Fri 080829 「学力テストで秋田県が第1位」について ヴェネツィア紀行6 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 080829 「学力テストで秋田県が第1位」について ヴェネツィア紀行6

 よせばいいのに文部科学省が小中学生の「全国一斉学力テスト」というのをやって、私のふるさと秋田県は、小学生の成績が2年連続日本一。新聞に掲載された得点を見てみたら、国語・算数ともに断然トップ。昨年ギリギリで2位だった福井や富山を大きく引き離している。中学生でも全国3位で、なんと秋田は「日本のフィンランド」なのだそうである。畏れ多いことであるが、まあとりあえず、たいへんおめでたい。
 

 秋田の小学校には全国各地から先生方や教育関係者がたくさん視察に訪れ、「いったいなぜ秋田県の子供たちがそんなに成績がいいのか」を考え、それを自分たちの都道府県の教育に反映させようと努力しているらしい。秋田県出身者として、大いに鼻が高いし、関係者とは手を握りあいハイタッチでもして、この喜びを分かち合いたいぐらいである。
 

 昨年、首都圏の塾の中には(東証2部上場「栄光ゼミナール」であるが)電車のドアの上にたくさん広告を出して、大きな活字の見出しで「秋田に学べ」「フィンランドの奇跡」などと呼びかけているものもあった。秋田県の子供は、睡眠をよくとり、朝型の生活をし、朝食をキチンと食べ、テレビを余り見ない、だから成績がいい、首都圏の子供も秋田に学ぶべきだ、という趣旨だったように記憶する。栄光ゼミナールさんには申し訳ないが、何だかまるで自分の手柄のように偉そうに「秋田に学べ」などと言ってほしくない。正直言って、余計なお世話である。フィンランドだって迷惑だろう。
 

 ただ、冷静になってよく考えてみると、この「全国1位」というのにもいろいろ問題を感じるのである。まずマスコミの報じ方。「いったいなぜ秋田が」という報道は、もう少し詳しく言えば「いったいなぜ秋田県なんかが」であり「ええっ、どうして秋田県なんかがトップ?」であって、元来もっとビリに近いはずの秋田がなぜか抜群でトップであることに「意外」「驚き」の感情をきわめて露骨に表現したニュアンスが感じられる。「だって、あのズーズー弁の東北の秋田でしょ。それが国語で全国トップって、何かの間違いじゃないの?」というニュアンス。「秋田に学べ」などという塾の広告だって、詳しく言えば「あんな県でもしっかりやれば伸びるんだ。首都圏のダメな子供も諦めずに頑張れ」ということなのかもしれない。
 

 もっと胸を張ればいいのに、県教育関係者が「なぜだか分からない」などと自信のない発言してしまうところが、いかにも秋田県である。こういうのを聞くと、思わず「採点が甘いからじゃないの」とかツッコミを入れたくなってしまうのだ。結局マスコミの結論としては、きわめて常識的なところに落ち着いた。朝日新聞では「少人数のクラス編成をして」「生徒一人一人に対するケアをより丁寧にして」「きめ細かな教育に取り組んで」きた成果だ、といかにも朝日新聞の大好きな結論に持っていってしまっている。親と、塾の先生と、小学校の先生と、横丁のダンナと、みんなの結論は「早寝早起きが大切」「キチンと朝食」「テレビは見ない」「睡眠はしっかり」。その結論、別にデータなんか見なくても、明治・大正・昭和・平成を通じて、日本中の校長先生がみんな毎朝の朝礼でダラダラ長々話していた話とちっとも変わらない。その話が長すぎて、倒れてしまう子が毎朝2~3人は出たものだ。ダメな校長先生になればなるほど、朝の保健室が満員になるぐらいだった。ドラゴン桜みたいなマンガでさえ、その程度のことならちゃんと言っている。言われなくても最初から分かっていて、言われすぎると子供がバタバタ倒れていくような結論を導きだして、それで終わりにしてしまうなら、こんな学力テストは最初から不要なのである。ナデシコどん、キミはそこまで眠いかねえ。両手で顔を隠さなくてもいだろ。

 


 秋田県で小中高校と教育を受け、いまも秋田県とその教育について深く憂慮している者としてこのデータを見た時、最初に感じたのは「小学校でダントツ全国1位なのに、なぜ中学校で全国3位に落ちていくの?」という疑問であった。小6から中3までのたった3年で福井・富山に抜かれて3位に落ちるのは、もっと憂慮すべきことなのではないか。マラソンで、最初の10kmまではダントツでトップ、というのはよくあるシーンである。それが15km地点で2人のランナーに抜かれて3位に落ちたとする。このランナーは、この後どうなっていくのであろうか。毎年テレビで数え切れないほどマラソン観戦をしている、マラソン大好きの日本人なら誰でも分かるだろうが、おそらくはこのあと後続のランナーに次々と追い抜かれて、最後は完走さえ危ういのである。ズルズルと順位を落としていく苦悶の表情がCMの直前に大写しになって「どうしたんでしょう、苦しそうですねえ」「そうですね」とかコメントされて、第2中継車から第3中継車のカメラに移動して、それで終わり。最後はどうなったかさえ報道されない。こういうのは実によくある話であって、秋田県の教育関係者は、まずこの「なぜたった3年間で順位を下げはじめるのか」を熟考すべきだと思う。
 

 大学受験の実績までしっかり見ると、この考え方が的を射ていることはハッキリしてくる。大阪の橋下知事などは、テスト結果で大阪が最下位に近いのを見て「何というザマだ!!」と吐き捨てたということらしいが、小中学生の成績が悪いからといって、そんなに簡単に激昂していては心臓に悪いだろう。大学受験の結果を見る限り、大阪はたいへん立派な結果を出している。秋田県など(人口の少なさを考慮に入れるにしても)足もとにも及ばない。県内随一の進学校ということになっている秋田県立秋田高校だって、東京大学合格者は毎年1ケタ。「1ケタ」と言っても、その前半であったことも少なくない。これが大阪の高校のどのレベルに該当するか、比較するだけでも恐ろしい。もちろん東大ばかりを指標にするのはおかしいだろうが、それなら早稲田でも慶応でも京大でも東北大でもいい。「高校から大学へ」という、最もポピュラーで最も国民の関心の高い指標が登場すると、(もちろんここで「平均点」から「絶対数」という統計値の性質の違いは発生するのだが)秋田はおそらく最下位に近く、大阪はおそらくトップに近い位置にまで躍り出てくるのである。おお、ナデシコどん、やっと起きましたね。

 


 学校の成績ばかりではない。甲子園でも花園でも大阪代表の成績は非常に華々しいものであって、教育が「知育・徳育・体育」の3本柱で成り立っているとすれば、こういう体育関係の成績も同様に比較してあげなければならない。もちろん大阪府外からの生徒の流入があるとしても、立派な成績であることは論をまたない。秋田の体育がどういう状況であるかは、以前このブログで述べた。昭和30年代の高校スポーツは秋田の天下、サッカー・野球・ラグビー全てで全国トップレベルだったこの県が、いまどういう地位にいるかは、県出身者として正直言って余り触れたくはない(080805参照)。
 

 大阪の大学合格実績が高いことについては、もちろん「塾と予備校があふれ、受験競争にあおられるからだ」という話になるに違いない。朝日新聞なんかだと「だからダメなんだ」という結論に持っていくところである。しかし「おカミの教育がダメなら、民間の教育で頑張りましょう」というのは別に悪いことではない。「おカミがダメやから、ワテらで頑張りマヒョ」(ここからの大阪弁はNHK「ちりとてちん」で学んだものです。大阪の皆さんには申し訳ございません)というのは、まさに大阪の誇りであり、大阪のいいところである。何でもおカミが一番で、おカミに頼らないと何も出来なくて、おカミサマサマ公教育サマサマ、そういうのは大昔の共産主義か社会主義であって、ソビエト連邦の崩壊とともに時代遅れも甚だしい発想になったはずである。小中学校でのおカミの教育がダメで、だから最下位で「こんなん恥ずかしいで」「塾さんと予備校さんに頑張ってもろうて、大阪人のプライドを取り戻しましょ」そういう心意気で塾と予備校が夢中で高校生を鍛えて、東大でも京大でも阪大でも「東京の人なんかにガタガタ言わせんように頑張りましょ」そういう生き方は素晴らしいと思う。官民力を合わせて努力すればいいのだし、何も小学校で1番にならなくても、中学校で1番でなくても、大器晩成で何も問題はないだろう。ナデシコどん、キミも大器晩成タイプですね。

 


 で、問題の秋田県である。「小学校で1番なのに、中学校で3番。高校へ進んでからはどんどん成績が落ちて、大学に入る頃にはビリに近い成績」。何か、これ、見たこと聞いたことがある話である。このブログの読者の中にも、こういう人は少なくないはず。書いている私自身が「小学校ではほぼ神童、先生の言うことより今井くんの言うことのほうが信用できる」「中学校ではほぼ天才、学年1位は当たり前で、1位以外の成績だと『今井くん、どうしたの?』と心配される」「高校で一気におかしくなる。数学なんか、何にも分からない。物理なんか、何にも分からない。子供のころ暗記した図鑑の知識で大学入試を何とか乗り切る」「大学に入って、授業にも全くでなくなる」というタイプ。これでは、せっかくの素質を台無しにした歴史そのものなのである。
 

 「小学校時代はダントツ全国トップ」なのは、何ともおめでたいことであって、慶賀の至りである。素質として素晴らしいものを持っていることは、証明されたのである。だからこそ「小学校教育は優れている」という結論で終わるのではなくて、体育まで含めて「中等教育に何が足りないのか」「中等教育の何を修正し何を充実させれば、せっかくの素質をしっかり花開かせることが出来るのか」を議論しなければならない。いまのところ(全国トップになって丸々1年経過するというのに)その議論を誰も始めようとしないのが、非常に残念である。
 

(写真上:快晴のヴェネツィア・サンマルコ寺院前。大混雑の始まり)


 4月23日、ヴェネツィアの2日目は朝からたいへんな快晴で、こんなによく晴れてしまうと何だか返って反抗して部屋で眠っていたくなるものである。何故かというに、ヴェネツィアというところは、定番の観光地ならどこへ行ってもまず間違いなく、うっかりすれば踏みつぶしそうなほど(というより踏みつぶされそうなほど)大量の観光客でごった返していて、ほとんど身動きが取れない状況であることが、出かける前からハッキリ予測できるからである。ならば、快晴であればあるほど、好天であればあるほど、ゆっくりホテルで眠っていたりするのが豊かなお金持ちの過ごし方としては相応しいのである。
 

 しかし、ということは「豊かなお金持ち」ではない私としては、その快晴のヴェネツィアの雑踏の中にどうしても繰り出さなければならない道理になる。年末の日曜日に東京ディズニーランドに繰り出す勇気と同じことである。ムカつくことも分かりきっているし、身動きが取れないことも分かりきっているし、家族やカップルの醜いケンカや言い争いをイヤでも目撃し、泣き叫ぶ赤ん坊の声に悩まされながら2時間も3時間も行列に並ばなければならないことも分かりきっている。しかし、ヴェネツィアまで来て優雅にホテルで眠って過ごすには、年末のアメ横にも負けないほどの雑踏に踏み出す勇気を遥かに超越する勇気が必要だ。「ヴェネツィアで、何してたの?」と聞かれて、薄笑いしながら「うん? 雑踏がイヤだから、ずっと寝てたよ。あそこは、夜だけ楽しめればいいんだから」と答えるのは、さすがに秋田の国鉄職員の息子では無理である。
 

(写真上:快晴のヴェネツィア・パラッツォドゥカーレ前。いよいよ大混雑の真っただ中へ)

 そこで「混み合う定番は出来るだけ避けて」という方針を確認して、「リド島」「ブラーノ島」と、2つの離島を回ることに決める。混み合うディズニーランドでも「カントリーベアジャンボリー」「魅惑のチキルーム」「It’s a small world」狙いでいけば、少なくともイヤな思い出にはならないのと同じことである。そこでまず「秋田に学んで」「朝食をしっかり」とる。私流に「朝食をしっかり」とれば、フェラーラ&パルマの悲劇の再現(ぜひ080731080807を参照)になりかねないから、「秋田に学ぶ」にもほどほどにして、パンとチーズとハムに喉を詰まらせたりフリザンテの中でシュワシュワ溺れる夢(よかったら080828参照)にうなされないように注意を払う。ホテル・ルナ・バリオーニは少し奮発したホテルだけあって朝食も非常に豪華なものだったが、シャンペンがなかったのが何よりも大きな救いである。いや、シャンペンは置いてはあったのだ。しかし、置いてはあっても、栓は開いていない。それを「空けてください」というのは完全に無知蒙昧の輩であって、栓が開いていないシャンペンは「飲むものではなくて飾るもの」であり「ようし、今晩は、このシャンペンを飲むぞ」という決意を固めさせて、これからの長い1日を元気で過ごすように、元気づけモチベーションを高めて外に送り出すためのものなのである(ぜひ080705&ぜひ080708、それぞれ参照)。

 

(写真上:こりゃいかん。嘆きの橋付近から、ダニエリ、サンザッカーリア方面を望む。)

 で、午前10時、まだ混み合わないうちに、と思ってサンマルコ広場にでる。おお、おお。午前10時で既にもう完全に遅い。スペースマウンテンなんか120分待ち。ビッグサンダーマウンテンは、ファストパスでも19時30分からである。中国人ツアー集団、ロシア人大家族、ヨーロッパ人色とりどり、ありとあらゆる人々がサンマルコ広場に入り乱れて、日本人ツアー団体なんか、そこいら中で無惨に踏みつぶされている。
 しかし、さすがに私はベテランである。この1日、見事にこの殺人的な雑踏を逃れて、ヴェネツィアの休日を深夜1時まで、おそらく一度もイヤな思いをせずに、満喫したのである。クリスマスイヴのディズニーシーにだって、こういう見事なベテランが1人か2人は存在するのだ。若い諸君、ツベコベ文句を言っていないで、積極的にこの私にコツを聞きにきたまえ、うおっほっほっほ。がほ。

 


1E(Cd) Brendel(p) Previn & Wiener:
MOUSSORGSKY/PICTURES AT AN EXHIBITION
2E(Cd) Sinopoli & New York:RESPIGHI/FONTANE・PINI・FESTE DI ROMA
3E(Cd) Dutoit & Montréal:RESPIGHI/LA BOUTIQUE FANTASQUE
4E(Cd) Rubinstein:CHOPIN/MAZURKAS 1/2
5E(Cd) Rubinstein:CHOPIN/MAZURKAS 1/2
6E(Cd) Lima:CHOPIN FAVORITE PIANO PIECES
7E(Cd) Muti & Berlin:VERDI/FOUR SACRED PIECES
8E(Cd) Reiner & Wien:VERDI/REQUIEM 1/2
9E(Cd) Reiner & Wien:VERDI/REQUIEM 2/2
12D(DvMv) THE BOURNE SUPREMACY
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