アイデス山口 iラヴ将棋「下手の中飛車→風見鶏β」 -3ページ目

将棋を地政学で考える15 第1部総括「文系分野から将棋を楽しむアプローチが『将棋の地政学』」

将棋は宇宙だ!
アイデス山口@アプリde将棋入門です。

地理的条件で国家の軍事などを考える地政学を、将棋に応用して考えてみよう、というコラムです。
地政学自体、付け焼刃の知識ですし、あくまで私個人的な見解ではありますが、
最終的には、棋力アップの方向にも繋がれば、と思っておりますので、よろしくお願いします。

これまで地政学の基礎知識、棋譜を使った将棋の地政学の考え方をやってきましたが、1度総括しておこうかな、と思います。

私自身、将棋の地政学は、完全に確立したものではなく、
この連載をしながら、研究してきたものであり、
そろそろまとめておかないと頭がパニックになりそうでして・・・(笑)
途中で「これ軍事学だったかな」とか思ったりしたのですが(苦笑)、
たまたま学んでいたのが地政学だったんで、
とりあえず、1度まとめておきたいといったところです。

将棋の地政学とはなんぞや?というのが伝われば幸いです。

■将棋の地政学の概要

将棋に地政学を応用する、というのは、序盤の駒組みを地形に見立てて、
そこから予想される展開、その展開から今後の方針を考える
ことになります。
目的は少しでも勝率を上げるためですね。

序盤の駒組みから地形を予想する方法ですが、
まず、判断基準は最初の戦場と玉の位置、囲いの固さです。

例えば、穴熊は戦場からの距離が遠いため、大海に囲まれた島国と考えます。
反対にあまり囲わず、中央に位置する中住まいは、どこからも戦場に近く、防御となる地形がない平地ととらえる、そういった感じです。

その地形から、どういった展開になりそうか?
地政学用語でいうシーパワー、ランドパワー、エアーパワーの3タイプに分け、
それぞれに適した戦いを今後の方針に活かしていきます。


■将棋の地政学の3タイプ

●局地戦のシーパワー(穴熊、振り飛車など)

シーパワーは海軍の戦い。
本土から離れた局地戦になるので、戦場から玉が遠い場合はシーパワーの将棋と考えます。
海は広く、全てを制圧するのは難しいので、局地戦の成果が重要になります。
局地戦で駒得などの成果を上げれればベストですが、穴熊や美濃囲いなどの固い囲いの場合が多いので、
相手よりも固く遠い場合は、引き分けでも勝負になる。
とにかく局地戦に負けないことが重要な将棋になります。

●制圧のランドパワー(矢倉持久戦など)

ランドパワーは陸軍の戦い。
本土と本土を接した全面戦争になるので、戦場から玉が近く、玉が固い場合はランドパワーの将棋と考えます。
海と違って、狭い範囲での戦いになるので、攻めと守りが連動して、総力戦の様相になります。
基本は平地の戦いになりますが、駒組みによって丘や川が出てくることもあり、その地形を利用することも重要です。
総力戦ですから、遊び駒がない全軍躍動するような展開が理想です。
個々の戦いでなく、押さえ込みも含めて、盤面全体を制圧することを目指します。

●スピードのエアーパワー(横歩取りなど)

エアーパワーは、航空爆撃や遠距離ミサイルを使った空軍の戦い。
効果的なところにピンポイント爆撃がメインになりますので、
どこが戦場になることがわからず、玉もあまり囲わない場合はエアーパワーの将棋と言えます。

遠距離攻撃がメインなので、飛車、角、桂といった足の速い駒をうまく使うことが重要です。
足の速い駒でダメージを与えて、相手陣近くに拠点を作り、一気に玉を追い詰めます。

■不利な時の対処法

将棋の地政学で展開予想をし、理想的な展開を目指したとしても、
相手の読みが上回って、不利な状況になることがあります。
その際にどういった対応をするか、以下のようなものがあります。

●新たな火種を作る「オフシェアバランス」

シーパワー同士の対決で、局地戦で負けてしまえば、一気に不利になります。
その流れに乗ってしまうと厳しいので、不利になる前に他の場所で戦いを起こして、新たな火種を作っておきます。
例えば、戦いが玉の反対側で起きていれば、玉側で端攻めをする、といったことです。
地政学にオフシェアバランスという考え方がありますが、隣国に巨大な統一国家ができてしまうと脅威なので、
後にもめ事になりそうな火種を作っておき、統一国家を作りにくくして、周辺諸国とのバランスを保つという考えがあり、それにのっとったものです。
「不利な時は戦線拡大」という格言とほぼ同等の意味で、将棋的にも通った考え方です。

●戦場までの距離を変えてしまう「玉の早逃げ」

将棋の地政学では、玉と戦場の距離を重視しますので、不利と思うなら玉を動かしてしまいます。
「玉の早逃げ八手の得」という格言がありますが、玉を動かせば、詰みまでに増える手数が1手とは限らないので、時間稼ぎになるわけです。
ランドパワーの将棋では、玉と戦場が近いので、一マス遠ざかるだけでも、大きな差が出ると思われます。

●相手に付き合わない「将棋のタイプを変える」

シーパワー、ランドパワー、エアーパワーの将棋は、

それぞれ目指す展開がありますが、
その目指すものを変えてしまい、相手の良さを奪っていきます。
エアーパワー同士の将棋では、スピードが重視されますが、相手の攻めの方が速いなら無理に付き合うと負けてしまいます。
玉を固めて、局地戦に負けないようにして、戦力が溜まってきたら反撃をするシーパワーの将棋に方針を転換して、勝負に出るわけです。
吉と出るか凶と出るかは展開次第ですが、少しでも勝率を上げるためには、相手の狙いに付き合わないことが重要です。

■まとめ

これまで長々と地政学の基礎知識、棋譜解説などしてきましたが、
将棋ファンにとっては、今回のまとめが最もわかりやすかったかもしれませんね。
まとめてみると

「戦場と玉の距離から地形を想像し、適した戦い方を選ぶ」というシンプルなものになりました。

もちろん、将棋が強くなるためには、将棋の地政学だけでは無理です。
単純に強くなりたいなら、詰め将棋や手筋、定跡などをやった方が良いかと思います。

それでも、わざわざ書き残したのは、

文系分野から将棋をアプローチしてみたかった、ということ。
将棋も突き詰めれば計算。先を読んでどの手が良いかを計算する理系分野。ゆえに難しいという印象がある。
私自身もそうですが、理系はからっきしだけど、政治経済や歴史は好き、という人はたくさんいると思うので、
少しでも敷居を下げられれば、といったことがありました。
観る将棋ファンなどには、観戦を楽しむうえでは、役に立ちそうな分野です。

第一部としては、1度区切りをつけますが、今後も将棋の地政学の研究は続けていきますし、
例えば、2日制の将棋で1日目の終わりに、将棋の地政学を使って、2日目の予想とかするとか、楽しそうですね。

正直なところ、将棋も弱く、地政学も初心者の私がやるよりも、
地政学の専門家や社会系に強いプロ棋士の先生がやったら、もっとすごいものになりそうな気がしますが(苦笑)、
将棋ファンの地政学入門、政経ファン、歴史ファンなどの将棋をやってみるきっかけになれば嬉しく思います。

 

将棋を地政学で考える14 棋譜解説「敵のペースになったら、将棋のタイプを変えてみる」

将棋は宇宙だ!
アイデス山口@アプリde将棋入門です。

地理的条件で国家の軍事などを考える地政学を、将棋に応用して考えてみよう、というコラムです。
地政学自体、付け焼刃の知識ですし、あくまで私個人的な見解ではありますが、
最終的には、棋力アップの方向にも繋がれば、と思っておりますので、よろしくお願いします。

前回までいくつか棋譜を使って、将棋の地政学を解説してきましたが、
今回で区切りをつけて、1度総括したいと思っています。

私も地政学を将棋に応用する、ということを研究している段階ですので、
そろそろ頭を整理しておかないと、わけわからなくなりそうなので(苦笑)

最後に選んだ棋譜は相掛かり。
相掛かりは、お互いに飛車先の歩を交換する戦法です。
飛車の利きが相手陣に届くことになるので、エアーパワーの将棋になりそうですが、
ひねり飛車のように石田流に組み直すような将棋もあり、柔軟性の高い戦術です。


結論を先に書くと、私の棋力が低いせいもあって、途中形成判断を間違ってしまいました。
その辺も正直に(笑)書いていこうと思います。



先手、後手ともに飛車先の歩を交換して、後手だけ3筋の歩を取りました。
後手の飛車が3筋に移動して、縦横無尽に動きそうな感じや、
お互い中住まいに構え、どこからでも攻められることを前提にしていることから、平地同士のエアーパワーの将棋と考えられます。

ただ、前述したように、柔軟に動いていく戦法でもあるので、もう少し手を進めてみようと思います。



後手の飛車が縦横無尽に動いてるものの、
先手はカニ囲い、後手も金銀の下に低く構えており、エアーパワーの将棋としては、穏やかに進みました。
平地に城を構えて、本格的な戦いに備えている、といった感じです。

進行的には、全面戦争になりそうな感じですが、
後手は7筋に歩を作っており、いきなり玉頭を攻めそうな感じがしますので、それでもエアーパワーの将棋になりそうです。
7三の桂が跳ねれば、7七の地点が戦場になりそうですので、飛車、桂を活かせれば、エアーパワーの将棋としては良しだと思います。
エアーパワーの将棋は速い攻めが勝敗を分けるので、先手は速い攻めがなければ、拠点のある後手が少しリードした気がします(間違い1)。


 

先手は、7筋から攻められる前に、右側で端攻めし、新たな火種を作る(地政学でいうオフシェアバランス)。
5筋の歩を突き捨てたことで、飛車の横利きを遮っていたため、歩で受けることができません。
角香交換なら先手駒得、角が逃げれば▲1二歩など、先手も戦える流れです。
右側に拠点ができれば、敵玉の側ですので、先手も速い攻めができそうです。先手も面白くなってきました。


 

角香交換後に飛車交換も行い、先手は飛車を相手陣に打ち込みましたが、後手もついに7筋の攻撃を開始しました。
「焦点の香」とも言える△7七香ですが、7七の位置に利きを足すだけでなく、▲5五角とすれば相手陣にも届く角筋も止めてしまっています。
飛車を手にしているので、九段目に打ち込めば、王手もかかります。

この手を見て「まだ後手が有利だったか」と思ったのですが、これは形成判断の間違いでした(間違い2)。
先手も玉の近くに飛車を打ち込んだとはいえ、左側に逃げられるし、直接的な攻めがある後手が速いと思ったわけです。



しかし、後手の攻めに、先手は最低限の対応をし、手が空けば攻めていったら、こんな局面になってしまいました。
角桂が3三の地点に利きをきかせ、そこに焦点の歩が入りました。放っておけば▲3二歩成で詰みになってしまいます(詰めろ)。
後手も金銀桂と守られているので、大丈夫そうな気もしますが、意外に適当な受けがないです。
どうしてこうなった?という感じではありますが、理由は後述するとして、後手は王手の連続であがくことになります。



王手の連続虚しく、後手は手が尽きてしまい、後手玉はあっさりと追い詰められてしまいました。

出だしは双方ともにエアーパワーっぽい将棋で始まりましたが、序盤に後手が1歩得をした時点で、
先手はカニ囲いを築き、違ったタイプの将棋に切り替わっていたようです。


結果として、飛車角桂というエアーパワーっぽい足の速い駒が活躍しましたが、
玉を固めて、駒得、飛車交換し、相手陣に先に打ち込むという流れは、
島国や半島などの地形の固さを活かして、局地戦で戦力を増強していくシーパワーの将棋の流れでした。
しかも、ほとんど遊び駒のない戦いは、全軍躍動するランドパワーっぽさもあります。
いずれにせよ、早い段階で方針を変えたのが、功を奏したようです。


 

局面は戻って、後手が7筋に歩の拠点を作ったところです。後手はここまでエアーパワーの将棋の将棋をしていました。
ここから先手も後手も玉を固める穏やかな戦いになったわけですが、
玉を囲わずに「△3四歩で角交換を迫る」「△7三桂→△6五桂と7筋の攻めを足す」といったエアーパワーっぽい将棋をしていた方がマシだったかと。

本譜のように、不利になれば反対側で戦いを起こすわけですから、自ら玉を右側に寄らない方が良かった。玉を固めると安心するのはわかるんですけどね。

少なくとも将棋の地政学では、その流れの方が良かった、と考えます。

前回の戦いは、エアーパワーの将棋から囲いを作る、という作戦が成功したのですが、
今回は他のタイプの将棋に切り替えたことで、逆効果になったようです。


この辺りは判断が難しいですが、何かしらの判断基準があると思いますので、
次回は1度これまでに研究してきたことをまとめてみたいと思います。

 

将棋を地政学で考える13 棋譜解説「エアーパワーの将棋は速い攻めの実現がカギ」

将棋は宇宙だ!
アイデス山口@アプリde将棋入門です。

地理的条件で国家の軍事などを考える地政学を、将棋に応用して考えてみよう、というコラムです。
地政学自体、付け焼刃の知識ですし、あくまで私個人的な見解ではありますが、
最終的には、棋力アップの方向にも繋がれば、と思っておりますので、よろしくお願いします。

前回は稲庭将棋というイレギュラーな戦術に関して、地政学的に考えてみました。
今回はまた定跡形に戻って、横歩取りを考えてみたいと思います。
横歩取りは、お互いにエアーパワーの将棋になりやすく、足の速い駒をいかにうまく使うか?が焦点になります。
基本は、互いに平地の将棋と考えても良いでしょう。




後手は3三角と構え、先手は2筋に飛車を戻すオーソドックスな将棋になりました。
ここから飛車、角、桂をどううまく使えるかですが、現時点ではまだ判断は難しいですね。
後手は、飛車が2筋に戻る1手損をついて、積極的に仕掛けます。



先手が▲4八銀としたところをついて、飛車を追い込みました。
後手は、角交換から△4四角で飛車へ遠距離射撃。△2六歩で拠点を作り、角銀交換で銀を手に入れて、飛車を取りにいきました。
4八の銀が邪魔で飛車は逃げることができません。

後手は中住まい玉になっており、左側の金か銀が動けば、それなりの囲いになりそうですが、先手は居玉のまま。
左金は離れ駒になっているし、うまく後手に駒組みを乱されてしまっています。
航空爆撃で橋や道路を壊されてしまった、そんなイメージでしょうか?



飛車銀交換となり、取ったばかりの飛車で王手です。
左側からの攻めも嫌ですが、右側に歩の拠点を残してしまったのもかなり大きい。簡単に振り払うのは難しそうです。
拠点の歩は、オスプレイのように拠点から兵士を供給するのか、と金になって自らが戦力となるのかはわかりませんが、
速さが肝のエアーパワーの将棋としては良い進み方かと思います。

左右挟撃の態勢が整いつつあります。

先手は攻めの態勢もできていないので、カウンターも難しそうですし、しばらくは防戦になりそうです。


 

先手の反撃。角2枚で8筋にいた龍を追い払い、反対に飛車を8筋に投入しました。
次に▲8一飛成で桂を取って、左側から玉に迫っていきます。

先手にもチャンスは出てきた、と思いますが、そのために投入した角の働きが不満。
9二の角は相手陣まで利きが通っておらず、通ったとしてもそこまで脅威ではありません。
6四の角も右側を遠距離射撃しているのですが、1枚の攻めでは速い攻めはなさそうです。
飛車、角、桂の働き、が重要な将棋なので、角2枚投入したわりには・・・という状況かと。



先手は龍、後手は銀を取ってと金を相手陣に残しました。
良い勝負に見えますが、玉の逃げ場所に大きな差があります。

先手、後手ともに、拠点を作られたので、逃げるとすれば、拠点から遠ざかるように逃げるわけですが、
後手は、2二の銀が3三に上がれば囲いになるので、平地に城を築くことができそうなので、逃げ道は確保されています。
対して先手は、角、桂、香と守備力が高い駒がおらず、龍の利きが届いているのはプラスですが、龍が動かないことが前提になるので、攻めに影響が出そう。

後手は城があるので逃げこめば一筋縄にはいかないですが、先手はどこに逃げても隠れる場所もない平地。まだまだ差があるとみるべきでしょう。



先手は龍を追い返すために、角2枚で守りましたが、それでも左側に穴があり、先手は金を打ち込みました。
後手は、ピンポイント爆撃に成功して、先手から左側の平地に逃げることも封じました。

先手は、桂馬が跳ねて、玉頭を狙っていますが、9筋の龍もそれほど利いておらず、最悪玉は右側に逃げこむことができるので、勝負は決したように思えます。



上図は投了図。後手は左から玉を狙い、右側からもと金、龍が迫ってきました。
この龍は元々左側にいたもので、1度追い払われて反対側に活きましたが、最終的には詰みに活かされています。

先手も桂馬を使って、最後の抵抗を試みましたが、右側に逃げられて万事休す。

エアーパワーの将棋は、「足の速い駒をうまく使った方が効果的」と考えていましたが、
今回は右側に作った歩の拠点が最も効果的だったように思います。
相手陣に基地を作ったような感じで、それが速い攻めを実現させました。


エアーパワーの将棋は、「速い攻めを成功させた方が勝つ」というのを1つの定義として考えてもいいのかもしれません。

あと「平地に城を築く」というのもこれまでになかったもので、
エアーパワーの将棋でも相手に速い攻めがなければ、囲いを作って入れてしまう、というのも効果が高い作戦に見えました。


次回も棋譜解説を行いますが、そこで1度区切りをつけて、将棋の地政学を総括してみたいと思います。