Sat 080705 福岡・大橋講演会 コモ湖と朝のシャンペンのこと | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sat 080705 福岡・大橋講演会 コモ湖と朝のシャンペンのこと

 福岡に出張。羽田発13時35分のJALに乗り、福岡には15時過ぎに到着した。途中の空には薄い雲が何枚も何枚もミルフィーユ状にかかっており、巡航高度の10000mまで上がってもまだその上に薄い雲があって、空の濃い青を見ることはできなかった。今年の梅雨は早く開けそうだが、空の上はまだまだ梅雨が残っているようである。写真は博多駅前に飾り付けられていた「博多山笠」。

 

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 東京も暑かったけれども、さすがに福岡は暑い。分厚い雲に覆われて激しい夕立の気配さえ感じられるが、それでも空港から出ただけでもう汗が噴き出す。講演会会場は福岡・大橋の東和大学で、福岡の名門・筑紫丘高校の生徒諸君を中心に、300名近い出席者があった。「東進に来るのは初めて」という人も70名ほど混じっていたが、そのうち93%が「招待講習」など、何らかの申し込みを済ませてから帰った。ぜひこれをきっかけにして、成績向上につなげていただければ幸いである。今回の講演会を主催していただいた英進館大橋校、春日本館、二日市校の皆さんに大いに感謝する。職員の皆さん、助手・アルバイトの大学生諸君、誘導や企画を手伝っていただいた高校生諸君の活躍は素晴らしいものであった。特に、空調と音響のよくない会場でよく奮闘され、9割を超える継続率を達成する原動力になった松尾先生の頑張りには頭の下がる思いであった。
 

 開始18:00、終了19:30。九州の日の入りは遅い。終わって会場を出ると、ちょうど夕焼けの最後の光に西の空が真っ赤に染まったところだった。英進館・小清水先生の先導で懇親会。天神の名店「てら岡」で、イカ活き造り、信じがたいほど大きな関アジ&関サバなどを堪能。ひと仕事ガッチリ片付けた後の最高のビールを2杯飲み干し、焼酎から日本酒へといつも以上にいいペースで酒が進んだ。場所を私の宿泊先・ホテル日航のバー「夜間飛行」に移して、ウィスキーで2次会。今回の成功を祝い、来週日曜日に再び福岡(西新)で開く講演会での健闘を誓い合ってお開きにした。

 

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 写真は、雨のコモ湖。写真下がVilla D'Esteである。鉄道でコモ湖に行くには、ミラノから2つのルートがある。より一般的なのはカドルナから出ている私鉄ノルド鉄道に乗って、終点のコモ湖畔まで行くルート。もう1つがMilano Centrale駅から国鉄利用でCome San Giovanniまで行くルート。イタリア人は前者を選び、外国人(特に英米人)は後者を選ぶようである。私が今回国鉄を選んだのは、ただ単に宿泊先のホテルがMilano Centraleに近かったから。カドルナだと地下鉄で15分も移動しなければならなかったからである。
 

 ミラノからたった1時間の移動なのに、その1時間で地勢も天候も大きく変わる。1時間の間にこっそり坂道を走り続け、こっそり標高の高いところまで来ているのかもしれない。ミラノではあれほどよく晴れていた空がどんより曇ってしまい、ときどき細かい雨の気配もある。湖は濃い藍色にその曇り空の色を映して、重く揺れ動くばかりである。地形のせいで、雨の日と曇りがちの日が多いのかもしれない。
 

 5月16日、朝食は「ザ・ベランダ」のビュッフェである。「ベランダ」という言葉でこの朝食を見くびってはならない。我々にとってのベランダは昭和のホームドラマの舞台であり、そこには物干し台があり、洗濯物が翻り、ギターを弾く男があり、路地から声をかける隣人は風呂屋に行く途中の洗面器をかかえ、路地の向かいの家のベランダにはギターに合わせて歌う庶民的でダマされやすい気のいい娘がいた。しかし、今私が座った「ザ・ベランダ」の朝食には、なんとビュッフェテーブルにシャンペンが置かれているのである。ミネラルウォーターの瓶が林立し、4~5種類のジュースが置かれたテーブルの片隅に、決して間違いでもなんでもなく、たくさんの氷に冷やされた美しいシャンペンのボトルが入っている。
 

 朝食の席のシャンペン、などというものは、ほとんどの場合フェイクである。冷やしてもらえず栓も抜かれずに、ただ食卓を豪華に見せホテルを高級に見せるために、何ヶ月も前から、いや何年も何十年も前からそこに放置され、その場所からさまざまな人々のあさましい朝食の姿を寂しく見つめ続けてきたものばかりである。アジアのかなたからやってきた酒好きのクマさんなんかが、間違って「あのお、このシャンペンの栓ぬいてください」などと発言しようものなら、3日でも4日でもウェイターたちのネタになり休憩時間の冗談の種にされる。まあ、例外なくそういうものなのである。
 

 それなのに、おお、夢ではないか、このシャンペンは確かに氷水の中でおいしそうに冷やされているし、水を注ぎながら何度も何度も横目で確かめてみたが、どうみても栓が開いている。朝食の席のシャンペンが、本当に飲んでも許される状態で待っていてくれたのは、2005年のミュンヘン「ホテル・プラッツル」以来の珍事である。もしこの機会をむざむざ逃がすようであれば、それは酒に対する愛情が足りないのだ。何と言っても、これはシャンペンである。飲まなければ、放置すれば、知らんぷりをすれば、1時間も経たないうちに炭酸が抜けて、命を終えてしまうのだ。そんな薄情なことは、階段で困り果てているおじいさんやおばあさんを見つけて、それなのに見て見ぬフリをして荷物を運んであげないのよりももっとずっとよくないことかもしれない。
 

 ウェイターも他の客も、見ないようで、しっかり注目している。「そうですか、朝なのに、あなたはシャンペンを飲むんですか。そうですか」「いいんですよ、飲む人のためにおいてあるんですから。朝でも、シャンペン飲んじゃいけないなんて、誰が言うもんですか。へっへ、ほっほ」という顔で、みんなでこちらを見ないことにしている。しかし、それが違うのだ。人がやおら瓶を氷から出してグラスに注ごうとすると、他の客は一斉に視線をこちらに向け「おお、ホントに注ぐぞ、ホントに飲むぞ」「ほら、注いだぞ、ほら、泡が出てるぞ」「うぎゃ、そんなに注ぐかね、そんなにナミナミいくかね」「うお、やるねアジア人、やるね日本のヒゲ男」と目と目で言い合うのだ。
 

 ウェイターたちもなかなか微妙な包囲網で取り囲み、巧みな心理戦を仕掛けてくる。近寄るでもなく、放置するでもない。「注目はしています」けど「もちろんかまわないんです」しかし「朝ですよね」「大胆ですね」「他のお客様も驚いています」というわけである。さすがに「Enjoy!!」という声はかからないが、グラスをもって席に戻るときにはまさにヒーローであり、カーテンコールのハムレット役者にも負けない高揚感で満たされる。いや、花道を大見得を切りながら引き下がる歌舞伎役者に近いかもしれない。
 

 ただし、シャンペンをシャンペンのままテーブルに運ぶほどの大胆さは、さすがに東洋のクマさんにはなかった。大胆さも勇敢さも持ちあわせがなければ、卑怯で姑息な手段に訴えればいいのであって、私はここでミモザ作戦を採用することを決意。まずグラスに一番濃いめのオレンジジュースを1/7ほど注ぐ。そこへシャンペンを5/7ほど継ぎ足す。これで立派なミモザである。バーテンダーに作ってもらうミモザと違うのは、常軌を逸しているとしか形容のしようのないナミナミとしたその分量であるが、ナミナミとしていること、豊かであること、たっぷりと満たされていること、これが幸福の本質である。だから幸福のために飲む酒というものは、いつでも必ず飲みきれないほどナミナミしていなければ意味がないのだ。
 

 私が作ったミモザは、色も見事。これならシャンペンと見抜けない人も多いだろう。オレンジジュースにしては色が薄いけれども、ファンタオレンジぐらいには見えるかもしれない。つまり「スプレムータではなくてスッコなのだ」という何食わぬ顔で通せば、注いでいる姿を目撃しない限り、50人ばかりの客も、15人ほどウロウロしているウェイターたちも、私の本性を見破ることはできないわけだ。はっは。かっか。ほっほ。これで私の勝ちである。あとは、山のように皿に積んできたハムとチーズとサーモンとベーコンを相手に、たっぷり朝のシャンペンを楽しむことにした。こういう時に「野菜も食べなきゃ」「ヨーグルトも」「朝はミルクを」など、野暮なことをいうのは趣味が悪いのだ。
 

 ミモザが通るなら、と考え、そこから先は一気呵成にさまざまなカクテルを楽しんだ。カシスジュースがあったから、カシスとシャンペンのカクテルも作った。アップルジュースとシャンペンも悪くなかった。濃い褐色のプルーンジュースという凶悪な感じのものも置かれていたから、早速それとシャンペンの相性も試した。これがあまり感心できる味ではなかったので、再びミモザに戻って2杯飲み口直しにした。気がつくと、1時間ほどで、7杯飲み干していた。
 

 他の客はほとんどシャンペン攻撃に出ていなかったから、ほぼ丸々1本一人で飲んでしまったことになる。後でメニューを見て確認したところ、このシャンペンはディナーの席で飲むと1本約200ユーロ。まあシャンペンとしてそんなに高級なものではないのだろうが、3万円ほどをペロリと平らげて、まさに慶賀にたえない。大いに儲かって、たいへんおめでたい。腹の工場では大量のハムとチーズとベーコンの消化が開始され、そこにシャンペンの泡が混じって膨らみ、お腹が少々つらくないこともない。この1時間の行動に後悔が混じり始めたが、別にどうということもない。こういう幸せな朝は、もう1度ベッドに入って昼まで眠ることにすればいい。下の写真も、雨のコモ湖。

 

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