今回も一倉定先生の教えを引用することにします。以下は「一倉定の経営心得」からの引用です。

~≪引用≫企業の利用できる資源の効率を高めるには、低収益商品を切り、それを高収益商品に投入する以外にない。....「捨て去る」ことの難しさは、現実には想像以上である。ところで、低収益商品を捨てるといっても、「どれが低収益商品であるか」について、伝統的な全部原価計算でやると、とんでもない間違いを犯すのである。せっかくの意思決定も、その根本から間違っては大変である。...低収益で赤字の商品でも、付加価値を生み出しているかぎり、それを捨てると、それによって得られていた付加価値まで失うのだ。

 一方、固定費はほとんど変わらないから、会社全体としてはマイナスになるのだ。だから、低収益商品を捨てる場合には、それに代わる、より高収益商品がなければ、それによって得られていた付加価値分だけ、会社の収益が減る、と思っていなければ、意思決定を誤ることはないのである。≪引用終わり≫~

 

 この一倉先生の教えは、「損益管理単位(事業・製品)」ごとの収益性の高低を実際に見極めることから始めなくてはなりません。

 『伝統的な全部原価計算でやると......』は、至極的を得たものだと思います。

 

 損益管理単位ごとの収益性の高低を判断するためには、全社ベースの売上高やコストを損益管理単位ごとに分解して、損益管理単位ごとに利益が出ているかどうかを見る必要があります。コストの分解は、変動費と固定費に分けて把握することが重要です。これら分解の結果得られる損益管理単位ごとの限界利益や貢献利益の高低が、収益性の高低を表します。

 

 例えば、いくつかの製品を製造している事業体について、製品(損益管理単位)ごとの収益率の高低を比べることを想定すると、以下の図【設例】ようになります。

 

 

 コストの分解は、変動費と固定費に分けて把握することが重要です。これら分解の結果得られる損益管理単位ごとの限界利益や貢献利益の高低が、収益性の高低を表します。

損益管理単位ごとの利益を見る際には、限界利益と貢献利益の各段階で黒字になっているかどうかを把握することが重要です。

 

 限界利益とは、売上高から個別変動費を差し引いた金額のことをいいます。これは、追加的な売上に対する利益(限界利益)であり、個別固定費を回収できているかどうかを表しています。

 限界利益が黒字の場合は、売れば売るほど利益が増加するわけですから、より限界利益率(限界利益÷売上高)の高い損益管理単位を中心に、売上向上を目指すことが必要です。  

 限界利益が赤字の場合は、売れば売るほど損失が拡大するわけですから、販売価格の値上げや材料費率の低減等により短期的な改善の見込みがある場合を除き、当該損益管理単位からは直ちに撤退すべきと判断されます。このため、限界利益は短期的な撤退基準として利用されることがあります。

 

 貢献利益とは、限界利益から個別固定費を差し引いた金額のことをいいます。これは、損益管理単位固有の利益であり、本社費の回収にどれだけ貢献しているかを表しています。

 貢献利益が黒字の場合は、共通費の回収に貢献しており直ちに問題にはなりません。貢献利益が赤字の場合は、限界利益が黒字であっても、共通費の回収に貢献していないわけですから、変動費や固定費の削減可能性等を検討した上で、数年内に改善が見込まれない場合には、当該損益管理単位からは撤退すべきと判断されます。このため、貢献利益は中期的な撤退基準として利用されることがあります。

 

 上記設例で、製品Cについては、限界利益がプラスであるため、当期の損益のみをもって直ちに撤退する必要はありませんが、過去の損益推移や中長期的な改善可能性を十分に検討した上で、撤退も含めて検討することになります。なお、撤退する場合は、撤退する製品製造のための従業員の一部再配置はしたとしても、その人件費(固定費)相当額は他製品の固定費や本部に引き継がないように留意する必要があります(引き継ぐ場合には、再度収益性の分析が必要となります)。

 

 今回の一倉先生の教えは、本設例で言えば製品Cを切り捨てる際の留意点を示されているわけです。企業経営において、切り捨ててはいけないものを切り捨てたり、切り捨て方を誤ったりするケースはできれば避けたいものです。