以前のタイトルは「ゲド戦記外伝」だったというこの本は、5つの物語から成っており、ゲドが大賢人としてロークにいた時代、魔法をなくしロークを去った後の時代、またゲドが現れるもっと前の話など、それぞれの時期が異なる話で構成されていた。

この中で私が好きなのは
◯地の骨
◯ドラゴンフライ
かな〜。

「地の骨」はゲドの師匠・オジオンとその師匠との物語。
オジオンは元々、沈黙の魔法使いなどと言われていたのだが、寡黙さを形作った師匠ヘレスとのエピソードを知ることができてよかった。

オジオンは、大地震を魔法の力で鎮めたとして人々から崇められていて、お話はその地震が起こった時のエピソードだった。地震を鎮めたのは、本当はオジオン1人の力ではなくて、師匠、そのまた師匠も加わって3人がかりだったのだ。
オジオンが光を浴びて後の2人の名は隠れてしまっているけど、名声など考えもしない献身というか、やるべきことをやったまでという彼らの姿が良かった。
オジオンの師匠はちょっとばかり変わり者だった気がするが、読んでいるとなんか可愛げがあるなと思って好感を持つようになり、癖のある食べ物にハマるみたいな気持ちを味わった。


「ドラゴンフライ」は田舎者の女の子が、実は大魔法使いでさえ見極められないほどの大きな力を秘めていたというところが面白い。
ロークの魔法学院には男しか入れず、女は学ぶことができない。しかしいろいろな状況が重なって、ドラゴンフライはそこに入場することだけはできた。
そこでわかってくるのは、学院内が旧態依然を貫くべきとする派と、そうでない派に、学生だけでなく9人いる長までが二分された状態だということ。

ゲドが死の危険を冒し、魔法の力を使い果たしてまで行ったこと(世界の裂け目を閉じる)は、これで世界が良くなるはずではなかったのか。
なぜ今まだ世界に争いごとや分断が存在し続けているんだろう。ゲドのやったことは無駄だったのか。
そんな気持ちにもなるのだけど、もし学院が変容を受け入れたら、世界はまた変わっていくんだろうか。
大きな力を持ちながら、時代の分かれ目に戸惑うばかりで、なす術もない魔法使いたちの在り方が皮肉に思えたし、悲哀も感じた。
そんな人間たちの卑小さと比較してスケールの大きさを表している結末がいい。なんか苛々する気分も吹き飛ばされたような気持ちになる龍