​ゲド戦記
①影との戦い



ゲド戦記2巻。
1巻目だけでも完結しているように思ったけれど、その後のゲドが描かれているこの物語も面白かった。

今回読んでいて前と違うと思ったのは、お話がゲド目線で描かれていないことだ。
小さい時に、アチュアンにある神殿の生贄として連れてこられた大巫女アルハが主人公なのである。
12章のうち5章は、アルハが15歳になるまでの世間と隔離された境遇が描かれていて、ゲドは5章の終わりにやっとこさ登場するので、最初の方はちょっと読むのやめようかと思った(笑)

神殿は「名もなき者たち」と呼ばれる闇の力に仕えるためのもので、地下の大迷宮には宝物が隠されている。
ゲドは、古の大魔法使いエクス・アクベの失われた腕輪の半分を持っていて(そのエピソードは1巻にある)、もう一つの片割れを探しに大迷宮に忍び込む。
その腕輪が一つに戻れば、帝国を中心とした国々の争いをおさめることができるはずだと。
そして大迷宮を管理する大巫女アルハに見つかり、捕えられたのだ。

1巻のゲドは多分19〜20代前半ぐらいなのかな。
そこからしばらく経っているということで、この巻では20代後半ぐらいだろうかと推測する。
若いけど魔法使いとして大きな力を持っていて、だけど態度は偉そうぶったところもなく、伸びやかさまで感じさせ、外から見たら魅力的な青年である。

アルハはゲドを大迷宮に閉じ込めたものの、外の世界の象徴である彼が気になってしまい、神殿には内緒で何度か会ううちに互いに信頼が生まれ、真の名前まで教え合うように。
閉ざされた世界で暮らしてきた彼女は、今の境遇から逃げ出したい気持ちと、知らない外界への恐れの間で揺れ動くが、最終的に彼女が決めたのは…


神殿の価値観を信じきっていたアルハだが、それが違っていたと知った時の動揺は、現実でもあることだろう。特に逃げ出せないと諦めていた環境については、状況が変わっても心理的に縛りつけられていることもある。
苦しい選択だけどどちらの環境を取るか、自分で考えて自分で決めたということが大事なのだろうと思った。

1巻はゲドがひたすら自分を掘り下げ、自分の中の影と向き合っていったけど、今回はアルハという他者を闇から救い出すという、前回とは少し違う闇との戦いに。

ゲドはアルハに真の名前を教えたので、なんだか恋愛モードが入ってるのかなと思ったけれど、それにしても、例えば頼りがいという名の強引さなどをもってアルハを導くスーパーヒーローにはならなかったのが良かった。
ゲドはアルハの選択を助けただけで、彼女の思考を奪ってはいないのだ。
華々しくはない、けれど彼女に一番必要なものをあげるやり方が、一見地味と言えるかもしれないけど、堅実で良いなと思った。

★気に入ったセリフ
「いいかい、生まれ変わるためには、人は死ななきゃならないんだ。」

「ひとりでは、誰も自由になれないんだ。」

禅問答のようだけど真を突いてると思う。