『このような商売が、こんな立地で成り立つのだろうか』と思わせるようなお店を時折見かけることがあります。

 昔見た「ど根性ガエル」というアニメの主題歌に「♪どっこい生きてるシャツの中♪」という歌詞がありますが、そのフレーズ通りに「どっこい生きてる...この商売」とでも言いたげです。

 

 さて、山田 真哉.さんの「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?~身近な疑問からはじめる会計学~」からご紹介したレストランのストーリーです。まず、ベッドタウンに現れたお高いフレンチレストラン。このレストランが商売を続けることができる理由は何なのだろうか?と、疑問に思うところから始まります。

 

 商売とは利益が無ければ、継続して商いを続けることはできません。そこで、利益を出すためには、当たり前のことですが.....

 さあ、このレストランの種明かしです。

 サラリーマン家庭が多いベットタウンに高級レストランが出現。実はこのレストランのトイレにこのような募集チラシが貼ってあったのです。

 

 

 高級フランス料理店が、レストランで稼ぐ傍ら、料理教室とワイン教室をそれぞれ運営しているのです。

 さらに、料理教室・ワイン教室を運営しているレストランであるがゆえに、高級なお店である必要があるというわけです。

 

 生徒としてのターゲットは、家庭の主婦です。サラリーマン家庭の多い町が格好の立地を提供するのです。そして、各教室の会場はレストラン、講師はスタッフを活用することで、このビジネスの費用は....

 

①    場所代はレストランを利用するので、追加の費用は0円

②    講師料は、店のスタッフを使うので、追加の費用は0円

③    広告費は、店舗へ来る客に店内掲示でアナウンスするので、追加費用は0円

徹底して固定費かけずに収益事業を行うことが可能となります。

 

 この商売のカラクリをもっと追及すると、

● 一番の客層と考えている主婦層は、自分の生活圏内に料理教室があるので都合が良いと考える。

●講師陣が高級フランス料理店のシェフやソムリエであるため、受講料を高めに設定しても説得力がある

●教室の受講生がレストランの客としてリピートしやすい

●客層が主婦層なので口コミによる誘客効果も期待できる。

 

 という点が上げることができるでしょう。

 筆者の山田氏は、このようなビジネスモデルを『連結経営』と称しています。

 

 ソニーが音楽事業や映画事業を行ったのも、CDコンポやテレビ・DVDプレーヤーの売上に繋げるための連結経営。

 インターネット企業である楽天が証券会社を買収したのも、増えつつあるネット投資家が楽天の本業である自社サイトを利用するといった相乗効果を期待してのことだということです。

 

 『自社にとって、今やっている本業と、相乗効果が高いビジネスモデルは無いか?』と考えて見てはいかがでしょうか。

 

 コロナ禍でも大変頑張っている企業もあります。個人事業を卒業していよいよ「法人成り」へと。『役員は?』『資本金は?』『名称は?』『事業目的の追加は無いか?』と色々決めて行かなくてはなりません。

そして、結構検討を後回しにされるのが『決算期は?』です。

 

 法人の場合決算期は自由に選択することができます。『令和2年度の国税庁統計年報』によりますと、国内の普通法人の決算期を見て見ますと、以下の図の通りです。

 3月決算法人は予想通り多いものの、各月々に散らばっているのが分かります。

 よく、『3月決算は会計事務所の繁忙期となるからやめておいた方が良い』とか言われます。麻雀で言う「スジ」ではないですが、3月決算、6月決算、9月決算は、法人の決算ラッシュとなっていて、会計事務所では超繁忙期を迎え、マンパワー的にも限界に近づくのも事実です。

 また、親会社や取引先などの決算月に合わせた方が良いのではと考えられている人も中にはおいでます。

 

ただ、単にそれだけの理由で大切な決算期を決めてよいものでしょうか。決算期の決め方のコツを考えて見たいと思います。

 

 ◆“最も美しい顔”の決算書を作る

 法人が決算期を迎えると必ず「決算書」が作成されます。この決算書は、税金の計算や、銀行から融資を受ける際にも必要となるものです。

 

 この決算書、どうせ作るなら見栄えの良いもの、金融機関からすれば「金を貸したくなるような」ものにしたいものです。いわゆる“美しい顔をした”決算書です。

 それでは、1年のうちで二つの時期に着目して、「貸借対照表(B/S)」がどのようになるかを見て見たいと思います。

 

 まず、最初の時期は、繁忙期(トップシーズン)である月を決算期とした場合です。

 仕入は増加し、棚卸商品も増加します。売上高は1年で一番大きくなり、売掛債権は通常の月の倍以上に膨れ上がったりもします。この時のB/Sは、説明の通り、売掛債権・棚卸資産・仕入債務が膨れ上がり、現預金が小さく縮んだものになっています。おまけに、純資産高も大きく膨れ上がってしまうのです。

 

 経営分析データ的には、売上債権回転率や棚卸資産回転率の悪化が指摘されてしまいます。人体になぞらえて言えば『血圧130超え』です。

 また、いくら利益を出したとしても、元手(総資産)が増えた状態ですので、経営指標で注目されがちのROA(総資産利益率)が悪化してしまいます。

 

 ROA=『当期純利益÷総資産×100』

 

 次に、このトップシーズンを経過した月(トップシーズンの翌月若しくは翌々月)で決算書を作成したとしましょう。

 トップシーズンで増加した売掛債権は順次回収され、その一部は仕入債務の支払いに回され、残りは現預金として蓄積されます。

 売掛債権・棚卸資産・仕入債務が縮小して、現預金が増大します。B/S全体の総資産額が減りますので、全ての回転率や利益率がトップシーズンを決算期とした時より改善します。

 ※損益計算書上の売上高等は、トップシーズンを通過していますので、さほどの違いは生じないと思われます。

 図で表すと以下のようになります。

 

 

 よく、繁忙期を決算期にしてはいけない理由として、実地棚卸の実施や決算にかかる様々な書類の整理に人手を割くわけにはいかないことが語られますが、財務面から見れば、『一番顔色が悪くなる月』だと言えるのです。

 

 そのような理由から、法人の決算期を決めるコツの一つとして、繁忙期を少し超えた時期を決算期とすることが上げられます。

 決算期から2ケ月後には納税が待っています。資金が潤沢に現預金に蓄積されている時期を決算期とすることの合理性を今一度考えて見てください。

 上の図は一般的なキャッシュフロー計算書です。

この計算書は、企業が資金をどういう手段で調達して、何に資金を投下し、そして回収しているかといった1年間の資金の動きを明らかにする帳票です。

 

 この帳票をグラフにしたものが以下で、優良型タイプのものです。

 

①   営業CF(キャッシュフロー)がプラス

②   投資CFはマイナス(=設備投資を怠らない)

③   財務CFはマイナイ(=借入金の返済に資金を回せる)

④   結果的に期末の現金残高が期首より増加している

 優良型の典型です。借入金の返済は、フリーキャッシュフロー(=営業CF+投資CF)の範囲内で行えることが絶対的な条件となります。

 

 次に、コロナ禍でのキャッシュフローを見て見ましょう。新型コロナ感染症拡大の影響を最も受けている飲食店などをイメージして見てみてください。

①   営業CFは時短営業などが原因で、大きくマイナス

②   投資CFは感染症対策などの投資が嵩み、マイナス

③   財務CFは金融機関からのコロナ融資により、大きくプラス

④   金融機関からの融資を得て期末の手持ち資金だけが大きくなっている

 

 このような企業が今は多いのではないでしょうか。手持ち資金が増えたといっても、資金の調達先が営業CFではなく、財務CFからとなっていますから、企業経営としては要注意というわけです。

 

 では、アフター・コロナでコロナ融資の返済が始まった後のキャッシュフローをイメージして見ましょう。

①   営業CFは、本来あるべきプラスへと変化するが、まだ完全ではない

②   投資CFは、設備の更新のためマイナス

③   財務CFは、コロナ融資の約定返済が始まり大きくマイナス

 

ここで、重要なのは、フリーキャッシュフロー(営業CF+投資CF)と、財務CFとの関係です。

 となっているかが重要なのです。フリーキャッシュフローが財務CFを上回っている限り、資金ショートは無いからです。

 上の例では、営業CFは25、投資CFは▲10であり、フリーキャッシュフローはプラスの15です。そして財務CFが▲35ですから、資金圧迫を招いている状態です。

 

 この場合の戦略としては、約定弁済額を変えないという前提では、二つ考えられます。

 戦略1:営業CFを拡大させる戦略を考え実践する

 戦略2:遊休資産を売却処分する

 至極当然な戦略なのですが、図表にすると以下のようなイメージとなります。

 【戦略①】営業CF拡大戦略

 これは言うまでもないことです。企業活動としては当然狙わなければならない戦略と言えます。

 ・たな卸資産の圧縮

 ・売上債権回転率の上昇などが考えられます。

 何度も繰り返しますが、重要なポイントはフリーキャッシュフロー(営業CF+投資CF)が、財務CFより大きいかどうかということです。
 

 【戦略②】遊休資産版客戦略

 遊休資産の中には、不要な保険積立金や有価証券なども含まれます。換金できるものは、この際思い切って換金してしまうことも戦略の一つです。

 

 いかがでしょうか、単なる数字の羅列であるキャッシュフロー計算書を図表化してみると、お金の流れがまるで生き物のように見えてきます。

 わが社のお金の流れの何処に問題があるのか。どこをターゲットとして対策を講ずればよいのかが見えてきます。

 

 最後に、企業のキャッシュフローの典型的な例を二つ図表にしたものをご紹介いたします。

【衰退型キャッシュフロー】

①   営業CFは、業績が伸びずマイナス

②   投資CFは、手持ちの遊休資産等を売却して資金を捻出

③   財務CFは、旧からの借入金を返済し整理するため大きくマイナス

 

【積極投資型キャッシュフロー】

①   営業CFは大きくプラス

②   投資CFは、急激な設備投資が原因で大きくマイナス

③   財務CFは、設備資金を金融機関からの融資で賄うため大きくプラス

 

企業として前向きなキャッシュフロー図表はどちらかということは、説明しなくてもお分かりになると思います。

ただ、通常の企業が維持しなくてはならないキャッシュフローの形は一番最初にご紹介した『優良型タイプ』です。この形を維持することが企業を長く継続していくために必要です。経営者はこの図形のイメージを忘れてはいけないのです。

 

以上です。