奇偶/山口 雅也
¥2,520
Amazon.co.jp

【あらすじ】



誰かが骰子を振って、この世界を壊すことに決めたんだろう…。

混迷の中、片目になった推理作家は、自らの墓碑銘を書き始めた。

その墓碑銘は…「偶然」。『メフィスト』連載に大幅加筆訂正して単行本化。


【感想】


「偶然」という名の神の存在意義を問う小説、かな。そ答えに辿り着くまでに、とっっっても長い、物理的、哲学的、心理的、宗教的、色々なものの観点から「偶然」とはなにかを解いていく。その説明がとっても難しいのだが、ストーリー性が豊かで、登場人物も魅力があったためか、結構すらすら読み進めることができた。最初の冒頭の出だしから、ちょっとこれは、頭を捻って読んでいかないといけないぞ、と読者を構えさせる文章構成となっているから、結構な量の本を読み込んできた人じゃないと、理解できないかも。ラストに近付くにつれて、主人公と、友人である精神科医の推理合戦がはじまっていくのだが、その推理のオチに「ええーっ」と鳥肌が立ったが、それとはまた違うオチが用意されていて、だけどそのオチはちょっとイマイチ。密室殺人のトリックは、本格推理好きな人にはちょっと物足りないかも。だけどこれを推理小説として読むのではなく、ひとつの奇書として読めば、ラストも納得できるし、面白かったって言えるかも。




彼女がその名を知らない鳥たち/沼田 まほかる
¥1,680
Amazon.co.jp


【あらすじ】


十和子は淋しさから、飲み会で出会ったうだつの上がらない中年男・陣治と関係を持ち、なんとなく一緒に暮らすようになる。

ある日、陣治の部屋で、昔の男から贈られたピアスを発見する。

何故ここに…。

十和子が選んだ驚くべき行動とは!壊れかけた女、人生をあきらめた男。

ダメな大人が繰りひろげる100%ピュアな純愛サスペンス。



【感想】


前半はだめ大人のだめ生活が長く書かれている。これは本を読みはじめたばかりの人にはかなり辛い場面だ。本当に小説が好きじゃなかったら、ここで投げ出す人もいるだろう。僕は前半が特に好きだ。さえない中年男、陣治のありとあらゆる嫌いなところ、だめなところを、ヒロイン主点で書いていくのだが、それがもう読んでてヘドが出るくらいの罵声なのに、なぜかその中に、愛とはまた違う感情、同情のような、哀れみのような、そんな十和子の心境を読み取ってしまって、陣治のことが本当に嫌いになれないように仕向ける作者に完敗だ。後半、昔の男の面影をおとした男と出会って浮気に走り、いっきに展開が加速する。ラスト一ページは涙なしでは読められない。この二人にこんな愛の結末が待っていたなんて……と思わせる。最高だった。




夢食い魚のブルー・グッドバイ (新潮文庫)/玉岡 かおる

たこ焼きの中のたこは邪魔
¥460
Amazon.co.jp

【あらすじ】

桜子とヤマトは、播州平野の小さな町で暮らす大学生。

学生から社会人へのわずかに残された時間の中で、二人はあやふやな関係の答えを探しはじめる。

友達から恋人へ、たった30センチの距離を泳いでゆけない水槽の中の哀しい魚に心を託し、

彼の本当の気持ちを探る桜子。

三代続く女系家族の家で、自分らしく生きるために彼女が選んだ新しい道は…。

22歳のせつないラヴ・ストーリー。

【感想】

好きなのに、素直になれないヒロインの心境が繊細に、だけど大きく描かれている。

その心をブラックバスという大きな黒い魚にたとえたのはうまい比喩表現だと思う。文章も滑らかだし、好きな人に対する心のほかに、家族に対する二十二歳という大人になろうとしている年齢の心が読者に共感を抱かせる。関西弁なのもまたいい感じだ。本書はそうとう古いけれど、時代を感じさせない青春小説だと思う。

ユリゴコロ/沼田 まほかる
¥1,470
Amazon.co.jp


【あらすじ】


亮介が実家で偶然見つけた「ユリゴコロ」と名付けられたノート。

それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。

創作なのか、あるいは事実に基づく手記なのか。

そして書いたのは誰なのか。

謎のノートは亮介の人生を一変させる驚愕の事実を孕んでいた。

圧倒的な筆力に身も心も絡めとられてしまう究極の恋愛ミステリー!



【感想】


とにかく文章が上手で、難しい表現や比喩もはいっているのに、一気に読める。いろんなミステリーを読んできたけど、これはなかなか、うーん。微妙……。人が死んでいくのは書き残されたノートの中だけっていうのが刺激が足りない感じかな。そして深い愛の結末へと変わっていくのだけど、まあなにかどんでん返しがあるぞ、あるぞって雰囲気で書くから、後半はなんか冷めて読んでた感じ。うーむ。作者はあんまりミステリー向きじゃないかもね。人が持つ愛で泣かせる話を得意としているんだと思う。現に同作者の「猫鳴り」で僕は号泣したさ。




飛水HISUI (100周年書き下ろし)/高樹 のぶ子
¥1,575
Amazon.co.jp


【あらすじ】


一緒に暮らそう、一生に一度の気持ちでそう誓い合った翌日、惨劇が襲った。

日本中を悲しみで震撼させたバス転落事故に巻き込まれた男と女。

なにがなんでも、あの人に会いたい。強い気持ちで待ちつづけた時、

信じられないような奇跡がおこる。

切ない気持ちの輝き、強い願いの果て、空と山がまじわる場所での感動の再会。



【感想


髙樹のぶ子の新刊だーっ!と思ってすぐ購入。その装丁の美しいこと。

最初の桔梗の話がとても好き。それからだんだんと物語はそれっぽくなってくる。不倫……だけど、切なくて甘い愛。不倫の物語をここまで美しくしく書ける人はこの人だけだと僕は思う。

しかして物語は女の一人称で進んでいく。その語り口は、まるで現在のことをその場で見て語っているようだったから、後半あれれ?おかしい。おかしいぞ。段々女の心理描写が強くなり、そして劇的な再会を果たす。まさかそれが死後の世界でとは。思いもよらぬ展開に圧巻。その境目が分からずに何度もページを戻して読み返した。若くして死んだ男と人生を生き抜いて老婆となった女の再会はすごく不快なはずなのに、そこに嫌悪感は存在しない。不倫という悲恋を、純愛以上に大きく純粋な愛として書ききった作者に乾杯。