中小企業の収益力は一般的に財務分析などで使われている「売上高経常利益率」や「総資産利益率(ROA)」などでは計測でいないものなんです。なぜなら、本当に会社経営を熟知なさっている社長さんのいる会社の利益額は、売上高の増減に関係なく、常に一定だからです。
まず、中小企業の社長さんは“会社”と“個人”の双方をきちんと見ながら、それぞれの節税効果策や、資産形成を行っていくわけです。
その中で、キーとなるものが自らの報酬である“役員報酬”です。
よく、聞かれるのが「最適役員報酬額」というもので、役員報酬に係る“所得税+住民税+社会保険料”と法人所得に係る“法人実効税率”を比べて、最適解を求めようとするものです。
「社長、〇〇万円以上の役員報酬ですと、法人税で支払った方が、個人と法人を合わせた税金支出が少なくなりますから、〇〇万円以上の役員報酬は取らない方がよいですよ」などと、会計事務所などからアドバイスがあったりもします。
この考え方も、決して間違いではないのですが、もう少し現実的になって考えて見ましょう。
企業経営においては、売上高UP、コストDOWNすれば、自ずと「利益」がUPするものです。しかし、中小企業では必ずしもこうはなりません。
現実、中小企業の経営改善の成果は、必ずと言っていいほど“役員報酬”に現れるからです。
別に社長自身が会社の儲けを搾取しようと考えているわけではなく、むしろこうなることが必然だからです。
では、現実に社長の役割を考えて見ると、このカラクリが見えてきます。
まず、会社の収益力が何かの原因(コロナとか)で急激に落ちて行ったとします。そのような場合、社長は最初に何を考えるでしょうか。
最初に考えるのは「会社の資金」です。金融機関からの借入もその一つですが、まずは、自分の役員報酬を下げようと考えます。犠牲にするのは、最初は自分なのです。
では、このような考えを持つ社長が、会社経営が順調な時にやっておくことは一体何でしょうか?
それは、会社の業績が思わしくないときの為に、しっかりと個人資産をプールしておくことです。たとえは3年程度は無報酬でも、自分の家族の生活を支えることができる程度の資金の蓄積を心掛けるべきではないでしょうか。これが、会社を身を挺して守るということだと思います。
このようなことをしっかりと考えることができる社長さんの“役員報酬”は、儲けが増えればそれにつれて報酬も増加し、儲けが減れば報酬も減らすだけとなるのです。
ですから、会社収益の増減に関わらず、最終の利益はほぼ一定となってしまうのです。
さらに、社長さんの“役員報酬”の決定要因で重要なことがもう一つあります。社長さんの中には、前述の「最適役員報酬」に固執するあまり、ご自身の“役員報酬”をある程度抑えているケースも見受けられます。
会社の内部留保額が増え、自己資本比率も増加し会社経営としては大変結構な状況となるのですが、困った問題がそこに潜んでいることに気づかないケースが多いのです。
会社の内部留保が増加することは、自社株の評価額が増加することです。将来必ず発生する「相続」時の税額、いわゆる“承継コスト”が増加することを見落としてしまうのです。
ある程度“役員報酬”を引き上げておいて、内部留保額をある程度抑制しておくことも忘れてはなりません。
また、社長さんにお子様が複数人いたとします。そのうち一人の子には事業承継目的で会社株式を相続させたいと考えた場合、その他の子には何を相続させるかを考えておかなくてはなりません。
そのような資金を捻出する財源も、月々の“役員報酬”となることをしっかりと念頭に置いておかなくてはなりません。
このようにして、“役員報酬”をいかにして設定し、上手く使うかは社長さんが如何に会社経営と個人資産の形成に熟知しているかにかかっています。
中小企業では、売上高が増加しても利益額が一定となる理由、お分かりいただけましたでしょうか。