IFRSで有給休暇引当金の計上が必要となることは前回の記事「短期有給休暇の処理(1) 」で書きました。

前回は、「そもそもなぜ有給休暇引当金を計上する必要があるのか」という点にフォーカスしてご説明致しましたので、今回は有給休暇引当金に係る具体的な会計処理について書きます。



有給休暇引当金は、累積有給休暇について計上が必要となります。計算方法(計算式)は、下記の通り有給休暇を企業が買い取る場合と買い取らない場合とで異なります。


(1)買い取る場合(権利が確定するもの):繰越して将来の期間で使用できる休暇が、退職時に現金等で給付されるもの

→ 繰越有給休暇日数 × 1日当り給与


(2)買い取らない場合(権利が確定しないもの):繰越して将来の期間で使用できる休暇が、退職時には無効となるもの

→ 従業員平均繰越有給休暇日数 × 有給休暇平均取得率 × 従業員平均1日当り給与



(1)については、現状の日本企業においては少ないケースかもしれません(理由は前回述べた通り、労働基準法の問題があるため)。(1)のケースについては、個人別に計算を行うことが合理的と判断されます。


(2)については、個人別ではなく、平均で計算します。これは、取得率や退職による放棄を考慮するためです。



以下、具体例を用いて説明します。


○20X0年度 
 ・給与3,000,000円

 ・就業日数200日(有給休暇含む)

 ・出勤日数200日

 ・有給休暇付与10日

 ・有給休暇取得0日


○20X1年度 
 ・給与3,000,000円

 ・就業日数200日(有給休暇含む)

 ・出勤日数180日

 ・有給休暇付与10日

 ・有給休暇取得20日(前年度繰越分含む)


前回の記事と同様の例です。


IFRSの考え方では、以下のようになります(前回説明の再確認)。


この従業員の20X0年度における有給休暇の取得日数は0日です。就業日数は200日(有給休暇10日を含む)なので、実際にこの従業員は190日出勤すれば所定の給与を会社から貰えるわけです。それにも関わらず、この従業員は200日出勤しています。これは本来取得すべき10日分の有給休暇を消化せずに、来期に繰り越したからに他なりません。

つまり、この従業員が繰り越した20X0年度における10日分の役務提供は、来期の出勤分を当期に前倒しして役務提供したことと同義です。仮にこの状況で当期に未消化の有給休暇を費用計上しないとなると、当期と翌期とで給与額3,000,000円は変わらないにも関わらず、労働の提供量は異なるということになってしまいます。つまり、労働の提供量とそれに対する費用(給与)が不一致となってしまうのです。この不一致を解消するために、有給休暇引当金の計上が必要となります。この例を仕訳にすると、以下のようにとなります。


<20X0年度期末の仕訳>

 有給休暇引当金繰入 125,000 / 有給休暇引当金 125,000

  ※3,000,000円(年収)÷12か月(月数)÷20日(営業日)×10日(繰越有給休暇日数)=125,000円


20X1年度以降の計算方法は、以下の通り期末に残高ベースで引当額を計算し、洗い替え差額を計上することになります。


毎期末の有給休暇引当金繰入額(費用) = 期末引当金残高 - 期首引当金残高


上記の通り洗い替え差額のみを計上することになるため、財務諸表における影響額はそれほど大きくならないと思われます。



初度適用時に初めて有給休暇引当金を適用すると、急激にコスト増になるのではないかとの懸念をされる方がいます。しかし「国際財務報告基準の初度適用(IFRS1)」において、適用前の会計基準とIFRSとの差額は利益剰余金で増減させると規定されていますので、P/Lへの影響はありません(P/Lへの影響はありませんが、開始B/Sにおける期首利益剰余金の残高は大きく変動する可能性がありますので、注意が必要です)。


以降は先程の計算式の通り、洗い替え差額のみを計上していくことになります。



ここまでのお話は、20X1年度以降も繰越有給休暇が残っている前提でのお話でしたが、仮に20X1年にすべての繰越有給休暇を消化してしまった場合(あまりないとは思いますが…)は、以下の通りとなります。


<20X1年度期末の仕訳>

有給休暇引当金 125,000 / 有給休暇引当金戻入 125,000




さて、本件のご説明をすると、クライアント企業の経理担当の方に「そもそも有給休暇引当金は引当金なのですか?」というご質問を受けます。

IFRSにおける有給休暇引当金は、実際は引当金ではなく「未払費用」です。日本人の感覚からすると、引当金の方がイメージがしやすいので、このように呼ばれているものと思います。本ブログにおいても、有給休暇引当金と記載した方がわかりやすいため、そのような前提でご説明をしています。勘定科目については、IFRS適用時にてわかりやすい名称をご検討下さい。



最後に2点留意点を書きます。


①税法上の調整について

有給休暇引当金繰入は、現状の法人税法上では損金算入できません。税効果会計で将来減算一次差異として繰延税金資産の計上対象となります。


②原価計算について

有給休暇引当金は製造原価に影響を及ぼします。基本的には洗い替え分を製造原価と販管費とに分けて計上し、製造原価に算入することになると思います。

尤も、先程から申し上げている通り、期末月においてのみ洗い替え差額が計上される形になりますので、影響額はそれほど大きくないものと思います。



標準原価計算制度を導入されている、かつIFRSベースで経営管理を行うことを志向されている企業様もいるかと思います。こういった企業様におきましては、製品標準原価の積上に、有給休暇の引当分を算入すべきかどうかという問題があるかと思います。この辺は、各社様の経営管理(管理会計制度)と照らし合わせてご検討頂くとよいかと思います。


私見としては、影響額がそれほど大きくないこと、また期末月のみでの計上となることを勘案すれば、標準原価には織り込まずに、期末に原価差額処理をすればよいのではないかと思います。



トモ

IAS19「従業員給付」では、以下の通り定めています。


企業は、累積有給休暇の予想費用を、報告期間の末日現在で累積されている未使用の権利の結果として企業が支払うと見込まれる追加金額として、測定しなければならない。


この規定が意味することは、IFRSにおいては有給休暇引当金の計上が必要となるということです。



有給休暇に関する権利は、以下の2つの分類に分かれます。


・累積有給休暇:当期の権利を完全に消化しなかった場合に繰り越すことができ、将来の取得が可能な有給休暇


・非累積有給休暇:当期の権利を完全に消化しなかった場合に繰り越されない有給休暇


累積有給休暇には、退職時に未消化の有給休暇を企業が買取る場合と買い取らない場合がありますが、いずれの場合においても、IFRSでは費用及び負債を計上する必要があります。


余談ですが、日本における有給休暇の買取は労働基準法第39条に違反することとなり、原則は出来ません。尤も、結果として消化しきれずに残ってしまった有給休暇を、雇用主が恩恵的に買取ることは違法ではありません。労働基準法としては、有給休暇の買取自体を禁じたいのではなく、むしろ雇用主がその買取を前提に休暇取得を妨げることを防止したいようです(実際私の同業他社においても、有給休暇の買取制度があるという話を聞いたことがあります)。


有給休暇引当金に関しては、クライアントのどの経理担当の方に説明しても、「そもそもなぜ有給休暇引当金を計上する必要があるのか理解できない」と言われます。本記事では、そもそもなぜ有給休暇引当金を計上しなければいけないのかという点にフォーカスしてご説明し、詳細な会計処理に関しては次回に書くことに致します。


まず、有給休暇の買取が制度化されている場合に有給休暇引当金を計上しなければならないという点に関しては、どの経理担当の方もすぐにご納得いただけます。有給休暇を買取るということは追加で現金支出を伴うことを意味し、しいては引当計上が必要であるというような形で、比較的イメージがし易いからだと思います。



しかし、有給休暇の買取が制度化されていない場合(現在は大半の日本企業がそうだと思いますが…)は、そもそも現金支出を伴わないため、引当計上する理由がないのではないかと思われるようです。



以下、具体例を用いて説明します。


○20X0年度 
 ・給与3,000,000円

 ・就業日数200日(有給休暇含む)

 ・出勤日数200日

 ・有給休暇付与10日

 ・有給休暇取得0日


○20X1年度 
 ・給与3,000,000円

 ・就業日数200日(有給休暇含む)

 ・出勤日数180日

 ・有給休暇付与10日

 ・有給休暇取得20日(前年度繰越分含む)

 

上記は、20X0年度から20X1年度におけるある従業員の待遇及び勤務状況です。この企業においては有給休暇が累積するものとします。


上記例ですと、この従業員は会社から年間10日間の有給休暇を付与され他にも関わらず、20X0年度は有給休暇を1日も取得していませんが、各年度の給与支給額3,000,000円には影響せず、各々3,000,000円が損益計算書に人件費として計上される事になります。


この従業員の20X0年度における有給休暇の取得日数は0日です。就業日数は200日(有給休暇10日を含む)なので、実際にこの従業員は190日出勤すれば所定の給与を会社から貰えるわけです。それにも関わらず、この従業員は200日出勤しています。これは本来取得すべき10日分の有給休暇を消化せずに、来期に繰り越したからに他なりません。

つまり、この従業員が繰り越した20X0年度における10日分の役務提供は、来期の出勤分を当期に前倒しして役務提供したことと同義です。仮にこの状況で当期に未消化の有給休暇を費用計上しないとなると、当期と翌期とで給与額3,000,000円は変わらないにも関わらず、労働の提供量は異なるということになってしまいます。つまり、労働の提供量とそれに対する費用(給与)が不一致となってしまうのです。この不一致を解消するために、有給休暇引当金の計上が必要となるのです。


つまり結論としては、有給休暇引当金の目的は「費用の期間帰属適正化」にあるということになります。


また、仮にこの従業員が20X1年度に退職願いを会社に提出し、退職月は前年度繰越分も含めて20日の有給休暇を取得し、出社しないとしましょう。その場合、企業はその従業員から退職月においては一切の役務提供を受けていないにも関わらず、対価としての給与を当該従業員に支払わねばなりません。退職月においては、この企業は当該労働者から1ヶ月間一切の役務提供を受けていないにも関わらず、給与支払が発生することになります。退職月の処理において、この給与(人件費)は、支払期間の費用として処理してよいのでしょうか?この例から判断しても、有給休暇引当金の計上が必要となることをご理解いただけると思います。


この説明をすると、経理担当の方は「そんな退職月にすべての有給休暇を取得することなんて、日本の企業ではあり得ないでしょう?そもそもそれは人道的な問題であり、わが社にはにそんなことはする例はありませんよ。」と言われます。

道義的にと言われると日本においてはそうかもしれません。ちなみに私は今月転職に伴い会社を退職するのですが、すべての有給休暇を取得して退職する予定です…(笑)。



このトピックは、IFRSの中でも最も異国文化の違いを感じるものの一つです。


欧米においては、有給休暇を利用して1カ月バカンスに行くということはよくあることです。そのような国においては、長期有給休暇を取得している間の交代要員を確保する必要があり、その期間については交代要員の給与と当該有給休暇取得者の給与を2重に支払う必要が出てきます。このように、有給休暇の完全消化が当然とされている文化が浸透している国においては、有給休暇の権利が付与された時点で費用の発生を認識するという考え方に違和感を感じないのかもしれません。そしてIFRSは、そのような文化の国から発信された会計基準なのです。



有給休暇引当金については、「このような日本の文化に馴染まない会計基準は、受け入れてはいけない」という意見が国内には多いように思います。確かに日本の様な文化の国において、この引当金計上にいかほどの意味があるのかは疑問もあります。


しかしどうでしょう?


そもそも有給休暇は正当な従業員の権利です。そして有給休暇を通じてリフレッシュし、良好な健康状態で勤務することは、従業員の義務とも言えるかもしれません。

日本は、有給休暇を取ることに罪悪感を感じたり、有給休暇を申請する際に上司の顔色を伺ったりすることが当たり前の社会です。言わば、「自ら権利を行使する」というより、むしろ「権利を行使してもよろしいでしょうか?」という意識が強いと言えるでしょう。


私見ですが、この有給休暇引当金の適用を通じて、日本における有給休暇消化率が高まれば、それは素晴らしいことだと思います。むしろ、「有給休暇の取得促進が企業を一層強くする」という良き欧米の発想へ、日本企業が転換する一つの契機になればよいとすら私は思っています。

世界共通のモノサシである「IFRSの適用」に関しては、すべてを「日本文化に馴染まないから拒絶しよう」ではなく、むしろ「異国のよい面を受け入れる」という姿勢も時には必要なのではないでしょうか?(当然、悪い面は拒絶すべきですが…)


トモ

IFRSでは、減価償却方法、償却可能価額、償却期間を以下の通り定義しています(IAS16「有形固定資産」)。


(1)減価償却方法

・減価償却方法は、資産の将来の経済的便益が企業によって消費されると予測されるパターンを反映するものでなければならない。

・資産に適用する減価償却方法は、少なくとも各事業年度の末に見直さなければならず、もし資産に具現化される将来の経済的便益の予測消費パターンに大きな変更があった場合には、当該の方法は変更されたパターンを反映するように変更しなければならない。

・減価償却方法には、定額法、定率法、生産高比例法がある。


(2)償却可能価額

・資産の償却可能価額は、耐用年数に渡って規則的な方法で配分しなければならない。


(3)残存価額と耐用年数

・資産の残存価額は、耐用年数到来時に有形固定資産を処分した場合における見積処分費用を差し引いた後の受取額を用いる。

・資産の耐用年数は、使用状況、物理的磨耗、技術的・商業的陳腐化等を加味し、当該資産を保有する企業にとっての期待効用の観点から決定する。

・資産の残存価額と耐用年数は、少なくとも各事業年度末には見直さなければならず、予測が以前の見積もりと異なる場合には、会計上の見積りの変更として処理しなければならない。



有形固定資産の減価償却については、IFRSにおいても日本基準と基本的な考え方に相違はありません。


但し、日本基準では税法に基づく減価償却が監査上妥当なものとして実質的に認められているのに対して、IFRSではそのようなことが認められていません。概念フレームワークの「信頼性」における「実質優先」において、「単に法的要件に従うのではなく、その実質と実態に基づいて会計処理及び表示を決定すること」が規定されているためです。


従って、IFRSにおいては経済的実体に見合う減価償却計算を行う必要があります。



トモ