毎月の会計事務所の報告だと、○○の利益が出ていますとのこと。でも「利益が出ているのにお金が増えない?」「儲けた利益はどこへ消えた?」とお悩みの社長さんは、一度このようなことをやってみても良いかもしれません。

 

 何をするかと言えば、毎月の初めに前月末の会社の預金残高と借入金残高を手帳にメモして行くのです。

 でもただメモするだけでは意味はありません。ここでは以下の二つの増減を確認してください。

 

①   前月1か月間の預金の増減の額(ひと月の増減)

②   前期末からの預金の増減の額(期首からの増減)

 

この時、意識してほしいのは、

①   では、前月の利益額と預金の増減額との差がどうなっているか。

②   では、当期の累積利益額と前期末からの預金の増減額との差がどうなっているかです。

 

大切なのは、①②の預金額の増減の理由が自分で理解することができるかです。そして、それぞれの利益との差の原因が掴めるかということなのです。

これをひたすらやり続けることが最も重要なのです。

 社長さんが『お金が増えた・減った』の理由を掴んでいないと、勢い間違った指示を出してしまいがちになったりします。

 たとえば、利益が少ないのがお金が減った原因ではないのに、「もっと売上を伸ばせ!」などと、無理なノルマを課して社員が疲弊したりもします。

 

 『儲けたお金が消えてしまう理由』は以下の5つです。

 

⑴   売掛金・受取手形の増加
損益計算書では商品の納品時点で売上高が計上されて利益に直結するんだけど、B/Sでは売掛金(未回収の金額)が増加するだけでお金は入ってこない。未回収の金額や、受取手形で回収したりすれば実際に預金として入金される金額は計上される売上高より減るのが当たり前なのに、この部分が社長にはその動きが見えていない。

⑵   たな卸資産の増加
損益計算書には売れ残った商品の仕入は計上されない。これから売れる昇進についてはB/Sにたな卸資産として計上され、お金が商品に形を変えていることが社長には見えてはいない。

⑶   設備投資
損益計算書には、金銭の支出の伴わない減価償却費が経費計上されている。また、新たに行った設備投資はB/Sに計上されるため、社長にはこの調整が頭の中ではできない。また、数か月前の設備投資なんて覚えてもいない。

⑷   消費税などの税金
預かった消費税と支払った消費税の差額が「使ってはいけない預金」として蓄積されていることが社長には見えてはいない。売上高が増えれば増えるほど、この「預かり消費税額」も増えて、なんでこんなにお金が増えているのだろうかと勘違いの原因にもなる。そして、納税月には一気に預金が減少してしまう。

⑸   借入金の返済
借入金の返済は借入金の減少としてB/Sに計上されるため、預金減少の原因であることが社長には見えてはいない。例えば、長期借入金一本やりで毎月の返済をただ一生懸命やっているケースで、短期借入金(当座貸越や手形借入)を上手に使えない社長。

 

最も注意しなければならないケースとしては、売上高が急減に増えて行く過程で、資金が段々と少なくなって行く現象です。

 売上が増えれば増えるほどお金が足りなくなって行くのです。「増加運転資金」と言われます。増加運転資金は、基本的に売上が増えたことを要因として必要になる運転資金です。

 この増加運転資金の発生を素早く察知して、対処することが経営者としての大切な仕事と言えます。

 

 まずは、自社の現預金の増減を記録し、そしてその要因を徹底的に腑に落ちるまで調べ上げることを癖にしてくことを心がけて見てもよいかと思います。

 まず、手始めに始める方法が、毎月の預金額を手帳に記録することなのです。そして、毎月の預金の増減と利益の乖離の原因を調べてみる。

 

 こんなところから始めて見てもよいのかもしれません。

 

 中小企業の収益力は一般的に財務分析などで使われている「売上高経常利益率」や「総資産利益率(ROA)」などでは計測でいないものなんです。なぜなら、本当に会社経営を熟知なさっている社長さんのいる会社の利益額は、売上高の増減に関係なく、常に一定だからです。

 

 まず、中小企業の社長さんは“会社”と“個人”の双方をきちんと見ながら、それぞれの節税効果策や、資産形成を行っていくわけです。

 その中で、キーとなるものが自らの報酬である“役員報酬”です。

 よく、聞かれるのが「最適役員報酬額」というもので、役員報酬に係る“所得税+住民税+社会保険料”と法人所得に係る“法人実効税率”を比べて、最適解を求めようとするものです。

 「社長、〇〇万円以上の役員報酬ですと、法人税で支払った方が、個人と法人を合わせた税金支出が少なくなりますから、〇〇万円以上の役員報酬は取らない方がよいですよ」などと、会計事務所などからアドバイスがあったりもします。

 

 この考え方も、決して間違いではないのですが、もう少し現実的になって考えて見ましょう。

 

 企業経営においては、売上高UP、コストDOWNすれば、自ずと「利益」がUPするものです。しかし、中小企業では必ずしもこうはなりません。

現実、中小企業の経営改善の成果は、必ずと言っていいほど“役員報酬”に現れるからです。

別に社長自身が会社の儲けを搾取しようと考えているわけではなく、むしろこうなることが必然だからです。

 

 では、現実に社長の役割を考えて見ると、このカラクリが見えてきます。

 まず、会社の収益力が何かの原因(コロナとか)で急激に落ちて行ったとします。そのような場合、社長は最初に何を考えるでしょうか。

 最初に考えるのは「会社の資金」です。金融機関からの借入もその一つですが、まずは、自分の役員報酬を下げようと考えます。犠牲にするのは、最初は自分なのです。

では、このような考えを持つ社長が、会社経営が順調な時にやっておくことは一体何でしょうか?

 それは、会社の業績が思わしくないときの為に、しっかりと個人資産をプールしておくことです。たとえは3年程度は無報酬でも、自分の家族の生活を支えることができる程度の資金の蓄積を心掛けるべきではないでしょうか。これが、会社を身を挺して守るということだと思います。

 

 このようなことをしっかりと考えることができる社長さんの“役員報酬”は、儲けが増えればそれにつれて報酬も増加し、儲けが減れば報酬も減らすだけとなるのです。

 ですから、会社収益の増減に関わらず、最終の利益はほぼ一定となってしまうのです。

 さらに、社長さんの“役員報酬”の決定要因で重要なことがもう一つあります。社長さんの中には、前述の「最適役員報酬」に固執するあまり、ご自身の“役員報酬”をある程度抑えているケースも見受けられます。

 

 会社の内部留保額が増え、自己資本比率も増加し会社経営としては大変結構な状況となるのですが、困った問題がそこに潜んでいることに気づかないケースが多いのです。

 会社の内部留保が増加することは、自社株の評価額が増加することです。将来必ず発生する「相続」時の税額、いわゆる“承継コスト”が増加することを見落としてしまうのです。

 ある程度“役員報酬”を引き上げておいて、内部留保額をある程度抑制しておくことも忘れてはなりません。

 

 また、社長さんにお子様が複数人いたとします。そのうち一人の子には事業承継目的で会社株式を相続させたいと考えた場合、その他の子には何を相続させるかを考えておかなくてはなりません。

 そのような資金を捻出する財源も、月々の“役員報酬”となることをしっかりと念頭に置いておかなくてはなりません。

 

 このようにして、“役員報酬”をいかにして設定し、上手く使うかは社長さんが如何に会社経営と個人資産の形成に熟知しているかにかかっています。

 

 中小企業では、売上高が増加しても利益額が一定となる理由、お分かりいただけましたでしょうか。

 今回は、会社経営上で結構盲点となっている事柄の一つについて書いてみようかと思います。

 

 社長さんのなかでは、経営者保障と称して会社契約で自分を被保険者とする生命保険に入っていらっしゃる方も多いと思います。

 それでは、このような自分を被保険者とする会社契約の保障にご加入の社長さんご自身に万が一のことがあった場合、どのようになるのかを想像したことはありますか?

 

 「既に私はいないのだから、あの何にでも気が付く事務員が保険会社に生命保険金を請求してくれて、残された遺族も安心できるだろう....」なんて呑気なことを考えているのではありませんか。

 

 それでは、一体何が起きるのかを考えて見たいと思います。取り敢えずは、ある意味極端なケースを想定してみたいと思います。

 この会社A社で、社長であるB氏が不幸にも亡くなったとします。A社は生命保険契約に基づき3000万円の生命保険金を生命保険会社から受け取ることができます。.....が、

 

 会社契約の生命保険契約の保険金の請求者は、その会社の代表者である社長が行わなくてはならないのです。どれだけ有能な事務員がいたとしても、その事務員の裁量だけで生命保険金の請求はできません。

 さあ、A社ではB氏に代わる次の社長を決め、さらに登記を完了しなければ保険金の請求はできないのです。

 

 それでは、もう少し話を込み入ったものにしてみましょうか。

 B氏の死亡に伴って、次期社長を選任するのですが、それを決議するのは株主総会です。しかし、株主であるB氏は既に亡くなっていますので、株主総会は開催できません。おまけに、B氏は生前に遺言書を作成などしていませんでした。

 

 この場合、社長であるB氏が保有していた株式は、相続人の共有(準共有)の財産となってしまい、遺産分割が済むまではそれぞれの相続人は議決権の行使ができません。次期社長をなかなか選べない状態が続いてしまうことにもなりかねません。

 

 A社の場合、会社の仕事はしていないものの、B氏の配偶者である奥さんが一番次期社長に相応しいとします。

 この株式の分割に絡んで大切な事柄も存在するので話を次に進めたいと思います。

さて、A社の借入金5000万円には、B氏の連帯保証が付いていました。B氏の死去に伴う生命保険金3000万円で当該借入金の一部を返済しても、あと2000万円の債務が残ってしまいます。当然、金融機関は個人の連帯保証を求めて来るものと思います。

 

 ところで、個人の連帯保証は負の相続財産です。前述の株式の分割の話と相まって重要事項がここに潜みます。

 仮に、奥さんと子供たちで簡単にB氏の株式の持分分割が行われると、この行為が相続の単純承認(正の財産も負の財産も全て相続すること)をしたものとみなされ、この時点で子ども二人もB社長の連帯保証人の立場も相続することになってしまいます。

このA社の場合、B氏の奥さんが覚悟を決めて社長に就任することを決意したとします。しかし、金融機関からの借入に対する個人保証は自分だけとして、子どもには相続させたくないと判断したとします。

 

 さて、その場合は何をしなければならないでしょうか。取り敢えずは金融機関との話し合いも必要なのですが、まずは、法的処置を講ずるとなると、二人の子供には、簡易裁判所で相続放棄をさせる方法があります。子供たちが相続放棄を行うことにより、負の相続財産である個人の連帯保証は引き継がなくて済みます。しかし、同時に正の相続財産であるB氏の株式も相続はできなくなります。

 

 話はここでは終わりません。

 

 以下の図表は、法定相続人と法定相続分を表したものです。

 B氏が亡くなり、相続人が配偶者と子という第1順位の相続から、相続人である子の全員が相続放棄をしたわけですから、この相続は第2順位へと移行してしまいます。

 そうすると、B氏の相続はB氏のご両親へと移ります。当然、B氏のご両親にも簡易裁判所での相続放棄の手続きをお願いしなければならないことになります。

 ....そうすると、この相続は第3順位へと移行し、最終的にはB氏の兄弟姉妹にまで波及してしまうことになります。全く何も関係のないB氏のご兄弟にも相続放棄をお願いしなければならない羽目になってしまいます。

 

 自分か死んだら、会社契約の生命保険で何とかなると簡単に考えている社長さんは案外多くいるのではないでしょうか。

 

 日頃からの地震や台風による災害に備えた防災訓練も大切ですが、社長さんに万一のことが生じた場合の模擬訓練も大切だと思われてなりません。いかがでしょうか?