こんにちは。渡邉利咲です。
かつて「悪魔の酒」と呼ばれたお酒、アブサンがあります。 鮮やかな緑色と独特の香りを持つアブサンは、19世紀のヨーロッパ、とりわけフランスで大流行しました。
ゴッホ、ロートレック、ゴーギャンなど、当時の芸術家たちとも深い関わりを持ち、「緑の妖精」とも呼ばれた、とても妖しい魅力を持つお酒です。
その一方で、アブサンを常飲する人々には、幻覚、錯乱、不眠、震え、けいれんなどの症状がみられるとされ、やがて「アブサン中毒」という言葉まで生まれました。
そして20世紀初頭には、ヨーロッパのいくつかの国で製造や販売が禁止されていきます。
アブサンには、アニス、ウイキョウ、そしてニガヨモギなどのハーブが使われています。
ニガヨモギの英名は、Wormwood(ワームウッド)。
古くから薬草として使われてきた植物で、特に食欲や消化を助ける目的などで利用されてきました。
庭に植えると、その強い芳香などから防虫植物として利用されることもあります。
一方で、ニガヨモギにはツヨンという成分が含まれています。
ツヨンには中枢神経系に作用する性質があり、大量に摂取すると神経毒性を示し、けいれんなどを引き起こす可能性があります。
そのため長い間、「アブサンを飲むと幻覚を見るのは、ニガヨモギに含まれるツヨンのためである」と考えられてきました。
けれども、21世紀に入ってから興味深い研究が行われています。
2008年には、アブサンが禁止される以前、1915年より前に実際に製造された古いアブサン13点が化学分析されました。
その結果、ツヨンは確かに含まれていましたが、かつて推測されていたほど極端に高い濃度ではありませんでした。
また、「昔のアブサンだけに含まれていた特殊な毒物」が、いわゆるアブサン中毒を引き起こしていたという明確な証拠も見つかりませんでした。
現在では、当時報告されていた幻覚や錯乱、震え、けいれんなどの症状については、非常に強いアルコールを長期間大量に飲み続けたことによる影響も大きかったのではないかと考えられています。
実際、アブサンはアルコール度数が非常に高く、60~70%前後のものも珍しくありませんでした。
ただ、それでも私はアブサンというお酒を面白いと思います。
なぜなら、数あるお酒の中で、アブサンほど
「人を魅了する」
「人を狂わせる」
「緑の妖精が現れる」
といった物語をまとったお酒は、そう多くないからです。
もちろん、そのすべてをツヨンだけで説明することはできません。
強いアルコール、ニガヨモギをはじめとする芳香植物、独特の香り、飲み方の儀式、そして当時の芸術や退廃文化。
さまざまなものが重なり合って、アブサンというお酒の周囲に、一つの大きな物語が生まれていったのでしょう。
画家アルベール・メニャンが描いた《緑色のミューズ》を見ると、その世界がとてもよく表現されているように感じます。
そこには、ただ一杯のお酒というよりも、人を魅了し、引き込み、ときには人生そのものを支配していくような「何か」が描かれています。
さて。
フラワーエッセンスにも、Wormwood(ワームウッド)のエッセンスがあります。
フラワーエッセンスとしてのワームウッドは、依存行動や執着からの解放と関係するエッセンスです。
そして、自分や他者を赦し、過去に縛られていた心を少しずつ解放していくことをサポートしてくれます。
人はとても強い痛みを抱えているとき、その痛みを感じなくするために、自分自身を麻痺させることがあります。
その方法の一つが、お酒である人もいるでしょう。
怒り。 悲しみ。 裏切られた記憶。 誰かをどうしても赦せない気持ち。
あるいは、自分自身を赦せない気持ち。
そうした重い感情を抱えているとき、お酒によって一時的に感覚を鈍らせれば、その瞬間だけは苦しみから離れることができます。
それは、その人なりの「自分を守る方法」であることもあります。
けれども、麻痺させたからといって、その問題そのものがなくなるわけではありません。
未解決の感情は、そのまま心の奥に残ります。
そして向き合わないまま時間が経つほど、 「あの人を赦せない」 「あの出来事を忘れられない」 「どうして私だけが」 という思いの上に、さらに別の怒りや悲しみが積み重なっていくことがあります。
まるで雪玉が坂道を転がりながら、少しずつ大きくなっていくように。
気づいたときには、過去の出来事そのものよりも、「重苦しいエネルギー」そのものに自分が囚われている ことがあります。
過去に憑りつかれたように、同じ出来事を何度も思い返し、そのたびに怒り、そのたびに傷つく。
私はそこに、どこかアブサンの「緑のミューズ」と似たものを感じます。
最初は自分を守るためだったものが、いつの間にか自分自身を縛るものへと変わっていく。
一方で、フラワーエッセンスのワームウッドは、その反対方向へ働きかけます。
痛みを麻痺させるのではなく、 自分の中に残っている「執着」という領域を見つめ、そこから自由になっていく。
そうして長い間抱えてきた荷物を、一つずつ地面に下ろしていく。
すると、それまで怒りや恨みを握りしめるために使っていた力が、自分自身の人生へと戻ってきます。
アブサンに使われるワームウッド。
そして、フラワーエッセンスのワームウッド。
同じ名前の植物が、一方では「緑の妖精」と呼ばれる妖しい酒の物語につながり、もう一方では、古いパターンから自由になるためのエッセンスとして語られている。
そこには、とても興味深い対照があります。
痛みを感じなくすることで自由になろうとすること。
そして、 痛みを抱えている自分を手放すことで、本当に自由になっていくこと。
似ているようで、その二つはまったく違います。
癒しとは、何かを消してしまうことではなく、 長い間そこにいた自分に、「もう、ここから出てもいいよ」と許可を与えることなのかもしれません。
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