ゲド戦記最終巻。遂にここまで来たよ。

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故郷のゴント島で暮らすゲドのもとに、ハンノキというまじない師が訪れ、夜ごと死の世界に引き込まれそうになると相談をもちかけてくる。ゲドが3巻で、王子アレン(後のレバンネン王)とともに足を踏み入れ、世界の裂け目を閉じたはずの世界に、何が起きているのか。
一方で、再び竜が活発な活動をし始めた不穏さもあり、いよいよ世界の均衡が崩れだしているようだ。
逃れられない変化の兆しに直面したレバンネン王、魔法使いたち、テナーや竜の娘と言われる女たちは、どうしたらいいのかわからないまま、ロークの森に集結する。
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大魔法使いゲドの年代記のような物語。
4巻でテナーと出会い直したところから15年が経っており、ということは、ゲドは75歳ぐらいだと思われる。

魔法の力を無くしてから15年、大賢人とまで呼ばれた過去の栄光は捨て去り、ただの人として田舎でヤギを飼いながら、貧しくひっそりと暮らしているんだけど、テナーがいる生活は満ち足りているようだ。
テナーが大事にしていた水差しを割ってしまい、でも魔力がないので自分で直すこともできず、細かいカケラまで集めて取っておきながら、それを見るたび自分の不注意に腹を立てている。そんな描写があって、魔力の代わりに人としての謙虚さや優しさ、思いやりで内側を満たして生きているゲドが、もうめっちゃ良いと思った。

それは、村の女まじない師などに対する話し方ひとつにも現れていて、相手に阿るのでもなく、心から敬意を持ち、それが伝わる話し方だよなあと感嘆し、個人的にも真似したいと思ったぐらい。
そういうゲドの年の功というか円熟味がなんともいえない魅力であった。
この作品はゲドがメインではないので、それほど出てこないのが残念なんだけど、時々見えるそんな暮らしぶりが私は好きだなと思った。


ハンノキは死んだ妻に呼ばれているんだと思う。
眠ると死の世界に引きずられそうになるので、ハンノキは最終的に、自分の魔力と引き換えにして死の世界との繋がりを断ってもらうのだが、大したことない力だと思っていたにもかかわらず、いざ無くしてしまうと、世の中との繋がりまで無くしてしまったかのように感じて、悲しみや寂しさを味わう。

魔力を通じて人の「役に立つ」ということで、ハンノキは世の中と繋がっていたのかな。
その気持ちはゲドが力を無くした時と同じだった。
ゲドも、人の役に立てなくなったという一面が辛く悲しかったのか、と今更ながら思い返したのだった。それまでの繋がり方を、一から別物に組み立てなければならない辛さがあったのだなあ。
人を生の世界に繋ぎ止めているのは、生きているものや、人との繋がりを作っているものなんだな。
ハンノキとゲドの違いは、愛する人が生きてるか死んでるかだけだという気がしてきた。ハンノキの結末が、やっぱりどうしてもそうなってしまうのかと…

これらは私が興味深く思った部分で、メインストーリーとは少々外れている。
物語は、ゲドとテナーの(血が繋がらない)娘・テハヌー、竜のカレシンの娘でテハヌーと姉妹のアイリアン、テナー、砂漠の国から来た王女という4人の女を中心に、どうすればいいかと立ちすくむだけの魔法使いの男たちや、戸惑うレバンネン王を巻き込み、変化へと進み、大団円を迎える。

「全きもの」とか「全き世界」というのがあるのかどうかは私には疑問だ、というかそんなものはないと思う。
だからそのうち、ゲドがいなくなったアースシーの世界にも、再び何か問題が起こるかもしれないと思う。
それが普通だし、その時の人々が、またそれに立ち向かっていくしかないのだろうと考える。

全巻を通して壮大な物語で、一方で地に足のついた堅実な感覚が好き。すごく面白かった〜。