IFRSには、コンポーネント・アカウントという概念があります(IAS16「有形固定資産」)。


<コンポーネント・アカウント>

有形固定資産の全体の取得原価に関して、重要な取得原価を持つ資産項目の構成部分について、個別に償却を行う必要がある。



つまり、金額的に重要なものは区分把握し、その区分毎に耐用年数等を設定し減価償却する必要があります。


日本の税法では、一括で耐用年数が定められており、また、固定資産管理効率化のために総合償却を採用している企業様も多いと思います。現状の有形固定資産において、金額的に重要性の高い構成要素(パーツ)が存在し、かつその構成要素の耐用年数等が異なる場合は、個別要素別の減価償却が必要な点で、日本基準と差異があります。



ここで問題になるのは、「重要な構成要素」とはどのような物かということです。この辺は各固定資産の種類や性質に依存するため一概には申し上げにくいのですが、以下のような物が例として考えられます。


(a)飛行機、船舶等の「機体」「エンジン」「座席」

(b)溶解炉の外壁、内壁

(c)定期的な点検、オーバーホールに係る費用  etc


(c)について補足します。

まず、IFRSでは大規模検査費用等の無形のものもコンポーネント・アカウントの対象となります。従って、(c)のような要素もコンポーネントとなります。

また、数年に一度の定期的な点検費用等は、固定資産の性質の低下を回復させるものであり、固定資産に計上して次の定期検査までの期間で償却を行います。日本においては、法律で数年に一度定期検査を義務化している製造業様においては、「修繕引当金」等の形で処理している場合が多いため、注意が必要です。

※IFRSでは修繕引当金の計上は認められていません。詳細は「引当金について 」ご参照。



トモ

IFRSでは、原価モデルの他に再評価モデルの採用を認めており、以下の通り規定しています(IFRS16「有形固定資産」)。


企業は会計方針として、原価モデル又は再評価モデルを選択し、当該方針をすべての種類の有形固定資産に適用しなければならない。



原価モデルと再評価モデルの相違点は以下の通りです。


○原価モデル

・有形固定資産を取得原価で認識し、場合により減損損失の認識を行う。

※日本基準と同様


○再評価モデル

・有形固定資産を公正価値(市場価格)で再評価する方法 = IFRSで認めている

・再評価を毎年実施する必要はないが、公正価値と帳簿価額に大きな乖離がないかどうかを定期的に見ていく必要がある。また、原価モデルで計上した場合の帳簿価額を開示しなければならない。

・再評価モデルを採用する場合は、少なくとも「同種の資産グループ」全てに適用する必要がある。



原価モデルは日本基準と差異はありませんので、以下IFRSで認められている再評価モデルについて補足します。


IFRSで再評価モデルを認めているのは、簿価と公正価値との差異が大きくなるのを防止するためです。


尤も、再評価モデルの採用は強制ではなく、任意です。従って、原価モデルを採用する方針であれば、従来の日本基準と差異はありません。

ご参考までにEU(欧州)の事例を申し上げると、EUにおいては事務的負担が多いことから、再評価モデルを採用している企業はあまりありません。EUにおいては、一部の金融機関において土地と建物だけといった限定した形で再評価モデルを適用しているケースが見られます。なお、上記再評価モデルの定義の中で、「再評価を毎年実施する必要はない」との記載がありますが、EUにおいて再評価モデルを適用している企業の開示例を見ますと、2~3年に1度程のサイクルで再評価を行っているようです。



なお、再評価モデルを採用した場合の会計処理は以下の通りです。


①「評価益」が発生した場合

差益部分を「その他包括利益」として計上。但し、過去に損失を計上した範囲で評価益が発生した場合は、損益として認識。


②「評価損」が発生した場合

損益として認識する。但し、株主資本の部(累積その他包括利益)に評価差額が計上されている場合は、その評価差額の減額として処理し、損益には計上しない。


余談ですが、上記会計処理方法は、収益の認識は慎重(当期においては実現可能性が低い評価益であるため、包括利益で計上)に、費用の認識は早めにという点で、概念フレームワーク「財務諸表の質的特性 」における信頼性に規定されている慎重性から来ています。このように、個別のIFRS規程を確認する際に、概念フレームワークに立ち戻って「なぜこのようなことが規定されているのだろう?」という観点でご確認されると、IFRSへの理解がより一層深まります。



まとめとしては、原価モデルを採用すれば、現状の処理方法と大差はありません。しかし再評価モデルを採用すると、有形固定資産に係る評価の定期的な見直しが必要となりますので、時価情報の収集及び評価替えのプロセスが必要となり、業務負荷が増大します。


単純に業務負荷観点で申し上げれば、原価モデルを採用した方が内部的にはメリットが多いことは明白です。

しかし、概念フレームワーク「財務諸表の質的特性 」における「目的適合性」の観点、すなわちIRの視点から、「本当に自社資産すべてに対して原価モデルを採用をすることが、開示情報として適当なのか」という点に関しては、一考の余地があるでしょう。

IFRSは、あくまで「投資家を中心としたステークホルダーのための開示」であることを念頭に置いた検討を進めて頂ければと思います。



トモ

HOYA株式会社は、2010年12月21日にIFRS(国際財務報告基準)に基づく2010年3月期の決算書を公表しました。


今回の決算書の公表は、「任意適用」ではなく、あくまで同社での自主的な取り組みの一環とされています。

しかしながら、監査法人による監査報告書も添付されており、2010年3月期に任意適用をした日本電波工業に続く事例として、大いに実務上の参考になるものと考えられます。


なお、同社ウェブサイト上で英文及び日本語訳を閲覧することができます。

※同社ウェブサイトはこちら



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