経理部の社員からの報告で「社長、本年の決算書の売上高は9億円でした。10億には届きませんでした」と報告されて、『よし、来年はガンバルぞ!』と意気込む社長はどのくらいいるでしょうか? 大概は『そうですか⤵』と意気消沈した返答しか社長からは返りません。こんなことでは会社の成長などは到底見込めません。

 

 多くの社長さんが「私は数字が苦手なんだ」と仰います。その中で、よく混同されているのが『経理と会計の違い』です。

 

 経理とは、正式には「経営管理」の略称です。「経営管理」とは、組織目標達成のために人・モノ・金・情報といった経営資源を管理・設計することを意味します。経理の具体的業務は、売上管理や仕入れ管理、給与計算や保険管理、税金の計算、決算書の作成など多岐に渡ります。属する会社の規模や上場しているかどうかによっても業務内容は大きく異なってきます。

 

 一方会計とは、会社全体のお金の流れを把握し、記録することが主な業務です。経理と会計の主な違いとしては、経理の業務は会社の「日々」のお金を管理することであるのに対し、会計の業務は会社の「全体」のお金を管理することだと言えます。

 

 経理は会社の日々のお金のやりとりを把握することが求められるのに対して、会計は会社のお金全体を管理し、決算報告書として会社全体の情報を提供することが求められます。ただし、経理であれ、会計であれ最も大切な作業は決算書を作成することではなく、「どのようにすれば(あとどのくらい数字的に頑張れば)会社がより収益を上げられるのか」を示すことだと思います。

 

 なぜ、売上目標・利益目標が達成できなかったのか?なぜ、コストが予算を超えてしまったのか?を社長を始め各部門の責任者に考えてもらうための基礎となるデータを示すことが経理・会計それぞれの目的なのです。

 そこで問題となるのが、経理部門からアウトプットされる数字です。その数字が、全く使えない数字なのか、はたまた『ようし、もう少し頑張ってみよう』と思わせるような使える数字なのかが問題なのです。

 

 例えば、使えない数字の一番目としては、『比較できない数字』です。月次決算の報告で、前月だけの売上高や営業利益などの数字があっても、それだけでは全く使えません。前月の売上高が1億円、営業利益が5百万円だと言われても、それが良いのか悪いのか、あるいは良くなっているのか悪くなっているのかの判断が全くつかないからです。

 

 次に使えない数字の二番目は、『大きな数字』です。経理部から上げられてくる数字は、殆どがこの『大きな数字』の塊です。

 ・売上高が1億円足りなかった。

 ・売掛金が5千万円増えたので資金繰りが厳しくなった。

 ・水道光熱費が予算より20%超過した結果となった。

 などなどです。そのような報告を受けたとしても、どの部署が何をどうすればよいのか、全く具体的な行動に結びつかないからです。

 

 その他、使えない数字としては『古すぎる数字』などがあります。

 

 会社を活性化させるポイントの一つは、製造部門の効率化や、営業部門の頑張りなどももちろん必要なのですが、経理部門が会計の知識をフル活用して「使える数字」を社長や現場に伝えることも重要なことなのです。

 

 では、「使える数字」とは何でしょうか。これはまさしく「使えない数字」の裏返しの数字のことです。

 例えば、売掛金全体で〇〇万円増加したという数字の報告だけではなく、より具体的に、得意先のどこそこでどれくらいの期間の未回収があるのかを確認し、金額が多い若しくは回収までの期間が長いところから重点的に対策を取ることができるような数字を提供しなくてはならないのです。

 

 「使える数字」の最初は、『分解され、比較できるように加工された数字』です。まず、大きな数字は分解して小さくして、比較可能となるように単位などを共通化するなど加工を加えます。

 

 (数字を小さく)
・部門別やライン別

 ・得意先別や製品・商品別など

 (単位を揃える)

 ・お客様単位(消費単価)
・売り場面積当たり

 ・1日当たり、1週間当たり

 

 次の「使える数字」は、『現状が分かる、または将来が見通せる数字』です。

 会社の現状把握のために、社長が用いている数字に月次決算(試算表)の数字があります。月次の決算を出すこと自体には大変大きな意味はあるのですが、問題はそのタイミングです。

 経理部では基本的に、現場サイドから上がってくるデータを集計して、月次報告書としてアウトプットします。このアウトプットされた数字はどうしても過去のものとなります。数字となる事象が発生してからデータとなるまでには一定のタイムラグが生じます。このタイムラグが1カ月なのと、1週間なのとでは大きな差です。締日から1ヶ月近くも経ってから月次報告が出されても、現状とのズレが大きすぎて役に立ちません。

 「現状が分かる」数字としては、このタイムラグをいかに短くするのかがカギとなります。この部分に経理部門のリソースを充てるような工夫が必要なのです。

 

 次に「将来が見通せる」数字として、資金繰り表があります。月次決算を行っている会社でも資金繰り表まで作成している会社は少ないと思います。

 会社の存続にとって最も重要なのはキャッシュの状況です。決算書上の売上が減ろうが営業利益がマイナスになろうが、それらは直接的に会社の存続を脅かすものではありません。しかし、キャッシュの不足は直接的に企業活動の停滞を招き会社の存続を脅かします。

 

 この「将来が見通せる」数字を経理部門が“会計の概念”を持って総力をあげて加工・創造することがこれからの会社組織運営の肝になると思われます。

 経理部が日々の経理作業だけに捕らわれずに、広い視野で会社の会計業務をこなすようになり、会社のあらゆる活動を使える数字として加工し報告することを可能にすることが企業の組織改革の第一歩なのではないでしょうか。