インキュベーター社長日記 | インターウォーズ株式会社 吉井信隆のブログ
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第295回 「再エネ普及への挑戦」

1月27日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「再エネ普及への挑戦」

 

原材料の高騰に伴い、電気料金をはじめ多くの商品の値上げが続いている。

2022年11月1日、東京電力が値上げに向けて家庭向けの電気料金を見直すとの発表があった。

 

発電所は日本全国に1,400か所あり、発電量のうち約7割が火力発電に依存している。日本は、火力発電の燃料となる石油を100%近く輸入に頼っている。火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)や石炭・石油は、ロシアのウクライナ人侵攻で世界のエネルギー環境が大きく変わったことで、かつてないほど高騰している。電気料金の高騰は、個人の生活への影響もさることながら、生産工場の電気料金が昨年比150%を超え、製造原価に打撃を与えている。

 

 

資源確保が深刻な問題となっているエネルギー危機だが、自らのエネルギー構造を見直す機会となった。再生可能エネルギー電源と分散型エネルギーシステムの普及は地球規模で取り組むべき喫緊の課題だ。世界のエネルギー価格が高騰する一方で、クリーンな自然エネルギーによる「安定供給と脱炭素」両面での再生エネの自国生産が加速している。

 

 

 

日本では過去の重工業を中心としたエネルギーの議論が行われているが、欧米ではテスラやGAFAMがリードしているテクノロジーによるエネルギーイノベーションが進んでいる。テレビがNetflixやYouTubeに置き換わっている現象と同じだ。

 

昨年10月24日、再生エネ開発の自然電力がカナダの大手年金基金ケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)を中心として、744億円の大型資金を調達した。今回の大型資金調達で企業や自治体と地域社会の活性化を図りながら再生エネ発電所の開発を加速し、エネルギーテックの事業を進化させ、自然エネルギーを自給する体制を強化する予定だ。

 

自然電力はスタートアップの機動性を活かし、創業10年で原発一基分を超える再生エネを国内外で展開している。数十GWの新たな再生エネ開発と、グローバル企業へ再生エネのクロスボーダーソリューションを提供する革新的な企業だ。そして、これらの再生エネを蓄電池や電気自動車で有効活用するために自社開発したエネルギーマネジメントシステムの商用化が間近となっている。

 

自然電力の最大の特徴は、世界の多様な人材が東南アジア・ブラジルなど世界各国で活躍している組織モデルだ。自然電力がグローバル企業や現地企業向けのオンサイト・オフサイトPPA(電力購入契約)を加速させ、現地の有力企業との提携で大規模な太陽光・風力発電プロジェクトを大胆に進めるエネルギー転換は、持続可能な社会の実現に向けた重要な取り組みとして世界から注目されている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第294回 「受け継がれる起業遺伝子」

12月14日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「受け継がれる起業遺伝子」

 

スタートアップのアンドパッドが122憶の資金調達をした。資金調達の累計は約209億円とスケールの大きな注目のスタートアップとなった。同社は建設現場の効率化から経営改善まで一元管理することができる施工管理アプリ「ANDPAD」を提供する。2016年にサービス提供を開始し、現在の利用者数は14万5000社を超え、38万人の業界関係者に利用されている。21年11月には「ANDPADアプリマーケット」を公開し、オープンAPIによる外部サービスとの連携強化を明確に打ち出すなど、国内で62兆円市場といわれる建設業界全体のDXを推進するプラットフォーマーを目指している。

 

同社を起業した稲田武夫さんとは12年に出会った。当時リクルートの社員だった稲田さんが当社のイントレプレナー塾に参加したことがきっかけだった。稲田さんの起業家としての背景にはリクルートのDNAがあるように思う。

 

リクルートのDNAは創業者の江副さんの行動指針「理念とモットー」に示されている。中でも、冒頭の3つの言葉に注目したい。

一つ目は「誰もしていないことをする主義」。これまで社会になかったサービスを提供して時代の要請に応え、同時に持続する高収益を上げていく。既存の分野に進出するときには別の手法での事業展開に限定し、他社のあとを単純に追う事業展開はしない。継続して社会に受け入れられれば、いずれ産業として市民権を得ることができる。

 

 

 

二つ目は「分からないことはお客様に聞く主義」。誰もしていない事業には先生が必要である。その先生とは新しいお客様と潜在的なお客様である。お客様に教えを請いつつ、創意工夫を重ね、仕事の改善を継続的に続けていくことが重要である。大切なことは自分の意見をもってお客様の意見を聞く姿勢である。自分の意見を持たなければ、お客様の本当の声を聞き取ることはできない。

三つ目は「ナンバーワン主義」。同業者が出現すればそれを歓迎する。同業間競争のない事業は産業として認められない。後発企業のよいところをまねすることは恥ずかしいことなどと思わず進んで取り入れ、協調的競争をしていき、ナンバーワンであり続ける。江副さんは「同業間競争に敗れて2位になることは我々にとっての死である」と言っている。こういう創業者の遺伝子がリクルートの企業文化や風土を形成している。

 

4年にリクルートから独立した稲田さんは建設現場の職人や現場監督と仲良くなり、2年にわたって建設現場の「不」を徹底的にヒアリングし、その課題を解消するサービス「ANDPAD」をリリースした。リクルートの遺伝子を受け継いだ起業家の挑戦が日本の先進国で最も低い労働生産性向上につながることを期待したい。

 

 

 

 

 

 

第293回 「人的資本投資経営の時代」

11月9日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「人的資本投資経営の時代」

 

 

2020年からの新型コロナウイルス禍で様々なサービスがオンラインにシフトした。当社の「イントレプレナー塾」もそのひとつだ。同塾の「ミッション、価値、成果とは何か」を改めて再考した。

「企業内起業家がひとりでも多く覚醒する機会の場」にすることをミッションに、「起業家に変貌する意欲を引き出す、ストーリーベースのカリキュラム」に再設計した。チャット、挙手、投票などの機能の活用と、少人数でのワークの時間を増やすことで、双方向のコミュニケーションで塾生が主体的に参加する、「知」の集積の場を構築した。

 

 

 

オンライン化により、講義を録画して、参加できなかった塾生がいつでもどこでも受講できるようになり、地域間の格差がなくなり学ぶ機会の均等につながった。しかし、オンラインには落とし穴もある。オンラインは頭が疲れ、参加者の脳の動きが鈍化して言葉の出方が変わってくる。脳のパフォーマンスが低下してしまうのだ。また、リアルで会えないことでエンゲージメントの低下も懸念された。

 

オンラインとリアルそれぞれの利点と欠点を見極めたハイブリット形式に改善した。オンラインでは「笑いを誘うナビゲート」「休憩の時間設定とタイミング」「雑談タイムの導入」「カリキュラムの短縮」「オンライン飲み会」で集中力とモチベーションを維持した。リアルではカリキュラムの中間と最終日に実際に集い、オンラインでは難しい塾生同士の「共感」を得ることでエンゲージメントを高めた。最終日のプレゼンはリアルで実施、互いに評価し合う。こうした取り組みにより実現性の高い事業案が生まれ、多くのイントレプレナーが誕生した。

 

現政権でも提唱する「新しい資本主義」であ、人的資本の投資が重視されている。社会人の「学び直し」として、デジタルなどのスキルアップへの教育支援が提示されたが、スキル獲得への投資だけでは経済構造の激変に対応しきれない。欧米ではコロナから脱する経営計画を描くだけではなく、「その計画を実行できる人材がいるのか」といった観点から、経営戦略と人材戦略を連動させた実現性のある計画かどうかが問われ始めている。

 

次々と変化するデジタル社会でサステナビリティーに対応していくには「事業を創る起業家への人的投資」の転換が必要だ。新たな産業の創生を伴わなければ、持続可能な「新しい資本主義」の軌道にはつながらない。これからの社会で適応する「人的資本経営」へのパラダイムシフトは、グローバルな視野で人のやらないことに挑戦するスタートアップへの投資と、価値を増大できる大企業のイントレプレナーへの人的資本の投資の混合がカギとなる。それが日本経済のダイナミズムの源泉になる。

 

 

 

第292回 「サラリーマン起業への挑戦」

10月3日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「サラリーマン起業への挑戦」

 

6月2日、クオンタムリープ会長の出井伸之さんが亡くなった。亡くなる直前まで次世代ビジネスのインキュベーションに奔走し、生涯現役を貫いた経営者だ。出井さんはソニーの社長時代に業績の低迷で批判されたこともあったが、ゲーム・映画・音楽などのエンターテインメント領域へ事業を広げ、高収入を上げる礎を築いたと高い再評価を得た。

 

出井さんとお会いしたとき、よく話していたのは社内起業のことだ。

「あなたと同じように僕もサラリーマンこそ社内起業に挑戦すべきだとずっと言っている。会社の中での挑戦なら社内でバックアップしてくれるし、大きな損失を出し失敗しても会社が盾となって守ってくれる」「自己破産して路頭に迷うことはないので思い切った挑戦ができる。スタートアップにない様々な恩恵を受けローリスクで起業できるのだから日本の企業はもっとサラリーマンに社内起業をやらせるべきた」と。出井さんは31歳の若さでソニー仏物販会社を起業した経験から、こういった考えに至ったのだと思う。

 

「2021年度の米国の投資額が40兆円を超え、日本のスタートアップ投資額は米国の100分の1の規模になった」との報道があった。新型コロナの感染が広がった2020年以降、格差が拡大している。

シリコンバレーで多くのスタートアップが誕生し続けているのは、循環する豊富な資金だけではなく、起業家と共に仕事をする有能な人材の流動性や産学連携の集合知性、弁護士、会計士、ヘッドハンター、メディアなどのエコシステムがあるからだ。一方、日本はスタートアップへの投資額は増えているものの、起業率は4.2%と先進国の中では最も低い。

 

昨年、ソニーが初めて1兆円を超える連結利益を達成し、社名を「ソニーグループ」として新たなスタートを切った。

吉田社長は新体制のスタートにあたり、グループ最大の稼ぎ頭となったエンターテインメント領域を核に、「モビリティー」と「メタバース」の領域で新たな事業を創造していくと打ち出した。ソニーは常に未来を先取りし、社内起業によって世界を変える事業を創り、「創造的失敗を恐れない、挑戦するイノベーション」で歴史を築いてきた企業だ。

 

スタートアップが成長するためのエコシステムが整っていない日本で、トヨタ自動車やファナックのように、社内起業によって新産業が勃興し、経済が高度成長を遂げ「ジャパン アズ ナンバーワン」と言われた時代があった。

「日本の起業社会の実現」のためにはコロナ禍でも9年連続で増えた480兆円を超える内部留保を社内起業家とスタートアップへ投資するとともに、M&Aを含めたオープンイノベーションで日本のエコシステムの土壌を創ることだ。

 

 

第291回 「投資決断を変える一言」

8月31日の日経産業新聞へ寄稿した記事を紹介させていただきます。

 

「投資決断を変える一言」

 

「あぁ、この起業家とはやっていけない」。投資依頼の場で起業家が発するひと言でそう決断することがある。

言葉を発した起業家はそんなことになるとは思わず、無意識の一言だと思う。

その言葉を聴くのは、熱のこもったプレゼンが終わり一息ついた雑談のときや、帰る間際のことが多い。その「ひと言」は、その人の生き方や考え方が内面から出た本音の言葉だ。人や社会に寄り添う生き方ではなく、自己中心的で自分だけがよければいいと考えている生き方が見えてしまう。そういう人には、最終的に誰もついてこず、社会も支持しないだろう。

この「言葉」は緊張から解放されたときに無意識に出るものでコントロールはできず、その人の内面が映し出される。

失言ではなく、言葉は体を表すものだ。

 

どんなに歴史のある大企業も、はじまりは「たった一人の起業家」が立ち上げたスタートアップだ。創業時「誰のために」「何のために」その事業をやるのか、考え抜いた言葉には生命力があり、生き方が映し出されている。その想い溢れる言葉に共感した人々が集い成長した企業には創業者の思想や哲学が宿り企業文化となっている。

 

 

 

 

 

起業家から相談を受けるとき、必ず「どうしてその事業をやりたいの」と聞くのは、どんな社会課題を解決できるか確認したいからだ。社会性のない企業は事業価値が上がらないので長続きしない。世界では多くのユニコーンが誕生しているが、「世界を変える」ための手段と考え創業したケースが多い。こういった起業家が立ち上げたスタートアップには資金や人が集まり、現場力が高い組織ができ、長期視点で先読みした経営戦略ストーリーによって社会を変革していく。かつての起業家はまず「利益」を上げたあとで社会的な貢献に努める傾向が強かった。

 

現代のユニコーンに共有するのは利益のみを追求するのはなく、社員を含めた「人」、地球の「環境」にも配慮していく、融合スタイルの起業家像だ。多くの起業家は自ら考えた事業は成功すると信じることから出発する。

しかし、それが正しいかを決めるのは顧客であり市場だ。顧客と常に接して、顧客の声を聴いて、人や社会に寄り添い事業を磨き上げなければ、一時的に成功しても持続しない。企業経営は時代の洞察であり環境適応業といわれる。

 

新型コロナによって、世界の多くの企業は「自社のレゾンデートル」を突き付けられ、考える機会となった。

地球レベルの環境問題が増大し、人々も社会の認識も変わった。

これからの起業に必要なことは「人(People)」「環境(Planet)」「利益(Profit)」の融合であり、脱炭素をはじめSDGsを包含したサステナビリティ経営を目指すことにある。

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