ビジネスの基本としてよく言われるものの一つが「5W1H」というツールです。例えばコミュニケーションツールとして利用することによって、相手に伝えたい情報の趣旨が明確になり、かつ過不足なく伝えることができます。

 この「5W1H」ツールをマーケティングに活用した例で見ると、

こんなところでしょうか。

 この表を参考に、御社のビジネスを分解して考えて見てください。

 

今回はこの中で、御社は「何を売っていますか?」を取り上げて見たいと思います。どうです、答えられますか?

 

『こんなもん簡単じゃねぇか!肉屋だったら“肉”を売っているし、本屋だったら“本”を売っているんだよ』って思っていませんか。

 

では、問い直します。「お客様は、何(どのような価値)に対してお金を支払ってくれるのでしょうか?」

ココがビジネス・モデルを考えるうえで、一丁目一番地なのです。

 

何度も言いますが、考えたことってありますか?

『あなたは何を売っていますか?』

 

 有名な例をあげて見ましょう。

 

 『我々が売っているのは、職場でもない、家庭でもない「第3の場所」です。ゆっくりとした雰囲気の中でリラックスしていただくことが商品です。』という企業、どこだかわかりますか。

 

 店舗は職場の近くのビジネス街、あるいは買い物でテンションが高くなる商業地(もしくは商業施設内)。

 店舗の雰囲気は、間接照明で大きめのソファ。リラックスする場所を提供。

 メニューは普段は口にしないような商品構成で、「第3の場所」を意識させる。

 

 答えは、スターバックスです。スターバックスの商品はコーヒーじゃありません。職場でもない、家庭でもない「第3の場所」であって、コーヒーは単なる手段なのです。

 

 わが社は何を売っているのか?わが社の商品は一体何なのかを考えて見ることをお勧めしたいと思います。

 

 たとえば、写真屋さんだとしたら、もしかすると『家族の思い出づくり』のお手伝いが「本当の商品」なのかもしれません。

 

 さらに、本屋さんの「本当の商品」は何でしょう?棚に並んでいる本の「鮮度」が本屋さんの売る「本当の商品」の一つだと考えられます。新聞広告に載ったり、TV放映されたりした書籍がすぐ棚に陳列されている本屋さん。もしかすると、鮮度管理の善し悪しが訪れるお客の数を左右しているのかもしれません。

 

 このように、自分たちが売る「本当の商品」探しをして、何度か失敗を重ねるうちに、本当の商品(ヒット商品)に出くわすかもしれません。

 

 『あなたは何を売っていますか?』一度、立ち止まって考えて見てください。

 ハンバーガーチェーンで有名なのはマクドナルド(マック)とモスバーガー(モス)ですね。どちらが好きですか?という話ではなくて、双方の商品戦略のお話です。

 

 マックとモスの戦略の違いは有名な話しですが、これも名著『「トレードオフ~上質をとるか、手軽をとるか~」著者:ケビン・メイニ―氏』に書かれている内容を切り口に考えて見たいと思います。

 商品やサービスを世の中により浸透させようと思えば、二つの軸を想定し、かつ、うち一つの軸は捨てなければならないというのです。その二つの軸とは、「上質」と「手軽」です。

 「上質」とは、ファンに愛され希少価値の高いもの。消費者に特別な経験を提供し、オーラを発し、ブランドとしての個性を持つもの。

 「手軽」とは、身近にあり必要とされるもの。入手のしやすさに加えで、価格が安価であるもの。

 さらに、この二つは両立しない、トレードオフの関係だというのです。

 

 それでは、マックとモスを比べて見ましょう。

 いかがでしょうか、マックは「手軽」に軸足を置き、「上質」は捨てています。反対にモスは「上質」に軸足を置き、「手軽」は捨てています。

 仮に、マックが「上質」な商品を提供して見たり、モスが「手軽」な商品を提供し出すようなことがあれば、おそらく消費者には受け入れられないことでしょう。現実に、ご紹介した書籍の中にはこのようにあります。

『マクドナルドはこれまでに何度か、テーブルクロスやウェイターサービスを用意したくつろげるレストランを開店したが、ことごとく失敗に終わっている。人々がマクドナルドを訪れるのは手軽だからにほかならず、この利点を生かしたまま高級レストランに変貌を遂げるのは不可能というものだ。』

 これがビジネスを成功させるための二者択一なのです。

 

 次にこの“二者択一戦略”で、アパレル業界の商品戦略を見て見ましょう。

 

 よく比較の対象となるアパレルメーカーの例として話題にされる、「ユニクロ」と「ZARA」です。

 それぞれの特徴をまとめて見ると....。

 ユニクロもZARAもアパレル業界では成功したビジネスモデルです。それでは、「上質」と「手軽」の軸で考えて見たいと思います。

 まず、ZARAですが、これは「手軽」が軸足となっています。相対する「上質」には、有名百貨店に出品するようなブランドファッションメーカーが位置します。流行ファッションを追うという若者のニースに、安さと手軽さを実現したビジネスモデルです。

 

 次に、ユニクロです。「ユニーク・クロージング・ウェアハウス」を略したブランド名がユニクロとなっています。より良い素材を使い、長持ちするものを提供しています。戦略として「上質」に軸足を置いていると言えると思います。

 

 この「上質」と「手軽」の二つの軸ですが、成功しているビジネスモデルを当てはめて見ると結構腑に落ちるものです。

 『この軸で商売をやっているのか!』なんてね。

 

 ただし、決してやってはいけないことは、「上質」と「手軽」の両方を狙おうとしてしまうことだと言われます。前述のマックの上質狙いのようなものです。

 

 二者択一の世界を貫いてこそ、ビジネスの繁栄と継続があるのです。

 

 これは、かつてプロ野球界を湧かせた野村克也監督の座右の銘としてあまりにも有名ですが、江戸時代の肥前国第9代平戸藩主、松浦清(隠居して静山)の言葉です。

 

 この言葉の意味するところは、「負けるときには、何の理由もなく負けるわけではなく、その試合中に必ず何か負ける要素がある。一方、勝ったときでも、すべてが良いと思って慢心すべきではない。勝った場合でも何か負けにつながったかもしれない要素ある」というものです。

 

 試合に勝つためには、負ける要素が何だったかを抽出し、どうしたらその要素を消せるかを考えていく必要がある。また、もし勝ち試合であっても、その中には負けにつながることを犯している可能性があり、その場合は、たとえ試合に勝ったからといって、その犯したことを看過してはならない、という戒めを述べているのです。これはビジネスも全く同じではないでしょうか。

 

 『黒字に不思議の黒字あり、赤字に不思議の赤字なし』

 

 「黒字経営を続けている事業所であっても、赤字につながる要素・要因は必ず潜んでいるものである。赤字につながる要素にはどのようなものがあるか、自社はその要素を排除する努力を行っているかを絶えず意識しておくことが重要なのである」

 赤字経営に転落するには、何の理由もなくそうなることは決してないと思われます。経営者は「勝つ経営」ばかりを無理に狙わず、「負けない経営」を地道に目指すのも一つの方法だと思います。

 

 どうすれば「勝ちに繋がるか」を探すことも重要な事だと思いますが、「何をすれば(若しくは「しなければ」)失敗するのか」を知ることも大切なことです。

 

 また、孫氏の兵法にこのような名言があります。

 一言で言えば、「勝つべくして勝つ」ということです。派手なプレーばかりが称賛されるような風土が組織に芽生えると、みんなが目立つプレーや起死回生のホームランばかりを狙い始める結果につながったりもします。

 

 「勝つべくして勝つ」の真髄は、誰もが注目もしないような地味な事前準備を一つ一つコツコツと積み重ねていくことが徹底できるかどうかに尽きるのです。そのような地道な努力を称賛するという組織風土を作り上げることが経営のよい結果につながるということだろうと思います。