今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba
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Fri 240920 きょうの料理/8月15日「花脊の松上げ」を眺めにいく/花脊の宿 4570回

 子どもの頃からNHK「きょうの料理」が大好きで、冨田勲の作曲によるテーマ曲は、初めて買ってもらったカセットデッキで録音し、大人になりかけた頃になっても、そのカセットをウォークマンで繰り返し繰り返し聞いては涙する、ワタクシはそういうマコトにおかしな男子だった。

 

 だから、仮病を使って学校を休めば、午前10時だったか11時だったか、昔は毎日定時に放送があった「きょうの料理」を必ず見ることにしていた。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 1)

 

 当時の今井君は重い小児喘息に悩まされていて、9月から10月、急激に気温が下がっていくこの時期には、仮病を使わなくても呼吸困難に陥って学校を欠席、苦しい息をつきながら、それでもやっぱり「きょうの料理」を楽しんだ。

 

 このごろは「きょうの料理」、なかなか見る機会に恵まれない。よく番組表を確かめたわけではないが、何だか放送がイレギュラーのようで、ビデオ録画する意欲が湧いてこない。というか、どんな番組でもビデオに録画してしまうと安心感が先に立って、わざわざ試聴する気になれなくなる。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 2)

 

 この話が今日の写真16枚とどう繋がっていくのか、滅多な人には想像もつかないだろうが、今日の写真は全て815日の夜、京都・花脊の伝統行事「松上げ」でのもの。またまた1ヶ月も前の「夏の思ひ出」シリーズの一環である。

 

「松上げ」とは、「タイマツを上げる」という意味の伝統行事。京都洛北、むかしの若狭街道一帯の山里の神事であって、花脊の他に「広河原」や「雲ケ畑」の松上げも有名であるらしい。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 3)

 

「愛宕神社信仰の神事」ということなのであるが、京都の飲食店なら必ず壁に貼ってある「火迺要慎」のお札が愛宕神社のもの。だから「松上げ」は、まず第一に火難除け、それにプラスして五穀豊穣を祈願し、お盆に迎えた祖先の精霊を送るのである。

 

 花背も広河原も雲ヶ畑も、京都市外からマコトに遠い。花脊の場合、クルマで1時間半もかかる。まず一気に北上して鞍馬の街を通りぬける。「鞍馬の火祭り」で有名な由岐神社の前でほぼ直角に右折し、若狭街道をさらに北上、「ここがホントに京都です?」と驚くほどに険しい花脊峠を過ぎたところに、花脊の集落が広がっている。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 4)

 

「松上げを見てから公共交通機関で京都市内に戻るのは不可能」と言うことなので、まあ一種のツアーに参加するしかない。出町柳の駅前から京都バスによる「松上げ鑑賞バス」が運行されるので、それを利用する。

 

 ワタクシはいつだって単独行動が好きなので、海外の旅でも滅多にツアーに参加することはない。マテーラでもモン・サン・ミシェルでも、サンマロでもアルカションでも、ソグネフィヨルドでもブラチスラバでも、必ず単独で独力で移動するのである。

 

 コペンハーゲンから海を渡ってドイツのリューベックへ、ブエノスアイレスからラプラタ河を横断してウルグアイへ。そういうのも単独で独力で移動しなきゃつまらない。マラケシュからフェズまで、モロッコ国内を8時間かけて列車で移動、やっぱりそういうのが面白い。ツアーに参加したのは10年前、メキシコのチチェンイッツァぐらいのものだと思う。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 5)

 

 しかしそのワタクシでも、京都の山奥の花脊を訪ねて「その日のうちに帰ってくるのは不可能です」と言われれば、何だかさすがに少し怖くなって、こうしてツアー系のバスを利用する。確かにあまりにも山が深いのである。鞍馬でさえ十分に山深いが、その鞍馬からさらに1時間、険しい峠道を行く。

 

 出町柳を午後5時に出て、鞍馬を通過したのが6時ごろ、花脊峠を超える頃には8月の太陽は西の空に沈んで、立派な北山杉がズラリと並んだ峠道はたちまち暗闇になった。黒い熊さんが「こんばんは」と言いながら例の顔でヌッと登場してもちっとも不思議じゃない、そのぐらい険しい峠道なのだった。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 6)

 

「帰るのが困難なら、宿泊すればいいじゃないか」と考えるかもしれないが、花脊に宿泊するのは、帰る以上に困難である。宿は(おそらく)一軒しかない。NHKがずいぶん熱心に宣伝している「花脊の宿 美山荘」である。近藤正臣氏のマコトに渋いナレーションで「花脊の宿は ... 」と囁き続けるあの番組、コロナの4年間に再放送を3回以上見たはずだ。

 

「1日4組限定」「一泊約15万円」というあたりもさることながら、向こう1年間365日、すでに予約で埋まっている。まあ諸君も「一休」ないし「エクスペディア」で調べてみたまえ。ホントにホントに今後365日間、完璧に予約でパンパンだ。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 7)

 

 だから花脊の宿の宿泊は、困難というより不可能といったほうが正確だ。いったいどうやったら宿泊できるんだろう? 

 

 ついでに、1022日の鞍馬の火祭りの夜、由岐神社の下の宿屋さんに宿泊して、2階の窓辺から火祭りをエンジョイしようと考えたのだが、「毎年のお得意さんで、とっくにいっぱいでございます」と、マコトにすげなく断られた。

 

 というわけで、ツアー系のバスで花脊に向かい、午後9時すぎに松上げが終了したら、その同じバスで帰ってくることになった。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 8)

 

 松上げが行われるのは、上桂川の広い河原だから、それを夜中に眺めていれば、間違いなくヤブ蚊軍団の餌食になる。そこで大活躍したのが「虫コナーズ」。蚊取り線香とか虫除けスプレーとか、まあいろんな作戦が考えられるが、諸君、来年の花火大会やボッチキャンプには、ぜひ虫コナーズを活用したまえ。

 

 松上げ開始1時間前から、広い河原一面が見渡せる橋の上に陣取り、虫コナーズを目の前の橋桁にぶら下げる。すると諸君、効果は抜群であって、周囲の人々が盛んに「うわっ、また蚊にさされた」とか「ランタンに蛾がたかるね」とか、盛んに呻き声を上げている中、虫コナーズの見えない砦に守られた今井君は無傷のまま。マコトに快適に松上げ神事を満喫できたのである。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 9)

 

 松上げについての詩的描写やら文学的描写やらは、この場では遠慮する。そんな凝った描写をしなくても、掲載した写真をつくづく眺めていただければいいし、もっと興味のある人は、YouTubeに誰かが上げた60分近い動画を眺めることもできる

 

 上の写真のように、夕暮れの河原の中央に、約20メートルのヒノキの柱が立っている。柱のてっぺんに大きなカゴが取りつけられ、カゴの中には乾燥させた杉の葉が詰め込まれている。これが神事の主人公となる「灯篭木」、「灯篭木」と書いて「とろぎ」と読み、てっぺんのカゴを「大笠」と呼ぶ。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 10)

 

 月のキレイな夜で、橋の上からは周囲の山々の黒い影に月の光が落ちている。やがて花脊の男たちが、春日神社でもらった火をタイマツにうつし、太鼓が打ち鳴らされる中、手に手にそのタイマツをかざして河原を一周する。

 

 男たちの中には、真剣な表情の欧米人が1人混じっていた。この地域で生活している人なのか、それとも「見るだけの観光から、参加する観光へ」みたいな話なのか、最近の京都の祭りには外国人の参加者をよく見かける。7月17日、祇園祭の山鉾巡行でも、嬉しそうに鉾を引っ張っている欧米男子を見かけた。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 11)

 

 河原を一周した男たちは、次に1000本の「地松」に点火していく。地松とは、短い竹の杭の先にタイマツをつけたもので、「灯篭木」の巨木の周囲を取り囲むように、きっとホントに1000本、もしも近くの山に敵軍が潜んでいたら「1000人規模の大軍が待ち構えている」と勘違いしそうな勢いだ。

 

 その1000本の地松が燃え盛るなか、いよいよ松上げが始まる。男たちは勇ましい鬨の声を上げながら、火をつけた「上松」を勢いよく振り回す。「上松」とは、ちょうどハンマー投げのハンマーのように、長い縄を結びつけた丸いタイマツだと思えばいい。振り回される上松は、もちろん激しく炎を上げる。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 12)

 

 その「上松」を、やっぱりハンマー投げの要領で、夜空に高く投げ上げるのである。狙う的は、「灯篭木」の上に取り付けた「大笠」。大笠には乾燥させた杉の葉がギュッとつまっているから、見事に大笠に上松が命中すれば、大笠は激しく燃え上がる。

 

 灯篭木を取り囲んだ男たちが次々と上松を投げ上げるが、もちろんなかなか大笠には命中しない。あたりは地松と上松の燃える煙が濃厚に漂い、立ち込めた煙に赤い炎が映って、男たちはますます気合いのこもる掛け声をあげながら、上松を振り回し、投げ上げる。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 13)

 

 振り回しては投げ上げ、振り回しては投げ上げ、ついに1つの上松が大笠を見事に捉えると、河原を取り囲んだ群衆が歓声とともに大喝采。次第にコツを取り戻した男たちは、次々と大笠に命中させ、まもなく大笠は激しい炎を上げて燃え上がる。

 

 こうして大笠は中空で巨大な火の玉となり、大量の火の粉が飛び、煙に炎が映えて、人々の興奮がまさに最高潮に達したところで、灯篭木が大音響とともに地面に引き倒される。マコトにあっけない幕切れであるが、地面に落ちてきた大笠は、なおしばらく赤い炎を上げて燃え続ける。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 14)

 

 素朴・雄大・壮観・幻想的、人々はさまざまに感想を述べながら、再びバスに乗り込んでいく。虫コナーズやら団扇やらカンテラやら、荷物は少々重いけれども、帰りのバスはあの険しい山道を驚くほどスムーズに走り抜け、午後10時にはもう鞍馬を通過、10時半ごろに国際会館駅前に到着した。

 

 あの夜も、ワタクシが宿泊していたのは宝ヶ池のプリンスホテル。途中ちょっとコンビニに立ち寄った。ビールと、日本酒と、おつまみ類を購入して、この夜の夕食はそれだけで済ますことにした。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 15)

 

 さて調べてみると、もともと花脊の「松上げ」は、8月23日の夜遅くに行っていたのだという。終わった後には人々うちそろって愛宕神社に参詣していた。現在は何かの事情で8月15日に行われるようになったのだそうだが、その「事情」はワタクシには分からない。

 

 ところで、今日の記事の書き出しにNHK「きょうの料理」のことを取り上げたのは何故だったのだろうか。いちおう種明かしをしておくと、ワタクシは今の「きょうの料理」のうち、大原千鶴サンと桂南光師匠の2人が出演する回の大ファンなのである。2人の掛け合いはどんな漫才よりも面白い。

    (8月15日、京都・花脊で「松上げ」を満喫 16)

 

 というか、いつかチャンスがあったら、授業中の雑談がわりに2人の掛け合いのモノマネをやりたい。いま密かにワタクシ、暇さえあれば練習を重ねている。大原さんが京都代表、桂南光師匠が大阪代表、その2つの町の文化の温かい関係が、あんなに如実に出ている番組は、他にちょっと考えられない気さえする。

 

 その大原さんが、花脊の宿「美山荘」の次女として生まれたオカタ。プロフィールには「5歳で料理を始め、10歳ごろからは週末ごとに20人分のまかない料理を担当」とある。

 

 ならば諸君、今はとても「花脊の宿」には宿泊できないが、「きょうの料理」をマネしてつくれば、自分でも花脊の宿モドキぐらいは楽しめるんじゃないか。そう考えつつ、花脊の松上げの話のマクラとして「きょうの料理」についても触れてみた。そういうことだったのである。

 

 ついでながら、今や「きょうの料理」のモノマネは完成段階に近づいている。近藤正臣氏のナレーション「花脊の宿の摘み草料理は ... 」のほうのモノマネもますます上達。いやはや、ツマランことほど、上達の早い困ったジュンコロー(準古老)なのである。

 

1E(Cd) Hilary Hahn:BACH/PARTITAS Nos.2&3  SONATA No.3

2E(Cd) Schreier:BACH/MASS IN B MINOR 1/2

3E(Cd) Schreier:BACH/MASS IN B MINOR 2/2

6D(Pl) 2024夏休み文楽公演 第2部:女殺油地獄(豊竹若太夫ほか):大阪 国立文楽劇場

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