今回は、事業計画を作る際に気を付ける事柄を簡単に解説してみたいと思います。

 来期の事業計画を作る際に考えの土台によく据えられるのが「借入金の返済予定額」です。

 「来期は、月額で125万円、年額にすると1500万円の返済が予定されているので、最低でも返済額1500万円ぐらいの利益が必要だな」から計画を組み立てて行くケースです。

 果たしてそれで良いのでしょうか?

 

 例えば、1500万円の返済財源を産めるだけの売上高を計算すると、1500万円の利益に予想される固定費3800万円を加算して5300万円の粗利益が必要だとわかります。

 この会社の粗利益率は40%ですので、必要粗利益額の5300万円を粗利益率の40%で割り込みます。すると必要売上高である13250万円が求められます。そして、この13250万円を来期の必達売上高とするのです。

 

 待って下さい。もしこの会社の当期の売上高が10000万円だったとしたらどうでしょう。一気に来年は当期の1.3倍を超える売上高を上げるなどということは大変なことだと思います。

 結構このように理解されている人が多いのではないでしょうか。

 

 そこで、一つ調べていただきたい事柄があります。

 『要返済借入金額』をきちんと調べて認識していただきたいということです。

『要返済借入金額』は、このような式で算定されます。

 

 要返済借入金額=借入金額合計-運転資金-現預金

 

 重要なポイントは「運転資金」は要返済借入金から控除する。この「運転資金」というのは利益で返済するものではないからです。

 運転資金は、算式(売掛債務+在庫-買入債務)で求めます。

※詳しくは以前のブログ『借入の返済は「利益+減価償却費」だけじゃない!』をお読みください。

 

 さらに、現在手持ちのいつでも利用可能な現預金も要返済借入金額を求めるときには借入金の合計額から差し引きます。いつでも返済が可能な手持ち資金はいわば財務余力ですから。

 

 では、この会社の「運転資金」と利用可能な現預金が以下の通りだと仮定します。

 運転資金=500万円+1200万円+800万円-950万円=1550万円

となります。

 この金額については、返済金額に含めないのが、今の考え方です。いわゆる借りっぱなしという概念です。仮に返済していれば、折返し融資で元に戻せる借入金とも言うこともできます。

 

 さらに、いつでも使用可能な手持ちの現預金が1000万円あったとすると、要返済借入金額は、以下のようになります。

 

3600万円(現在借入残高)-1550万円-1000万円=1050万円

 

この要返済借入金額1050万円をだいたい3年くらいのスパンで返済すると仮定すると、毎年300万円程度の返済を考えればよいということになります。

 利益額300万円で売上高を再計算すると売上高は10250万円で良いことになり、背伸びをしないで済みます。

 おいおい、でも来期の返済額は1500万円でしょうが?と言われる向きもあるかと思います。

 その点は、財務施策で対応可能かと思います。

 たとえば、借入金②残高700万円を折り返して、再び2000万円の借入として1300万円の資金を作る方法。

 また、信用保証協会の「短期継続融資保証」(いわゆる短コロ)制度などで固定化された運転資金部分の返さない借入金を作る方法。

 などの財務施策が考えられます。

 

 ここで、申し上げたいのは、借入金の返済額から安易に夢のような事業計画を作らないように注意しないといけないということです。

 

要は、財務管理能力の問題だと思います。

 

 私たちが良く使うところの“利益”ですが、決算書で表現される“利益”は5つ+1つが存在します。

 図にある通り、まず、売上高から売上原価を差引いた「売上総利益」。そこから販売費及び一般管理費を差引いた「営業利益」。さらには「経常利益」や「税引前利益」、そして「当期利益」がそれに当たります。そして、同じように売上高から変動費を差し引いた「限界利益」が重要とされるもう一つの“利益”に当たるというのは、異論のないところでしょう。

 

 “利益”と言えば損益計算書上に出て来る“利益”を想定される人が多いと思います。それらの“利益”も重要なことには変わりはないのですが、もう一つ決算書の別な箇所に重要な“利益”が隠れていることをご存じでしょうか。

 

 それでは、皆さんに質問です。

【問い】決算書で一番悪いとされるコンディションはどのような状態でしょうか?

 

 この答えとしては、「債務超過の状態」を上げることができると思います。債務超過(さいむちょうか)とは、債務者の負債の総額が資産の総額を超える状態。つまり、資産をすべて売却しても、負債を返済しきれない状態です。

 

 実は、最も大切な“利益”は、実は貸借対照表(B/S)の中に隠れているのです。

 貸借対照表(B/S)の純資産には、『利益剰余金』という勘定科目が存在します。利益剰余金とは、利益準備金+別途積立金+繰越利益剰余金(いわゆる創業から現在までの“利益”の積み重ね)を言います。

 

 債務超過という状態は、会社経営の状態が大きく損失に傾き、損失の蓄積ともいえるこの利益剰余金が資本金を食潰してしまった状態ということが言えます。

 

 ここで、経営の大きな教訓とも言えるものがあるのをご存じでしょうか。

『P/Lの赤字は、B/Sの黒字の範囲内であれば許されるが、B/Sの赤字は許されない。』というものです。

 

 P/Lとは損益計算書のことです。P/Lの成果とは、1年ルールで結果が計算されるますので、成績が良かった年もあれば、そうでなかった年もあって当然です。仮に成績が不調で、赤字に終わった年があるとします。その年の赤字が貸借対照表上の利益剰余金の黒字の金額の範囲内であった場合、赤字であったこと自体は決して褒められるものではないのですが、許容の範囲内であるということです。

 しかし、B/Sの赤字であるところの、いわゆる「債務超過」は許されるものではないという意味です。

 

 この「利益剰余金」をイメージすると、以下のような感じでしょうか。

 経営者の中には、この「利益剰余金」の存在を全く意識していない人が多くいるように思えます。特に、無理や無駄な節税に奔りがちな経営者の方をたまに見かけますが、「経営の本質や目的」について立ち止まって考えて見てほしいと思います。

 

 また、この「利益剰余金」ですが、損益計算書上の損失計上の他にも、株主への配当を行っても減少してしまいます。

よく、この「利益剰余金」の額について具体的な目安について聞かれることがありますが、最初の目標としては、売上高の2割程度の積立が必要であると言われます。

 

 損益計算書の“利益”も企業経営にとっては大切な利益には違いはありません。しかし、それ以上に貸借対照表に隠れる“利益”にも経営者としての配慮が必要ということです。

 3月決算の申告も終わり、今度は社長が銀行等にわが社の決算内容を説明するシーズンとなっています。この時、銀行員が決算書の中で一番気にする数字について、社長が熱く語ることによって、その後の銀行員が社長を見る目が変わってしまうかもしれない、という数字の数々と、語るべき内容についてお話しします。

 

まず、B/S(貸借対照表)科目です。

・ 【現預金】:会社が立ちいかなることを倒産と言います。この最大の原因はお金が無くなることです。ですから、会社の現預金額はとても大切な数字だと言えます。この現預金額を社長が正確に把握していることが大切なのですが、この金額をある尺度を使って語ることでより効果が出るのです。その尺度とは「月商の何カ月分」というものです。『現在の現預金は“月商の2か月分”なんですが、これを何とか3か月にしたいと考えているんです』とかと表現します。銀行員からすると「この社長、なかなか分かっているな」となります。
 

・【自己資本(額)】:銀行員が決算書の中で気にする数字のひとつは自己資本です。ここがマイナスだと“債務超過”といって、銀行員は嫌がります。会社が成長するということは、この自己資本額が増えて行く状態です。自己資本比率ではありません。社長が今の自己資本が幾らで、これを『〇〇円まで大きくすることが経営目標なんですよ』と語ることが大切だということです。銀行員が、自分たちが気にしている数字を社長も同じく気にしているんだな、と思わせることも大事なのです。
 

・【売掛金・在庫】:この数字が過去5年間を比べて見て大きく増えた場合は要注意です。必ず銀行員は質問してきます。社長としては、なぜ増えたのか、理由を即答できるようにしておくことが大切です。売掛金や在庫が大きく増えた場合、銀行員は必ずと言っていいほど“粉飾決算”を疑って来るからです。
 

・【貸付金】:銀行員が一番嫌いな科目です。銀行が会社に貸したお金を社長や他の第三者に又貸ししているのではないかと疑われる原因にもなります。この科目についてはきちっと説明できること、そしてどのように減少させるのかの道筋をしっかりと示す必要があります。

 

 つづいて、P/L(損益計算書)科目です。

・【5段階利益】:P/L上の利益には5つの利益があります。「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前利益」「当期利益」の5つです。銀行員との会話の中で、今どの利益について話しているのかが双方で一致しないと、話がかみ合いませんし、うまく伝わりません。また、話がおかしな方向に行ってしまいます。利益の中でも大切な利益と言えば「営業利益」であり、この利益のことを『本業での儲け』と言いますので、覚えておいてください。
 

・【減価償却費】:減価償却費というのはお金の出て行かないコストですので、資金繰り上は利益にプラスして考えることができるのです。過剰な設備投資などのケースを除けば、「減価償却費が多くて利益が少ない状態」は減価償却費が利益を押下げている状態なので、資金繰り上は懸念材料とはなりませんが、「減価償却費が少なくて、尚且つ利益も少ない」状態だと、銀行員には『大丈夫なのかな』と思われたりもします。社長としては、今年の減価償却費は一体いくらなのか。さらに来年はいくらの減価償却費が計上できるのかを知っておくべきだと思います。
 

・ 【実質経常利益】:保険金収入や補助金収入を「経常利益」の前にある収益科目である雑収入金額に参入して、「経常利益」を大きくして、さも儲かっているように見せる決算書も見受けられます。それらは本来の会社の実力ではありませんから、「経常利益」から除いて考えるべきなのです。社長としては、当期のイレギュラー(非経常的)な利益を除いてのわが社の実力をきちんと把握して、報告すべきなのです。

 

・【債務償還年数】:現在の有利子負債(借入金)を現在のキャッシュフローで返すと何年かかるかの指標です。ここを語れる社長は、絶対に銀行員から一目置かれる存在となります。ここで言うところの有利子負債とは厳密に言うと、正常運転資金(売掛債務+在庫-買入債務)を差引いた金額となることに注意が必要です。さらにここから現預金残高を刺し行く場合もあります。また、キャッシュフローは簡易計算で当期利益+減価償却費で求めることも可能です。
 これを算式にすると、


 

 さて、皆さん方は自社の決算書のなかでいくつの数字を理解し、説明できるか考えたことがありますか。もっもっと自社の決算書を身近なものと感じて、上手く説明でき、より熱く語れるようになれるように努力してみてください。