季節は違いますが、「スーパーの恵方巻大量廃棄問題」というのをご存知でしょうか。節分の時期になると全国的に恵方巻セールが行われ、その日を過ぎると売れ残った恵方巻が大量に廃棄される様子が報道され、社会問題化しています。
この事実に違和感を感じていた兵庫県のあるスーパーでは、本年の節分で『昨年の販売実績分の恵方巻の本数しか販売いたしません。地球の限りある資源を大切に!』という販売方針(売り切れ御免)に切り替えた話題が消費者の好感を呼んだそうです。
過剰生産と大量廃棄問題はコンビニ弁当とかでも言われています。せっかく作ったものを廃棄するということに経済合理性はあるのでしょうか。ここでは、会計の分野からそのことを分析してみたいと思います。
話をイメージしやすく、計算を簡単にするために「焼き鳥屋さん」を例に考えて見ましょう。
この焼き鳥屋さんの目玉商品は1本100円で売っている商品で、1日900本売れます。この焼き鳥1本の原価(変動費のみ)は20円で、1本売れれば80円の儲けがあります。
この1本80円の利益のことを管理会計では「限界利益(marginal profit)」と言います。
経済学上の「限界」は、一般的に言う『体力の限界!』とか言う所の限界の意味ではなく“一単位当たりの変化に伴う”という意味で使います。
焼き鳥一本の売上の変化が利益に及ぼす変化は80円だということになります。計算方法は、売上高-変動費=限界利益 というふうに求めます。
ここで簡単な問題です。焼き鳥屋さんのこの大切な商品である焼き鳥1本を、誤って床に落としてしまいました。いくらの損失となるでしょうか。
売価の100円? 限界利益の80円? それとも原価の20円?
損失は原価の20円です。この損失額が過剰生産の原因となるのです。
ここまでの話をまとめると、焼き鳥1本、売れれば80円のプラスの利益が変化し、床に落とせば20円のマイナス利益が変化する。と言うことがわかりました。
では、この焼き鳥屋さんの話を進めて見ます。
焼き鳥屋さんは、1日900本売れるため、決まったように1日900本の焼き鳥を作り、それを売っていました。
ある日、アルバイトの男の子が作る数を間違えて1000本の焼き鳥を作ってしまいました。
アルバイトの男の子は『大変です、今日は数を間違えて1000本の焼き鳥を作ってしまいました。頑張って売ったのですが、50本が売れ残ってしまいました。』と店長に報告したのです。
店長は「もったいない、50本も廃棄しなければならないじゃかいか、大損だ」と言いましたが、アルバイトの男の子は『店長、違うんです。いつもより儲けが出ているのです』というのです。店長はキョトンとしてしまいました。
では、改めて計算してみましょう。
-
900本の焼き鳥を売った場合
900本×100円-900本×20円=72,000円 -
1000本の焼き鳥を売った場合
1000本×100円-1000本×20円=80,000円
※アルバイト料や電気料などの光熱費、お店の家賃などの固定費は焼き鳥が900本売れようが、1000本売れようが変化しないため粗利益のみで比較します。
-
950本の焼き鳥を売り、50本が売れ残り廃棄した場合
950本×100円-1000本×20円=75,000円店長は思いました「売れ残った方が儲かるのか.....?」
これまで店長は、焼き鳥が売れ残ることによる損失を意識するあまり、毎日売り切ることができる900本の焼き鳥を限度として考えていたのです。
「1本売れれば80円の儲け、1本捨てても20円の損。いままで、さらにもう1本売って80円を儲ける機会をみすみす見逃していたのか.....」
世の中で起きている過剰生産と大量廃棄は、企業の目的である「利益の最大化」によるものだったのです。このことは決して悪だとは言い切れないかも知れませんが、私たちの住む地球の資源も有限であることも事実であり、忘れてはいけないことだと思います。