今回は、会社経営上で結構盲点となっている事柄の一つについて書いてみようかと思います。

 

 社長さんのなかでは、経営者保障と称して会社契約で自分を被保険者とする生命保険に入っていらっしゃる方も多いと思います。

 それでは、このような自分を被保険者とする会社契約の保障にご加入の社長さんご自身に万が一のことがあった場合、どのようになるのかを想像したことはありますか?

 

 「既に私はいないのだから、あの何にでも気が付く事務員が保険会社に生命保険金を請求してくれて、残された遺族も安心できるだろう....」なんて呑気なことを考えているのではありませんか。

 

 それでは、一体何が起きるのかを考えて見たいと思います。取り敢えずは、ある意味極端なケースを想定してみたいと思います。

 この会社A社で、社長であるB氏が不幸にも亡くなったとします。A社は生命保険契約に基づき3000万円の生命保険金を生命保険会社から受け取ることができます。.....が、

 

 会社契約の生命保険契約の保険金の請求者は、その会社の代表者である社長が行わなくてはならないのです。どれだけ有能な事務員がいたとしても、その事務員の裁量だけで生命保険金の請求はできません。

 さあ、A社ではB氏に代わる次の社長を決め、さらに登記を完了しなければ保険金の請求はできないのです。

 

 それでは、もう少し話を込み入ったものにしてみましょうか。

 B氏の死亡に伴って、次期社長を選任するのですが、それを決議するのは株主総会です。しかし、株主であるB氏は既に亡くなっていますので、株主総会は開催できません。おまけに、B氏は生前に遺言書を作成などしていませんでした。

 

 この場合、社長であるB氏が保有していた株式は、相続人の共有(準共有)の財産となってしまい、遺産分割が済むまではそれぞれの相続人は議決権の行使ができません。次期社長をなかなか選べない状態が続いてしまうことにもなりかねません。

 

 A社の場合、会社の仕事はしていないものの、B氏の配偶者である奥さんが一番次期社長に相応しいとします。

 この株式の分割に絡んで大切な事柄も存在するので話を次に進めたいと思います。

さて、A社の借入金5000万円には、B氏の連帯保証が付いていました。B氏の死去に伴う生命保険金3000万円で当該借入金の一部を返済しても、あと2000万円の債務が残ってしまいます。当然、金融機関は個人の連帯保証を求めて来るものと思います。

 

 ところで、個人の連帯保証は負の相続財産です。前述の株式の分割の話と相まって重要事項がここに潜みます。

 仮に、奥さんと子供たちで簡単にB氏の株式の持分分割が行われると、この行為が相続の単純承認(正の財産も負の財産も全て相続すること)をしたものとみなされ、この時点で子ども二人もB社長の連帯保証人の立場も相続することになってしまいます。

このA社の場合、B氏の奥さんが覚悟を決めて社長に就任することを決意したとします。しかし、金融機関からの借入に対する個人保証は自分だけとして、子どもには相続させたくないと判断したとします。

 

 さて、その場合は何をしなければならないでしょうか。取り敢えずは金融機関との話し合いも必要なのですが、まずは、法的処置を講ずるとなると、二人の子供には、簡易裁判所で相続放棄をさせる方法があります。子供たちが相続放棄を行うことにより、負の相続財産である個人の連帯保証は引き継がなくて済みます。しかし、同時に正の相続財産であるB氏の株式も相続はできなくなります。

 

 話はここでは終わりません。

 

 以下の図表は、法定相続人と法定相続分を表したものです。

 B氏が亡くなり、相続人が配偶者と子という第1順位の相続から、相続人である子の全員が相続放棄をしたわけですから、この相続は第2順位へと移行してしまいます。

 そうすると、B氏の相続はB氏のご両親へと移ります。当然、B氏のご両親にも簡易裁判所での相続放棄の手続きをお願いしなければならないことになります。

 ....そうすると、この相続は第3順位へと移行し、最終的にはB氏の兄弟姉妹にまで波及してしまうことになります。全く何も関係のないB氏のご兄弟にも相続放棄をお願いしなければならない羽目になってしまいます。

 

 自分か死んだら、会社契約の生命保険で何とかなると簡単に考えている社長さんは案外多くいるのではないでしょうか。

 

 日頃からの地震や台風による災害に備えた防災訓練も大切ですが、社長さんに万一のことが生じた場合の模擬訓練も大切だと思われてなりません。いかがでしょうか?