Tue 090120 「貧」ではなく「病」である 大企業の品格 メディアのはしゃぎすぎ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 090120 「貧」ではなく「病」である 大企業の品格 メディアのはしゃぎすぎ

  つい半月前までは、クマさんは今回の経済危機や不景気の本質を全く理解できなかった(Sat090103Sun090104参照)。だから「富はどこへ消えたのか」などと不思議がっていた。「宇宙人大艦隊が襲ってきて、地球の資源や食糧や水をみんな奪っていきました、というのならわかる。でも地球上の富の総量は全く変化していない。なのに、どうして突然みんなが貧しくなるの?」「バランスシートというものがあって、誰かが貧乏になったら、誰からお金持ちになる、どこかでマイナスが発生すれば、必ずどこかでプラスも発生しているはずだ、なのにどうしてみんな一斉にマイナスになっちゃうの?」「あれ、使っても、捨てても、なくしてもいないのに、どうしてなくなっちゃったの?」「理科で、質量保存の法則って習わなかったっけ?」などと、幼稚園児並みの疑問を平気で口にしていたのである。


 しかし、食中毒でゲロを吐いて以来、どうも問題の本質が、パッと、直観的に、絵で見るように明らかに理解できたのである。おお、アワビさま、アワビ大明神さま、アワビ弁天、大権現。子分の子分のまた子分、末社のトコブシ様にもお賽銭あげときマヒョか(Wed 090114参照)。経済危機は、貧乏になったのではなくて、病気になったということなのだ。食卓には美味佳肴いくらでも並んでいるのだが、「ゲロが出そうで食べられしまへんわ」、ということである。下痢と吐き気に苦しむ青息吐息の人たちだけで、豪華なパーティーの豪華なテーブルを囲んでいると思ってみればいいのだ。


 下痢も吐き気も、その原因はよくわからない。みんなが毒を盛られたのかもしれないが、江戸時代じゃあるまいし、さすがにその可能性はほとんどゼロ、というより、それは司法当局が考えることで、当分は彼らに任せることになるだろう。まあ一般的には、食あたり、食物アレルギー、水あたり、いや、太り過ぎ。太りすぎてベルトがキツくなると、食べることが拷問に思えたりする。「金融危機に端を発した」という枕詞を考える時、金融の世界の人たちの顔つきを考えても、どうも太り過ぎで、胸焼けがして、ベルトももちろんキツくなって、それで経済は病気にかかってしまったように思える。

 

1026
(ネコも爆発する)


 その病気が、一般人にも感染してしまった。食卓を見るのもイヤ、揚げ物の匂いもイヤ、刺身の生臭いのもイヤ。何か買うのもイヤ、借りるのもイヤ、消費の全てがイヤ。銀行も貸すのはイヤ、メーカーも作るのはイヤ、雇うのもイヤ、支払うのも投資するのもイヤ。労働者の多くも、あの仕事はイヤ、この仕事もキライ、その仕事は「自分に向かない」から「自分探しをしたい」、みんなイヤだから「本当の自分を見つけたい」。国民全体としても、給付金もらうのもイヤ、税金増えるのもイヤ。確かに、お腹の中でゲロ予備軍がグルグル言っていたあの時、私自身、水を飲むのもイヤ、寝返りを打つのもイヤ、息を吸うのもイヤ、息を吐くのもイヤ。病気とは、「全てイヤ」になるものである。新型インフルエンザより先に、イヤイヤ病が日本でも世界でも猛威を振るったのだ。


 特にメーカーのイヤイヤ病については目を覆うものがあって、「何も今このタイミングでそれを発表しなくてもいいんじゃないか?」という最悪のタイミングで「派遣社員ゼロへ」「生産ライン休止へ」「生産半減へ」「正社員の雇用にも手をつけなければ」と発言。今度は「世界戦略を破棄」「創業者一族を社長に立て直し」と来た。何でそんなに弱気になって、何でそんなに縮小戦略一本槍になるのか、私はシロートだからさっぱりわからないが、まるで亀さんか、カタツムリさんか、強情なヤマアラシ君みたいになって、世界トップのクセに、ひたすら縮こまる、ひたすら首をすくめてばかりいる。

 

1027
(ネコも熟慮する)


 まず、世界トップという地位には、当然世界をリードする責任が付随するものだということを忘れてはいけない。朝青龍だって(突然小さな世界の話になりますが)、あれだけ悪口ばかりいわれ、あれほど悪し様に罵られ、あれだけ個人攻撃されても、ちゃんと10連勝し、復活してみせた。品格品格とうるさくいう人たちが、何よりもわかっていないのは、横綱の品格の本質は「負けないということ」「勝ち続けること」「憎らしいほど強いこと」だ、ということである。そして、28歳の若者が言葉も違う外国でたった一人の孤独を押しのけて見せつけた矜持と品格は、世界トップの企業にはごく当たり前に要求される。


 大企業の品格とは「前進すること」「勝ち続けること」「憎らしいほど安定していること」である。せめて最後まで矜持を見せて、派遣も正社員も決して解雇しない、雇用は最後まで守る、生産ラインも停止しない、世界戦略もさらに徹底する、この機会に完全な世界トップを不動のものにする、社長人事はあくまで現代的民主的なものにして、創業者一族の世襲などという封建的人事は撤回する、簡単に言えば「世界は我々についてくればいい」という英雄的発言をして、「政治がオバマなら経済は我々だ、メディアニュースの時間の半分を我々によこせ」ぐらい自信に満ちた態度をとるべきである。


 いや、もちろん日本企業の歴史的体質からみて、もちろんそんなことは出来るはずはないのだが、それなら、せめてショッキングなニュースの発表だけでも、タイミングを見計らって、ほんの2~3日延期してもよかったのではないか。例えば、昨日にまで延期してくれたら、「トヨタ、生産半減」のニュースはオバマ氏とファーストレディのダンスの写真の陰に隠れて、あれほど大きく目立たなかったはずである。


 社会に大きな心理的ショックを与えれば、本来気分の問題が大きい景気や株価は激しく下落する。あんなタイミングで発表するから、オバマ氏の就任前日に世界中で株価が大きく下落して、祝賀ムードさえ縮こまってしまった。日本ばかりか世界をリードするほどの大メーカーとして、その程度の気配りはしなければならないのではないか。普通の人間が考えるのはそういうことである。

 

1028
(ネコも決意する)


 イヤイヤ病の症状には「はしゃぎすぎ」というのもあって、この症状はマスコミに特に顕著。百貨店の売り上げの下落、株価の下落、メーカー生産量の減少、地方景況感の急速な低下、日本人の学力劣化と体力低下、とにかく「下がった」「ダメだ」「もう終わりだ」というような話なら何でも見境なくデカデカと紙面に掲載する。どんなことでも、「いや、下がってはいない」「言われているほどではない」などという意見は珍しい少数派として、囲み記事のトピック扱いか、世にも稀な珍種の扱いしかされないし、それでも紹介されればいい方で、テレビのニュースショーではほぼ完全に無視される。これがイヤイヤ病の「はしゃぎすぎ」である。とにかく悪いことばかり強調したくなってたまらなくなる、つらい顔と苦しい顔ばかり見せたくなってたまらなくなる、そういう病気である。


 こういう状況で、何をすればいいかというと、まずチャンとゲロを吐いてしまって、その上で吐き気の元になるようなものを近づけず、気分が良くなったら着々と仕事をこなすことである。とりあえず今日は1個こなし、2個こなし、3個こなす。明日も1個こなし、2個こなし、3個こなす。そうやって動き始めれば、最初錆びていた部分の錆もとれて、滑らかに動くようになるものである。これはほとんど自分に言い聞かせているようなところもあるぐらいだから、イヤイヤ病にかかっている人には共通の処方箋になるのではないだろうか。

1E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.9
2E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.10
3E(Cd) Jandó:MOZART/COMPLETE PIANO CONCERTOS vol.11
4E(Cd) Candy Dulfer:LIVE IN AMSTERDAM
9G(α) 塩野七生:コンスタンティノープルの陥落:新潮社
14G(α) 塩野七生:レパントの海戦:新潮社
total m162 y162 d2400