ひと頃「借金=悪」、「無借金経営=善」などと言われていた時期があります。「借金はリスクが高いから、借金などしないで『無借金経営』を目指しましょう!」と言われることなどもあります。

 

 ところで、この「借金はリスクが高い」という表現はいかがでしょうか?どうもリスクの意味をよく理解していない方の助言のように思えます。

 借金にはリスク(不確実性)など存在しません。100万円の借金が50万円になったり120万円に増えたりすることはあり得ないからです(ただし変動金利の利子自体にはリスクはあります)。その意味では借金は無リスクなのです。

 

 さて、会社が倒産してしまう原因は何だったでしょうか?借金があったからでしょうか?倒産の原因はあくまでも「資金(お金)」が尽きてしまうことです。借金があっても「資金」が潤沢にあれば、会社は潰れてしまうことは決してありません。

 借金が悪者扱いされる最大の原因は、企業倒産情報などの発表の仕方からです。例えば『株式会社〇〇破綻。負債総額××億円』とか書かれます。まるで借金があったから倒産したかのような書き方が原因なのです。

 問題なのは、多額の借金があったことではなく、その借金を返すことのできるお金や資産が無かったことなのです。

 極端に言えば、借金に見合うだけの資産がある限り、どれほど借金が積みあがろうが問題はないというのが、会計学的な考え方となっています。

 

 しかし、借金の返済に苦労した経験のある社長さんの多くは口を揃えるかのように「無借金経営」こそ理想のわが社の姿かのように語ります。

 でも、「無借金経営」には思いもしないデメリットが存在するのです。前述の通り、借入金が会社を潰すのではなく、倒産の原因は資金の枯渇なのだというのが会計の常識だということです。

 

 それでは、「無借金経営」に潜む経営苦境の罠とも言えるデメリットです。

①絶えず資金繰りの不安に悩まされる

②いざという時に、銀行からの融資が受け難くなる

③②が原因で、倒産リスクが高まる

④目の前のビジネスチャンスに対応できないケースが出て来る

⑤会社の成長スビートが鈍る

 以上、5つが良く語られるデメリットです。

 

 5つのデメリットの中で特に②と③が重要です。ポイントは、「無借金経営」の会社は『どの銀行とも“信頼関係”が構築できていない』という目には見えない大きな弱点があるからです。もし、このような会社からの融資の申し込みがあった場合、金融機関は慎重にならざるを得ません。

 

たとえば、こんなケースを考えて見ましょう。以下のような会社Aと会社Bがありました。ある日両社に共通の得意先である会社Cが経営難に陥っているという情報が舞い込みました。月末に予定されている売掛金の入金が遅れるかもしれないとのことです。仮にこの遅延売掛金の額が会社A、B共に200だとしたらどうでしょうか。さらに、月末に支払が予定されている賃金等の額が150だとすると、「無借金経営」の会社Aは間違いなく資金繰りに窮してしまうのです。

 もし、会社Aが銀行に救済を申し込んだとしても、銀行はなかなか応じようとはしない事でしょう。

 

 これが「無借金経営」の怖さの一つです。

 会社Bは借金以上に現預金を積んでいます。これを『実質無借金経営』と言います。いつでも借金を返して「無借金経営」とすることができます。

 でも、『実質無借金経営』を行っている会社の社長さんはそんなことはしません。資金が無くなることが倒産の主な原因であることを心得ているからです。

 

さらに、④と⑤のデメリットはなぜ生じるのかを考えて見てください。資金のある会社とない会社の決定的な差がなせることです。

 

 ④の理由として考えられるのは、例えば、大口の仕事の受注が可能であった場合です。その受注をこなすために必要な資金が手元になかった場合、受注を諦めざるを得ないこともあるかもしれません。このような場合、銀行に必要資金の融資をいきなり申し込んでも貸してくれるかはわかりません。

 

 常に資金というもは、ある程度潤沢に保持しておくことが会社成長をもたらす経営手法だといわれます。たとえ、その資金が借入による資金であってもです。

 一度、自社のバランスシートを見つめなおしてみてください。

 

 

 スーパーマーケットでの「賢いお買い物術」は有名です。“値引札”が張られるタイミングを見計らってお得にお買い物をする技ですね。

 『生鮮食品の値引き開始は夕方から閉店までよ』とか、『加工食品は朝一が最高よ、昨日閉店までに売れなかったものが、更に値引されるの』などと奥様方の間でよく語られる話です。

 

 今回は、スーパーのタイム・セールのお話ではなくて、昨今話題となっている「ダイナミック・プライシング(変動価格制)」を考えて見ようかと思います。

 

 ダイナミック・プライシングとは、買いたい人(需要)と、売りたい人(供給)の状況によって価格を柔軟に変化させる価格戦略のことを言います。

 

 例えば、行楽地のホテルなどの宿泊施設や航空運賃などは、シーズンなどや曜日配列などによって価格設定を変化させています。

 需要の高まりや、低下などの変化に敏感に価格を変化させることにより、通常の固定価格では取り逃がしてしまう消費を確保し、売上高の最大化を図っているのです。

 

 「薄利多売」は、「薄利(利益が薄い)」+「多売(多く売る)」で成り立つモデルです。反対に「厚利少売」は「厚利(利益が厚い)」+少売(少なく売る)」で成り立ちます。

 

 いずれも、価格を変動させることで、潜在顧客曽へのタッチが可能となり、固定価格では取り逃がしていた『機会損失』エリアを埋めることができる価格戦略と言えます。これがダイナミック・プライシングなのです。(上図)

 

 雨の日と晴れの日でタクシーの運賃が変化したり、通勤時間帯とそうではない時間帯とでは、電車賃に変化を持たせたりとダイナミック・プライシングを採用するケースも増えつつあります。

 

 今のところダイナミック・プライシングの対象は、

 

1.使用期限に限りのあるもの

2.在庫として翌日には持ち越せないもの

 

に限られているようです。

 

 たとえば、生鮮食品や賞味期限のある食品などが上げられますし、タクシーや新幹線の座席、ホテルや旅館の客室はお客が利用しない限り在庫であり、翌日には持ち越せません。また、コンサートなどのチケットも同じです。

 

 ダイナミック・プライシングのメリットは、売上高並びに収益の最大化が期待できることです。廃棄ロスの削減や航空機の空席などの不良在庫の削減にも効果があります。

 

 しかし、ダイナミック・プライシングのデメリットとしてよく語られるのが、価格変動(特に高価格帯への変動)に不安を感じるユーザーが離れてしまうことです。欲しいタイミングで価格が高くて買えなくなってしまうと、「金持ちでないと買えない」と反感を持たれてしまう可能性もあります。

 

 ダイナミック・プライシングは昔から存在していました。そして、価格変動の陣頭指揮を執っていたのが、長年の経験や勘を持つ熟練社員達でしたが、昨今では、特に大企業を中心に、膨大なデータを基に売れ行きを予測してダイナミック・プライシングを行うAI(人工知能)に置き換わろうとしています。

 

 さあ、通常の売上守備範囲から脱して、「薄利多売」から「厚利小売」までを幅広くカバーして、これまで逃して来た利益(遺失利益)の獲得への道を授けてくれるダイナミック・プライシングの手法ですが、わが社でも工夫次第で利用できないかを考えて見ることも大事なのかもしれません。

 

 昨今流行りの「サブスク(サブスクリプション)」の定期購入ビジネスですが、「あれ!こんなものまで....サブスク?」などと驚くようなビジネスモデルが現れています。これと同じように、工夫次第では、「あれ!これもダイナミック・プライシング?」というビジネスモデルが、御社に潜んでいるかもしれません。

 

 

 経理部の社員からの報告で「社長、本年の決算書の売上高は9億円でした。10億には届きませんでした」と報告されて、『よし、来年はガンバルぞ!』と意気込む社長はどのくらいいるでしょうか? 大概は『そうですか⤵』と意気消沈した返答しか社長からは返りません。こんなことでは会社の成長などは到底見込めません。

 

 多くの社長さんが「私は数字が苦手なんだ」と仰います。その中で、よく混同されているのが『経理と会計の違い』です。

 

 経理とは、正式には「経営管理」の略称です。「経営管理」とは、組織目標達成のために人・モノ・金・情報といった経営資源を管理・設計することを意味します。経理の具体的業務は、売上管理や仕入れ管理、給与計算や保険管理、税金の計算、決算書の作成など多岐に渡ります。属する会社の規模や上場しているかどうかによっても業務内容は大きく異なってきます。

 

 一方会計とは、会社全体のお金の流れを把握し、記録することが主な業務です。経理と会計の主な違いとしては、経理の業務は会社の「日々」のお金を管理することであるのに対し、会計の業務は会社の「全体」のお金を管理することだと言えます。

 

 経理は会社の日々のお金のやりとりを把握することが求められるのに対して、会計は会社のお金全体を管理し、決算報告書として会社全体の情報を提供することが求められます。ただし、経理であれ、会計であれ最も大切な作業は決算書を作成することではなく、「どのようにすれば(あとどのくらい数字的に頑張れば)会社がより収益を上げられるのか」を示すことだと思います。

 

 なぜ、売上目標・利益目標が達成できなかったのか?なぜ、コストが予算を超えてしまったのか?を社長を始め各部門の責任者に考えてもらうための基礎となるデータを示すことが経理・会計それぞれの目的なのです。

 そこで問題となるのが、経理部門からアウトプットされる数字です。その数字が、全く使えない数字なのか、はたまた『ようし、もう少し頑張ってみよう』と思わせるような使える数字なのかが問題なのです。

 

 例えば、使えない数字の一番目としては、『比較できない数字』です。月次決算の報告で、前月だけの売上高や営業利益などの数字があっても、それだけでは全く使えません。前月の売上高が1億円、営業利益が5百万円だと言われても、それが良いのか悪いのか、あるいは良くなっているのか悪くなっているのかの判断が全くつかないからです。

 

 次に使えない数字の二番目は、『大きな数字』です。経理部から上げられてくる数字は、殆どがこの『大きな数字』の塊です。

 ・売上高が1億円足りなかった。

 ・売掛金が5千万円増えたので資金繰りが厳しくなった。

 ・水道光熱費が予算より20%超過した結果となった。

 などなどです。そのような報告を受けたとしても、どの部署が何をどうすればよいのか、全く具体的な行動に結びつかないからです。

 

 その他、使えない数字としては『古すぎる数字』などがあります。

 

 会社を活性化させるポイントの一つは、製造部門の効率化や、営業部門の頑張りなどももちろん必要なのですが、経理部門が会計の知識をフル活用して「使える数字」を社長や現場に伝えることも重要なことなのです。

 

 では、「使える数字」とは何でしょうか。これはまさしく「使えない数字」の裏返しの数字のことです。

 例えば、売掛金全体で〇〇万円増加したという数字の報告だけではなく、より具体的に、得意先のどこそこでどれくらいの期間の未回収があるのかを確認し、金額が多い若しくは回収までの期間が長いところから重点的に対策を取ることができるような数字を提供しなくてはならないのです。

 

 「使える数字」の最初は、『分解され、比較できるように加工された数字』です。まず、大きな数字は分解して小さくして、比較可能となるように単位などを共通化するなど加工を加えます。

 

 (数字を小さく)
・部門別やライン別

 ・得意先別や製品・商品別など

 (単位を揃える)

 ・お客様単位(消費単価)
・売り場面積当たり

 ・1日当たり、1週間当たり

 

 次の「使える数字」は、『現状が分かる、または将来が見通せる数字』です。

 会社の現状把握のために、社長が用いている数字に月次決算(試算表)の数字があります。月次の決算を出すこと自体には大変大きな意味はあるのですが、問題はそのタイミングです。

 経理部では基本的に、現場サイドから上がってくるデータを集計して、月次報告書としてアウトプットします。このアウトプットされた数字はどうしても過去のものとなります。数字となる事象が発生してからデータとなるまでには一定のタイムラグが生じます。このタイムラグが1カ月なのと、1週間なのとでは大きな差です。締日から1ヶ月近くも経ってから月次報告が出されても、現状とのズレが大きすぎて役に立ちません。

 「現状が分かる」数字としては、このタイムラグをいかに短くするのかがカギとなります。この部分に経理部門のリソースを充てるような工夫が必要なのです。

 

 次に「将来が見通せる」数字として、資金繰り表があります。月次決算を行っている会社でも資金繰り表まで作成している会社は少ないと思います。

 会社の存続にとって最も重要なのはキャッシュの状況です。決算書上の売上が減ろうが営業利益がマイナスになろうが、それらは直接的に会社の存続を脅かすものではありません。しかし、キャッシュの不足は直接的に企業活動の停滞を招き会社の存続を脅かします。

 

 この「将来が見通せる」数字を経理部門が“会計の概念”を持って総力をあげて加工・創造することがこれからの会社組織運営の肝になると思われます。

 経理部が日々の経理作業だけに捕らわれずに、広い視野で会社の会計業務をこなすようになり、会社のあらゆる活動を使える数字として加工し報告することを可能にすることが企業の組織改革の第一歩なのではないでしょうか。