こんにちは。血液内科スタッフKです。
今回もNew England Journal of Medicineからで、血友病の新薬に関する臨床試験をご紹介いたします。名古屋大学医学部の松下正教授が筆頭著者ということで、日本人としても嬉しい報告になります。
Phase 3 Trial of Concizumab in Hemophilia with Inhibitors
Matsushita T et al, N Engl J Med 2023, doi: 10.1056/NEJMoa2216455
【背景】
Concizumabは、皮下投与で全ての血友病タイプで止血をもたらすようデザインされた、tissue factor pathway inhibitorに対するモノクローナル抗体である。以前に行われたconcizumabの臨床試験(explorer4)において、インヒビター保有血友病Aおよび血友病B患者で有効性を持つことが確認された。
【方法】
インヒビター保有血友病Aおよび血友病B患者におけるconcizumabの安全性と有効性を評価するためにexplorer7試験を実施した。患者は少なくとも24週間予防を受けない群(group 1)と少なくとも32週間concizumabの予防を受ける群(group 2)どちらかに1:2の割合でランダム化割り付けされるか、もしくはランダム化なしで少なくとも24週間concizumab予防を受ける群(group 3と4)に割り付けられた。1人のexplorer7試験患者を含む3人の患者でconcizumab投与後の非致死的血栓イベントによる治療中断後、concizumab治療が体重1kg当たり1.0mgのローディング後に体重1kgあたり0.2mgの1日1回投与により再開された(将来的に第4週で測定される血清concizumab濃度に基づいて修正される可能性があった)。主要評価項目解析ではgroup 1とgroup 2での治療を要する自然および外傷性出血エピソードが比較された。安全性、患者報告によるアウトカム、薬物動態および薬力学も評価された。
【結果】
試験に参加した133人のうち、19人がgroup 1、33人がgroup 2にランダム化割り付けされた。残りの81人はgroup 3とgroup 4に割り付けられた。推定平均年間出血率は、group 1で11.8エピソード(95% CI 7.0-19.9)、対するgroup 2では1.7エピソード(95% CI 1.0-2.9)であった(発生率比 0.14[95% CI 0.07-0.29];P<0.001)。Concizumab投与を受けた患者における全年間出血率中央値(group 2、3および4)は0エピソードであった。Concizumab再投与後に発生する血栓イベントは報告されなかった。血清concizumab濃度は、経時的に安定していた。
【結論】
インヒビター保有血友病Aおよび血友病B患者において、予防なしと比較しconcizumab予防により年間出血率が低下した。
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Concizumabは抗tissue factor pathway inhibitor抗体(抗TFPI抗体)で、TFPIによる活性型第X因子と組織因子(TF)/活性型第VII因子複合体の不活化を阻害することにより、止血能を高める薬剤です。抗TFPI抗体投与によりトロンビン生成能が回復し、凝固と抗凝固の不均衡を是正することにより治療効果を発揮します。この治療法は効果が血友病のタイプによらないことが大きなメリットで、血友病Aにも血友病Bにも効果が期待できます。今回のexplorer7試験ではconcizumabを投与された群が、オンデマンド治療のみ受けた群と比較して有意に低い年間出血率を示し、コホート全体においても低い出血率が確認されました。
最近では短鎖干渉RNA(siRNA)であるfitusiranの臨床試験もご紹介しましたが、エミシズマブ後にも優れた薬剤が次々と出てきており、難治性の血友病患者さんには朗報だと思います。
おまけ
最近お気に入りのオクラと山芋のグラタンです!