自然豊かで伝統を重んじる歴史の長い国だった
「先のカルテノーの戦いで我らの国を道連れにしたのをもう忘れたか!」
「表向きの『要請』の名目は帝国が保護したと宣うドマの民の食料等…」
「何を馬鹿なことを!ドマは己達が占領し支配下に置いているだけではないか!!全くもって馬鹿げている!」
「静粛に!」
そう、これは要請ではなくただの強迫。カルテノーの戦いにおいて国土の約半分が焼け野原になった弱体国の侵略を目論む帝国の、足がかりの話でしかなかった。誰もがそう思っていた時、上座に座る長い髭を蓄えた威厳ある老人が口を開いた
「我がラヴィリティア王国はこのエオルゼア大陸で最も他国を憂う国。例え国力が落ちようとも、どの国が危機に瀕した時にも手を差し伸べてきた。例外はあり得ん」
「しかし!」
「この話は帝国側の『支援要請』を受ける方向で話を進める」
「…」
議会場にいる誰もが皆一様に口をつぐんだ。手を差し伸べる、そう宣言した老人はラヴィリティア王国の現最高指導者、ハーロック卿。戦に破れ命を落とした先代のラヴィリティア国王に代わり、現在空位となっている国王の代理として国を導いているラヴィリティア王家三大貴族の一人だった。口をつぐんだ貴族達が声を落として話し始めた
「ハーロック卿はますます頑なになられたな」
「仕方なかろう、先代国王の代わりにラヴィリティアを導いてきた。あの老体に鞭打ってな」
「確かに今、これ以上帝国の要求を突っぱねればあちらに戦の口実を与えることに成りかねん」
「今は細々と『支援』を続け帝国との全面戦争を避けるべきか…」
議会は重苦しい空気を纏いながらも終了した。銘々に席を立ち始める中ハーロック卿はもう一人の三大貴族に声をかけた
「リサルベルテよ」
「ハーロック卿、何か?」
「宮廷内で暫くお主の四男の顔を見ていないが今どこにいる」
「オークのことですか。やつは成人したので家を出ました。今は冒険者として祖国の為に尽くしているようですが」
「そなたの四男は仮にもハンナ、ラヴィリティア王家第一皇女の婚約者だ。定期的に宮廷に顔を出すように伝えよ」
「…わかりました」
ラヴィリティア王家は代々、王位第一継承者に比較的身分の低い婚約者候補を数人挙げておくことになっていた。それは権力が一極に集まらぬように配慮した結果だった。リサルベルテはハーロック卿に背を向け議会場を後にしたのだった。
場所は変わりラヴィリティア王国からは遠い海の都リムサ・ロミンサにて、当の本人であるオークは海の高級レストランと名高い『ビスマルク』で黒渦団提督メルウィブと顔を合わせていた
「改めて先日の亡霊騒動の件、礼を言う。ありがとう」
「お役に立てたようで良かったです」
「あの件以降、クランへの依頼が殺到しているそうだな」
「はい。おかげさまで」
「君たちには黒渦団から礼という礼が出来ていなかった、盛況なら何よりだ」
提督はオークに深く頷いた。するとメルウィブは懐からオークに小箱を差し出した
「今日は君にこれを渡しに来た」
「これは?」
開けてみてくれと提督に促されたオークは小箱をそっと開けてみた。そこにはよく磨かれた鈴蘭のような花『リリー』をモチーフにした美しい銀細工の髪飾りが入っていた。その様子を見てメルウィブ提督は話を続けた
「それは以前私に献上された宝飾品なのだが生憎そういった類のものは身に着けない。これだけでは私の気が済まないが君のクランに女性が居たな、まずその者に礼代わりとして渡してほしい」
「これはメルウィブ提督に贈られたものです、こんな高価なものいただけません」
「私の個人の気持ちだ、どうか受け取って欲しい」
オークは短く息をついてメルウィブ提督に頭を下げる
「わかりました、有り難く頂戴致します」
「クランの人間の好みに合わなければ君の想い人にでも渡してくれ」
その言葉にオークは目を丸くして軽くはにかみ答えた
「俺もそういったことには縁がありませんのでクランの仲間に渡します」
「そうか。では私はこれで失礼する、わざわざ足を運ばせて悪かった」
「いえ、お気をつけて」
提督が席を立ちビスマルクの門を潜ろうとした時、小走りでやってきたクゥクゥと行きあった
「メルウィブ提督、遅れてすみません!」
「こちらこそ無理を言った、君のクランのリーダーに用件は伝えた。今後とも黒渦団をよろしく頼む」
「わかりました、お気をつけて」
クゥと短く挨拶を交わすと奥の席に座るオークと目が合った
「オーク、ごめんなさい。前の依頼が長引いちゃって…」
「構わないよ、提督の個人的な用件だったし」
「メルウィブさんはなんて?」
「うん、これを渡されたんだ」
「なあに?この箱」
オークは一度逡巡した後、クゥに先程受け取った小箱を差し出した。クゥも不思議がりながら小箱を開けた
「素敵な髪飾り…」
クゥの目に輝きが宿る。オークはその様子を見て今度は迷いなくクゥに告げた
「君にあげる」
「え!?」
「ひとまずのお礼だそうだ」
「こ、こんなの受け取れないよ!そうだ!お洒落なオクベルちゃんにあげて、私には似合わないよ…」
オークは目を細めて笑った
「いや、クゥのほうがきっと似合うよ」
クゥはその言葉に顔を真っ赤に染め上げた。黙りこくるクゥにオークはくすりと笑い、
「それにオクベルに渡したら私の趣味には合わない!て怒られるかもしれないしね」
またいつかのように、オークはいたずらめいてクゥにウインクした。それを受けてクゥは笑い声をあげた
「ふふっ、確かに!」
「だろう?」
髪飾りの小箱を大切に抱きしめたクゥはオークを見つめながら、
「オーク、ありがとう。大切にする」
「喜んでくれて良かった」
オークとクゥはオクーベルの顔を思い出し声をあげて笑い合ったのだった。
(次回に続く)
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