以下引用は、「一倉定の経営心得」からの引用です。

~≪引用≫『無為無策の社長の関心は「経費節約」である。それらの社長は、決算書を見てもチンプンカンプンであり、損益計算書から低業績あるいは赤字と知っても、打つ手が分からない。そこでのめりこむのが経費節約である。

 経費に焦点を合わせて、これを節減しようとしても、よほど放漫な会社を別にすれば、経費を五%節減しようとしたら、ほとんどの会社で日常活動に大きな支障をきたすことはまず間違いない。

 「経費節減病」というのは多くの会社で繰り返しかかる病気であり、不景気や業績低下時に重傷となる。しかし経費節減で成功した会社は世の中にないのである。だから経費節減を試みるなどやめるべきである。』≪引用終わり≫~

 

 いゃあ、手厳しいですね。

 

 また、以下のようにも続けられています。

 

~≪引用≫『事業の経営というものは、経費をおさえるという消極的な態度ではなく、売上を積極的に上げ、利益を大きくすることこそ肝要である。

 経費をおさえることは極めて難しく、利益を上げる可能性は非常に多いからである。』≪引用終わり≫~

 

 経費を絞る努力をするより、積極的に売上を上げる努力をする方が簡単であり、利益を上げる可能性が多くなることを言われています。「乾いた雑巾を、更に絞り上げる」なんてことは、到底できることではないと思います。そのような力があるのであれば、新たな商品・サービスを生み出す、新規顧客を開拓する、既存顧客を深堀するようなことに使うことの方がよほど効率的に結果がでるのではないでしょうか。

 

 今回は、私がつべこべとここに書いたことを読まれるより、一倉先生の言葉をここでじっと噛みしめて見られるのもよいでしょうね。

 令和元年12月に金融庁の「金融検査マニュアル」が廃止されてから三年が経ようとしています。この「金融検査マニュアル」は平成11年度の金融機関の検査から使用されてきたもので、バブル崩壊に伴う不良債権の増大により。従来の金融機関の資産査定中心の検査から、リスク管理重視型の検査への切り換えが行われたのでした。

 

 その頃から日本国中で、『借入金の返済原資は、利益+減価償却費』と言われ出しました。原因は、今から考えれば、この「金融検査マニュアル」の解釈間違いだったという説が正しいのかもしれません。ただ、今の若い金融マンは、『借入金の返済原資は、利益+減価償却費だぞ!』って先輩から教わって来ていることでしょうがね。

 

 では、ここで簡単なビジネス・モデルを使って説明してみましょう。

 web上で絶対ヒットするであろうと思える標品を見つけたとします。そして、その商品の仕入れ値は100万円だとします。

 綿密な事業計画書を作成し、銀行の担当者に融資の申し込み行います。そして、銀行からその商品の仕入れ代金100万円の融資を受けて①、ネット販売を開始します。販売価格は120万円です②。予想通り、その商品は瞬く間に完売し、販売代金120万円が入金されました③。

 

 この商売でゲットした利益は20万円です。

 では、銀行から融資を受けた借入金の返済財源は何でしょうか?

 答えは『売上代金から返す』ですね。おそらく銀行に提出した事業計画書にも返済原資は『売上代金』と書いているはずです。

 

 ビジネスにおいては、仕入れに係る借入金の返済原資は、利益ではなく、『売上代金』とするのが正解なのです。それを、金融検査マニュアルが幅を利かすようになってからは、その解釈が歪められてしまったということです。

 

 ただ、仕入れに係る借入金を売上代金で返してしまうと、手元資金が残りません(正確には利益部分が残ります)。次の仕入れをするための資金が不足する状態となり、再び次のビジネス継続のための資金を銀行から融資してもらわなければならなくなります。その度毎に事業計画書を作り...なんてしていたら大変です。

 

 金融検査マニュアルが施行される前までは、上記のような仕入資金(運転資金)の融資には、短期の手形借入金が使われていました。「短期継続融資」と称して、手形借入金を期日ごとに書き換えて継続した融資を続行し続けていたのです。これを「短期転がし融資(通称短コロ)」と言っていました。

 

 もう一度おさらいすると、「仕入」⇒「在庫」⇒「販売」⇒「回収」という営業サイクルの中で、「在庫」から「回収」までの間、資金は寝てしまいます。ここの部分から仕入の未払金(仕入債務)を控除した残額が『運転資金』であり、この『運転資金』を金融機関からの借入金で賄った場合、その借入金を返済する原資は、「売上代金」となるわけです。算式で示すと以下のようになります。

 この『運転資金』の返済財源である「売上代金」は、次の販売のための仕入れと金として費消されてしまいますから、当初の借入金の返済はできません。ですから、「短期継続融資」という融資が必要となるわけです。

 

 そして、融資には、もう一つ大切な融資があります。それは、モノを製造したり、販売したりするための設備を購入するための資金を確保するための融資です。所謂「長期設備資金融資」というものです。この融資の返済財源こそが「利益+減価償却費」なのです。ここを混同してしまっているわけです。

 

 借入金の返済原資には、2つの種類があることがお分かりになられましたでしょうか。

 ・運転資金の返済原資は ⇒ 売上代金

 ・長期設備資金の返済原資は ⇒ 利益+減価償却費

 

 これが真実です。

 今回はキャッシュフロー計算書について書いてみようと思います。

 

平成10年(1998年)にキャッシュフロー会計が導入されるまで、決算書といえば主に損益計算書と貸借対照表を指していました。

 その当時、キャッシュ(資金)に関する情報としては貸借対照表において決算日時点における現預金の金額というストック情報を提供するのみで、その会計期間中においてどれだけの資金が流入し、そして流出していったのかという資金の動きに関する情報までは提供していませんでした。

 損益計算書においても会計期間中の収益や費用の発生をフロー情報として提供するものの、その会計期間において実際にどれだけの資金を事業に投下し、それがどの程度回収されたのかという情報までは提供していませんでした。

 それに対してキャッシュフロー計算書では、貸借対照表や損益計算書では提供することができない会計期間中におけるキャッシュの流入と流出、損益を度返ししたところでの投下資本とその回収状況という収支に関する情報をダイレクトに表示することができます。

 

 それでは、「利益」と「現金」の関係についてですが、「利益」の量は、損益計算書でモニターできます。しかし、「現金」の量は、損益計算書ではモニターできません。「利益」とは「自己資本」の増減であり、「現金」の増減とは全く関係がありません。【図表1】

 そして、「損益(利益)」と「収支(現金)」がズレる理由は4つあります。

①     発生主義と現金主義の違い

・・・損益計算書は発生主義のルールで作成

②     現金を支出していないが費用が計上できるケースがあること

・・・減価償却費や引当金など

③     現金を支出したが費用とならないケースがあること

・・・建物などの固定資産を購入した場合など

④     現金の増減はあるが損益に関係ないケースがあること

・・・借入や資本金の変動など

 

 以上のような要因によって、「利益」と「現金」の乖離が生まれるわけです。よく言われている『勘定合って、銭足らず』ですね。

 

 次に、キャッシュフロー計算書の構造について簡単に説明します。現在日本で一般的に使分けているキャッシュフロー計算書の方式は“間接法”です。国際会計基準では“間接法”ではなく、もう一つの方式の“直接法”を重要視しています。

 ここでは、“間接法”方式で説明します。

 

 キャッシュフロー計算書は全体として3つのブロックに大きく分かれていています。

①  営業活動によるキャッシュフロー
(本業でいくら現金を増やせたか)

②  投資活動によるキャッシュフロー
(設備投資等にいくら使ったか)

③  財務活動によるキャッシュフロー
(借金をしたのか、返したのか)

です。

 

このうち、営業活動によるキャッシュフロー計算書を示すと様式は以下の通りです【図2】。

 前述のとおり、営業活動によるキャッシュフローは“本業で幾らの現金を増やせたのか”を確認するものです。企業経営にとっては根幹ともいえるもので、この項目で赤字が続くということは事業そのものを見直さざるを得ないということになります。

 

 では、その構造にご注目ください。

 まず、スタートは利益金額からです。前述の図表1を思い出してください。利益金額からスタートとてし、現預金の増減にかかわる絵解きをしていくのです。

 ざっくりと利益金額にB/S上の流動資産・負債の勘定科目の増減額を加減算することで、営業活動によるキャッシュフローが求められることにお気づきだと思います。

 なぜこのようになるのかを説明したのが【図表3】です。

 利益金額から出発して、流動資産科目の増減を加減算することで、営業で幾ら現金を増やせたのかを計算することができるのです。

 

 このことを逆に捉えれば、日々の営業活動は、最終的には「損益」としてその成果が示されますが、様々な勘定科目の増減を同時に招いています。その勘定科目の増減をうまくコントロールすることによって、お金を増やしたり、減らしたりすることができるということです。

 

 利益と現金の乖離に悩んでいる経営者の皆さん、一度真剣にキャッシュフロー計算書を覗き込んで見られてはいかがでしょうか。

『稼いだお金は、いったいどこへ消えたのか?』思わぬ勘定科目にその答えが隠されているかもしれませんよ。