IFRSでは、無形資産について下記の通り定義しています(IAS38「無形資産」)。


(1)物質的実態のない識別可能な非貨幣性資産


(2)過去の事象の結果として企業が支配している資源であり、


(3)将来の経済的便益が企業へ流入することが期待されるもの



主な無形資産としては、以下のものが挙げられます。


ソフトウェア、特許、商標、著作権、映画フィルム、顧客名簿、モーゲージ・サービシング権、漁業免許、輸入割当量、独占販売権、顧客又は仕入先との関係、カスタマー・ロイヤルティ、市場占有率、市場取引権など



以下、補足します。


(1)「物理的実態のない」とは、目で見ることも手で触わることもできないという意味です。この点において、有形固定資産とは異なります。
また、「識別可能」とは、以下のいずれかの状態を言います。

①契約またはその他の法的権利から生じたもの
②分離(売却・譲渡・交換等)が可能なもの



(3)無形資産から生じる将来の経済的便益には、製品又はサービスの売上収益、費用削減又は企業による資産の使用によってもたらされるその他の利益が含まれます。例えば、製造工程における知的資産の使用は、将来の収入の増加よりもむしろ将来の製造原価の減少につながる可能性があります。



無形資産は有形固定資産と同様、原価モデルまたは再評価モデルのいずれかを選択適用して会計処理を行います。  ※詳細は「原価モデルと再評価モデル 」参照。



無形資産は、その耐用年数が有限のもののみ減価償却が可能であり、以下の通り処理します。


○耐用年数が有限
耐用年数に従って、定額法、定率法、生産高比例法など経済的便益の消費に応じて規則的に減価償却を行う。経済的便益の消費パターンは信頼性を持って決定できない場合は、定額法とする。

なお、減損の兆候があれば、減損テストを実施し、必要に応じて減損損失を認識する。


○耐用年数を確定不可

減価償却はできないため、少なくとも年1回減損テストを実施し、必要に応じて減損損失を認識する。



各企業様におきましては、現状、法人税法上の法定耐用年数を用いて減価償却をしているケースが多いと思います。現状計上されている無形資産のうち、耐用年数が有限のものについては、経済的便益の消費に応じた耐用年数を定める必要があります。


例えば、特許権の法定耐用年数は8年ですが、特許の有効期限は20年です。従って、経済的耐用年数を定める上では、まず有効期限20年をベースにし、特許権発生までのプロセス(特許出願→審査請求→審査→特許料納付→特許権発生)と事業部の方針を加味した上で、耐用年数を決定するといったアプローチが考えられます。



先日HOYA株式会社がIFRS(国際財務報告基準)に基づく2010年3月期の決算書を公表しました。先行適用事例として、実務上大いに参考になります。HOYAにおける無形資産の耐用年数は以下の通り定められています。


特許権 8年

技術資産 10年

商標権 3-10年

顧客リスト 5年

ソフトウエア 5年


ここで注目すべきは、特許権、ソフトウェアの耐用年数が偶然か否か法定耐用年数と同じ年数になっていることです。


そもそも、法人税法の耐用年数省令の耐用年数は、当局が勝手に決めているわけではなく、統計等ある程度根拠のあるデータに基づいて決定されています。従って、税法の耐用年数が実情とそれほど乖離しておらず、また法定耐用年数を用いることで、財務諸表利用者の意思決定をミスリードする程の重要性がないと自社で判断されたならば、自主見積もりの結果として法定耐用年数を利用することも可能なケースがあるのではないかと思います(あくまで私見ですが…)。この辺は正直申し上げて、会計監査人が首を縦に振りさえすればOKな世界です。


HOYAがどのような経緯で上記耐用年数を定めたのかその経緯まではわかりませんが、少なくとも法定耐用年数を無視せず、必要に応じて有効に活用しているのではないかと推測されます。


また、「顧客リスト」が無形資産として計上されていることがを気になる方もいると思います。「顧客リストなんて無形資産に計上できるのか?」と思う方もいるかと思いますが、これに関しては、後日書きたいと思います。



トモ

(1)IFRSでは、残存価額は「耐用年数到来時にその資産から受領できる価額」と規定されています。つまり、資産処分時の見積り処分費用を差し引いた受取額となります。

(2)残存価額は、少なくとも各事業年度末に見直さなければなりません。つまり予測が以前の見積りと異なる場合には、反映する必要があります。なお、当該変更は会計上の見積りの変更として扱われます。



以下、補足します。


(1)日本基準においても、残存価額に関しては、各企業が独自の状況を考慮して自主的に決定すべきものです。従って、本来であれば資産取得時に適切な残存価額を見積もりが必要という意味で、IFRSと差異はないはずです。しかし、日本においては、多くの企業が法人税法の規定に従って残存価額を設定されている状況を鑑み、それが不合理と認められる事情のない限り、監査上妥当なものとして取り扱うことができるとされています。このような背景から、実務上は多くの企業が法人税法に定められた残存価額を用いていおり、IFRSと差異が出てくるわけです。

製造設備等に関しては自社仕様のものが多いことから、売却可能な活発な市場が存在しないことも多いのではないかと思います。そのような場合は、結果的に残存価額は0円となることが多いことが想定されます。


(2)毎期末に各々の資産に係る残存価額の妥当性を確認し、必要があれば実態に応じた見直しが必要と言う点で、新たな業務プロセスが追加されることとなります。設定済の残存価額見積りに関して、見積りが変わるような環境変化等に係る情報の有無を工場、事業部等から収集し、見直しの要否を判定する業務プロセスが必要となります。残存価額の見直しが必要な場合には、IFRSでは見積りの変更として処理するため、将来への影響額を開示すればよいことになります。

トモ

(1)IFRSでは、資産に具現化される将来の経済的便益は、主として企業が当該資産を使用することによって消費されるとして、資産の耐用年数は、当該資産を保有する企業にとっての期待効用の観点から検討されます。したがって資産の耐用年数の見積りは、同様の資産を有する企業の使用実績に基づいて判断されるとされています(経済的耐用年数)。


(2)耐用年数は、少なくとも各事業年度末に見直さなければなりません。つまり予測が以前の見積りと異なる場合には、反映する必要があります。なお、当該変更は会計上の見積りの変更として扱われます。



以下、補足します。


(1)日本基準においても、耐用年数に関しては、各企業が独自の状況を考慮して自主的に決定すべきものです。従って、本来であれば資産取得時に適切な耐用年数を見積もり、当該見積りに従って毎期規則的に減価償却を実施することが必要という意味で、IFRSと差異はないはずです。しかし、日本においては、多くの企業が法人税法に定められた耐用年数(法定耐用年数)を用いている状況を鑑み、それが不合理と認められる事情のない限り、監査上妥当なものとして取り扱うことができるとされています。このような背景から、実務上は多くの企業が法人税法に定められた法廷耐用年数を用いていおり、IFRSと差異が出てくるわけです。



資産の耐用年数は、当該資産を保有する企業にとっての「期待効用」の観点から決定されます。従って、耐用年数は、固定資産が一般的な方法で使用されて物理的に何年持つかという年数(物理的減耗観点)ではなく、あくまでも会社がどのように使用するかという意思により決定されるものです。

例えば、一般的な方法で使用して物理的に15年使える資産であっても、会社としてその資産は10年使って転売する方針であり、かつそれが実態を表している場合には、10年がその会社にとっての当該資産の耐用年数になるということになります。


IFRS適用に向けては、現状用いている法定耐用年数が、実際に使用が見込まれる期間と一致しているかの検証が必要となります。また、特に膨大な数の固定資産を保有している製造業様においては、この調査だけでもかなりの作業量となることが想定されますので、計画的な対応を行う必要があります。


実際に検証を開始すると、法人税法の法定耐用年数を超えて使用しているケースや、法定耐用年数を待たずに老朽更新しているケースが散見されます。こういった資産については、状況に応じて耐用年数を変更する必要があるでしょう。


また、新規固定資産取得プロセスについて、経済的耐用年数に係る情報を収集・決定し、固定資産台帳に登録するプロセスを構築する必要があります。特に経済的耐用年数の決定については、工場等の工務担当、事業部の方針等の様々な情報を総合的に判断して決定する必要があるため、最適な業務プロセスの検討が必要となります。



(2)毎期末に各々の資産に係る耐用年数の妥当性を確認し、必要があれば実態に応じた見直しが必要と言う点で、新たな業務プロセスが追加されることとなります。設定済の耐用年数見積りに関して、見積りが変わるような環境変化等に係る情報の有無を工場、事業部等から収集し、見直しの要否を判定する業務プロセスが必要となります。


耐用年数の見直しが必要な場合には、IFRSでは見積りの変更として処理するため、将来への影響額を開示すればよいことになります。

現状日本基準においては、耐用年数が予見することのできなかった原因等により著しく不合理となった場合には、遡及する臨時償却が規定されている点で、差異があります。

しかし日本基準においても、コンバージェンスの一環で、2011年4月以降の事業年度より耐用年数の変更はで見積りの変更として扱われます。従って、IFRSとの差異はなくなることになります。



トモ