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こんにちは。血液内科スタッフKです。

 

早いもので、今年もあと1カ月になってしまいました。時間の流れの早さに焦りつつも、ブログは変わらず更新していきたいと思います。今回はAmerican journal of Hematologyからで、リアルワールドでR-miniCHOPを受けた患者とR-CHOPを受けた患者を後方視的解析によって比較した論文をご紹介します。

 

R-miniCHOP versus R-CHOP in elderly patients with diffuse large B-cell lymphoma: A propensity matched population-based study

D Al-Sarayfi et al, Am J Hematol 2023, doi: 10.1002/ajh.27151

 

【要旨】

高齢でフレイルなびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者において、減量した免疫化学療法であるリツキシマブ、シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニン(R-miniCHOP)が2014年以降オランダで治療選択肢として導入された。R-miniCHOPは忍容性が高いが、化学療法の減量はR-CHOPと比較して生存に負の影響が存在するかもしれない。この解析の目的は、R-CHOPと比較してR-miniCHOPで治療された患者の生存を評価することであった。

 

2014年から2020年の65歳以上で新規診断DLBCL患者のうち、1サイクル以上のR-miniCHOPもしくはR-CHOPを受けた人がオランダのがんレジストリから同定され、生存フォローアップが2022年まで行われた。患者はベースラインの特性に対して傾向スコアマッチが行われた。主要なエンドポイントは、無増悪生存率(PFS)、全生存率(OS)、相対的生存率(RS)であった。

 

DLBCLにおけるR-miniCHOPの使用は2014年の2%から2020年には15%に上昇した。合計で384人の患者がR-miniCHOPで治療され、比較のため384人のR-CHOPで治療された患者が選ばれた(年齢中央値;81歳、ステージ3-4;68%)。R-(mini)CHOPサイクル数中央値は6だった(範囲 1-8)。R-CHOPと比較すると2年間PFS、OS、RSはR-miniCHOPが劣っていた(PFS 51% vs. 68%、p < 0.01;OS 60% vs. 75%、p < 0.01;RS 69% vs. 86%、p < 0.01)。多変量解析では、R-CHOPと比較してR-miniCHOPで治療された患者は全ての原因による死亡リスクが高かった(HR 1.73;95% CI 1.39-2.17)。R-miniCHOPはほとんどの高齢患者で有効だった。

 

R-CHOPと比較すると生存は劣っていたものの、初回治療としてのR-miniCHOP使用は増加している。それゆえに治療選択において患者のフィットネスを慎重に考慮する必要がある。

 

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2011年にLancet OncologyにR-miniCHOPの論文が出てから(こちら)、80歳以上だったり80歳未満でもR-CHOPが厳しそうな患者さんにはR-miniCHOPが広く行われるようになったと思います。

 

実際R-miniCHOPは高齢者でもかなり安全に実施できますが、年齢だけで区切るのは難しく、80歳以上でも年齢以上にフィットな患者さんもいれば、70代でも併存症があったりして治療合併症が強く出る患者さんもいます。治療前に予測することが出来れば良いのですが・・・。様々な指標が提案されてはいるものの、それを前向き試験で検討することは(倫理的な側面もあり)困難ですし、様々ながん・化学療法で一様に使用出来るか?と言われると疑問であり、それぞれの施設で悩みながら治療レジメンを選択しているものと推測します。

 

そんな中から、オランダのがんレジストリを解析した論文となります。R-miniCHOPを受けた患者さん384人を同定し、背景がマッチしていてR-CHOPを受けた同数の患者を対照群として統計解析を行っています。これによりますと、R-CHOPの方がR-miniCHOPよりPFS、OS、RSが優れているという結果になりました。

 

この結果を持ってR-miniCHOPは止めよう!となるのはいささか早計です。まず、上記のR-miniCHOPを検証した第Ⅱ相試験の論文での患者群は全員80歳以上で、今回の論文とは年齢分布がかなり異なります。また、背景を合わせたとは言ってもレジメン選択の理由や死亡の原因などは考慮されていません。R-CHOP群には主治医が高齢であってもR-CHOPが出来ると判断した何かしらの理由があるはずで、逆にR-miniCHOP群には単純に年齢で切られた人のほか、特に80歳未満にはR-CHOPには耐えられないと判断された患者群が多く含まれていると推測され、R-miniCHOPのかわりにR-CHOPをしていたとして、どれほどのメリットが受けられたかは疑問が残ります。多変量解析でも、レジメン選択と同等かそれ以上に年齢(80歳以上)やPS(3-4)がインパクトの強いマーカーとして抽出されています。

 

以上から80歳以上の患者群の中にR-CHOPの方がメリットが大きい患者群が存在していそうだ、というのは事実だと思われますが、ではそれを見分ける方法は?と言われるとまだ分からないのが現状です。エビデンスベースで考えると80歳を超える患者さんにR-CHOPをするのはなかなかチャレンジングですが、単純に年齢で切ってしまうという思考停止に陥らないよう、今後の有用なマーカーの開発が期待されます。

 

おまけ

 

 

賞味期限ギリギリの牛肉もも肉ブロックがお安くなっていた(半額)ので、赤ワイン煮込みを作りました!たまにしか食べられませんが、やっぱり美味しいです。