日本公認会計士協会は、平成23年1月20日に監査・保証実務委員会報告第75号「監査報告書作成に関する実務指針」改正に向けた公開草案を公表しました。
日本公認会計士協会のウェブサイトはこちら


今回の主な改正内容は、以下の2点です。


(1)連結包括利益計算書への対応


(2)IFRSを任意適用した場合の監査報告書の文例の追加



(1)については、以下のような記載があります。


「会社は、連結損益計算書を作成した上で、任意に連結包括利益計算書を作成し、開示することができるが、連結包括利益計算書は監査対象ではない点に留意する」。

つまり、会社法監査の対象となる連結損益計算書は当期純利益までを表示する計算書であり、その他包括利益の内訳は監査対象とはならないということになります。



(2)については、IFRSを任意適用される企業様は、監査報告書の文例が一部追加されていますので、留意する必要があります。



トモ




(1)IFRSでは、資産について、予測される将来の経済的便益の消費パターンを最もよく反映する減価償却方法を選択する必要があります。なお、IFRSで採用できる減価償却方法は、「定率法」「定額法」「生産高比例法」の3つです。会計上日本基準で認められている「級数法」は採用できません。


(2)減価償却方法は、少なくとも各事業年度末に見直さなければなりません。もし見直しの結果、資産に具現化された将来の経済的便益の予測消費パターンに多きな変更があった場合には、それを反映しなければなりません。なお、当該変更は会計上の見積りの変更として処理されます。



以下、補足します。


(1)日本基準においては、建物は定額法、その他は定率法で減価償却している場合が多いと思います。現状の償却方法が経済的実質と合致していない場合は、償却方法を変更する必要があるという点で影響があります。


減価償却方法については、「IFRS適用後は定率法償却が認められなくなる」という話を巷でよく耳にします。

そんなことはIFRS規定のどこを見ても書いてありません。あくまで、減価償却方法は「将来的な資産の経済的便益の消費パターンを反映した方法」を採用する旨が記載されているだけです。


このような誤解が生まれる背景に、IFRS適用している海外では定額法が主流だからということもあると思われます。確かに海外では定額法が主流ですが、それを以て「IFRS適用=定額法のみ許容」と決めつけてしまうのは、あまりに乱暴です。

定率法が対象の固定資産の経済的使用状況と一致していることの証明を企業が実施した結果、会計監査人からその妥当性に係る心証を得られれば、定率法も理論上は採用可能です。


ただ、定率法は減価償却費を逓減させることから、その証明には正当な理由が必要です。例えば、以下のような理由が考えられます。


・修繕が使用期間の後半に増加することから、減価償却費と修繕費の合計で見ると、定率法の方が使用期間に渡る費用の平準化が図られるため、定率法が妥当と判断

・当該製造設備にて生産している製品のライフサイクルが短いことから、その設備が生み出す将来キャッシュフローを考慮すると、経済的消費パターンは使用初期に大きく、徐々に減価が逓減していく定率法が妥当と判断


これは一例ですが、社内で十分検討が必要なトピックと考えます。


しかし個人的に疑問に思うのは、個々の資産の償却方法に係る妥当性について、会計監査人はどのように判断するのでしょうか?そもそも企業が保有する製造設備などについては、圧倒的に企業の担当者様の方が知識優位なわけで、そもそも会計監査人がそれに関する経済的消費パターンを判断することは難しいと思うのですが…。


余談ですが、先ほど触れた「海外は定額法が主流」という理由について少し触れます。


海外においても、「経済的便益の消費パターンを反映した方法」を検討した結果、結果的に定額法が妥当と判断され採用されているのだと思いたいところなのですが、海外のある書籍に次のようなことが書かれていました。


「定額法は、資産の経済的便益の消費パターンが不明確な時に用いられるべき方法である」


つまり、海外で定額法が主流となっている理由は、そもそも消費パターンがよくわからないからだという理由のようです。この書籍に書かれていることが、海外における定額法採用にどれほど影響を及ぼしているかまでは定かではありませんが、もし仮にそのような前提で定額法採用が進んでいるのだとするならば、定額法を採用する理由としては不適切と言わざるを得ません。また、経済的実質を優先するIFRSの精神にも反するという意味で、この説明では個人的に全く納得し難いものがあります。


また、海外で定額法が主流になっている理由として、上記に加え、以下のような理由が想定されます。


①定額法の方が計算が容易

②経営者が短期利益志向である ※定率法を採用すると、設備投資直後の減価償却負担が大きくなるため、経営者の就任直後の業績が悪くなることを嫌がる



いずれにせよ、IFRS適用までに自社の固定資産を棚卸し、各々いずれの減価償却方法が妥当かに関する検証が必要となります。



(2)毎期末に減価償却方法の妥当性を確認し、必要があれば実態に応じた見直しが必要と言う点で、新たな業務プロセスが追加されることとなります。資産取得時に設定した減価償却方法に関して、前提が変わるような環境変化等に係る情報をの有無を工場、事業部等から収集し、見直しの要否を判定する業務プロセスが必要となります。


減価償却方法の見直しが必要な場合には、IFRSでは見積りの変更として処理するため、将来への影響額を開示すればよいことになります。


現状日本基準においては、減価償却方法の変更は会計方針の変更として取り扱われ、過年度遡及修正をせず、当期より会計方針の変更を行い、変更前の方法と比較した影響額の注記を行う事になっています。しかし日本基準においても、コンバージェンスの一環で、2011年4月以降の事業年度より減価償却方法の変更はで見積りの変更として扱われます。従って、IFRSとの差異はなくなることになります。



トモ

企業会計基準委員会(以下、ASBJ)は、平成23年1月20日に「顧客との契約から生じる収益の認識に関する論点の整理」を公表しました。

ASBJのウェブサイトはこちら


これは、平成22年6月にIASB及びFASBから公表された公開草案「顧客との契約から生じる収益」を受けてのものです。日本の会計基準を策定するに際して論点の整理を行い、広くコメントを集めることを目的としています。



トモ