今年になって“コロナゼロゼロ融資の借換保障”制度がスタートしました。コロナ融資の3年間返済猶予期間が経過してもなお、借入返済の目途が立たない中小企業を対象に、「もう3年間返済猶予を伸ばしてあげましょう」とする制度です。ただ、時間稼ぎだけが企業戦略ではないと思います。まずは、事業を再構築して、儲けることができる体制を作り上げることが大事なわけです。

 

 ゼロゼロ融資で四苦八苦している中小企業が、今取り組まなければならないものの一つに「差別化戦略」があると思います。

 

 “皆が同じ製品で同じ売り方、サービスの提供をやっているから、売れないし、儲からないんだ”とよく言われます。難しい表現で言えば、「完全自由競争」のもとでは、超過利潤(正常な利潤を上回る利潤)はゼロになると説明します。

 

 「完全自由競争」とは、

①    同質な製品・サービスを提供している(同質化)

②    同じようなプレーヤーが多数存在している

③    参入・撤退のコストが低い(参入障壁が無いか、あっても低い)

④    企業間の資源・能力の移動コストが低い

⑤    全てのプレーヤーが同じ情報にアクセスが可能である

という条件のもとでの競争です。

 

 このような環境では、他社よりも儲けてやろうと考えることは不可能なことです。

 しかし、反対にこれらの条件の一つでも崩すことができれば、利益を確保できるとこがお分かりいただけると思います。

 

 まず、条件①あるいは④を崩す打ち手が「差別化」です。条件②を崩す打ち手としては「独占化・寡占化」があります。さらに、条件③を崩すには「参入障壁の構築」があり、条件⑤を崩す手法が「情報の非対称性の構築」ゃ「特許等」の取得が上げられます。

 

 「差別化」の反対語は「同質化」です。競合他社と似たり寄ったりの製品・サービスを提供することです。競合他社と差が無いのであれば、お客様かあなたの会社の製品やサービスを選ぶ理由がありません。そうなると、最終的には価格を下げてお客様に選んでもらうしか手はなくなります。その結果泥沼のような価格競争に陥ってしまうのです。

 

 そのような「同質化」からの脱出を試みるのが「差別化」というわけです。

 

 それでは、「差別化戦略」立案への一つのプロセスを簡単に組み立ててみましょう。

 

◎自社のあるべき姿をイメージして見る

 いわゆる目標の設定です。戦略とは「自社のあるべき姿(目標)を決めて、そこに到達するためのアクションを実行すること」です。まず、目標の設定が出発点となります。

 

◎「常識・前提」を疑ってみる

 「差別化」と言っても、やみくもに他社と違うことをしても失敗する可能性が高くなります。「差別化」を成功させるための手段の一つに上げられるのが、業界の常識やビジネスの前提を疑ってみることです。

 例えば、ユニクロのビジネスモデルは、アパレル業界で決まって言われていた「お客様は毎年同じものを着ることを嫌がる」という前提を崩すことから生まれたのです。

 また、クロネコ便は、「個人荷物の配送は儲からないから、郵便局が行うのが普通」という常識を覆すことからスタートしたのです。

 

◎「集中」して、他を「捨てる」

 中小企業の経営戦略として叫ばれているのが「選択と集中」です。限られた資源をより効率的に活用するために「集中」が重要となります。要するに『1つの事業・製品・顧客に資源を投入し、経験を累積させるべき』ということなのです。しかし、「集中」するためには、他を「捨てる」ことが必須となります。

 例えば、アパレルメーカーのZARAの例をあげると、

≪顧客≫

・【集中】若者・都会派(ただし裕福ではない)

・【捨てる】熟年層・流行に無頓着な人

≪商品≫

・【集中】手ごろな価格で短期的なサイクルのもの

・【捨てる】品質・耐久性。定番商品

≪店舗≫

・【集中】若者がアクセスしやすい都心の商店街

・【捨てる】ロードサイド店・ネット店舗

 

 集中するものと、捨てるものを明確にすることがポイントとなります。

 

最後に有名な「差別化戦略」の実例を見てみましょう。

どれもこれも、差別化戦略を考えた時のプロセスが見えて来そうですね。

 昔、生命保険会社の地方支店で、営業部署から何か面白い話をしてくださいという依頼を受けたことがあります。

 あれこれと悩んだ挙句に、保険セールスで使えるだろう考え方をお話しすることにしました。内容としては概ね以下の通りです。

 

 お客様が購買をしない、保険会社で言えば保険契約を拒まれる場合などによくある4つの壁についての話です。

 

  上の図が「買わない4つの壁」です。これは、お客様がこの4つの要素のうち1つでもお持ちになっていると、まず販売には繋がりません。

 一つずつ簡単に見て行きましょう。
 

1.       不信
「怪しい?」という気持ちです。この壁は4つの内で一番高い壁です。どれだけ良い商品やサービスでも、まず信用されなければ誰も買ってはくれません。

2.       不要
お客様に信頼されても、お客様がその商品やサービスを必要としていなければ、これもまた販売へは繋がりません。お客様も気づいていない使い方や便益を教えてあげることも必要となります。

3.       不適
商品やサービスの必要性が理解できたとしても、「自分には使いこなせない」とか「自分にはそぐわない」「予算と合わない」

4.       不急
最後に立ちはだかるのは、「それって今じゃなくてもいいでしょう」の壁です。良いもの、便利なものだとわかってもらっても最後に「今は必要ない」と思われたら、これも販売には繋がりません。“今だけ!”キャンペーンなんかで、この壁の高さを低くすることも戦略としてあると思います。

 

 お客様が買い渋る場合、この4つの壁のどれかが影響しています。どんな壁がお客様の購買行動の妨げとなっているのかを詳しく分析して、どのようにしてその壁を取り除くかを考えて見る必要があります。

 

 次に、お客様に“与えるべき”3つの要素です。これは、全ての要素をお客様が持っていなければ、お客様はお買い物はできないというものです。

 

 昼時となりお腹が減って来た。ポケットを探ると500円玉があった。さて、コンビニは何処だ?

 私たちが買い物をする場合、何々が欲しいという欲求(腹が減って何か食べたい)と、資金(500円)、さらに情報(コンビニの位置)が揃って行動に移すことができるのです。

 

 このように、お客様に商品やサービスを提供する場合には、欲しいと思ってもらい、リーズナブルな価格提案や適切な支払い手段や資金準備の提案、そして正しい情報を提供する。この3点をセットする形でお客様に与えなければなりません。

 

 お客様が買う3つの要素を与えること、お客様が買わない4つの壁を取り除くこと、ビジネスの基本となります。

 

 今回も一倉定先生の教えを引用することにします。以下は「一倉定の経営心得」からの引用です。

~≪引用≫企業の利用できる資源の効率を高めるには、低収益商品を切り、それを高収益商品に投入する以外にない。....「捨て去る」ことの難しさは、現実には想像以上である。ところで、低収益商品を捨てるといっても、「どれが低収益商品であるか」について、伝統的な全部原価計算でやると、とんでもない間違いを犯すのである。せっかくの意思決定も、その根本から間違っては大変である。...低収益で赤字の商品でも、付加価値を生み出しているかぎり、それを捨てると、それによって得られていた付加価値まで失うのだ。

 一方、固定費はほとんど変わらないから、会社全体としてはマイナスになるのだ。だから、低収益商品を捨てる場合には、それに代わる、より高収益商品がなければ、それによって得られていた付加価値分だけ、会社の収益が減る、と思っていなければ、意思決定を誤ることはないのである。≪引用終わり≫~

 

 この一倉先生の教えは、「損益管理単位(事業・製品)」ごとの収益性の高低を実際に見極めることから始めなくてはなりません。

 『伝統的な全部原価計算でやると......』は、至極的を得たものだと思います。

 

 損益管理単位ごとの収益性の高低を判断するためには、全社ベースの売上高やコストを損益管理単位ごとに分解して、損益管理単位ごとに利益が出ているかどうかを見る必要があります。コストの分解は、変動費と固定費に分けて把握することが重要です。これら分解の結果得られる損益管理単位ごとの限界利益や貢献利益の高低が、収益性の高低を表します。

 

 例えば、いくつかの製品を製造している事業体について、製品(損益管理単位)ごとの収益率の高低を比べることを想定すると、以下の図【設例】ようになります。

 

 

 コストの分解は、変動費と固定費に分けて把握することが重要です。これら分解の結果得られる損益管理単位ごとの限界利益や貢献利益の高低が、収益性の高低を表します。

損益管理単位ごとの利益を見る際には、限界利益と貢献利益の各段階で黒字になっているかどうかを把握することが重要です。

 

 限界利益とは、売上高から個別変動費を差し引いた金額のことをいいます。これは、追加的な売上に対する利益(限界利益)であり、個別固定費を回収できているかどうかを表しています。

 限界利益が黒字の場合は、売れば売るほど利益が増加するわけですから、より限界利益率(限界利益÷売上高)の高い損益管理単位を中心に、売上向上を目指すことが必要です。  

 限界利益が赤字の場合は、売れば売るほど損失が拡大するわけですから、販売価格の値上げや材料費率の低減等により短期的な改善の見込みがある場合を除き、当該損益管理単位からは直ちに撤退すべきと判断されます。このため、限界利益は短期的な撤退基準として利用されることがあります。

 

 貢献利益とは、限界利益から個別固定費を差し引いた金額のことをいいます。これは、損益管理単位固有の利益であり、本社費の回収にどれだけ貢献しているかを表しています。

 貢献利益が黒字の場合は、共通費の回収に貢献しており直ちに問題にはなりません。貢献利益が赤字の場合は、限界利益が黒字であっても、共通費の回収に貢献していないわけですから、変動費や固定費の削減可能性等を検討した上で、数年内に改善が見込まれない場合には、当該損益管理単位からは撤退すべきと判断されます。このため、貢献利益は中期的な撤退基準として利用されることがあります。

 

 上記設例で、製品Cについては、限界利益がプラスであるため、当期の損益のみをもって直ちに撤退する必要はありませんが、過去の損益推移や中長期的な改善可能性を十分に検討した上で、撤退も含めて検討することになります。なお、撤退する場合は、撤退する製品製造のための従業員の一部再配置はしたとしても、その人件費(固定費)相当額は他製品の固定費や本部に引き継がないように留意する必要があります(引き継ぐ場合には、再度収益性の分析が必要となります)。

 

 今回の一倉先生の教えは、本設例で言えば製品Cを切り捨てる際の留意点を示されているわけです。企業経営において、切り捨ててはいけないものを切り捨てたり、切り捨て方を誤ったりするケースはできれば避けたいものです。