ある会計期間中に、従業員が企業に勤務を提供した時は、企業が当該勤務の見返りに支払うと見込まれる短期従業員債務(割り引かない金額)を次のように認識しなければならないとされています(IAS19「従業員給付」)。


(1)既に支払った金額を控除した後の金額を負債(未払い費用)として認識する。既に支払った金額が給付の割り引かない金額を超過する場合は、当該前払い額が例えば将来の支払額の減額もしくは現金の返還をもたらす範囲で、超過額を資産(前払い費用)として認識する。


(2)費用として認識する。但し、他の基準が当該給付を資産の取得原価に含めることを要求もしくは許容している場合(製造した棚卸資産や自己製造の固定資産)を除く。



以下、補足します。


短期従業員給付とは、従業員が勤務を提供した期末後12カ月以内に、その全額の期日が到来する従業員給付(解雇給付を除く)を指します。具体的には、賃金・給料、関連する従業員の勤務があった期末後12カ月以内に取得される見込みである有給休暇、関連する従業員の勤務があった期末後12カ月以内に支払うべき利益分配及び賞与等です。



(1)については、時間外手当などが未払いの状態であれば、未払い費用として認識するということです。日本基準と相違はありません。


ここで問題となるのは、有給休暇の未消化部分があった場合です。

有給休暇の未消化部分があった場合、IFRSでは費用として認識する必要があります。また、この場合、当期に給与は支払い済みですが、有給休暇を繰り越したからといって従業員に返還を求めたりするわけではないため、未払い費用には該当しません。


短期有給休暇の処理については、日本では非常に問題になっているトピックです。「短期有給休暇の処理(1) 」をご確認ください。



(2)については、日本基準と相違はありません。



トモ

有限責任監査法人トーマツでリスクマネジメント等の調査・研究を行っているトーマツ企業リスク研究所は、企業のリスクマネジメントに関する調査(2010年版)結果を公表しました。 ※調査結果はこちら から。



優先して対応すべきリスクとして「IFRS(国際財務報告基準)への対応遅延」が4位に入る一方で、前回までの調査で上位に入っていた「財務報告の虚偽記載」リスクが大きく順位を下げたようです。


「財務報告の虚偽記載」リスクに関しては、各社ともJ-SOXの適用を終えて徐々に運用が定着し、安定期に入ってきたものと思われます。また、昨今はJ-SOXの簡素化も議論されていますので、現状会社のリスクとして特にフォーカスするようなテーマではないとの判断を各社ともされているものと思われます。


留意しなければならないのは、IFRS適用後の財務報告リスクは従来よりも高くなるということです。と申しますのも、IFRSは原則主義を採用していますので、日本基準以上に個別の見積り・判断要素が増えることになるからです。IFRS型新業務プロセスの設計時(後)に、しっかりと各業務プロセスにおけるリスクとコントロールを再点検・整備し、IFRS適用に備える必要があるでしょう。



本題の調査の話に戻ります。

今回から調査の選択肢に「IFRSへの対応遅延」リスクが加えられましたが、複数回答で17%の企業がリスクとして挙げています。トーマツ企業リスク研究所は、「IFRSの導入が制度として確定していない現時点でこのリスクが上位に挙がったのは、回答者がIFRSに対し自社が取り組むべき方向性や現状について漠然とした不安を抱いていることを示していると考えられる」と背景を分析しています。


確かに現状と異なる海外発の会計ルールを丸のみするという意味では、IFRS適用のインパクトは小さくはないでしょう。しかしIFRS適用のインパクトは、業種によっても異なれば、企業によっても異なります。従って、「IFRS適用が本当に”自社にとって”インパクトの大きな経営課題なのか」という点に関しては、きちんと検証し、正確な裏付けを得るべきと考えます。


私は、このアンケートの回答の大部分は、「自社の現状とIFRSとをきちんと比較対比した上での正確な判断に基づく回答ではない」と思っています。


確かに任意適用でIFRSを先行適用する企業、また先んじて準備をしている企業の中には、既に影響度を終え、、IFRS適用のインパクトの大きさを裏付けのあるデータを元に確認し、それをリスクとして捉えている企業もあるでしょう。

しかし現状、多くの企業において未だ勉強段階、もしくは影響度調査フェーズの真っただ中といった状況です。従ってこのアンケート回答の大半は、「細かい事はよくわからないけれども、どうもIFRSの適用は影響が大きいらしい」程度の判断に基づいたものだと思います。


いずれにせよ、大小はあれ、IFRS適用には確実にコストが発生します。IFRSがムービングターゲットであることを考慮すると、先行着手はコスト面でも不利であるという考えもあるかもしれません。しかし、現時点で確認できる内容において、早期にIFRS適用の影響度把握しておかれる方が、以降の計画立案も容易であり、不安感も解消されるのではないでしょうか?


敵を知らない状態では、冷静な判断はできません。各企業様におかれましては、計画的かつ着実なIFRS対応を行って頂きたいと思います。



トモ

借入費用の資産計上については、日本基準とIFRSで以下の相違があります(IAS23「借入費用」)。



○日本基準

固定資産の自家建設に係る借入に関する利息の内、建設完了までに発生したものの資産計上を認める。


○IFRS

固定資産の自己建設に係るものではなく、資産の購入に関するものも対象。



日本基準においては、固定資産の自家建設に係る借入費用のみ計上が許容されていたのに対し、IFRSでは自家建設のみならず、購入に関するものもすべて借入費用の計上が必要となります。


余談ですが、「そもそもなぜ借入費用を資産化する必要があるのでしょうか」とあるクライアントの経理課長さんに聞かれました。


その理由としては、以下の2点が挙げられます。


①資産に対する投資総額を取得原価によりよく反映させるため

②資産が使用される期間の収益に対して関連する費用をより適切に反映させるため(収益費用対応原則)


会計的には上記説明でどの方にもご納得は頂けるのですが、それ以上に実務負担という現実を考えると、納得はし難いですよね…。ちなみに、借入費用の資産化は、米国会計基準(USGAAP)でもすでに適用済みです。



借入費用の資産化が必要な固定資産をIFRSでは「適格資産」と呼びます。

適格資産とは、意図した使用又は販売が可能となるまでに相当の期間を必要とする資産をいいます。例えば、棚卸資産、製造プラント、発電設備、無形資産、投資不動産などが状況に応じて適格資産となりえます。しかし、金融資産、短期間に製造又は生産される棚卸資産は適格資産ではないとされ、また、取得時点において意図した使用又は売却が可能な状態にある資産もまた、適格資産でないとされます。


日本基準では「固定資産の自家建設に係る」と個別の基準により適格資産が規定されているのにに対して、IFRSでは適格資産を広範囲に規定しているため、実務上どの資産を適格資産とするか、会社にて判断基準を設ける必要があります。



以下、ポイントを列挙します。


(1)2009年年1月1日以降の取得は資産計上が強制適用(2009年以前分の遡及訂正はしなくてもよい)。

※但し初度適用企業は、遡及免除規定により2009年1月1日またはIFRS以降日のいずれか遅い方の日に読み替えるものとする。


(2)借入費用とは、利息だけでなく借入を行う場合のその他の費用(コミットメントフィーやアレンジメントフィーなど)も対象となり、当該借入の一次的な投資利益を控除する。


(3)借入費用に係る資産化の開始と終了は、「資産取得に係る支出が発生し、借入利息などが発生した時点」から「資産の使用及び販売を可能にするための活動が終了した時点」。従って、上記開始時点から終了時点までの借入費用を資産化し、取得原価に算入する。

但し、適格資産の能動的な開発等に関する活動が中断された場合には、借入費用の資産を認めない。



以下、補足します。


(2)借入費用とは、企業が資金を借入れる際に発生する利息及びその他の費用を言います。例えば、以下のものが資産化の対象となります。
・当座借越、短期借入金、長期借入金の利息
・社債の割引額やプレミアムの償却額

・借入のコミットメントフィー
・借入のアレンジメントフィー
・ファイナンス・リース取引に関連する財務費用
・外貨建借入金から発生する為替差損益


(3)ここでよくクライアントに聞かれますのが、「もし固定資産を自己資金の範囲内で購入したら、借入費用の資産計上はしなくてよいのですか?」というご質問です。


このご質問に対する回答は、「資産取得に係る支出時点から資産の取得のための活動が終了するまでに、社債や借入金が一切なければ、借入費用の資産計上は不要となりますよ」となります。


つまり、借入金と取得資産が一対一の関係にある場合(以下、紐付き借入金)であるか否かは関係なく、資産取得に係る支出時点から資産の取得のための活動が終了するまでに、一般資金需要目的の社債や借入金等が負債としてB/Sに計上されている場合には、適格資産購入のために使用されたと見なされるということです。


なお、一般の借入金の一部を利用して資産を購入した場合等は、一般の借入金残高に対応する借入費用の加重平均利子率を資産を購入した支出に適用して、借入費用を算定します。


算定方法の詳細は、以下のPwCのページをご確認ください。

http://www.pwcjp-ifrs.com/knowledge/industry/qa08_02.html



さて、ではどういった場合に借入費用の資産計上を回避できるのでしょうか?例えば以下のようなケースが考えられます。


①資産を購入即利用する場合

この場合は、「資産取得に係る支出時点から資産の取得のための活動が終了するまで」の期間が事実上ないため、借入費用の資産化はできなくなります。


②資産に取得に係るすべての支出が、資産の取得のための活動が終了した後の契約となっている場合

借入費用の資産化の開始は、あくまで「資産取得に係る支出時点」です。従って、資産取得のための活動が終了するまでに一切の支出がなければ、そもそも借入費用の資産化はできなくなります。



適格資産の多い企業様にとっては、最も業務負荷を増大させるトピックの一つと考えます。固定資産台帳登録までのプロセスにおいて、財務部も含めて、借入費用の取得原価算入が可能な業務プロセスを構築する必要があります。



トモ