【書籍情報】
情報可視化入門:人の視覚とデータの表現手法
三木 和男
出版社: 森北出版 (2021/6/1)
ISBN-13: 978-4627855915

【概要・コメント】

ビックデータやIoTという言葉が身近になりつつあり,10年前と比べると,実際に身の回りで大量のデータを取得したり,処理する環境も整ってきたように思う。

しかし,多量に取得したデータをどのように処理し始めるかというのは,未だになかなか悩ましい問題である。

本来,データを取得する目的は,何か自分の仮説を明らかにするための証拠を入手したいからだが,近年我々が取り扱うような問題では,データを入手したらすぐにどのように処理すれば欲しい証拠が出るかがわかるような簡単ものではない。
むしろ,自分の仮説を1つに絞り込むことさえ難しく,複数の仮説の真否を検証するところから始めなければならない場合も多い。

つまり,データの処理・分析をある程度手探りで行う必要がある。
手探りで進めるときに重要になるのが,処理の結果を「正しく見える化」することである。

正しく処理しても,それが正しく処理されたことを人が認識できなければ,その処理を採用することはできない。

よって,結果を人間が直感的に理解する仕組みが必要となり,この1つが情報可視化技術であると言える。

情報可視化が大切なことは,グラフを描いたことがある人であればご存じであろう。
皆さんがレポートを書いたり,論文を書いたりしたときに,グラフの正しさ,説得力について疑問を持ったことも多いかもしれない。
このような疑問に対して,答えを提供してくれるのがこの書籍である。

情報可視化には以下の2つの大きなポイントがある。

①可視化した情報を受け取る人間の視覚特性を知ること

②情報を可視化するためには元の生データが持つ大量の情報を削減・圧縮する必要があること

①の人間の視覚特性に関しては,人間の目の仕組みや,ゲシュタルト理論などをこの書籍では解説してくれている。
人間の視覚特性を無視した可視化は,情報を正しく伝えられないどころから,本来データが持っていない情報を誤って伝えてしまうこともある。
このような誤りは,たとえ意図的なものでなかったとしても,科学者・技術者としては避けるべき行為であり,知らないこと自体が罪になる。

②のデータの削減・圧縮について本書では,データの種類・属性に応じて,どのように削減し・圧縮するか,そしてそれをどのように描画するかを多様な具体例を示して解説している。

例えば,パラレルコーディネートなどの描画方法を本書を通じて初めて知った。
具体例が非常に豊富であり,明確な基準でカテゴライズされているため,本書は一度読み終えれば後日辞書的な使い方も出来るであろう。

以上のように,非常に有用な書籍であるため,科学に関わる方々にはぜひ一度目を通して頂きたいと思う。
情報可視化の理論の部分を理解出来なかったとしても,その多様な例を見るだけでも十分役に立つであろう。

 

 



 

【書籍情報】
青空と逃げる
辻村 深月
出版社: 中央公論新社 (2021/7/21)
ISBN-13: 978-4122070899

【概要・コメント】
小説を読んでいて,何も(事件が)起こらないで欲しいと思ったのは,この本が初めてかもしれない。

近年,伏線をきっちり回収することがもてはやされているが,それだけが小説の醍醐味ではないと思う。
言葉そのものの美しさ,言葉が表現する情景や心情描画の美しさ,そういったものを楽しむのもよいのではないか?

伏線回収要素が強ければ強いほど,小説を読み終わった後の達成感は高いような気もする。
但し,本を読んでいる時の焦りが強くなり,結果として短い時間で楽しみが終わってしまう。

この書籍は,本を読んでいる間のゆったりと過ぎる時間そのものを楽しむことができる。

書籍が扱っているテーマは人が物理的にも精神的にも傷ついている部分があるので,全てが安らかにとういわけにはいかないが,この書籍の登場人物たちの経験自体が羨ましく感じる。

この書籍を通じて,季節の移り変わり,地域ごとの文化・変化の違い,人の成長の神秘,人と人の繋がりの尊さを感じられるのが,この素晴らしいところである。

サスペンス小説に疲れている方には,特にお薦めしたい1冊である。

 

 

 

説に疲れている方には,特にお薦めしたい1冊である。

【書籍情報】
リバース
湊かなえ
出版社: 講談社 (2017/3/15)
ISBN-13: 978-4062935869

【概要・コメント】
久しぶりに"すごい小説"を読んだ。

昨今,様々な物語において伏線を徹底的に回収することが求められるが,伏線をキレイに張ることと,それをキレイに回収することには大きな違いがあると思う。

前者は,事実を細切れにしてちりばめれば良いので,技術が未熟な小説家でもある程度はできよう,一方の後者は,登場人物の視点で,アクセス可能な論理的限界を見極めつつ行わないと読者の違和感を生んでします。

違和感を持って回収された伏線は爽快感よりもむしろ不信感につながってしまう恐れすらあると思う。

その意味で,この書籍は見事に伏線を回収した本だと思う。

<以下,ネタバレに繋がる記述があります。>

この手の本では一般的に「犯人が誰か?」または「トリック・動機は何か?」で読者を驚かせることが多いが,この本はこれらの項目はある意味,最初からこの2つに関しては,勘の良い読者であれば分かるような書き方をしている。

その意味では,終章の途中までは,「あーあ,結局予想が当たったか,,,大した本ではなかったなぁ。」と(おそらく敢えて)勘違いさせるような作りになっているところが憎らしい。

本当に著者が回収したかった伏線は,この本の最後の最後の1行であるからである。

こんなに爽快感を持って読み終えられた本は何年振りだろうか?
前の記事でも書いたが,自分としては東野圭吾先生の「容疑者Xの献身」が人生の中で一番インパクトを持った小説であったが,ある意味それに勝るとも劣らない小説であるように思う。

特に,文庫版で300ページちょっとで,この満足感を出しているのはすごいと思う。

長い文章を読むのは苦手だけど,軽ーく読んで大きな驚きを得たいという方には,強くお勧めできる一冊である。