借入費用の資産計上については、日本基準とIFRSで以下の相違があります(IAS23「借入費用」)。
○日本基準
固定資産の自家建設に係る借入に関する利息の内、建設完了までに発生したものの資産計上を認める。
○IFRS
固定資産の自己建設に係るものではなく、資産の購入に関するものも対象。
日本基準においては、固定資産の自家建設に係る借入費用のみ計上が許容されていたのに対し、IFRSでは自家建設のみならず、購入に関するものもすべて借入費用の計上が必要となります。
余談ですが、「そもそもなぜ借入費用を資産化する必要があるのでしょうか」とあるクライアントの経理課長さんに聞かれました。
その理由としては、以下の2点が挙げられます。
①資産に対する投資総額を取得原価によりよく反映させるため
②資産が使用される期間の収益に対して関連する費用をより適切に反映させるため(収益費用対応原則)
会計的には上記説明でどの方にもご納得は頂けるのですが、それ以上に実務負担という現実を考えると、納得はし難いですよね…。ちなみに、借入費用の資産化は、米国会計基準(USGAAP)でもすでに適用済みです。
借入費用の資産化が必要な固定資産をIFRSでは「適格資産」と呼びます。
適格資産とは、意図した使用又は販売が可能となるまでに相当の期間を必要とする資産をいいます。例えば、棚卸資産、製造プラント、発電設備、無形資産、投資不動産などが状況に応じて適格資産となりえます。しかし、金融資産、短期間に製造又は生産される棚卸資産は適格資産ではないとされ、また、取得時点において意図した使用又は売却が可能な状態にある資産もまた、適格資産でないとされます。
日本基準では「固定資産の自家建設に係る」と個別の基準により適格資産が規定されているのにに対して、IFRSでは適格資産を広範囲に規定しているため、実務上どの資産を適格資産とするか、会社にて判断基準を設ける必要があります。
以下、ポイントを列挙します。
(1)2009年年1月1日以降の取得は資産計上が強制適用(2009年以前分の遡及訂正はしなくてもよい)。
※但し初度適用企業は、遡及免除規定により2009年1月1日またはIFRS以降日のいずれか遅い方の日に読み替えるものとする。
(2)借入費用とは、利息だけでなく借入を行う場合のその他の費用(コミットメントフィーやアレンジメントフィーなど)も対象となり、当該借入の一次的な投資利益を控除する。
(3)借入費用に係る資産化の開始と終了は、「資産取得に係る支出が発生し、借入利息などが発生した時点」から「資産の使用及び販売を可能にするための活動が終了した時点」。従って、上記開始時点から終了時点までの借入費用を資産化し、取得原価に算入する。
但し、適格資産の能動的な開発等に関する活動が中断された場合には、借入費用の資産を認めない。
以下、補足します。
(2)借入費用とは、企業が資金を借入れる際に発生する利息及びその他の費用を言います。例えば、以下のものが資産化の対象となります。
・当座借越、短期借入金、長期借入金の利息
・社債の割引額やプレミアムの償却額
・借入のコミットメントフィー
・借入のアレンジメントフィー
・ファイナンス・リース取引に関連する財務費用
・外貨建借入金から発生する為替差損益
(3)ここでよくクライアントに聞かれますのが、「もし固定資産を自己資金の範囲内で購入したら、借入費用の資産計上はしなくてよいのですか?」というご質問です。
このご質問に対する回答は、「資産取得に係る支出時点から資産の取得のための活動が終了するまでに、社債や借入金が一切なければ、借入費用の資産計上は不要となりますよ」となります。
つまり、借入金と取得資産が一対一の関係にある場合(以下、紐付き借入金)であるか否かは関係なく、資産取得に係る支出時点から資産の取得のための活動が終了するまでに、一般資金需要目的の社債や借入金等が負債としてB/Sに計上されている場合には、適格資産購入のために使用されたと見なされるということです。
なお、一般の借入金の一部を利用して資産を購入した場合等は、一般の借入金残高に対応する借入費用の加重平均利子率を資産を購入した支出に適用して、借入費用を算定します。
算定方法の詳細は、以下のPwCのページをご確認ください。
http://www.pwcjp-ifrs.com/knowledge/industry/qa08_02.html
さて、ではどういった場合に借入費用の資産計上を回避できるのでしょうか?例えば以下のようなケースが考えられます。
①資産を購入即利用する場合
この場合は、「資産取得に係る支出時点から資産の取得のための活動が終了するまで」の期間が事実上ないため、借入費用の資産化はできなくなります。
②資産に取得に係るすべての支出が、資産の取得のための活動が終了した後の契約となっている場合
借入費用の資産化の開始は、あくまで「資産取得に係る支出時点」です。従って、資産取得のための活動が終了するまでに一切の支出がなければ、そもそも借入費用の資産化はできなくなります。
適格資産の多い企業様にとっては、最も業務負荷を増大させるトピックの一つと考えます。固定資産台帳登録までのプロセスにおいて、財務部も含めて、借入費用の取得原価算入が可能な業務プロセスを構築する必要があります。
トモ