その昔、日本の国が高度経済成長期と言われていたころは「売上の増加」が当たり前の時代だったと言われています。「造れば売れる、並べれば売れる」と言った時代だったのです。売上の増加が利益の増加に繋がり、さらに会社の発展に大きく寄与していた良き時代だったのです(売上の増加=利益の増加)。

 

 そして時代も下り、今では成熟した経済のもと、デフレ・消費需要の減退などと囁かれ、そう簡単には売上高の増加を見込めない時代となってしまいました。しかし、そのような環境でも会社はさらなる利益を追求しなければなりません。

 

 ここに、単月赤字に苦しむ会社がありました。社長は毎日「売上高を前月より20%上げろ!」とばかりに社員に檄を飛ばします。その甲斐もあって、売上高は20%の伸びを見せてようやく黒字回復したわけなのですが.....。

 

 さて、売上の増加だけが利益を生む要因なのでしょうか。というのが今回のお話です。

 

 利益=売上高-経費(変動費+固定費)という式が示す通り、利益を上げるには売上高を伸ばすか、経費を削減するか、またその両方を行うかしかその方法はありません。

 

 以下、この会社の内容を基に、売上高だけではなく経費にも着目して話を進めます。

 

 この会社の売上高は100,000で総コストは105,000です。総コストのうち変動費は65,000であり、固定費は40,000です。単月で-5,000の赤字となっていました。そこで、社長は売上至上主義宜しく「売上高を20%上げろ」と言っていたわけです。

 そこで、売上高、変動費、固定費それぞれを変化させ、3つのシミュレーションを行ってみました。

 

 

①売上高を20%上げた場合(当然変動費も20%増加します)

②変動費を20%削減した場合

③固定費を20%削減した場合

それぞれ20%という割合を基準として、それぞれ変化させてみた結果が上の図です。

 

 ご覧の通り、変動費の削減が利益に貢献する度合いが一番大きいと言う結果になりました。

 

 もちろん、売上高20%アップと変動費や固定費を20%削減するための難易度は同じではありません。ただ、売上高の変化に応じで変動する費用(材料費や消耗品費など)の改善が最も利益に貢献することを知っていただきたいのです。

 

 また、①の対策はお客様に頼らなければなりませんが、②と③については社内での対策となります。言い換えれば社内の努力で稼ぐことができる利益と言うことができます。

 

 この変動費の削減については、いくつかの方法があり、特に数多くの支店や工場を持つ大企業になれば購買の窓口を一点に絞ってロットを大きくし規模のメリットを生かし仕入れコストを削減する方法(集中購買)を行ったり、同業者組合であれば、いくつもの同業者の購買を集めで規模のメリットを生かし仕入れコストを圧縮する方法(共同購買)を行ったりしています。

 

 また、個別の会社単位では、

 ・発注ロットを大きくできないかを検討する

 ・現金での支払いに切り替える

 ・支払サイクルの短期化を図る

 などで、価格交渉力を上げ、材料費や外注費などの変動費を削減する方策が考えられます。

 

 さらに、

 ・製品の製造効率を上げる

 ・不良品の発生率を下げる   などなど。

 

 売上高の増加も大切だと思いますが、社内で稼げる利益もあることに目を向けて、1%でも1円でもさらなる変動費の削減を目指してみることも利益を上げるために必要なことだと思います。

 

 売上高の増加だけが利益につながる要因ではないことを見逃してはなりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 季節は違いますが、「スーパーの恵方巻大量廃棄問題」というのをご存知でしょうか。節分の時期になると全国的に恵方巻セールが行われ、その日を過ぎると売れ残った恵方巻が大量に廃棄される様子が報道され、社会問題化しています。

 

 この事実に違和感を感じていた兵庫県のあるスーパーでは、本年の節分で『昨年の販売実績分の恵方巻の本数しか販売いたしません。地球の限りある資源を大切に!』という販売方針(売り切れ御免)に切り替えた話題が消費者の好感を呼んだそうです。

 

 過剰生産と大量廃棄問題はコンビニ弁当とかでも言われています。せっかく作ったものを廃棄するということに経済合理性はあるのでしょうか。ここでは、会計の分野からそのことを分析してみたいと思います。

 

 話をイメージしやすく、計算を簡単にするために「焼き鳥屋さん」を例に考えて見ましょう。

 

 この焼き鳥屋さんの目玉商品は1本100円で売っている商品で、1日900本売れます。この焼き鳥1本の原価(変動費のみ)は20円で、1本売れれば80円の儲けがあります。

 

 この1本80円の利益のことを管理会計では「限界利益(marginal profit)」と言います。

 経済学上の「限界」は、一般的に言う『体力の限界!』とか言う所の限界の意味ではなく“一単位当たりの変化に伴う”という意味で使います。

 焼き鳥一本の売上の変化が利益に及ぼす変化は80円だということになります。計算方法は、売上高-変動費=限界利益 というふうに求めます。

 

 ここで簡単な問題です。焼き鳥屋さんのこの大切な商品である焼き鳥1本を、誤って床に落としてしまいました。いくらの損失となるでしょうか。

 売価の100円? 限界利益の80円? それとも原価の20円?

 

 損失は原価の20円です。この損失額が過剰生産の原因となるのです。

 

 ここまでの話をまとめると、焼き鳥1本、売れれば80円のプラスの利益が変化し、床に落とせば20円のマイナス利益が変化する。と言うことがわかりました。

 

 では、この焼き鳥屋さんの話を進めて見ます。

 焼き鳥屋さんは、1日900本売れるため、決まったように1日900本の焼き鳥を作り、それを売っていました。

 ある日、アルバイトの男の子が作る数を間違えて1000本の焼き鳥を作ってしまいました。

 アルバイトの男の子は『大変です、今日は数を間違えて1000本の焼き鳥を作ってしまいました。頑張って売ったのですが、50本が売れ残ってしまいました。』と店長に報告したのです。

 店長は「もったいない、50本も廃棄しなければならないじゃかいか、大損だ」と言いましたが、アルバイトの男の子は『店長、違うんです。いつもより儲けが出ているのです』というのです。店長はキョトンとしてしまいました。

 

 では、改めて計算してみましょう。

  1. 900本の焼き鳥を売った場合
    900本×100円-900本×20円=72,000円

  2. 1000本の焼き鳥を売った場合
    1000本×100円-1000本×20円=80,000円

    ※アルバイト料や電気料などの光熱費、お店の家賃などの固定費は焼き鳥が900本売れようが、1000本売れようが変化しないため粗利益のみで比較します。

     

  3. 950本の焼き鳥を売り、50本が売れ残り廃棄した場合
    950本×100円-1000本×20円=75,000円

     

    店長は思いました「売れ残った方が儲かるのか.....?」

     

     これまで店長は、焼き鳥が売れ残ることによる損失を意識するあまり、毎日売り切ることができる900本の焼き鳥を限度として考えていたのです。

     「1本売れれば80円の儲け、1本捨てても20円の損。いままで、さらにもう1本売って80円を儲ける機会をみすみす見逃していたのか.....」 

    世の中で起きている過剰生産と大量廃棄は、企業の目的である「利益の最大化」によるものだったのです。このことは決して悪だとは言い切れないかも知れませんが、私たちの住む地球の資源も有限であることも事実であり、忘れてはいけないことだと思います。

 飛び切り美味い蕎麦を出してくれるお店がありました。頑固そうな親父さんと、若くて気さくな店員一人とで、お客が10人も入ればいっぱいとなるお店を切り盛りしていました。

 

 その店の出す蕎麦の美味しさを聞きつけたマスコミが取材の申込をするのですが、いつも親父さんは笑いながら丁寧にマスコミの取材を断るのでした。不思議に思った客の一人が親父さんに尋ねました。「親父さん、なぜ取材を断るんだね? お店が有名になれば、もっとお客も増えるし、お店が繁盛するじゃないかね。」と。

 親父さんはいつものように笑ってそのお客にこう答えたのです。

 「今以上にお客が来てくれて、売上が増えると、だんだん儲けが減ってしまうんだ。今の売上高がわしにとってはとても居心地がよい売上高なんだよ」

 また、こうも続けました。

 「おまけに、わしの店に来てくれるお客を当てにして、そこらの蕎麦の安売りの店が近所に出てこられたりでもしたら、稼いでも稼いでも儲からない店になってしまうかもしれないからね。」

 親父さんの答えに、「売上が増えて、儲けが減る.....?」と、尋ねたお客は全く腑に落ちないような顔をしたのです。

 

 ....では、解説です。まず「損益分岐点は一つではない!」というお話から。

 

 上の図表は親父さんのお店の蕎麦の販売数量に対する費用の関係を表したグラフです。話を簡単にするために材料費と人件費のみを費用と考えることにします。

 

 始めは店員一人分の賃金と蕎麦の材料費が費用を形成します。蕎麦の販売数量が増加しても、変化するのは材料費だけですので、費用の伸びは緩やかです。

 しかし、一人の店員や蕎麦を作る親父さんだけでは対応できないくらいの量の注文があった場合(お客の増加)、ある数量の販売量を超えた時点で一気に費用カーブが急勾配となってしまいます。原因はアルバイトを雇うなどの人件費の上昇です。お客が増えることが前提ですので、人件費だけではなく、その他にはテーブルや椅子などの備品も新たに備えなくてはならないかも知れません。兎に角今までとは異なって費用カーブが急勾配となる売上高が必ず商売には有るんだと理解しておくことが大切だということです。

 

 さて、このグラフに売上高線を加えた図表を作ってみましょう。

  ご覧の通り、売上高線と費用曲線が交わる点が2か所あることがおわかりでしょうか。親父さんのお店で儲けが出るのは、販売数量が点P1から点P2の間です。販売数量が点P2を超えた途端赤字転落となります。

 損益分岐点が二つ現れます。いかがでしょうか、親父さんの言う通り、「売上が増えるほど儲けが減って行く」という現象が実際に起きることがおわかりいただけたでしょうか。

 単なる売上高の増加だけを経営目的としていると、思わぬ落とし穴が待っている場合もあります。

 普段、損益分岐点が一つだけの図表を見慣れているとこのような発想はできませんね。

 

 次に、三つ目の損益分岐点のお話をしましょう。次のグラフをご覧ください。

 このグラフは、例えば親父さんのお店の近くにフランチャイズの蕎麦屋が出展し、価格競争を仕掛けて来た場合、親父さんとしてはどの程度まで対抗できるのかを示したものです。価格競争は不毛の戦いです。仕掛けた方も、仕掛けられた方にもメリットはありません。

 お店としては販売価格が低下するに従い売上高の減少に繋がります。その中で、利益を確保できる販売数量は点P1と点P2の間から、点P3へと収束していきます。だんだんと販売数量の幅が縮まっていくのです。難しい経営を余儀なくされることが必至となるのです。

 

 一つ付け加えると、この第3の損益分岐点がそのお店で一番儲けの出る点でもあるのです。

 商売は無理せず、肩の力を抜いて、自らの最適売上高を維持することも大切なことだということです。

 

«参考»

売上高が増えれば無限の利益につながるか ~「1」「3」「7」の壁 ~